Chapter 9-2 〜 ヴァルディヴィアの勝利


(p212〜p214)翌日、チリ総司令官のオイギンスと、その腹心の大佐エデュアルドがサプライズ号にディナーにやってくる。お客が来ているのに出港準備をしろという命令にサプライズの乗員は戸惑うが、そこはベテランぞろいのサプライズ号、「艦長の命令」という一言ですぐに事情を察し、すばやく、しかも目立たずに錨を上げる。

ペルー(スペイン王党派)の海軍の侵略を防ぐため、彼らが装備を補給しようとしているチリ南部の、スペイン王党派が支配している港ヴァルディヴィアを襲撃することを計画するオイギンズとジャック。オイギンズの提案で、彼らがディナーのために乗艦している間に、目立たないように出航してヴァルディヴィアを偵察することにします。

このことは、ベテラン揃いのサプライズの乗員たちを、大いに途惑わせることになるのですが。まだ客がディナーを食べている最中なのに、彼らを乗せてきたボートを片付けたり、マンロープ(お客が乗艦する時の手摺として使う、布でくるんだ特別製のロープ)を片付けたりすることは、通常の手順に反するので、彼らは動揺します。ベテランの水兵というのは、実にさまざまな事態にすばやく対処できるのですが、それは各々の事態に対応する手順が細かいところまで確立されていて、それをしっかり身体で覚えているからで…理由もわからずに手順を変えられると混乱するのです。

でも、ホレイショ・ハンソンくんが「これは艦長の命令だ」だというと、その一言で全員が一斉に安心するのがすごいです。「ああ、艦長の命令!それならすべてOKだ!」という感じ。艦長は艦の上では、神のような…というより「自然の摂理」そのもののような存在なのですね。まあ、艦長だからというより、ジャックだからなのかもしれないけど。

(p214〜p219)翌日の夕方、サプライズはヴァルディヴィア沖に着く。オヒギンスと大佐は水兵たちの助けを借りておっかなびっくりトップに登り、ジャックと望遠鏡で港を見ながら攻略計画を立てる。港にはまだ貿易船と漁船しかいない。オイギンス、攻略に必要な人数は250人程度と見積もり、コンセプシオンにいる彼の軍隊をサプライズ号に乗せて来ることを提案する。ジャック、陸での作戦にも経験豊富な水兵を100人は出せると言う。

久々の戦闘シーンですが、ここの作戦は「港の砲台(砦)を海から砲撃し、同時に上陸部隊が背後から襲う」という、1巻から読んでいる人にはわりとお馴染みのパターンです。

ベルナルド・オイギンスさんと、スティーブンの親戚でもあるエデュアルド・ヴァルデス大佐は、陸の戦いでは百戦錬磨なんでしょうが、マストに登るのはやっぱり怖そうなのが面白いです。

(p219〜p226)サプライズ号とリングル号、コンセプシオンで陸兵を乗せる。夜明けにヴァルディヴィアに戻り、水兵と陸兵たちはボートで上陸。サプライズ号は砦に向って砲撃を開始する。同時に、陸上部隊が背後から襲撃する。

砦の兵たちが、わざと空けておいた出口から逃げてくるところへ、サプライズ号がぶどう弾を撃ち込む。水兵・陸兵たちが追いかけ、ほとんどの敵兵は殺される。チリ陸軍の兵たちはヴァルディヴィアの倉庫を占拠する。倉庫には海軍装備が豊富にあったのと同時に、金銀をつめた箱を見つかった。チリ陸兵のひとりが、「我々はこのために命がけで戦ったのだから、この金銀は我々で山分けにしよう」と言うが、オイギンスは「君の意見は聞いていない」と、冷静にその兵を射殺して秩序を取り戻す。

ヴァルディヴィア攻撃作戦は大勝利に終わり、共和国軍はヴァルディヴィアの金銀と海軍装備を根こそぎ奪ってヴァルパライソへ戻る。


この戦闘は、わりとあっさり決着がつくのですが…オイギンス率いるチリ共和国の軍というのは、まだしっかり国の軍隊として確立されているわけではないし、国内にも他の独立勢力が乱立状態ということで、ほんのちょっとしたこと(例えばここのように、戦闘中にお宝を手にしたりとか)で規律が一気に崩壊してしまいかねないということはあるのでしょうね。オイギンスさんはもちろん、その統率力で組織をまとめあげて、勢力を拡大してきたのでしょうけど…けっこうギリギリのところでやってきたのだろう、ということが想像できますね。

面白いと思ったのは、スティーブンが戦闘の後に、兵士たちにアグアルディエンテ(ポルトガルのブランデーの一種)とコカの葉を配って、それが興奮状態だった兵士たちを急速に落ち着かせるというところです。お酒はともかく、コカを配るって言うのはびっくりですが、チリでは普通のことらしい。

戦闘が始まる前というのは、兵士たちは興奮状態でも団結して規律もあるけれど…血みどろの戦いが終わった直後、まだ暴力に酔ったハイな状態で、しかもそれがはっきりした建設的な目的を失っている段階というのは、一番アブないのかもしれないな。それをアルコールとコカが鎮める、というのは、よくわかります。