ブリジッド・マチュリン嬢についてのあれこれ−その1 (17巻3章ネタバレ)



翻訳家のニキ リンコさんは、私がオブライアンに出会うずっと以前から、このシリーズの愛読者でいらっしゃった「先輩」です。映画公開時、例の宣伝問題がきっかけでこのサイトにお越し下さり、その後、時折メールのやりとりをさせて頂いております。

内容はと言えば、スティーブンとサー・ジョセフに関することが多かったりするのですが…私がブリジッドちゃんについてややこしい質問をした時も、とても丁寧で分かりやすい(かつ読みやすく面白い)お答えを頂き、感謝感激しております。

今回、許可を頂いて、その質問とお答え(サイト用に編集済み)をアップさせて頂きました。

以下、黒字の部分がニキさんの、オリーブ色の部分が私の発言です。

質問1:カードのお家(17巻3章までのネタバレ 【 】内は17巻5章までのネタバレ)

質問2:ブリジッドとパディーン(同上)

質問3:ブリジッドの変化(17巻5章までのネタバレ)

ニキ リンコさんのサイト:自閉連邦在地球領事館附属図書館



質問1:ブリジットちゃん、最初に登場するところでトランプのお城を作ってますよね?あの時3歳ぐらいだと思うのですけど、トランプのお城を作るにはすごく年齢的に早いですよね。しかも、右手で犬の頭をなでながら左手の動きを止めなかったり、"Her movements as she handled the cards were perfectly coordinated"と書いてあったりして…そういうのも、人それぞれなんでしょうか。



カードハウス作りが異常に早熟なブリジッドちゃんですが、あそこは特に違和感はありませんでした。

というのは。

ブリジッドちゃんがほんとに自閉症かどうかについては、またいつか改めて考えるとして、とりあえず今は、「どこか自閉症っぽいところを感じさせる子」「自閉症の人たちと共通の特徴がある子」としてお話を進めますね。

自閉症っぽい子どもたち、自閉症プラスその周辺の子どもたちって、五感が均等に発育しないせいなんでしょうか、どっかの感覚、どっかの基礎能力が一点豪華主義の子どもさんがけっこう多いんです。もちろん、健常の人たちにだって、分野による能力の凹凸はよくあることです。でも、その凹凸がさらに激しい子はよく見かけます(それほどじゃない子も、もちろんいますけどね)。

豪華なのがどの分野かは人によっていろいろ。「目で見て理解する力」が強い子もいれば、「耳で聞いたことを棒暗記する力」が強い子あり、「空間の感覚、体のバランス」が強い子あり。

人数からいえば、「目で見てわかる」方面に特化してる子が多いのだそうです。おかげでこのタイプばかりが圧倒的に有名になっちゃって、ときには、相手のお子さんのタイプも確かめず、だれでも視覚優位と決めてかかる人さえいるくらい。

でも、バランス感や運動感覚がいちばん! という子も、いないわけじゃありません。このあいだ、『自閉症だったわたしへ』(新潮社)シリーズをお書きになったドナ・ウィリアムズさんとお話ししたんですけど、彼女がちょうどそっちのタイプでした。ドナさんは視覚にも情報処理の困難が合併しているので、ちっとも視覚優位じゃありません。おもしろいことに、彼女の父方のご家族やご親戚には(特に障害はなくとも)彫刻家やダンサーなど、立体的なセンスを活かす道を進んでおられるかたが多いのだそうで、ご本人も、細工ものや彫刻など、空間の中で自分の体を立体的に使う作業が得意とのことです。

ブリジッドちゃんの場合、視覚の処理は強いとも弱いともわかりませんが、カードのお家を上手に作れる並外れた器用さ、後で出てきますが【船の揺れにすんなり順応する】バランス能力などにかぎっていえば、ドナさんっぽいタイプなのかもね、と思えば、特に奇異な印象は受けませんでした。

(ただし、基本能力の凹凸以外の部分では、ドナさんとブリジッドちゃんでは大きくちがうところもあります。ドナさんは心身ともに重複障害がたくさんあり、幼いころからずっと体調がすぐれませんでしたし、そのせいか情緒も安定しなかったそうですから、その辺はむしろ対照的です。でも、好む遊びなどが似ていそうに思うのです)

さて、ここまでは、手先やバランスの能力という素質のお話でした。

さらに、われらがお仲間たちには、ほかのことはほったらかして、一つの課題にばかり時間を費やす――ひらたく言えば、「凝る」――性質があります。おかげで、ときとして、とんでもない特技を身につけちゃう子がいるそうです。

講談社現代新書に玉井収介著『自閉症』という本がありまして、新書なので安いし、薄くてすぐ読めるし、なにより、実例として出てくる子どもたちがかわいいんですよ。そんなわけで、自閉症の雰囲気を手っとり早くつかみたいという方には、私はこれをおすすめすることにしているんですが、この本の中にも、「割り箸を投げつづけるうち、障子紙に突き刺せるようになった子」「そうめんを放り上げ、一本残らず天井にはりつけた子」など、とても器用な特技を身につけてしまった子どもたちが登場します。

そんなわけで、カードハウスを作る器用さを不思議に思わなかった私にとって、唯一の疑問が「木馬、好きそうなのに、なぜ使わなかったの?」だったんですね。塗料のにおいが決定的に気に入らなかったのか、初めて乗ったときによほど感触が冷たかったのか、まわりが「この子のことだから、ふつうの子が喜ぶおもちゃなら何でも、喜ばないはず」と思い込んで与えなかったか、作者がそこまで考えなかったか。

だって、パディーンの肩車を喜んでいたし、【船の揺れはちっとも意に介さない】し、激しい動きを怖がるところは微塵もない子です。

むしろ、激しく揺すりすぎて転落をくり返しそう。落ちても泣かずにけろっとしてたりしてね(いるんです、そういう子)。だから、見ているまわりが怖くなって、しまい込んだのかも?――なんてのも考えましたが、たしか、「未使用のまましまいこまれている」と書いてあったような。残念。似合いそうだったのに。

だってブリジッドちゃんって、バランス感覚が抜群なだけじゃなく、不安やら恐怖やらとは無縁の感じでしたよね。持って生まれた気質が、のんきで大胆不敵なんじゃないかしら。カードの家が風でぺしゃんこにつぶれても気にしてませんでしたし。

身体的にも恵まれてそうです。抱き寄せられても、無反応なだけで、泣くでも暴れるでもない(知覚過敏のある子だったら、ここで大泣きです)。睡眠障害もないらしく、こてっと寝るし。味覚過敏もなく、何でも食べますし。体質がじょうぶだと、「気分の悪くない時間」が長いわけですから、休みないカンシャクの嵐、偏食の嵐、しょっちゅう中耳炎をくり返し、寝つきは悪い、なんて子に比べたら、ずいぶん得してそうです。

それに、すごく頭もよさそうなんですよね。頭がいいと、その分だけ、困惑する機会が少なくなるんです。たとえ言葉がわかんなくても、見てないふりして目の端でよーく観察してればなんとかルーティンがのみこめてきたりして、とことん困惑することは少なかったのかもしれません。

でも、こういった素質にいくら恵まれていても、混乱と恐怖の体験を重ねていれば、だんだん不安も蓄積してきそうなものです。ところがブリジッドちゃんは、スティーブンが初めて見たときから、それなりに安心してそうでした。どこかしれーっとした、体温が低い感じのクラリッサに世話される環境も、実はとても合っていたのかもなあと思いました。

最近読んだ本に、真行寺英子・英司共著『言葉のない子と、明日を探したころ』(花風社)というのがあるんですが、ここに登場する子どものころの英司さんが、ちょうど、ドナさんと対照的に、壮健で大胆でのんきな感じでかわいいです(偏食はあったそうですけど)。ブリジッドちゃんは女の子、英司さんは男の人ですが、私の中ではなんとなくイメージがかぶるんです。なんで……って、私にもよくわかんないです。健康そうなところかなあ。大好きな先生には即なつくところかなあ。

私自身とはタイプのちがうお子さんだけに、わかるようなわからないような、ですが、木馬以外はそんなに大きな違和感はありませんでした。今読み返したら、細かいところはあれこれ思うかもしれませんが。

(Kumiko) 最初に読んだ時は、カードハウスというのは「壊れやすくデリケートなもの」として象徴的に扱われているような気がしていたのですが…こういうお話をうかがうと、もっと現実的な意味で興味深いですね。私としては、その方が面白いです。

(やったことあるけど、5層目まで積み上げるのって難しいですよ!…あ、でも当時のカードは紙だから、プラスチック製のよりはやりやすいかも。)

ブリジッドは、誰かがカードハウスを作っているのを見て、真似しておぼえたのかな。だとしたらそれは、クラリッサでしょうね。ダイアナはいくら退屈しても、カードハウスで暇つぶしするタイプとは思えない。(昼なら乗馬、夜なら友だちを呼んでポーカーかビリヤード…それもできない時は、お酒に走りそう。)

クラリッサはわりと読書家だけど、バーラムにはあまり本がないだろうし、当時の田舎では本を手に入れるのは困難そうだし。トランプなら、ダイアナが友だちと遊ぶ時用にそのへんにあったので、退屈な時はつい手が伸びて…というのはありそう。彼女、育ちから言って一人遊びは上手だろうし。

木馬は、「まわりが、普通のおもちゃでは喜ばないと思い込んで与えなかった」に一票。あのおもちゃたちは、年齢に合ったものをいちいち考えて買い足したというより、生まれた時にまとめて買ったか、誰かにお祝いでもらった−という感じがするのです。木馬に乗るような年齢に達した時には、ダイアナも使用人たちも、おもちゃのことなど忘れていたのかも…



質問2:パディーンはどうしてブリジッドとコミュニケーションがとれたのでしょう?スティーブンは、パディーンが故郷のケリー郡で、「同じような子供をこの世界に連れ出した」、「そういうことができる不思議な才能がある」と言っています。これは現代でいう療法のようなものを、偶然にやっていたということなのしょうか。(ブリジッドちゃんとは、数を数えながら輪投げをしていたような感じですが。)また、パディーン自身も自閉者なのでしょうか?



これには、いくつものポイントがまざって入ってると思います。

(1)ブリジッドちゃんがパディーンに興味を持った、気を許した、信用した、いきなりなついたこと。

(2)今まで言葉を話すようにならなかったのに、パディーンといっしょに遊ぶうちに、パディーンの話すアイルランド語を覚えたこと。

まあ、このふたつは、まったく関係ないわけじゃないですけどね。気を許していっしょに遊んでたからこそ、パディーンの言葉を聞き覚えることもできたわけですし。でも、「パディーンがよかった」のと「パディーンの話すことばがよかった」のとは、とりあえずはべつべつのことです。

混ぜちゃうとかえってややこしくなると思うから、ひとつずついきましょう。

まず、(2)からいきましょうか。

それも、最初に覚えた言葉が「アイルランド語だった」ことよりも、「数字だったこと」から。

輪投げかなにかしてたんですよねー。最初は、パディーンが自分でやってるのを、横にくっついて見ていたんでしょうかね。なんだか目に浮かびます。「なるほどなあ」というか、ほんとにそれらしいと思いました。

(そうそう、前回に続いて、ブリジッドちゃんが自閉症かどうかは、相変わらず先送りにしてます。でもここはとりあえず、「自閉症っぽさをうかがわせるところのある子供」や「自閉症とその周辺を合わせた子供」にも通用する内容ですから)

実はね、自閉症やその周辺の子どもたちには、最初に話す言葉が「数字」だったり「図形の名前」だったりする子って、けっこういるものなのです。ろくろくしゃべれもしないうちから、百までの数字を唱える坊やとか。「まんま」も「しーし」も言えないのに「追い越し禁止」「右折禁止」を言うお嬢ちゃんとか。

こういう言葉って、客観的で、一対一対応だから、楽なのかもしれません。

だって、反対に、「行く」と「来る」とか「ただいま」と「おかえり」、「あげる」と「くれる」みたいに、立場が変わると名前も変わってしまう言葉が、とても難しいんですもん。「ママ」だって、いとこから見たら「おばちゃま」になったり、部下から見たら「店長」になっちゃったりしますからね。「しーし」はどの感覚が「しーし」かわからないと、言葉だけ覚えたって言えないし。

それにくらべたら、「三角形」や「右折禁止」「12」なんてのは、とにかくそれ一個だけを覚えたら言えちゃうんですから。「あした」より「かようび」が、「あとで」より「三時」の方が、やさしいんです。相対的な関係を考慮しなくていいからです。

そして、「パディーンが自分で遊ぶ言葉」がブリジッドちゃんの頭に定着したということも、とても自然に思えました。

えーと、ここは私自身の経験からお話ししますね。

私がそうだったんですが、何かね、自分に向けられた語りかけや呼びかけよりも、そうじゃない言葉の方が、わかりやすかった、覚えやすかったんですよねぇ。客観的な記述、叙述とか、第三者どうしの対話とか、だれかのひとりごととか。

自分への語りかけって、発音や内容を聞きとることに集中しにくいんです。「何か自分に言われてるらしいよ!」「何か用事らしいよ!」「返事を求められるかも?」という信号が、上から同時に重ね書きされるような感じがするんです(これは今でもそうです)。

ところが、人ごとだと思っていると、とにかく聞きとることに集中できます。こうして聞きとりができるようになり、意味がわかってしまってからなら、少しずつ、問われて答えることもできるようになってきます。でもやっぱり、自分の立場、自分の気持ちなどを表現するより、「これは何という字?」「四の次はいくつ?」「これは何という色?」といった、クイズやお勉強みたいな問答の方が、 楽です。どうなのかなあ、とじっくり考えなくていいですものね。覚えていることを思い出すだけでいいので、「対話」というやりとりだけに集中できるのです。

だから、この箇所はとてもすんなり、「ありそうなことだ」と思えました。

さて、なぜだかアイルランド語を覚えてしまった件。ここはちょっと、私なりの大胆な仮説です。私自身は小さいうちから言葉が話せましたし、外国語に接する経験もしなかったので、直接体験ではないんですが、まあ、いろいろとありまして。

しゃべれなかったころのブリジッドちゃんは、複数の人たちの声、イントネーション、発音でイングランド語を耳にしていました。ダイアナ、クラリッサ、そして人数はわからないものの、使用人たち。ものに動じないクラリッサはそうでもなさそうですが、ダイアナのことだから、ごきげんの波も大きかったでしょうし、しらふのときと飲酒時の差だってありそうです。

それに対して、アイルランド語を話すのはパディーンひとり。ひとりですから、声と訛りは毎回、統一されています。

私は、これが、わかりよかったんじゃないかと思ったのです。

自閉症スペクトラムやその周辺の子どもたちや大人たちって、うーん、これは私がひとりで唱えている説なので、定説とはいえないんですけど、パソコンの画像加工ソフトでいうところの、「解像度の設定を決める」のがニガテなところがあると思うのです。ていうか、「解像度って、設定を変えられるんだ」ということに、なかなか気がつかない。情報を、どれくらい詳しくキャッチしなくちゃいけないか、どれくらいの揺れは誤差として無視していいかの判断が、ものすごーーーく弱い。異常に厳密なカラオケ自動採点機械みたいなものかしら。

「声は違っても、音の順番さえ同じなら、言ってる言葉は同じだよ」ということに気がつくのが、遅いかもしれないんです。

私はたまたま、話しはじめの年齢に遅れはなかったのですが、そんな私でも、方言の理解に大変な苦労をしました。大阪で生まれ育ちながら、長らく大阪弁がわからなかったのです。ほかにも、風邪で声が変わっただけの母の話が全く聞きとれなくなってみたり、担任の先生が授業参観で緊張した声になると言葉が聞きとれなかったり、文字を覚えはじめのころ、明朝体の「あ」とゴシック体の「あ」と手書きの「あ」を全部べつべつの文字かと誤解していた時期があったり、どーも「解像度の設定まちがい」に由来してそうなエピソードが多かった。

現代だと、ブリジッドちゃんのように言葉の遅れている子どもたちの中には、テレビのコマーシャルだとか、自動販売機や駅の自動アナウンスだとか、おもちゃのファービーなどのモノマネをきっかけにしゃべり始める子が珍しくないんですが、それも、声が統一されてるのがいいんじゃないでしょうか。

温厚なパディーンのことだから、口調もそんなに変わらないでしょうし、もしかして、アイルランド語でもちょっぴりボキャ貧タイプ だったりしたら、なおさら、同じような口ぐせのくり返しが多くなります。

もし仮に、ブリジッドちゃんも「解像度の設定は調節できることをまだ発見してなかった」のだとしたら、一言語につきひとりの声、アクセント、口調に統一してもらえるのは、一種の踏み台として、ありがたかったかもしれませんね。

さて、(1)の、「パディーンにいきなりなついた」話に行きます。

これ、言葉で表すのは何だか難しいんですが……。

こういう人って、いるんですよ。コミュニケーションや対人関係に困難のある子供や大人を安心させ、信用されちゃう人。療法のようなものというより、その人自身の「居方」「あり方」みたいなものだったり、うーん。うまく言えないんですが、いても「存在がうるさくない」んですね。「猫っぽい人」っていう言い方をする人もいます。

で、実は私、パディーンの登場するあたりを読んだころは、自分自身も診断を受けていませんでした。17巻もまだ読んでいな くて、ブリジッドちゃんも登場していませんでした。それなのに、その段階で、「ああ、こんな従者を身近に置けたら楽だろうなあ」なんて思ったことがあったんですよね。

われわれ一族って、二つ以上の作業を同時進行するのがヘタクソです。じゃあ交互にやれば、っていうとこれまた切り換えが 重い。

ということは、存在の「濃い」人とやりとりをしようとすると、相手の人で視野がいっぱいになって、じゃあ自分はどう返事したいのか、自分の内部でどんな反応が起きているのかが、塗りつぶされて見えなくなってしまうことがあります。

あるいは、存在の濃い人だと、その人の発する情報どうしの間でもバッティングが起こります。たとえば、存在が濃くて、言ってる言葉まで聞こえないとか。これだと、相手の話が聞きとれません。

「お前に話しかけているんだ、さあ反応しておくれ」「お前のことを気づかって、大事に思っているんだ、気づいておくれ、認めておくれ、ハンコくれ」というオーラの強い人だと、「何か反応しなきゃいけないらしい」だけで終わってしまって、「で、何を?」がわかる場所が残らないこともあります(のぞき見やチラ見、他人ごと、テレビや映画などがわかりやすいのは、これですね)。

そんなわけで、オーラが薄かったり、「ハンコくれ」と迫ってこなかったりする人の発する情報は、ノイズが少なくて、そもそも受信しやすい。

それに、迫ってこられないとわかっているから、受信する側は安心してます。警戒するのにリソースをむだ遣いしていないから、のびのびと実力を発揮できる。リソースを空費してないと、脳は、体のメンテナンスなんかにもリソースを回せるでしょうから、呼吸や発汗や体温調節なんかもスムーズにいく。そしたら体調もいいから、「この人といるときは気分がいい」というフィードバックも積み重ねられていってしまうでしょう。

まあ、もしかしたら、ブリジッドちゃんのなつき方は、少々極端に書いてあるのかもしれません。でも、この小説シリーズの中で読むかぎり、このことだけが浮く感じはしないんですよね。だって私たちは、スティーブンが毎回毎回、あんなに極端に野生動物に惚れられているのを読んでいるのですから。

そして、これほど劇的じゃないにしても、たちまちのうちに自閉っ子を安心させてしまう人ってのは、たしかにいます。いつだったかもご紹介した、真行寺英子・英司『言葉のない子と、明日を探したころ』の英司君も、建川先生や島田先生、玉井先生にたちまちのうちになついていましたよね。


(番外)「パディーンも自閉者なのかどうか」について。

これは、いろいろな意味で、難しい問題ですね。

まず、架空の人物だからといって、医師でもない私が、「診断名」に相当するようなことを言っちゃっていいかどうか? という問題があります。

この件に関しては、今は先送りしてるブリジッドちゃんの話で、どのみちいつかは触れることになるのだから、もうひとつの方を今日はお話しします。

「自閉どうしならわかり合えるだろう、相性がいいだろうといえるのかどうか?」という問題ですね。

実際のところ、パディーンに自閉っぽいところがあるのかどうか、私にはわかりません。それっぽいところはありそうな気がしますが、それが境界線を越えるほどのものかどうかはわかりません。

どっちにしても彼は、ブリジッドちゃんだけじゃなく、ほかにも似たような子供と相性がよかったのですよね(そういえば、動物とも)。そんな彼が、情緒が安定していて、存在のうるさくないタイプであることは前にも述べました。

その一方で、自閉症の仲間たちで、情緒が不安定なために、存在がうるさくなっちゃってる人たちもいます(あー、もしかして私、ちょっぴりこっちかも)。

不安とかこだわりとかで自分が手いっぱいで、子どもさんのペースに合わせる余裕のない人もいます。障害のある子どもたちとの相性には、存在がうるさくないだけじゃなくて、「心が広くて」「気が長い」ことも大切なんですよね。

私は同類でありながら、ここでみごとにふるい落とされてしまうんです。私は偏狭で、かつ、せっかちなものですから。

そう、自閉どうしだと必ずしも相性がいいとはかぎらないのです。

たしかに、「情報を持ってる」という意味での強みはあります。「ああー、こういうときってあるよね!」とわかってあげられるとか、自閉っ子の言い分を「そんなあほなことあるわけないやろ!」と決めつけないで信じてあげられるとか。でもそれは、プラスっていうよりむしろ、誤解という弊害が減る、マイナスからゼロへの変化だと思うんです。積極的に「相性が良い」という領域まで打って出るには、やはり、「存在がうるさくない」「心が広い」「気が長い」が必要になってしまいます。

そして、自閉の人たちにはとかく、それぞれに別々の「心の狭さ」や「思いの濃さ」があるものですから、それが互いにぶつかることも珍しくはありません。

たまたま相性がよければいいのですが、相性が悪かったときのぶつかり方は、がんこ者どうしだけに、激しくなりがちです。

ただし、自閉ゆえに気の長い人もいます(私は逆で、自閉のくせして気が短いんですが)。『ずっと「普通」になりたかった。』(拙訳)の著者、グニラ・ガーランドさんがこのタイプで、保育所でも老人ホームでも、無限の辛抱づよさで能力を発揮していたようです。

彼女がそんな力を発揮できるのは、ただ気が長いだけでもなさそうです。ほかにもなにか、病気や障害のある人たちとのつき合いに天才的なものを持っているようです。もしかしたらそれは、自閉症であることとは直接には関係のない要因なのかもしれません。

そして、こういう特殊なまでの能力のある人って、健常者にもけっこういるんですよね。私の場合は、相性のよい相手って、「微妙にそのケがあるけど完全にこっちまではきてない健常者」が多いかな。

今、これを書いてて、どうしても、すぐ動物に嫌われるマーティン牧師のことを思い出してしまいました。彼はパディーンの対極じゃなくて、動物に愛されるスティーブンの対極のはずなのに〜。


(Kumiko) これも、目からウロコがボロボロの話でした。ややこしい、問題の多い質問に適切に答えていただいてありがたかったです。

情緒の安定した、存在のうるさくないタイプ…「動物のお医者さん」で言うと、ハムテルタイプかな。体温が低いのは菱沼さんですが(笑)。(<またも、読んでいない人には分からない漫画話ですみません。)

質問3:ブリジッドの変化(17巻5章までのネタバレ)