Chapter 1〜銀鉱とトランプ


ジャック・オーブリー艦長は、妻のソフィー、双子の娘シャーロットとファニー、幼い息子のジョージ、義母のウィリアムズ夫人と共に、アッシュグローブ・コテージに住んでいた。彼はモーリシャス戦役の拿捕賞金のおかげてすっかり裕福になっていて、コテージも豪華にリフォームされていた。彼は地元の防衛艦隊の司令官に任命されたので、仕事をしながら家族と住むことができていた。オーブリー家では、今ではボンデン、キリックを始めとする水兵たちが召使の代わりを勤めていた。普通の召使と違い、彼らはウィリアムズ夫人の皮肉にもまるで平気だったし、実際、彼女でも文句のつけようもないほど家中を見事に磨き上げていた。

ジャックが陸にいる間、キリックはオーブリー家の執事格をしています。親指で後を指差して「メシだ!」って言うような執事ですけど(笑)。ジョージくんは歯が生えたばかりで、夫妻は彼にメロメロです。ウィリアムズ夫人(ソフィーのママ)は病後ですが、相変わらず元気一杯で、ジャックを呼ぶ時はいちいち「オーブリー艦隊司令官、もとい艦長」って言います(もちろん嫌がらせ)。海戦で片脚を失った水兵が、ふたごちゃんの世話係を勤めています。ジャックはいまだに2人の区別がつかないようです(だめじゃん)。嬢ちゃんたちが水兵のスラングを覚えてしまうので、ソフィーは困っているようです。何はともあれ、平和なオーブリー家です。

アッシュグローブ・コテージに郵便が届いた。その中にはスティーブン宛の、ダイアナからの手紙があった。どうやらダイアナは英国に帰って来ているらしく、スティーブンが珍しく新しい服を買ったりしているところから見て、彼はダイアナに会っているらしい。ソフィーはスティーブンのことを心配していた。「ジャック、どうしてスティーブンにまともな従僕を見つけてあげないの?キリックはあなたをあんな格好で外出させたりしないわ。」「うーん、彼は頑固だからなあ。誰が何と言おうと、彼が決めたことを変えさせることはできないよ。」「ダイアナならできるわ。扇のひと振りで。」「そうだね。でも、それでスティーブンが幸せになるなら、それでいいという気がするんだ。前は別れさせるのが友人としての義務だと思っていたけど…今はわからない。こういう事に干渉すべきでないのかもしれない。」

スティーブンがまともな従僕をつけないのは、あまり生活を知られると諜報活動に差し障りがあるからなんですが…まあ、従僕がいたとしても彼が服に気をつけるとも思えず。(もちろん、ダイアナに会うときだけは別のようですが。)

3巻でダイアナをサプライズに乗せてあげていたら…って、ジャックもちょっと考えたのかな。

アッシュグローブ・コテージにスティーブンが来た。ジャックはスティーブンに、次の任務の話が来ていることを話す。「レパード号という50門4等級の艦で、かつてはボロ船と呼ばれていたが、全面的な修理を施されて新品同様になった。行き先はボタニー湾(オーストラリア)。かつて有名なバウンティ号で反乱に遭ったブライ艦長だが、その後当地の総督になった。しかし、また反乱が起きたらしい。現地の様子を見て、必要な処置をとる任務だ。君にも来て欲しいんだ。何たってニュー・オランダ(オーストラリア)だぞ。ウォンバットだのカンガルーだのカモノハシだの、見られるかもしれない…」

ここでかの有名なバウンティ号のブライ艦長が出てきますが…ここで解説を入れるとややこしくなるので省略。(<面倒だからじゃないの。本当よ。)当時オーストラリアはNew Hollandと呼ばれていました。ボタニー湾はシドニー付近の湾で、当時は罪人の流刑地です。しかし、クック船長の船が上陸した時に珍しい植物(botany)を発見したことからこの名がついたぐらいで、博物学者にはあこがれの地。スティーブンなら、目当ては植物より有袋類でしょうけど。

ジャックはスティーブンにもう一つ話があった。彼の地所の中には古い鉛の廃坑があり、夥しい量のドロス(浮きかす)が積み上げてある。ドロスには昔の技術では取り出せなかった鉛と銀が含まれているそうだ。キンバー氏という人物が新しい技法を発明して、それを抽出できるようになった。「キンバーがほんの少量のドロスを調べただけで、こんなに銀が採れたんだ。」彼は銀の延べ棒を見せた。「坑道や溶鉱炉に投資が必要だが、相当な利益が得られそうだ。キンバーは本当にしっかりした、控えめな男なんだが、なぜかソフィーは彼が気に入らないみたいなんだ。キンバーは投資家の数を制限しているんだが、ぜひ君にも投資してほしいんだ。」スティーブンは、今は自由に使える金がないと断り、逆にジャックに金を貸して欲しいと頼んだ。ジャックは快く貸した。「ありがとう、恩に着るよ」「君とおれとの間で、恩なんて言う必要はないよ。」

えーっと、このあたり、偏見を持たせないよう、公平にまとめたつもりなんですけど…キンバー氏って、皆さんはどういう印象を受けますか?キンバー氏が、[詐欺師]だと言っても、[こんなんに騙されるのはジャックぐらいだ]と言っても、ネタバレにはならないよね?

ジャック、お金の事はソフィーに任せておいた方がいいと思うぞ。なんたって彼女は、あのお母さんに育てられたんだから。

ジャックは、スティーブンを誘ってトランプ賭博に出かける。馬で賭博場に向いながら、ジャックはスティーブンがひどく元気がないのに気づいて心配する。スティーブンは、手術中に患者を死なせたが、それは自分のミスかもしれないこと、ロンドンでダイアナに会ったことを話す。ダイアナが駆け落ちした相手のジョンソン氏は、アメリカに妻がいたらしい。そしてジャックには言わなかったが、彼は諜報関係の書類を馬車に置き忘れるという信じられないミスもしていた。

ドクターがらしくないミスを連発しているのは、アヘンチンキの依存症がひどくなっているせいです。アヘンチンキの話は2巻に始めて出て来て、3巻ではすっかり断っている様子だったのに、4巻でまた耽溺していることが判明。その時は日常生活に支障はなかったようですが、ここに来てついにやばいことになっているようです。

「このゲームでは腕なんか関係ない筈なのに、いつも負けてしまうんだ」ジャックは言った。賭博場で、ジャックはいつものメンバー(レイ判事、彼の従兄弟で政府高官のアンドリュー・レイ、他二人)と席につく。スティーブンはそのゲームを知らなかったので、参加せずに見ていた。途中でソフィーに買い物を頼まれていたのを思い出したスティーブンは席を外した。戻って来ると、ジャックは負けていた。見たところ、運に左右される単純なゲームで、ジャックが必ず負けるというのは明らかにおかしい−スティーブンはゲームの観察を続け、アンドリュー・レイの手が不自然な動きをしているのに気づいた。あれは合図なのか?しかし、やがてレイは手を動かすのを止め、ジャックが勝ち始めた。

家に帰る途中、ジャックはスティーブンに「君が来ると勝ち始めるんだ。君がツキを運んできてくれたみたいだな。」と言った。スティーブンは「確かな証拠はないが、もうあの連中とはカードをやらない方がいい」と忠告した。

ジャックはスティーブンにレパード号の模型を見せ、艦の構造を説明した。「…広さにも余裕があるんだ。海尉は4人、軍医には2人助手がつく。トム・プリングズとバビントンとマウアットを呼んであるんだ。」「素晴らしい航海になるだろうな。行けたらどんなにいいかと思うよ。」「君は行けないのか?」「残念だが、用があるんだ。代わりにいい軍医を紹介するよ。珊瑚の専門家で、きっと行きたがるだろう。有能な男だ。」「君がロドリゲズ島の珊瑚を送っていたディーリングって人かい?」「いや、違う。ディーリングは僕の手術中に死んだ。」


ジャックったら…ネギしょって歩き回っているわ(泣)。どうして海ではあんなに鋭い人が、陸ではこれほどのカモになっちゃうんだろう。海ではジャックがスティーブンの面倒を見ている分、陸ではスティーブンが彼の面倒を見てあげなくてはいけないのだけど、彼は彼でそれどころじゃないようで。やれやれ、大丈夫だろうか?