Chapter 2〜ガラス瓶と女スパイ


スティーブンは馬車でロンドンへ向う。途中、彼はアヘンチンキの瓶を窓から投げ捨てるが、次に薬局に行った時にまた購入してしまった。彼はロンドンの定宿「グレープス亭」に荷物を置き、また出掛けた。女将のミセス・ブロードは彼が新しい上等の服を着込んでいるので驚く。「きっとご婦人に会いに行くのね。でも、ネクタイの値札を取ってあげればよかったわ。」

各章につけている題名なんですけど、これは単に、後から「このエピソードはどの章だったかな」というのを分かりやすくするためにつけているだけなんで…センスのなさは平にご容赦を。この章の「ガラス瓶」と言うのは、アヘンチンキの瓶のことです。わかりにくくてすみません。

ダイアナに会いに行くのでオシャレしているドクター。何だか可哀想。

そしてこのあたりから、「グレープス亭」の女将のミセス・ブロードが本格的に登場します。彼女はドクターの癖に慣れいているので、彼が「アルコール漬けの人間の手」を持って帰ってもちっとも驚きません。(むしろ、人間の手は「最高の幸運のお守り」だと言って喜んだりします。)でも彼がぱりっとした格好をしているのにはびっくりしたみたいで…よっぽど珍しいことなんだなあ。

スティーブンはダイアナの家を訪ねるが、門衛が「彼女はもうここにはいない」と言う。スティーブンは家主にダイアナの主治医だと名乗り、未払い分の家賃を払った。「なぜ突然いなくなったのでしょう?」家主の話によると、ある日警察が来てミセス・ビリャズを連行した。彼女は数日後、ジョンソン氏という男性と一緒に戻り、急いで荷物をまとめて出て行った。どこへ行ったかは知らないが、ドクター・マチュリン宛の手紙を預かっている。

スティーブンは手紙を読んだ。「マチュリン、本当にごめんなさい。友人が馬鹿なことをしでかしたせいで、心ならずもアメリカに戻らなければならなくなりました。郷愁にかられて英国に帰って来るなんて、馬鹿だったわ。あなたの友情に感謝します。D.V.」

グレープス亭に帰る道で、彼は誰かが尾けているのに気づいた。しかし、彼は悲しみに打ちのめされていて、何をする気にもなれなかった。


スティーブンは家賃の他にも、ダイアナの残したいろんな請求書を支払うはめになります。その中にあったのが「ロバのミルク」。何でも、美容のためにお風呂に入れるそうで…いくら急いでいたとしても、そのぐらい払ってから行けよ〜

翌朝、彼は海軍省に呼び出された。彼を呼び出したのはシーヴライト提督−諜報部のウォーレン部長の代理だ。提督は言った−「米国のスパイの嫌疑をかけられている女性が2人いる−ミセス・ルイーザ・ウォーガンと、その友人のダイアナ・ビリャズだ。ビリャズのアパートメントを捜索したところ、君の手紙が発見された。内務省は君に説明を求めている。」「なぜ内務省が、私のことであなたに説明を求めるのです?私の身分は秘密の筈だ。」スティーブンは反論したが、提督はそれには答えずに続けた−ミセス・ウォーガンは逮捕され、スパイとして絞首刑になるはずだったが、事を荒立てぬため流刑に減刑された。ビリャズはウォーガンに頼まれて手紙を運んでいただけだと主張している−不倫の恋の仲立ちをしているつもりだったと。彼女は今はアメリカ市民になっているので、政治的配慮から釈放された。「彼女はウォーガンよりさらにいい女だ。気の強いことといったら、まるで山猫だ。怒った姿がまたよくて、釈放するのは惜しかったが…」

「あなたは私の質問に答えていない。それに、あなたの話し方は下品極まりない。これで失礼する。」スティーブンは憤然と席を立った。部屋を出る時、彼はサー・ジョセフとすれ違った。


普段から結構喧嘩っ早いスティーブンですが、今は禁断症状によって余計にイライラしています。彼は、決して怒られせてはいけないタイプだと思うのですが…この提督みたいなニブイ人が、諜報関係の幹部で大丈夫なんだろうか。

彼がグレープス亭に帰ると、サー・ジョセフが訪ねて来る。「提督とやりあったらしいな。」「ウォーレンはなぜあんな男に、こんな難しい事件を任せたのです?」「ウォーレンは重病なんだ。提督には君の事をよく言っておいた。君はわが国に欠かせない人材で、危険を冒して多くの成果を上げてくれたと…彼のせいで君を失うことになったら、しかるべき措置をとるとね。私の引退が表向きだけなのは、彼も知っているだろうからね。」スティーブンが仕事を辞める気はないと答えると、サー・ジョセフは喜んだが、彼がひどく疲れた様子なのを見て心配する。「たしかに、僕の健康は思わしくありません。飲んでいる薬の副作用がひどくて…教えて下さい、ビリャズはこの件にどの程度かかわっているのです?」「はっきりした事はわからん。ミセス・ウォーガンというのは、一級の諜報員だ。美人で頭のいい女性ほど、諜報活動に有用なものはない。彼女はボタニー湾に流刑になる。そこで提案だが、君が同行してくれないか?彼女がまだ隠している事があれば、君なら探り出せるかもしれない。ボタニー湾は君の研究にももってこいの所だし、静養にもなるだろう。それに、彼女は君の友人の艦で護送される事になったんだ−レパード号だったかな。」

アッシュグローブ・コテージに戻る馬車の中で、スティーブンはダイアナの事を考えていた。考えれば考えるほど、アヘンチンキの瓶への渇望はつのった。オーストラリアへ行って未知の自然に触れたら、全てを忘れて気力を取り戻せるだろうか?


3巻で引退したはずなのに、実は海軍省に隠然たる力を振るっているサー・ジョセフ。やっぱり昆虫採集だけの生活は退屈だったようです。

オーブリー家に戻ると、ジャックは怒っていた。彼はレパード号が流刑囚の護送船にされる事を聞いたのだ。「信じられん!よりにもよって、罪人の護送なんて…なのにソフィーは、これがどんなに無礼な事かわかってくれないんだ。おれをレパード号に乗せたがっている。まるで家から追い出したいみたいだ。」「でも、海に出たがっていただろう?囚人がいたからって、それが何だ。この任務を蹴ったら、少なくとも半年は海に出るチャンスはないぞ。」「それなんだが…実は今、英国を離れない方がいいかもしれないんだ。銀鉱の事もあるし、それに…実は、あれからまたレイたちとトランプをして、君の言う通りだと分かったんだ。イカサマをしていた。それで、おれはアンドリュー・レイを、大勢の前で非難してしまった。決闘を申し込んでくるかもしれないから、逃げたと思われたくない。」

その夕方、ソフィーがこっそりスティーブンを呼んで相談した。「ジャックを決闘させたくないの。決闘なんて、野蛮で、邪悪で…あなたもそう思うでしょう?だから、すぐ海に出てほしいの…戻ってくる頃には危険は消えているわ。お願い、ジャックを説得して。」「レイは決闘を申し込んではこないと思うよ。しかし、ジャックが海に出た方がいいというのは賛成だ。陸に上がった船乗りの例に漏れず、彼はろくなことをしていない。競走馬に賭博、銀鉱…」「そうなのよ!妻として夫のすることに口は出せないけど…時々、彼はここにいると不幸なんじゃないかと思うの。退屈な陸の生活、退屈な妻…それで気を紛らすために、あんな浪費をするんじゃないかって…」「そんなことはないよ。落ち着いて。しかし、たしかに彼は海に出た方がいい。陸でもうまく泳ぐ術を学ぶまで。」


ソフィー、「妻として夫のする事に口を出せない」なんて言ってますが、どんどん口を出した方がジャックのためだと思います。「ママが教えてくれた唯一のことは帳簿のつけ方」だと言うソフィー…ジャックにはぴったりの女性なのにねえ。

その夜、オーブリー夫妻の寝室にて−「ソフィー、言いたい事はわかるけど、おれはレパード号を受けるつもりはないよ。流刑囚には女囚もいるんだ。女を艦に乗せるとロクな事にならない。」「わかってるわ。お仕事のことに口を出すつもりはないの。でも…スティーブンの事も考えてあげなくちゃ。」「スティーブン?彼は断ったんだぞ。」「でも、彼が帰って来た時の顔を見た?またダイアナに傷つけられたんだわ。私たち、スティーブンにはずいぶん世話になったじゃないの。ボタニー湾に連れて行ってあげたら、きっと気が紛れるわ。ずっと英国にいたら、彼、憂鬱で死んでしまうわ。」「ソフィー、君の言う通りかもしれないな。他の事に気を取られて、気がつかなかったけど…たしかに、元気がなかったな。彼はそんな事は言ってなかったが…」「スティーブンは繊細なのよ。あなたが任務を蹴ると決めたら、自分の都合を言い出したりしないわ。でも、彼がウォンバットの話をしているのを聞いたら…涙が出るわよ。ああジャック、彼はすごく落ち込んでいるの。」

ソフィー、ジャックのためと思ったらこの堂々たる嘘のつきっぷり、的確に相手の弱点をついた攻撃、お見事です。しかしジャック、ソフィーが何を言っても聞かなかったのに、「スティーブンのため」の一言で動くんですね(微笑)。

それにしても、思わずもらい泣きするほどのウォンバットの話って…(笑)