Chapter 3-1〜海に浮かぶ牢獄


レパード号はオーストラリアへ向っていた。艦には三百数十人の乗組員に加えて、流刑囚と彼らの看守、担当医、牧師など総勢20名が乗っていた。男の囚人たちは艦首艙にしつらえた牢で手枷に繋がれていたが、3人の女囚は別の部屋に監禁されていた。さらに、ルイーザ・ウォーガンは特別に一人で小部屋を割り当てられていた。ビスケー湾で、艦はひどい嵐に遭い、混乱の中、看守長と担当医が殺される事件が起こる。犯人は不明だったが、艦長は今まで看守長にまかせていた囚人区画の責任を負うことになった。

はい、レパード号、やっと出航しました。オーストラリアへ護送される流刑囚たちは、ミセス・ウォーガンの護送が目立たないようにするためのカモフラージュとして乗せられています。(と言っても、本物の泥棒や殺人犯ですけど。)ジャックはウォーガンの罪状を知らないようです。基本的に囚人区画は艦の他の部分とは切り離されて看守が管理しているので、艦長といえどもアンタッチャブルなのですが、看守長が死んだことでそうはゆかなくなってきます。

スティーブンは艦に乗るときにアヘンチンキをきっぱり断ったようですが、禁断症状に苦しめられているようです。彼がいつになくイライラしているので、原因を知らないジャックはちょっと引いてます。

看守長と担当医の死体を片づけていた副長のプリングズは、餓死寸前の密航者を見つける。彼はマイケル・ヘラパスという名前の、育ちの良さそうな青年で、樽の間の狭い空間に1週間も隠れていた。プリングズの話によると、彼は出航前に水兵に志願してきたが断られていた。ジャックは彼が健康を回復したら、希望通り水兵に組み入れることにする。スティーブンも彼の顔に見覚えがあった。ロンドンでダイアナの家を訪ねた日、彼が路上で話しかけてきて、時間と道を訊かれたのだ。

スティーブンはミセス・ウォーガンにどうアプローチしたらいいか考える。ダイアナが彼女に彼のことをどのぐらい話しているか、全てはそれにかかっている。ウォーガンが彼のことを知っていたら、話をさせるのは難しくなるだろう。


書き忘れたんですけど、マイケル・ヘラパスというのはルイーザ・ウォーガンに恋して追いかけている青年です。2章でサー・ジョセフの考えいている事の中に出てきたのですが、ジャックもスティーブンも(もちろん他の人も)まだそのことは知りません。水兵たちには「女を妊娠させて逃げて来たんだろう」とか思われています。(ええとこの坊ちゃんが海に出る理由はそれしか思いつかないらしい。)

ヘラパスが水兵に志願した時断られたのは、レパード号は人数が足りているからです。ジャックは厳しいけれど暴君ではない、いい艦長として評判が高いし、何より「拿捕賞金に関して運がいい」と思われているので、放っておいても腕のいい船乗りが集まってくるようです。2巻のポリクレスト号の頃の万年人手不足が嘘のようです。

一方、スティーブンも助手を見つけるのに苦労しないみたいですね。高名なドクター・マチュリンと航海すれば勉強になるし、何よりそれは「ラッキー・ジャック・オーブリー」の艦で航海することを意味するので、やはり拿捕賞金の分け前にあずかる確率は高くなるから。

ジャックは囚人区画を視察する。牢はひどい状態だった。囚人たちは藁を敷いた檻に、鎖につながれてうずくまっていた。ほとんどは骨と皮に痩せ衰え、ひどい船酔いで身動きできないほど参っている。藁は汚物にまみれて、ひどい悪臭を放っていた。ジャックは牢をきれいに掃除するように命じた。看守長と担当医を殺した犯人はわからなかった。

ジャックは続いてミセス・ウォーガンの部屋を視察する。狭苦しい部屋は、嵐の後にも関わらずきちんと片づけられていて、彼女は落ち着き払っていた。ジャックは感心する。ウォーガンは外に出て風に当たりたいと要望する。


レパード号は50門の4等級艦。28門6等級のサプライズ号よりはずっと広いのだろうけど…普通は食べ物だの水だの置いてある倉庫に牢獄を作っているのだから、相当に狭そうです。きっと、こうやって想像しているよりもさらに狭いんだろうな。最下甲板で水面より下だし、閉所恐怖症でなくても、外の風に当たりたくてたまらなくなるのは分かります。ルイーザ・ウォーガンは船のネズミとバトルを繰り広げたあげく蹴飛ばして殺すなど、なかなか胆の据わったレディです。ジャックも"A rare plucked 'un"(度胸のある人)と感心しています。

ウォーガンについて本当のことを知らされていないジャックが、彼女を何かとんでもない凶暴な女テロリストだと思っているのがおかしいです。首相を暗殺しようとしたとか、国会を爆破しようとしたとか…誰が吹き込んだのだか。

流刑囚の牢は看守長に任されてとは言え、自分の艦の一部がこれほどひどい状態になっていたのを見て、ジャックは牢を放っておいたことを後悔する。スティーブンは、今までに多くのひどい牢獄を見てきたが、これほどひどいのは初めてだと言う。囚人の担当医が死んだので、スティーブンが囚人の診察も担当することになる。彼は、囚人を定期的に外の風に当て、運動させるべきだと言う。

スティーブンは助手のマーティンと共に囚人を診察する。2人は死んだ担当医の備品を調べる。用具も薬もろくなものがなかったが、そこにアヘンチンキの瓶を発見してスティーブンは動揺する。彼はそれを捨てようとするが、患者に必要になるかもしれないと思い直して取っておく。


ここでスティーブンは、各地で多くの監獄を見てきたと、リスボンやスペインの監獄のことを思い出していますが…それって、医者として見たんでしょうか、それとも囚人として?(両方かな。)

さて…ジャックとスティーブンは主人公ですから、この2人は(少なくともだいぶ後の巻までは)生き残るってことが分かっているわけです。だから、2人がどんなに死ぬような目に遭っても、そういう点でハラハラすることはない、はずです。…でも2人とも、他の意味で常にハラハラさせてくれるんですよね。。

スティーブンの場合、ひとつはコレですね。彼はだいたいにおいてはヤク中「スレスレ」なんですが、いつ本格的にそっち側に堕ちてしまうかと、心配で心配で…

まあ、彼もジャックと同様、陸で暇にしておくとロクなことはなくて、海に出て忙しくしている方がいいようです。担当する患者が増えて忙しくなったことで、少し元気が出たようです。

他の囚人を診察し終えたスティーブンは、ミセス・ウォーガンの部屋に行く。彼女は(もし演技でないなら)「ドクター・マチュリン」という名を聞いた事はないようだった。ダイアナにとってそれほど自慢になる知り合いではないのかもしれない、とスティーブンは苦い思いで考えた。スティーブンは彼女を診察し、どこも悪いところはないが、少し顔色が悪いと言う。彼が「妊娠している可能性はないか」と訊くと彼女は笑って否定し、顔色が悪いのはこの部屋に閉じ込められているせいだと言った。「あの大柄な紳士にも申し上げたのですけど…少しは外の風に当たりたいのです。」「彼は艦長ですから、考えなくてはならないことが山ほどあるのです。」スティーブンは答えた。

ダイアナが自分のことを全然話していなかったと知って、ほっとしたような悲しいような気持ちになるスティーブン。気持ちはわかります…