Chapter 3-2〜ミセス・ルイーザ・ウォーガン


スティーブンはルイーザ・ウォーガンとダイアナを心の中で比較していた。髪は黒、瞳は青、年頃も同じ。顔立ちもたしかに似ている。しかし、ルイーザはダイアナより背が低い。そしてダイアナがスティーブンを虜にした、あの仕草の優雅さは持ち合わせていない。それに、彼女の顔は穏やかで、ダイアナの顔を形作っているあの気性の激しさはなかった。ダイアナが虎なら、彼女は豹だ、と彼は思った。

実はここを再読していて、えらいことに気づいてしまった…私、ダイアナの身長が出てくるところはない、と思っていたのですが、ここで「ウォーガンはダイアナより2インチ背が低い、それが背の高い女とそうでない女の境目になっている」という文があったんです。ウォーガンの身長は2章に出てくるのですが、これが5フィート8インチ(173cm)。ということは…ダイアナは5フィート10インチ…178センチぃ?これって、当時の女性としてはとんでもない大女ではないでしょうか?

ダイアナは「美人だ」とか「ほっそりしている」とか「背筋の伸びた仕草が優美だ」とはよく言われますが、「とても背が高い」と言われているシーンはないように思います。168cmのスティーブンと並んでいても、「あんな美人がなんで軍医なんかと」とは言われても、背の高さが不釣合いだとは言われていないし。それに、いくらイギリス人でも当時の女性なら173cmでも充分「背が高い」と言えるのではないかと思います。…ここは、私はルイーザが5フィート8インチっていうのが「何かの間違い」だと解釈したいです。彼女が5フィート4インチ(162.5cm)、ダイアナが5フィート6インチ(168cm)ぐらいなら、「背の高い女とそうでない女の境目」と言えるし、納得できるのだけど。無理やりですが、そう思いたいのよ〜〜だってスティーブンより10cmも背が高いダイアナなんて〜。

それはともかく…(気を取り直して。)「ルイーザは豹ならダイアナは虎」という喩え、スティーブンらしくてとてもいいです。でも178cmのトラじゃ、阪神で四番を打てるよ…(なんのこっちゃ)

スティーブンは艦長室に行き、ジャックと話をする。彼は「僕が囚人たちの健康に責任を持つことになったので、気を遣ってほしい」と言う。ジャックは監房をすっかり掃除してハンモックを吊らせ、通気筒もつけたから心配ないと言う。「運動のことなら、交替でポンプを漕いでもらうことにするよ。」「ミセス・ウォーガンはどうする?彼女にもポンプを漕がせるのか?」「そうだなあ、彼女はどうしようか?ところで、スティーブン、気がついたか?彼女はダイアナにそっくりだな。」「いや、似ていない。」スティーブンが鋭く言い返したので、ジャックは言ったことを後悔した。それにしても、近頃のスティーブンは、どうしてこんなにピリピリしているんだろう?「艦尾甲板を歩かせるわけにはいかないなあ。罪人なんだし…危険な女だって聞いているし。」「そんなに怖いのなら、砲にぶどう弾を装填して狙いをつけていればいいだろう」スティーブンの悪意のこもった反応にジャックは驚くが、「考えておく」とだけ答えた。

ここで、スティーブンはミセス・ウォーガンを"poop"(艦尾楼)で散歩させたい、と要望しているのですが、ジャックはpoopへ行くには「神聖な」quarter deck(艦尾甲板)を通らなければならないから…と難色を示しています。艦尾甲板と艦尾楼の位置関係については、このモデルシップのページの、「HMS Agamemnon」(上から12番目)の「Quarter Deck」のところあたりがわかりやすいのではないかと。レパード号ではないのですが、大きさから言ってこのぐらいかな?と思うので…(自信なし。詳しい方、もし違っていたら教えて下さい。)

スティーブンは士官集会室で、レパード号の士官たちと昼食をとる。レパードの副長はトム・プリングズ。スティーブンは彼がすっかり大人になっていることに改めて気づいて驚く。二等海尉はグラント。優秀な士官だが昇進の機会に恵まれず、中年の気難しい男になっている。三等海尉はバビントン、ペットのニューファウンドランド犬を連れて乗艦している。食事の後、スティーブンは自室に戻って日記をつけた。彼は今までの航海ではジャックと広い艦長室を分け合うこともあったが、レパード号では最下甲板の狭い船室に寝泊りしていた。日記に彼は、食欲が戻ってきたこと、薬への渇望がかなり治まってきたことを書いた。最初の危機は脱したのかもしれない。

バビントンの犬ですが、艦に犬を連れて来てもいいんですねえ。ちょっとびっくり。ここでスティーブンが回想しているところによると、彼はバビントン君を1800年から「不名誉な病気」で治療しているようで…1800年と言えばソフィー号の頃、バビントンはまだほんの少年だったはず。ませてたんですねぇ。

ジャックはソフィーに手紙を書く。スティーブンがひどく不機嫌なこと、乗せている女囚がダイアナにそっくりなので、想い出して傷ついているのではないか−と彼は書いた。

その午後、スティーブンはジャックに「さっきは言いすぎた」と謝った。「実はある薬をやめたところなんだ。それで、煙草をやめる時のような症状が出て、時々癇癪を起こしてしまうんだ。」ジャックは赤くなって、全然気づかなかった、と言った。「あんなに患者をかかえていては、癇癪を起こすのも無理はないよ。ところで、ミセス・ウォーガンだが、君の言うとおりだ。艦尾楼を散歩してもらうといい。」

スティーブンは他の囚人たちの状態を報告し、手枷と鎖を外すべきだと主張した。どうせこの海の上では逃げられないし、武器になるばかりだ。「女囚のひとり、ジプシーの女だが、妊娠している。」「ああ、何てことだ。軍艦の上で。これだから女を乗せると…」「そう言うな。彼女は僕の運勢を占ってくれた。僕は実り多い航海をして、心の欲するものを全て手に入れるそうだ。」「よかったじゃないか。おめでとう」ジャックの顔が明るくなった。「ジプシーの占いってのは当たるんだぞ。いつかおれを占ったジプシー女が、おれは一生女で苦労するって言っていたよ。当たっているだろう?」その夜、2人は久しぶりに音楽を楽しんだ。


ジャック、それは占いって言うより、あなたの顔を見てわかったのでは…(笑)。スティーブン、「煙草を止める時と似たような症状」って…ま、でも、その通りかな。煙草の禁断症状もけっこうひどそうだし。

スティーブンとマーティンは囚人を診察し、原因の分からない症状が出ているのに気づく。回診の後、スティーブンはミセス・ウォーガンの部屋に行く。ドアを開けると、彼女は泣いていた。彼は彼女を運動させるために艦尾楼まで連れて行く。艦尾甲板でバビントンの飼い犬が尻尾を振って彼女について歩き、バビントンが彼女に話しかけるが、彼女はうなずいただけで何も言わなかった。彼女は悲しそうだった。スティーブンが「あまり沈み込まないように」と言うと、彼女は「ナポリ・ビスケットばかり食べているせいかもしれない」と答えた。彼女は囚人に出される食事が口に合わず、自分で持ってきたナポリ・ビスケットだけで飢えをしのいでいたのだ。スティーブンはポケットから干しソーセージを出して差し出すが、のどを通らないようだった。

バビントンが犬を探すふりをして艦尾楼に上がってくるが、彼女に相手にされず、スティーブンに睨まれてすごすごと引き下がった。続いてターンブル海尉が仕事にかこつけて艦尾楼に上がってきた。その時、満面の笑みを浮かべた若い水兵が、艦尾楼に駆け寄ってきた。ターンブルは「おい、そこのお前!何をしている!」と怒鳴り、彼を追い払った。「掌帆手、やつに精神棒をくれてやれ!」若い水兵は棒をかわして逃げて行った。

スティーブンはミセス・ウォーガンが急に明るい顔になったので驚いた。彼女は弾んだ声で喋り出し、ソーセージをおいしそうに食べ、笑い声を上げた。スティーブンが干しソーセージの残りをポケットに戻そうとすると、彼女は「上等の上着に油がついてしまいますわ。ハンカチにくるんだらどうです?」と言い、彼がハンカチをもっていないと言うと自分のを差し出した。彼は彼女にソーセージを持って行っていい、艦の食事に慣れるように、と言って最下甲板まで送って行った。


バビントンくん、あなたは全然変わっていないみたいで、お姉さんは嬉しい(笑)。やっぱり犬も飼い主に似るんだなあ。

ところで、ナポリ・ビスケットってどんなの?と、例によってレシピ本(Lobscouse & Spotted Dog)をひもといてみました。「卵白を泡立てたものに砂糖、卵黄、ローズウォーター、塩、粉を入れて、『フィンガー』型にして焼く…」まあ、普通のクッキーのようです。解説には「毎日これしか食べないで過ごせば憂鬱になるのも無理はないが、適量を食べる分には美味しい」と。そりゃそうだ。

スティーブンが持っていた干しソーセージは「Catalan sausage(カタロニア風ソーセージ)」。故郷の味か?どんなのだろう…と思いましたが、こちらはレシピ本にも載っていませんでした。残念。しかし、いい上着だろうとそうでなかろうと、油っぽい食べ物を何にも包まず直接ポケットに入れるなんて。

その夜、ジャックはターンブル海尉を呼び出し、若い水兵を殴らせた件で叱責した。「任務を教えてもいないうちから、任務を怠ったからといって新米水兵を殴るとは何事だ。それに、海尉なら自分の部下の名前ぐらい覚えておけ。『そこのお前』などと呼ぶな。彼の名はヘラパスだ。」

おお、さすがはジャック。部下全員の名前を覚える、っていうのはどんな仕事でも人の上に立つ者の基本か。

スティーブンは部下を叱るジャックの声を聞きながら、彼の「生まれつき持っていないものには到底真似のできない威厳」に感心しています。