Chapter 6〜バウスプリットの幽霊


レパード号は喜望峰に向った。同じ海域に敵の艦がいると知って、ジャックは前にも増して熱心に砲撃訓練を行った。疫病で人員が大幅に減ったので、喜望峰で欠員を補充するまでは、とてもまともに戦闘できる状態ではない。それでも、いざという時のために出来るだけのことはしておかなければ…しかし、プリングズと違って海戦の経験がないグラント副長は、砲撃訓練の肝心のところを理解しようとせず、ジャックを苛立たせた。

ジャックは艦長室に自前の真鍮製9ポンド砲を2門備え付けていた。彼はこれを迎撃砲として使うことにした。彼は毎日違うグループを艦長室に呼び、直々に砲撃を指導した。航跡に流した空の樽を的にするので、艦を止める必要もない。訓練は成果を上げたが、キリックは不機嫌だった。砲撃訓練のために、艦長室のインテリアがめちゃくちゃになってしまったからである。


レパード号は二層甲板艦だし、艦長室は今までの艦よりも広くなっているはずだから、キリックも張り切って整えていたはずなのに、残念でした。でも、一度大砲を撃たせてもらっただけで機嫌を直すキリック。ジャックも扱い方を心得てきたかな?

ジャックは「プリングズがいてくれたらなあ」とぼやいています。ごもっとも。

レパード号には日常生活が戻ってきていた。監獄熱から回復した水兵たちの頭には髪が生え始め、生き残った男の囚人たちは水兵の手伝いをし、言葉をかわすようになっていた。スティーブンとミセス・ウォーガンの散歩も再開した。

しかし、またジャックの女嫌いに拍車をかけることが起こった。水兵のうち7人が性病に感染したのである。彼らが長い間上陸していないこと、女囚のうちジプシー女は妊娠していることを考えると、感染源はもう1人の女囚、ミセス・ウォーガンのメイドをしている若い娘ペギーしか考えられなかった。それを聞いた艦長は烈火のごとく怒り、「女はバシリスクだ!」と叫んだ。

ジプシー女性のミセス・ボズウェルも、彼の悩みの種だった。彼女は水兵が占いの代金をごまかしたことに怒り、「この艦は呪われている、バウスプリット・ネッティングに幽霊が取り憑いているからだ」宣言した。水兵たちはみんなそれを信じ、おびえてバウスプリットに近づかなくなっていた。

フィッシャー牧師は、軍医やその若い助手がミセス・ウォーガンの散歩のお供をしているのが不満だった。聖職者である自分の方がその役にはふさわしい、今のように妙な噂を立てられずにすむ−と艦長に訴えたが、ジャックは牧師の下心を見抜いていたので、「海軍では、艦長の決定に異を唱えることはしない」とだけ言ってはねつけた。


まったく、どいつもこいつも…(ジャック独白)

バシリスク(Basilisk)ギリシア神話:アフリカの砂漠にいて,その息や眼光で人を殺したといわれる伝説的動物。蛇、トカゲ、竜などの姿を持つといわれる(…それって、ハリー・ポッターに出てきたアレかしら?)

女がバシリスクだというその心は、「睨むだけで疫病を広げる」からだそうです。いや、ペギーちゃんは睨んだだけじゃないと思うけどね〜。

スティーブンがヘラパスと酒を飲んでいる時、ヘラパスは告白を始めた−「こんなによくして頂いているのに、隠し事をしているのは心苦しくて−実は、ミセス・ウォーガンと僕は長い知り合いなんです…」

彼とミセス・ウォーガンはドーバー海峡を渡る船で出会った。彼はフランスで中国文学の勉強をした後、アメリカに帰るところで、彼女は夫と別居したばかりだった。2人はすぐに愛し合うようになり、ロンドン郊外で同棲を始めた。しかし、元々少なかった2人の金はあっという間に底をついた。彼女はロンドンに金持ちの知り合いが多く、ひっきりなしに来客があったのも、生活に金がかかる原因だった。金がなくなると、2人の関係は悪化した。彼女は彼の中国文学への情熱を理解せず、彼は彼女の共和主義への情熱を理解しなかった。独立戦争の時、ヘラパスの父は王党派、母は共和派で、政治的な食い違いが家庭を壊したという苦い経験から、彼は政治に興味を持てなかったのだ。

ヘラパスはアメリカの父に手紙を書き、ルイーザのことを告白する。父は許さず、すぐ帰国しろと言った。ロンドンで、ヘラパスはイギリス政府から父に支給された金(独立戦争時の王党派としての働きに対して)を横領した。しかしその金も半年しかもたず、金がなくなるとルイーザは去った。しかし、ルイーザと彼はその後もロンドンで時々会っていた。彼女はロンドンで派手な暮らしをしていて、時々彼に金を渡した。彼女はロンドンにサロンのようなものを持ち、金持ちの男たちが出入りしていた。彼はアヘンに耽溺し、ひどい中毒になっていたところを彼女に助けられた。

彼女が流刑になったと知って、彼はこの艦に密航者としてもぐりこんだ。「…最初は、彼女は僕を見て喜んでくれましたけど…仲違いをしてしまいました。彼女は、僕が立場につけこんでいるって言うんです。彼女と散歩するのは、もう勘弁して下さい。」スティーブンはヘラパスに彼女の部屋の鍵を渡し、すぐ行って仲直りするように忠告した。この事は、くれぐれも他の誰にも話さないように…


ヘラパスくん、あんたもか〜(アヘンのこと。)しかも、ちっとも懲りてないし。いつでも止められるとか、大したことじゃないことのように話すのは止めて欲しいな。うちの先生、やっと断ったころなんだから…

バウスプリットの幽霊の一件が水兵たちの精神状態に悪影響を与えていると判断したドクター・マチュリンは、幽霊退治を執り行うことにした。夜、彼は青い信号灯と聖水を使って儀式を執り行い、水兵たちは満足した。牧師はぶつぶつ言ったが、その後は誰もバウスプリットでの作業を拒否しなくなった。

患者のメンタルヘルスのことを考えて、ゴーストバスターまでやるとは、医者の鑑!ま、てゆうか彼、絶対楽しんでますよね。(しかし、何で聖水なんか持ってたんだろう…)

ある朝、ジャックはミセス・ウォーガンの出てくる心地よい夢から起こされた。「艦長、左舷艦首に船影です。」ジャックはマストに登って確認した。どの国のどんな船でもありえる…しかし、一番可能性が高いのはワークザームハイド号だ。

その午後、スティーブンとウォーガンが艦尾楼を散歩している時、ジャックはマストの天辺にいて、例の船影がワークザームハイド号だということを確認した。「甲板!おれのジャケットと、フラスクと何か食べるものを持って来い!」彼は叫んだ。

「あれは艦長ですの?、まるで神の声みたいだわ。」空から降ってきた声に、ミセス・ウォーガンはそう言って笑った。「そんな木綿の上着で寒くないんですの?」彼女はスティーブンに訊いた。「これは絹ですよ。レシフェで買ったんです。」「レシフェの商人は悪徳ですわね。これは綾織の木綿、わたくしたちがジーンズと呼んでいるものですよ。マフラーを編んでさし上げるわ。…船って、あれのことですの?」もう艦尾楼からも、3〜4マイルほど彼方に、ワークザームハイド号の船影がはっきり見えるようになっていた。


えー、それって、要するにデニムのことよね…?アメリカではこの時代にもよく着られていたようなイメージがありますが、イギリスにはなかったのかな?(あったとしても、スティーブンは知らないってことは大いにありえますが。)それを絹だといって騙されるとは…彼もカモ度ではジャックとどっこいかも。でも、ハンカチの次はマフラーを作ってもらえるのね。…相変わらず母性本能刺激型(※)のドクターです。(※別に好きってわけじゃないのに、思わず面倒みたくなっちゃうタイプ?)

それにしても、ジャックはあんなこと言っておきながらミセス・ウォーガンの夢を見ているのね。無意識の世界はまた別か。ソフィーの夢は見ないのか。男は奥さんの夢を見たりはしないものか…いや、知らないけどね。

ワークザームハイド号は最大射距離で一斉射撃した。ほとんどは手前に落ちたが、3発は命中し、帆に穴を開けた。レパード号は総帆を張り上げて逃走した。ジャックは艦長室の迎撃砲を準備し、敵の艦首を狙って撃った。

日没が近づいていた。レパード号は日没まで迎撃砲を撃ち続け、何発か命中させた。夜が訪れると、レパード号は闇に乗じて方向転換し、オランダ艦の航跡を横切り、全速力で喜望峰に向った。夜が明ける頃までには、百マイルは離せるだろう…


この辺りは本当に面白いのですけど、海戦とか艦同士の追跡とかは、まとめるの難しい。うまくまとめるのはとっくの昔に諦めて、飛ばし気味なんですが。