Chapter 1〜2 ジブラルタル


10巻に関しては、当初は感想を書かない予定でした。別に書きたくないわけではないのですが、邦訳も出ているし、先を急ぎたい気持ちもあるし、後回しでいいかな、というつもりだったのです。

しかし…実は数人の方から「読みたい」というメールをいただきました。メッセージをいただけるだけでもありがたいのに、私の文章を「読みたい」と言って下さるなんて、何にしてもありがたい限りです。というわけで、書くことにしました(単純なやつです。)

と言っても、ちゃんとした「感想」というより、とりとめのない雑談になると思いますが、まあ、それはいつものことなので(笑)。

ネタバレについて

ネタバレについてひとこと:今までは書いている章以降のネタバレはしないように気をつけていましたが、10巻に関しては、みなさまが既に読了されている前提で書きますので、どの章にも10巻ラストまでのネタバレの可能性があります。それと、9巻までのストーリーにはかまわず触れますので、ご承知おき下さい。

またまた前置きが長くなってすみません。いいかげん本題に入ります。

まず、今回邦訳で再読してみての、全体的な感想を。

10巻の全般的感想(1)「風変わり」

まず、前回原書で読んだ時と、今回との共通した印象は、「他の巻とはちょっと雰囲気ちがう」ということでした。

どこがどうちがうのか、はっきりコレとは言えないのですが…あえて言えば、前半の「陰惨さ」と、後半の「とんでもなさ」かな。「陰惨」は主に、ホーナー掌砲長夫妻とホラムの事件、「とんでも」は彼らがいなくなった後の、ジャックとスティーブンの「漂流」のエピソードです。

このシリーズ、他の巻にも暗い話はあるし、ぶっ飛んだエピソードは山のようにあるのですが、それでもこの巻のホーナー夫妻の事件ほど救いようのない暗さは他にないし、ジャックとスティーブンの、まるでホラ話のような「漂流」は、シリーズの中でもダントツに「」なエピソードです(断言)。この両極端、コントラストの鮮やかさが、私がこの巻を「風変わり」と感じた理由だと思います。

なので、映画の原作がこの巻だと聞いた時、「なぜよりによってこの巻を?」と思ったことは確かです。いえ、10巻が嫌いなわけではないのですが、これをそのまま映画化したら、シリーズ全体とはかけはなれたものになるような気がしたので。できれば2〜3巻か5〜7巻あたりがいいのになあ、と思ったりしていました。

しかし、もちろん、映画を観た後では、10巻を選んだピーター・ウィアーの頭の良さに、ほとほと感服することになったのですが。

10巻の全般的感想(2)「アダプテーション」

実際、今回(映画を観た後は初めて)再読して、いまさらですが、映画がいかにこの話をうまくアダプトしているかしみじみと感心しました。

原作のストーリーの外枠(航路)だけを採用し、中身(エピソード)をいったん全部取り出し、素材を取捨選択して、個々の断片を、このシリーズ全体から抽出したエッセンスでたっぷり味つけしてつめ直すという(なんだか料理のようなたとえになりましたが)−結局、この膨大な物語を2時間で映画化するには、これ以外には方法はあり得なかったんじゃないかと。これをやるには、主人公たちの結婚やらなにやらからんでいて大筋が動かしにくい1〜7巻ではやりにくかったでしょう。結局、「大枠」に10巻を選んだのは正解だったと思います。

でも、10巻で最も印象的な両極端のエピソード「痴情のもつれ」と「漂流記」を削った結果、映画は原作10巻とは全体にかなり印象のちがうものになっていて、それも正解だったと思います。

でも、DVDの特典「原作へのアプローチ」によれば、ホーナー夫人のエピソードの方は最初は入れる予定だったようですね。私も、製作過程のニュースを逐一チェックしていた頃に「ホーナー夫人」のキャストが決まったとかのニュースを聞いて「えー、あのエピソード入れるのか〜(嫌だなあ)」と思っていたので、結局カットにしてくれてよかったです。

さて、全般の雑感はこれぐらいにして、章別感想を始めます。が、今回は他の巻と違って、初めてこれを書いている時点で邦訳が入手可能ですので、あまり細かいところをだらだら書かずにさくさくっと行きたいと思います。

9巻の「後始末」

1章〜2章は、例によって前巻で未解決のまま終わったあれやこれやの「後始末説明」があります。

9巻でスティーブンは諜報関係でがんばって大きな成果を上げ、フランスの大物スパイ・ルシュールと、英国総督府の高官で敵に通じていたブーレイの正体を暴くのですが…ところが彼も、肝心なこと(アンドリュー・レイが敵のスパイであること)がわかっていないので、ルシュールには逃げられ、ブーレイも尋問できぬまま殺されてしまいます。

またスティーブンは、諜報活動の必要上、ローラ・フィールディングとの仲がマルタ中の噂になっても仕方のないような行動を取ってしまいました。あわてて書いた言い訳の手紙は、これまた諜報活動の必要上全てを打ち明けるわけにいかず、ダイアナは野性の勘でウソを嗅ぎつけるのではないかと心配しているスティーブン。しかも、その手紙をまたよりによって、レイに預けてしまうし…

というわけで、いろいろ心配事を残している9巻ですが、レイとダイアナの問題は10巻ではまだまだ終わりません。その後もかなり長く引きずる問題なのですよね〜。覚悟して下さい(笑)。

レイのことはともかく、ダイアナのことは私もすごく心配で、10巻のストーリーを追いながらも心のどこかでずっと引っかかっている状態でした。よっぽど、10巻を放り出して英国へ帰るところまで飛ばそうかと思ったぐらい。(でもどこで帰国するのかわからないので、結局順番どおり読み続けたのですが。)

当の本人のスティーブンは、心配のあまり何もかも放り出してイギリスへ帰ったりせず、この件をとりあえず心理的に「棚上げ」にしたまま、また何ヶ月も連絡がとれなくなる航海に出発できるのは偉いなあ、と思いました。でも、彼もこの事が気になっているからこそ、せっかく止めたアヘンチンキにまた手を出すことになってしまったのだろうな。あぁ〜

新登場・再登場キャラクター

1〜2章では、9巻の後始末の他には、サプライズ号の新たな航海の準備が描かれます。準備というのは、要は「モノの積込み」と「ヒトの積込み」に大別されるわけですが。モノの積込みについてはジャックに任せて、ここではヒトについてだけ、ちょっと語っておきます。

10巻は新登場のキャラが多く、映画のキャラにもなっている人が多い。でも、性格は映画とはまったく違う場合が多いようです。10巻のキャラには個人的に好きになれないタイプが多くて、それも10巻が映画の原作になるのが嫌だと思った理由のひとつなのですが…映画が出来てみると、ほとんどが原作の特性を残しながら、ずっと好感の持てるキャラに変身していて、なるほどと感心しました。

1〜2章には出てこない人も含めて、そのあたりをまとめておきます:

士官候補生ホロム(ホラム):貧乏な万年士官候補生でヨナ扱いされるのは映画・原作共通だが、映画では最後まで繊細で遠慮がち。原作ではすぐに割と図々しくなり、大胆な行動に及ぶ。

水兵ネーグル(ネイガル):映画では優秀で他の水兵にも人気があり、純な性格という感じ。反抗的になったのはウォーリーの件があったから。原作では最初からはぐれモノでひねくれていて、理屈っぽい。

軍医助手ヒギンズ:歯を抜くことだけが得意で、怪しげなイカサマをやるところは映画・原作共通だが、映画では無能なりに一生懸命なところがあったし、ドクターを慕っているような感じもあった。原作ではまったくの詐欺師まがいで、スティーブンのことは敬遠しているだけ。

アレン(アラン)航海長:映画では触れられなかったが、原作では捕鯨のオーソリティ。映画ではジャックと昔馴染みっぽかったが、原作ではこれが初対面。映画ではディナーで歌いだすような陽気なところがあったが、原作では内気。彼はどっちも良い感じかな。

ウォーリー(ワーリー):映画ではけっこう重要な役だが、原作では出てきたとたんに海に落ちて死んでいた。かわいそうに…

ブレークニー:映画ではサッソウとした将来有望な少年だが、原作では酔っぱらってブドウ弾を飲み込むだけ。でも、私は原作のマヌケな少年の方が好きかも(笑)カラミーもだけど、映画の士官候補生はちと出来すぎくん。

ハワード海兵隊大尉:彼は映画でも原作でも、動物を撃ちまくってスティーブンに嫌がられるガンマニア。原作では映画ほど目立っていないし、あんなことはやらかしませんが。

パディーン:10巻初登場の中で、原作では今後最も重要になるキャラなので注目されたし。彼は珍しく映画と原作キャラがほぼ同じ。(もっとも、映画ではセリフがまったくないけど。)

映画からはエピソードとともにカットされたが、原作では重要なのはこの夫婦:

ホーナー掌砲長:原作の10巻初登場キャラは、パディーンを除いて嫌いな人が多いのですが、彼はやっぱり一番嫌です。理由は後で書きますが。

ホーナー夫人:彼女の他にも、ラム夫人、海兵隊軍曹夫人と、今回サプライズには女が3人も乗っているのですが、ホーナー夫人だけが若くて美人。9巻でスティーブンは、「美人で性格が良くて、でも絶対に手の届かない女性が一人乗るのは軍艦の規律によいのではないか」なんて考えていましたが、ホーナー夫人の場合、「美人で性格が良くて手が届く」ひとだったのが、悲劇のもとなんでしょうね。彼女についても後で書きますが。

おなじみのキャラも再登場:

プリングズ艦長:「あんな副長はまたとおらん」(byオーブリー艦長)…というわけで、艦なし艦長のプリングズは、再びジャックの副長「格」としてサプライズに志願して乗り込むことになりました。正式な副長のモゥエットが親友だからこそできることなんですね〜。

マーティン牧師:ようやく正式にジャックの艦の牧師になりました。