Chapter 7〜8 二人の漂流者(Two drifters)


何となくぴったりくる感じだったので、題名は名曲「ムーンリバー」の一節からとりました。「...off to see the world/There's such a lot of world to see...(世界を見るために出かけたふたり/広い世界にはまだまだ見るものがたくさんある…)」と、続くのですが。

7章 ガラパゴス島

7章はガラパゴス島から始まります。

改めて読み直してみると、他のところはそうでもないのに、ガラパゴスのいきさつは、ほぼそのまんま映画に取り入れられていますね。しかし、実は私は、映画を観た時には原作のこのあたりのディテールをすっかり忘れていて、小説そのままだとは全然気づかない始末でした。

読み返してみればこれはこれで印象的なエピソードなのに、こんなにすっぱり忘れていたのはなぜでしょう。理由はいくつか考えられるのですが…ひとつには、ガラパゴス上陸を主張するスティーブンが単なるワガママに思えて、あまり気に入らなかったせいかも。

というのは−10巻を初めて読んだ時と、今回再読しての印象を比べて思ったのですが、初めて読んだ頃は、私はほんとにスティーブンを理想化していたなあと。また7巻〜9巻あたりのスティーブンがかなりカッコよかったので、10巻のスティーブンのあまりの役立たずぶりに違和感を感じていたのかも。今は、それはそれで愛らしいと思えるのですが。(冷静になったのか、逆に病膏肓に入ったのか)

でもまあ、忘れてしまった一番の理由は、直前に痴情殺人、直後にアマゾネスと、超強烈なエピソードにはさまれて印象が薄くなってしまったせいでしょう。

変ですが、ガラパゴス島で一番印象に残っていたのは、ヤギのアスパシアが巣材を求める鳥の一群に襲われて『え〜んスティーブン、とりがいぢめるよ〜』とスティーブンに助けを求めに来るところでした。(<そういう勝手なセリフをつけたから覚えていたのだろう)

フローティング・ガラパゴス諸島

ガラパゴス諸島にちなんだデザートは原作でも映画でも登場しますが、映画ではガラパゴスに着く前に艦長のアイデアで登場するのに対し、原作ではガラパゴスを過ぎてしまってから捕鯨船の乗員によって作られるという違いがあります。ジャックはお菓子の群島をじっと見下ろして、「この内の一ヶ所も足を踏み入れなかったと思うと…」と、ちょっと後悔するような様子を見せています。スティーブンに悪いと思ってたのかな。

このデザート、映画ではチョコレートムースみたいなものになっていますが、原作では「フローティング・アイランド」です。(翻訳では「浮島」となっているだけなので何のことかわからないと思いますが、「Floating Island」はお菓子の一種です。それを「Floating Archipelago(群島)」と言い替えているところが、シャレがきいているのですが…)

例のレシピ本「Lobscouse & Spotted Dog」によると、フローティング・アイランドにはフランス風とイギリス風、2種類の作り方があり、フランス風では焼いたメレンゲを、イギリス風ではジャムをはさんだ二段重ねのケーキを島に見立てて、カスタード・ソースの海に浮かべたものです。WWノートンのオフィシャルページによると、こんな感じ(スクロールして下さい)。これはイギリス風のようです。(ワインで染めたお砂糖の赤道は引かれていないようですが。)

スティーブン、海に落ちる

私は最初にこのシリーズを読み進めながら"The Gunroom"(世界最大のオブライアン・ファン・メーリングリスト)とかノートンのオフィシャルサイトの掲示板とかを読んでいたので、Spoilerという表示がついているものは避けていたにもかかわらず、ちらちらとネタバレを読んでしまっていました。

で、10巻に関しては「スティーブンが海に落ち、ジャックが助ける」シーンがあるというネタバレを読んでいたのです。"Jack and Stephen in the water"(水の中のジャックとスティーブン)という表現も、どこかで読んでいたような。

それで私は、スティーブンは今度はどんないきさつで海に落ちるのだろう、ジャックはどんな風に颯爽と彼を助けるのだろう−と、ひそかに楽しみにしつつ読み進んでいたのですが。…まさか、あれほどマヌケな落ち方をするとは(笑)。そして、二人があんなに長いこと水の中にいることになるとは。

改めて読んでみて、ここ、けっこう好きだなあと思いました。たいへんな危機の連続ではあるのに、どこかすっとぼけた、ホラ話のような雰囲気を感じるのはなぜかしら。どこか現実離れした、夢の中の出来事のようなテイストがあるのです。

この頃にはサプライズ号は、地理的にはまさに「世界の向こう側」まで来ているのですが、艦の中にいる限り(たとえ上陸してもそれが英国植民地なら)、映画のジャックのセリフではないけれど、英国の中にいるも同じ。でも、ここで文字通り艦から放り出された二人は、自分たちの世界から切り離されて、二人だけで異世界を漂うことになります。

実際、海に落ちてから、珊瑚礁の島でサプライズ号に救出されるまでは、まさに「世界に二人きり」で…とんでもない状況に放り込まれながら、ジャックとスティーブンはそれぞれに、あまりにいつものジャックとスティーブンで…どこか「夢の中」のような感じがするのはそのせいかもしれない。

2巻の「熊」のエピソードにも、ちょっとそいういう感じがしたのですが、10巻のこのエピソードは、直前の現実的な悲劇とあまりに対照的なこともあって、余計にシュールさを感じます。うーん、どうもうまく表現できませんが。

ジャックとスティーブン、女ばかりの船に救出される

この「パヒ」の話は、最初読んだ時はあまりに唐突で面食らったのですが…改めて読んでみると面白い。今回、むしろ、ちょっと女たちの方の視点で読んでみたりもしました。そりゃ、大海の真中で唐突に、見た事もないようなおかしな格好の男が二人流れてきたら…好奇心旺盛な若い女は興味をひかれるだろうし、思慮深い年嵩の女は警戒するよなあ。彼女たちの言葉は一言もわからないのに、なぜか、ミセス・ホーナーよりよっぽど何を考えているかわかるような気がする。どうわかるのか、具体的に書くと思い切り引かれそうな気がするので、やめておきますが(笑)。

ホーナー夫人と、このパヒの女たちと、2つのエピは両極端のようでいて、繋がっているのかな、とふと思いました。二つでバランスがとれているというか…これまた、うまく言えませんが。

これは9章になりますが、スティーブンがマーティン牧師との会話でこの女たちについて語るセリフがまたステキです。どうステキなのかは、前回(5〜6章)に書いたことと同じなので繰り返しませんが。

8章 珊瑚礁の島

ジャックのXXXが忌まわしく恐ろしい「タブー」だと知ったパヒの女たちは、危ういところで呪いの感染をまぬがれ、「えらいもん拾ってしまった」と危険物を無人島に廃棄することに。(…と、いうような解釈でいいのですよね?)マヌーちゃんが泣いていたのは、拾った子犬を家の人に「汚いから捨てて来なさい!」と言われた子供の涙のようなもんでしょうか。(違うか。)

この島でのスティーブンは、海に落ちた当初は感じていたらしい「ジャックを巻き込んでしまった」という罪悪感はとっくに消えているらしく、ヤシの実を取って来いだの、ヤシの実が固いだの、ワガママ放題。ジャックは心配を彼に悟られないようにしつつ、ワガママを受け流しているあたりとても偉い。しかしジャックとしても、スティーブンがいつまでも反省してしおらしくしていたら、その方が調子が狂うのかもしれないな。

ジャックが登るとヤシの木が彼の重さにびよーんとたわんで、ジャックが思わず遊んでしまうのもかわいいです。天然のジェットコースター。でもこれ、うっかり手を放したらぴゅーんと飛んで行ったりするんでしょうか。

ジャックとスティーブン、救出される

副長モゥエットの機転と有能さによって救われた二人。艦尾窓が開いているのを見て即座に「ドクターだ」と気づくのはさすが。

ジャックには言いたいことを言っていたスティーブンも、迷惑をかけてしまった艦の他の人々には気まずくて黙り込んでいるあたりも、その彼が迎えてくれたシップメイトの優しさになごんでゆくのもいい感じです。