Chapter 9〜10 嵐と難破


10巻の感想を書くにあたって、何の気なしに2章づつに分けたのですが、この巻はほぼ2章ごとに話が切れていて、雰囲気も変わるので、ちょうどよかったです。

7〜8章のシュールでユーモラスな雰囲気とはうってかわって、9〜10章はまた、5〜6章とはまた違った意味で暗いです。暗いのが一概に嫌いなわけではないんですが…でも、オールド・ソールスベリー島に上陸してからの話は、ちょっと苦手なノリかな。

9章 サプライズ、超大型の嵐に見舞われる

スティーブンとジャックがやっと救出されてやれやれと思ったのもつかのま、サプライズ号は台風に襲われます。

ところで、今年はよく台風が来ますねえ。ちょうどここを再読している時も、これを書いている時も、超大型の台風が上陸してえらいことになっているので、生々しくも興味深く感じながら読みました。テレビで被害情報を見ながら、「海上でこんなのに遭ったら、帆船なんかひとたまりもないよな〜」とか思っていたところなので。邦訳版の巻末に、風速によって風が何と呼ばれるか解説がありますね。そこでは風速37メートルまでしか書かれていないのに、今回の台風のニュースでは風速65メートルっていうのがありましたね。65メートルって…想像もつきませんが。

以前、ハリケーンとタイフーン(台風)がどう違うのか調べて、「発生する地域によって呼び方が違うだけで同じ熱帯低気圧」だと知りました。正確に言うと、「東経180度より西の北太平洋上」に発生するものがタイフーン、北インド洋がサイクロン、他はハリケーンと呼ばれるようです。…待てよ、この時ジャックたちは東経180度より東にいたのではないかな?ではこれは台風ではなくてハリケーンか。どっちでもいいか。

スティーブン、激しく揺れる艦の中で転落。砲に頭をぶつけて意識不明に

…なります。しかし、スティーブン、いつにも増してよく落ちるなぁ〜。しかも今回は、いちいち重要な結果を引き起こしているし。アホウドリを見ようとしてふらふらと歩いていて怪我をするという点は、映画に上手に取り入れられていますね。3巻のセルフ手術と混ぜて、映画的にとても面白いエピソードを作っていました。(いくらなんでも、アタマの手術は自分ではできないからね。)

映画同様、手術のために揺れないところへ上陸する必要に迫られるジャック。この時のジャックの素早い判断をみると…いや、今までの巻の、スティーブンがからんだ時のジャックの様々な行動から見ても…映画のジャックが、アケロン号を諦めてスティーブンを救う決断をするのにあんなに時間がかかるのはおかしいな、とか思ってしまいます。原作のジャックなら0.1秒後にはガラパゴスへ向っているような(笑)。

サプライズ、オールド・ソールズベリー島に到着。難破したノーフォーク号を発見する。

というわけで、折りよく視界に現れた島に全速力で向かうサプライズ号。そこで、同じ嵐で沈んだノーフォーク号とそのクルーを発見します。が、驚いたことにノーフォーク号の艦長は「アメリカとイギリスの戦争は終わった」と主張します。

実は私、これを最初に読んだ時は、このパーマー艦長を信じてしまいました。お恥ずかしい事に1812年の英米戦争が何年に終わったのか知らなかったし、第一、10巻が何年を舞台にしているかもよくわかっていないかったので…

言い訳しますと、前にも書きましたが、このシリーズは7巻〜17巻まで「長い長い1813年」を繰り返しているので、時間的つじつまについて深く考えてはいけないのです。ファンの間では「The long year of 1813」と呼ばれるこの年の間に、主人公たちはどう考えても10年分以上の航海をし、大人たちはあまり歳を取らず、一方で子供たちはすくすくと成長するという不思議なことになってます。それはまあ、高校生を主人公にした長期連載漫画ではおなじみの現象(季節はめぐれど、みんないつまでも高校2年)みたいなものとして、受け入れるしかないのですが。

話がそれました。とにかくそういうわけで、私もジャック同様、最初は騙されてしまったのです。でも、後で調べると英米戦争は1815年まで終わらないし、いずれにせよ相手側の態度から、戦争が終わっていないことは明らかになってくるのですが。

11巻でジャックの報告を聞いた提督のセリフによると、「戦争が終わった」と嘘をつくことは、「非難できない、正当と認められているルース・ド・ゲール(戦術)」だそうです。それに、Hermione号(※)の脱走兵のことがあるから、仕方ないともいえるのですが…

でもなぜか私には、このパーマー艦長の嘘は、胸がむかつくほど卑怯なものに思えました。なぜだろう。艦に戻れなくなる潮流の事を黙って、スティーブンへの心配に乗じてジャックをおびき寄せたからかしら。あとで「艦に残っているべきだった、心配性の老女のようにふるまってしまった」と悔やんでいるジャックはなんとなく愛しいですが。

ついでに言えば、最新式の手術道具を使ってみたいからといって、スティーブンが目を覚ましているのに押さえつけてアタマに穴をあけようとするブッチャー軍医もとんでもないと思います。ほんと冗談じゃないわようちのドクターに何するのこの藪医者!

※Hermione:実在艦。ここではギリシア神話の読み方で「ヘルミオネー」と表記されていますが、英語読みだと「ハーマイオニー」。ハリポタのヒロインのおかげで可愛いイメージのある名前の艦で、そんなに恐ろしいことが起こったとは…

10章 サプライズ号、嵐によって島から離れてしまう。ノーフォーク号とサプライズ号の間に敵意が高まる。ジャック、遠くにアメリカの捕鯨船を見てボート作りを急がせる。

オノダさんやヨコイさんの例を出すまでもなく(<ひょっとして知らない若い方もいるかしら…?)、戦争が終わった事も知らずに殺し合いを続けるほど悲惨なことはありませんが…

しかしここでは、「戦争が終わった」というその嘘によってむしろ、逆に悲惨な結果が引き起こされそうになります。ノーフォークの士官たちが部下へのおさえを失ってしまっていることから、嘘はみえみえとなり、ノーフォーク号とサプライズ号はむき出しの敵意をぶつけ合い始めます。戦争が終わっていようと続いていようと、こんな世界の果ての無人島でいがみ合ったって、国の勝敗にはまったく何の影響もないのにね。一触即発、何かあれば最後の一人まで殺し合いかねないような緊張が高まっています。(「苦手なノリ」と言ったのは、そのあたりの描写のことなのですが。)

あと、しょうがない事情があるとはいえ、「奴隷監督のようになる」ジャックもあまり見たくなかったなあ…(愚痴)

アメリカの捕鯨船が現れ、サプライズのクルーは米兵たちに襲われる。あわやというところでサプライズ号が現れる

この巻で2回目の、「モゥエット副長偉い!」の瞬間です。彼は有能さを遺憾なく発揮しているのに、その割にはあまり目立たないのがお気の毒(笑)。

結末を最後の数行までひっぱる…というか、「結末を導く一文を書いたら、後は一言も付け加えずにいきなり巻を終わらせる」というオブライアン氏の得意技にはますます磨きがかかったようです(笑)。5〜9巻でコレに慣れることなく10巻を読んだ方は、「えっ、ここで終わり?」と、思わず続きを探してしてしまったことでしょう。

この後どうなったかは、もちろん11巻に説明がありますのでご安心を。…でも11巻は、いきなりカリブ海バルバドス島から始まるのですが。

ジャックが青春時代をすごした西インド諸島。そこで彼を待ち受ける、驚愕の事件とは?以下次号。(思わせぶり)