Chapter 1〜会議とメイプス・コート


3巻は、海軍本部で行われている会議のシーンから始まる。議題は2巻最終章の、大勝利に終わったスペインとの海戦。海軍委員サー・ジョセフ・ブレイン(諜報関係のボス、スティーブンの上司で友人)は勝利に貢献したオーブリー艦長とスティーブンが報酬を受けられるように主張するが、新任の第一海軍卿が「宣戦布告前に拿捕された敵艦は国のもの」という前例を持ち出す。また、サー・ジョセフの好意が裏目に出て、会議の席でマチュリンの名前が大っぴらに出てしまう。

この章はジャックが出てこないんですよね。スティーブンだけ。

まずはロンドン海軍省での会議。3巻は全シリーズ20巻のうちでも私の最高のお気に入りなんですが、唯一の欠点はこの導入部のつかみの悪さなんですよねー。2巻から続けて読まないと何のこっちゃわからないし、内容は難しくて地味だし、主人公は二人とも出てこないし。まあここは、 (1) 2巻ラストのスペイン艦隊との海戦で二人は大活躍したのに、拿捕賞金は支払われず→哀れジャックの借金生活は続く (2) サー・ジョセフはこの海戦の陰の功労者であるスティーブンに報奨を受けて欲しくて、あえて書類に名前を入れたのだけど、それが仇になってボケの新第一海軍卿が会議で名前を出してしまった→スティーブンの今後の諜報活動に影響か? …という2点を押さえておけばよいかと(授業みたい)。

スティーブンはメイプス・コートにソフィーを訪ねる。ダイアナはユダヤ商人のキャニングの愛人になり、彼についてインドに行ってしまっている。スティーブンは私立探偵を雇ってダイアナとキャニングの動向を調べさせているが、自分でも何のためにそんなことをしているのかわからない。ソフィーは口には出さないが、彼に同情している。

ソフィーとスティーブンの関係っていいですね。男女間の友情。一見相性ぴったりの二人だけど、お互いに対して恋愛感情は一切なし。ソフィーはジャックを、スティーブンはダイアナをひたすら慕っている。この四人の関係って、「ダイアナに弱いスティーブン>スティーブンに弱いジャック>ジャックに弱いソフィー」って感じ。で、ダイアナは別にソフィーに弱くはないから、ダイアナ最強(笑)。ダイアナは2巻で登場した時は「浅薄な悪女」って感じだったけど、私は嫌いじゃないんですよねー。もし映画の続編が製作されるなら、ダイアナも登場してほしいなあ。で、できればキャサリン・ゼタ・ジョーンズ姐に演じてほしい。

メイプス・コートのシーンの読みどころは、スティーブンの恋患い、ソフィーが思い浮かべる乙女主観な(笑)ジャック、それに史上最強の俗物ウィリアムズ夫人(=ソフィーのママ)です。ソフィーママのスティーブンに対する認識は、最初「私生児でカトリックなんて問題外」だったのに、彼が「スペインに城を持っている」と知ってからコロっと態度を変え、セシリア(ソフィーの上の妹)とくっつけようとしたりするのがおかしいです。勝手に先走ってソフィーとスティーブンの語らいを邪魔しに来たりとか。ソフィーママは確かにつき合いきれない俗物で、スティーブンは彼女を蛇蝎のごとく嫌っている(<スティーブンは蛇は好きだからこの表現は違うかも)のだけど、考えていることが分かりやすくて、しかもズレているので、憎めない女性ではあります。

スティーブンはロンドンへ赴き、昆虫学会でサー・ジョセフと落ち合って彼の家に招かれ、海軍本部での会議の話を聞き、次の彼の任務について話し合う。

サー・ジョセフとスティーブンの関係も好きです。彼はスティーブンの父親的存在ですね。ここでスティーブンの次なる任務が、今は敵国スペインの領土になっているメノルカ島へ潜入することだと明かされます。会議の(2)の件で危険が増したのではないかと心配するサー・ジョセフですが、スティーブンは気にしていない様子。スティーブンもジャックも、自分の身の危険には無関心な面がありますね。言い換えれば勇敢ってことだから、主人公の条件なのかなあ。でも、ジャックとスティーブンの勇敢さには微妙な違いがあるような気がするのです。ジャックの場合、客観的に見てどんなに危険な行動でも、自分が死ぬとは全然思ってない感じなんだよなあ。一方スティーブンの勇敢さは、潜在的自殺願望と紙一重…は言い過ぎかな?