Chapter 10〜宝石と決闘


10章は短いんです。たった18ページ。でも、中身は濃い。

カルカッタに着くと、サプライズ号は東インド会社に大歓迎を受け、毎日毎晩、大宴会が催される。東インド会社の代表として他ならぬキャニングが現れたので、彼の事をすっかり忘れていたジャックは驚く。しかし、率直に感謝と親愛の情を表すキャニングに、次第に好感をもつようになる。一週間後、キャニングがサプライズ号を訪れる。彼はジャックを言葉を尽くして賞賛し、会社からの礼として輸送報奨(軍艦に積荷を預け、荷物の価値の割合で艦長に礼金を支払う制度)つきで宝石を運んでほしいと申し出る。それは充分に借金を完済できる額だった。ジャックは大喜びでソフィーに、「マデイラ島まで来てほしい、そこで落ち合おう」と手紙を書く。

キャニングが艦に来た時、ジャックはスティーブンの命令で、砲弾がぶつかって腫れている足を温めたセサミオイル(ごま油?)に浸けてます。アロマテラピーの一種だろうか?キャニングに「こんな格好ですみませんが、勝手に足を出すとマチュリンに叱られるので…」と言い訳しているジャック、何となく嬉しそう。一方のキャニングは何となく落ち込んでいる様子で、「船乗りになって陸を遠く離れたかった…」なんて言ってます。ダイアナと上手くいっていないんでしょうねぇ。

キャニングさんて、ダイアナを本気で愛していたんだろうなあと思います。まあ彼は妻帯者だし、妻と別れる気はさらさらないしで、あんまり胸張って主張できる立場じゃないですけど。

ジャックのソフィーへの手紙で気になったのは、「一秒も無駄にするんじゃないよ。ウェディング・ドレスなら船の上で編めばいい…」という一節。…ウェディングドレスって、編むものか?

スティーブンはダイアナに会いに行く。「ボンベイで結婚を申し込んだのを憶えているかい?ここで返事を貰うことになっている。」「憶えているわ。でも、どうしてもっと前に言ってくれなかったの?…どうして今さら?まるで、私が落ちぶれるのを待っていたみたいに。あなたがこんなに大事な友達じゃなければ、侮辱だと思うところだわ。ちょっとでも誇りが残っている女なら、侮辱には…」彼女はスティーブンの肩で泣き出す。「あなたは私と結婚したくなんかないんだわ。昔あなたが言ったじゃない…狩人は狐を欲しがっているわけじゃないんだって」

ここでスティーブンは象に乗ってダイアナのところへ行くのですが、象使いの少年に「雄象がいいか、雌象がいいか」と聞かれて「オスがいい」と答えただけで「旦那も女はお嫌いですね、美少年のいるところへ案内しましょうか?」なんて言われてしまう(笑)。彼はわりとよく間違えられますが、なぜかしらね。

ダイアナ、「カルカッタで会うまでにゆっくり考える」って言ってたのに、全然結論出てないですね。まあ無理もないけど。「もっと前に言ってくれれば」ってことは、2巻10章あたりでソフィーのアドバイスに従っていれば…ってところかな?でもあの時プロポーズしていたとして、OKをもらえていたかどうかはあやしい…と思う。

そこへキャニングが帰ってきて、二人を見て怒りで蒼白になる。「そこで何をしている!?」「あなたには関係ない。女性にキスするのに、誰にも言い訳をする必要はない。彼女の夫でないなら。」キャニングは怒りに我を忘れ、スティーブンの頬を平手で強く殴った。

ダイアナが止めたにもかかわらず、スティーブンはキャニングに決闘を申し込み、海兵隊長のエスリッジに介添人を依頼する。その夜、ジャックとスティーブンはバイオリンとチェロの合奏をし、かつてないほど最高の演奏をする。その後、スティーブンはジャックに、夜明けにキャニングと決闘することを話す。「ああ、スティーブン…今日は最高の日だったのに、何という結末だ。」


スティーブンに介添人を頼まれたエスリッジは、「ユダヤ人相手に決闘することはない、闇討ちにしよう」なんて言います。これはエスリッジがとくに嫌な奴ということではなくて、当時はこういう考えの人のほうが多かったのでしょうね。

ここでスティーブンはジャックに「いつもの」書類を預かってほしい、と言ってますが、この二人はいつも海戦の前には「どちらかが死んだときのために」重要な手紙とか交換しているようです。

ジャックはなんとか決闘を止めようと、相手の介添人のところへ行き、キャニングに謝罪してほしいと頼む。しかし、相手は聞く耳を持たなかった。その夜、スティーブンは日記に書く−「どうして明日の決闘がこれほど気になるのだろう?決闘なら数え切れないほどしてきた。確かに、僕の手は以前のようではないが…正直に認めると、今の僕には失うものが多すぎるのだ。キャニングとの決闘は避けられない。しかし、何と残念な事だろう。彼に悪意を抱いてはいないが、今の彼は混乱し、怒りと恥と失望に満ち、不幸だ−間違いなく、僕を殺そうとするだろう。僕の方は彼の腕を傷つける以上の事をするつもりはない…」

決闘が「避けられない」というのは、ちょっと理解しがたい感覚なんですが…当時の紳士階級には、現代とは違った「名誉」に対する意識があったのでしょう。(スティーブンに限らず、このシリーズに出てくる士官連中もしょっちゅう決闘してますし。)それにしても、スティーブンは若いときから人よりたくさん決闘をしてきたようなんですが、それってひょっとして、彼が私生児であるってことにも関係あるのかな、と思います。

翌朝の夜明け、指定場所にキャニングとスティーブンとその友人たちが集まる。「もはや和解は不可能です。エスリッジ、充分明るくなったと君が判断するなら、始めよう。そちらに降りるつもりがないなら」キャニングの介添人が言った。スティーブンは上着とシャツを脱いで畳んだ。「何をしているんだ?」「いつも決闘する時はシャツを脱ぐんだ。服の繊維が傷に入るとやっかいなんでね。」介添人たちは二人を位置につける。他の男たちは身動きもせずに二人を見つめていた。

えーと、こんなシリアスなシーンにこんな突っ込みを入れるのもどうかとは思いますが…スティーブン、なぜそこで脱ぐ?「服の繊維が傷に入らないように」と言うのは医者としての経験に基づいているのでしょうけど…それなら、そもそも撃たれるようなことをしなければいいのに…てのは言ってもしょうがないんでしょうなあ。

そして、ピストルを手にすると「爬虫類を思わせる、氷のように冷たい」表情になるスティーブン。

「合図したら撃ってよろしい。」介添人が言った。キャニングの腕が上がり、スティーブンは自分の銃身の延長線上に閃光を見て、引き金から指を緩める。銃声と同時に脇腹と胸に凄まじい衝撃が走り、彼はよろめき、まだ発射していないピストルを左手に移し、スタンスを替えた。彼は狙いを定め、発射した。キャニングは倒れ、四つんばいになって代わりのピストルをくれと叫び、再び倒れ−友人たちが走り寄った。「スティーブン、大丈夫か?」マリスターが傷を調べる。「第三肋骨に当たって、ひびが入っています…やっかいな位置に入っている。あなたを殺すつもりだったようです。」スティーブンはキャニングたちの方を見ていた。キャニングの周りに集まった男たちの足元に流れる血−間違いない、僕は狙いを外してしまったのだ。ジャックが言った−「すぐに艦へ運ぶ。ボンデン、馬車を呼べ。」

ここなんですが、キャニングが「合図の前に」撃ったのかどうかが、読み返してもよくわからなかったのです。私はそういう印象を受けたのですが…どうなんだろう。スティーブンより前に撃っているのは確かなようですが。

スティーブンの方はキャニングの腕を狙っていたのですが、撃たれてバランスを崩したせいか、それとも手の怪我のせいか、左手で撃ったせいか、狙いが狂って致命傷を与えてしまいます。一方のキャニングはおそらく殺す気で心臓を狙い、スティーブンは胸に銃弾を受け…

しかし、1冊の本の中で何度死にかけてるんだろうこの人は…