Chapter 2〜封鎖とランデブー


引き続きライブリー号の代理艦長を勤めているジャックは、ツーロン港の封鎖任務についている。有能なライブリー号の乗員たちとは上手くいっているものの、所詮は代理艦長、ソフィー号の時のような「自分の艦」と言う実感は湧かない。ライブリー号本来の艦長、ハモンド艦長がもうすぐ帰ってくるので、ジャックの任期も残りわずか。婚約はしたものの、ウィリアムズ夫人はまとまった金が手に入るまで絶対に結婚を許してくれそうもなく、ジャックはスペイン艦の拿捕賞金に期待をかけているが…

この章は1章とは逆に、ジャックだけでスティーブンは登場せず。「その頃彼は…」って感じですね。1章冒頭の会議でその賞金がもらえない事になったとも知らず、ライブリー号の乗員たちに結婚を祝ってもらって喜ぶジャック。かわいそうに(涙)。

退屈な封鎖任務の間、彼は艦の士官候補生たちの教育に力を注ぐ。彼らの授業に同席しているうち、ジャックは若い頃つまづいた数学に新たな興味を覚え、大人になってからの勉強にはよくあるように素晴らしい速さでマスターする。

この章でさりげなく重要なのは「ジャックが数学に目覚める」という点ですね。2巻までのジャックには「知的」な感じは全然ないんですが、このあたりから数学や天文学の才能を発揮しだし、ずっと後の巻では王立学会で講演したりするまでになります。意外と理系に強い。一見単純明快なジャック(いや、本当に単純な面もあるのですが)の意外な面が少しづつ見えてくる感じで、けっこう好きなのですよねこの設定。彼が学問に目覚めたのは、スティーブンの影響もあるのかな。ジャックとスティーブンがお互いに影響を与え合いながら成長してゆくのも、このシリーズの読みどころのひとつ…って、何か評論家的言い回しですが。

ライブリー号は封鎖艦隊を離れて、ジブラルタルへ向う。途中でいくつか海戦があって、フランスのガンボートを拿捕。中国人とマレー人の水兵たちを率いて斬り込んだジャックは、実戦には不慣れだとばかり思っていた彼らの戦いぶりに驚かされる。血なまぐさい戦闘には慣れているジャックも、その冷酷かつ能率的な殺戮には思わず寒気を覚えるが、後で彼らが元海賊だと聞いて納得する。

この辺りは、ソフィーの手紙の中で語られています。こういう事を手紙形式でさらっと語ってしまうのがオブライアン節の真骨頂なのだけど、さらっとしすぎてて気をつけないと伏線を見落としてしまうのが辛いところ。しかしジャックも、海戦の内容までソフィーへの手紙に書かなくてもねえ。心配かけるんじゃないか?というか、軍事機密じゃないのか?まあ、ジャックは嘘や隠し事が苦手だからなあ。

その後、ライブリー号はスティーブンとあらかじめ打ち合わせてあったメノルカ島のランデブー・ポイントへ向うが、彼は現れず、代わりに「Joan Margall」と名乗る地元の男が現れ、スティーブンが「連行された」と言う。

この「Joan Margall」、実は2巻に名前だけ出てきているのですよね。つまり彼の旅券を使っていたってことか。

ところでこのシーン、ジャックとスティーブンの絆を感じさせるディテイルのてんこ盛りで、泣いて喜びました(笑)。ジャックがスティーブンにやっと会えるー!って浮かれていたり(「あの耳障りなしゃがれ声が聞けなくて、どんなに寂しかったことか」)、スティーブンが現れなかったら彼が喜ぶような伝言を残そうと一生懸命考えたり、スティーブンへの合図として口笛で吹いたのが「フィガロの結婚」のアリア”Deh vieni,non tardar”−急いでここへ、恋人よ(いや原語では恋人という意味はないのだけど)だったり、それからマーゴールの口にする合言葉が「ソフィア、メイプス、グアルネリウス」「メルベリー艦長」だったり…

ここまで念を押した(?)上で、章の最後の言葉が「He has been tortured(彼は拷問された)」。ええーーー!どうなるの?ジャック、助けに行くんでしょうね?…と意味不明に興奮しつつ次章へ続く。