Chapter 3〜ポート・マオンと救出作戦


ジャックは島のカタロニア解放同盟の代表と名乗るMaragallを艦に連れ帰り、彼が預かったというスティーブンの手紙を調べる。

この、スティーブンの手紙、木炭で書かれていて、ぱっと見ジャックが「彼の筆跡じゃない」と断言するほど字が乱れいてるわけで、痛々しいのですが(後で、スティーブンは手を特に酷く痛めつけられていたことがわかります)…最初に読んだときはよく意味がわからなかったのですが、助けを求める手紙じゃないんですよね。「待つな」「これをサー・ジョセフに届けてくれ」と書いてあって、その後に数字が並んでいるのは暗号ですね。

スティーブンはかつての英国司令官邸に監禁されているという。ジャックはMaragallを信用し、救出に向う決意をする。ライブリー号の士官は一人も連れず、ガンボートに斬り込んだメンバー(元海賊の中国人やマレー人の水兵)だけを連れて行くことにする。

さて、このシリーズにはいろいろな魅力がありますが、何と言っても一番のメインテーマはジャックとスティーブンの友情の絆であるわけです。そして、その友情物語には、シリーズを通じて二つの大きな転換点があったと私は思っています。一つは第2巻の「決闘未遂事件」。ひとつはこの救出作戦。

2巻の決闘未遂は、二人が深刻な仲違いをしたほとんど唯一の事件として重要です。同じ女性を好きになってしまう、というまことに王道な理由で仲違いをするのですが、絶体絶命の事態を二人で乗り越えることで友情を取り戻し、絆はますます深まります。この時、スティーブンはジャックの事を初めて「brother(兄弟)」って呼ぶのですよね。(そしてその後はずーっとbrotherと呼んでいる。)

そしてこの3巻3章の事件は、ジャックが初めて「海軍軍人としての立場を離れて、個人として命を賭ける」という点で重要だと思います。(だから士官は一人も連れて行かないのですね。)命がけの勇敢な行動なら、ジャックはこれまでにも山のようにやってきたと思いますが、それは全て海軍士官としての行動なわけで。生まれて初めての「個人的な」作戦行動が、純粋に友人のためっていうのが、いいなと思うのです。ジャック自身はそんなことは特に意識してないかもしれないけど。

あ、それと…旧英国司令官邸ってつまり、1巻でジャックがモリー・ハートと密会していた所ですよね?かつて人妻と浮気していた場所に今度は友人を助けに行くとは…

ジャックはボンデンと志願兵たちを連れ、拿捕したフランスのガンボートでマオン港に侵入する。Maragallはスティーブンだけでなく、フランス司令部に捕らえられている囚人全員を解放することを主張する。

この辺り、「とにかく時間がない」という台詞が何度も出て来て、緊迫感を煽ります。ぐずぐずしているとスティーブンが死んでしまうかもしれないからですね。もっとも、この時点ではMaragallの言っていることが本当かどうかの確証はないのですが、ジャックは一旦信じることにしたら、もううだうだ考えないのです。そのへん、潔いし、この場合賢いと思う。(この性格が仇になることもあるのですが)

Maragallの案内で、ジャックは水兵たちを率いて旧英国司令官邸(現フランス軍司令部)を急襲。囚人たちを解放し、拷問を受けて瀕死の状態だったスティーブンを救出する。この司令部の上官であった大佐は囚人たちに殺され、実際の指揮を取っていた大尉は追い詰められて身を投げる。スティーブンは司令部から秘密書類を持ち出す。

この大尉に関してスティーブンがつぶやいた「逃亡を図ったため」というのは、「逃亡を図ったため(やむなく射殺した)」と言う囚人が牢内で拷問死した時の公式報告書の常套句を皮肉っているのだと思います。それにしてもスティーブン、死にそうな状態でありながら、「重要書類はテーブルの右だ」だなんて、転んでもタダでは起きないっていうか…強いやつです。

というか、この章を読む限り、スティーブンがどこにどの程度の傷を負っているのかは、よくわからないのですよね。後の方を読むと、少しずつ分かってくるのですが。あんまりあからさまに書かないのが、オブライアン流と言うか。

<<以下蛇足>>ジャックが「10分以内に大佐が戻らなければ−その機械で殺してやる」と言った機械がどういうものだったのかは、結局よくわからないのですが…普通のrackなのか、それとも何か特別な?それにしても、私は4巻で"Jack had fetched him out of Port Mahon more dead than alive.."という文を読むまで、そんなに命にかかわるような怪我だと思ってなかったし、もっともっと後の巻(多分18巻)で、手にどういう怪我をしていたかやっと具体的にわかったという…オブライアン氏の書き方が奥床しすぎるのか、私がニブいだけなのか?