Chapter 4〜温泉治療とサプライズ号


ジャックは重傷を負ったスティーブンを英国に連れ帰り、ボンデン、キリックと共にポーツマスの宿屋で看病する。彼の心のこもった、しかしピントの外れた看病ぶりはスティーブンを苛々させる。若干回復したスティーブンをロンドンに連れて行こうとしていた時、ジャックの元に執達吏(借金取りの使い)が現れ、ジャックは借金のかどで逮捕されスポンジング・ハウス(債務者拘置所)行きに。

前章がとことんシリアスだったせいか(?)第4章はちょっとお笑いモード。4章のテーマは「よってたかってスティーブンの面倒を見たがる人々とワガママ患者のスティーブン」です。(いや、3巻全体のテーマか?)ジャック看護婦は母性本能に溢れています(笑)。ジャックが持って来た「ドクター・ミードのインスタント強壮剤」と言うのは実在したそうですが、いかにも怪しげ。ジャック…どこでそんなものを…

でも、借金取りに捕まらないように英国本土上陸を避けていたのに、スティーブンのためなら上陸してしまうところが優しいよなあ。逮捕された時、ボンデンに言った「go along with the Doctor:look after him, eh?」という台詞の、"eh?"がたまらないです。なぁんていい奴ぅ。

ボンデンと共に、ロンドンの定宿「グレープス亭」に落ち着いたスティーブンのところへ、サー・ジョセフが訪ねてくる。彼はスティーブンの容態を見て心配するが、本人は「大した事はない」と言う。スティーブンの希望により、サー・ジョセフはジャックが釈放されるようはからう。スティーブンがフランスの司令部から持ち出した秘密書類を、サー・ジョセフは絶賛する。

スティーブンの面倒を見たがる人、その3=サー・ジョセフ(その1=ジャック その2=ボンデン)登場。個人的に、グレープス亭の女将ミセス・ブロード(ここではあまり出てこないけど、後の巻ではよく登場する)がスティーブンの母親的存在で、サー・ジョセフは父親的存在ではないかと思っています。サー・ジョセフはスティーブン以外の人には「人間と言うより氷山(のように冷たい)」と書かれているけど、スティーブンに対する気の遣いようからはそんなの想像がつかないのですが。まあ、でも諜報組織のボスなわけですから(007で言うと「M」か?)それなりの冷酷さは必要なのかなあ。スティーブンの回復のためにバースの温泉を勧めたいけど、彼が的外れの助言にうんざりしている様子なので言い出しかねてる辺りも可愛い。

ここでは、スティーブンとサー・ジョセフの二人がジャックのことを褒めちぎっているのが気持ちいいです。スティーブンも「彼には特別な資質がある…他の人間なら無謀と思えるような事が、彼にかかっては自然な行動のように思えるんです。」と大絶賛。こういう事、面と向っては言わないんだろうけど…

そしてここで、ジャックがスペイン艦の拿捕賞金が出ない(つまり借金を返せない)ことを知って、ソフィーに「婚約解消してもいい」という手紙を書いていたことが明らかに。泣きながら書いたんじゃないかなー。可哀想なジャック。「彼にこの話を伝えたのが、この旅で一番辛い事でした。」というスティーブンも、さりげなく優しい。

ソフィーにスティーブンから手紙が届く。娘と(借金持ちの)ジャックの婚約を認めていないミセス・ウィリアムズはソフィーへの手紙を検閲している。スティーブンは読まれることを見越して当たり障りのない表現を使い、バースに静養に行くことを伝えていた。

ソフィー、28(29か?)にもなって親に手紙を検閲されてしまうっていうのも…

スティーブンはバースのレディ・キース邸に滞在し、ボンデンの献身的なガードの元、温泉治療とリハビリに励む。そこへサー・ジョセフと彼の後任者ワリング氏が訪れる。

バースっていうのはご存知のようにBath(風呂)の語源になった温泉地です。一度行ったことがありますが、温泉治療するような施設は別になかったような。ローマ風呂の史跡も、入浴できるようになっているわけじゃないし。でもこの章では、サウナ風呂みたいなものが登場しますね。当時はそうだったのかな?

さて、ここでサー・ジョセフとワリング氏の会話から、スティーブンの過去が少し明らかになっています。彼はフィッツジェラルド家(アイルランドの名家)の親戚だが、"the wrong side of the blanket"…「私生児」ってことですね、たぶん。そして「93年まではフランス革命の熱烈な支持者だった」「自分には一文の得にもならない事に命を賭けてばかりいるロマンティスト」とも言われてます。サー・ジョセフは彼が「あんまり女っ気がないので心配した」と言っていますが、これは別に父親の気持ちで心配していたんじゃなくて、「ゲイじゃないのか」と思ったって事ではないかと。(同性愛者は脅迫の対象になりやすいので、諜報員として問題があるそうです。)それと、ここで語られる「不幸な結果に終った、とてもいい家庭の女性との一件」が、ダイアナのことを言っているのか、それとも他の女性のことなのかははっきりしません。(海外掲示板でも議論になっていたような。)

サー・ジョセフたちがスティーブンの部屋を訪れると、すごい美人(実はソフィー)が彼の看病をしていたので二人は驚く。

ソフィーはここで「レディ・ハミルトンの若い頃より美しい」と言われています。レディ・ハミルトンって美人の代名詞だったのかな?ここでスティーブンの面倒を見たがる人その4=ソフィーが登場しますが、他の人が勧める薬は決して飲まなかったスティーブンが、ソフィーの持ってきた青緑色の薬は素直に飲んでます。やっぱり彼女には弱いのか…(ダイアナにはもっと弱いだろうけどね。)

サー・ジョセフはもうすぐ退任する予定で、退任するチーフの特権で艦長の人事を決めることが出来る。そこで、東南アジアに大使を送り届ける任務を準備中のサプライズ号の艦長にオーブリーを任命する。それはスティーブンを救出したオーブリーに報いると同時に、スティーブンの回復のためでもあった。

「暑い気候が回復に役立つと言っていたね?うんと暑くても大丈夫か?」とサー・ジョセフに聞かれて、「I am a salamander.」と答えるスティーブン。山椒魚…じゃなくて、火トカゲ、ですね(笑)。

スティーブンは朗報をジャックに知らせようとする。手の怪我でまだペンを持つことができないのでボンデンに手紙の代筆を頼むが、彼は字が書けなかった。スティーブンは彼に字を教える事を約束する。結局、ソフィーを呼んで代筆してもらう。ロンドンの「グレープス亭」で手紙を受け取ったジャックは喜ぶ。サプライズ号は彼が士官候補生として青春を過ごした艦だった。

この手紙を受け取ったジャックは「サプライズ!」と叫ぶ訳ですが…海外ドラマでよく見るサプライズ・パーティのシーンを思い出しました。窓ガラスが震えるような声で「サプライズ!」と叫ぶジャック。想像するとかわいい。

スティーブンとジャックは馬車で落ち合うことにする。ジャックの出航前にどうしても彼に会いたいソフィーは、夜中に家を抜け出し、午前4時のランデブーにやって来る。彼らは無事に落ち合い、ジャックとソフィーは馬車の中で30分だけ語り合う。

30分、何を語り合っていたのでしょうか。キスぐらいはしたかな。ソフィーの別れ際の言葉−「ジャック、神があなたをお守り下さいますように。スティーブンにコートを着させてね。それから、ジャック、忘れないでね−ずっと、いつも、いつまでも、誰が何て言おうと、いつもいつも、いつまでも…」−ジャックは感激したでしょう。スティーブンのこともちゃんと言っているところがいいね。