Chapter 6-1〜茹でた糞とナマケモノ


6章は長いです。原書でたっぷり57ページ…平均の二倍近くありますね。なので、二回に分けます。

岩に取り残されたスティーブンは、バビントン士官候補生やボンデンの乗ったボートによってようやく救出される。ストームでサプライズ号もかなりの被害を受けていた。サプライズ号は修理しながら(ジャックが乗組員にかなり無理をさせながら)全力で間切って(風上に向ってジグザグに進むこと)来ていた。スティーブンを心配していたジャックは彼が無事に戻ったのを見て安心する。

スティーブンがセント・ポールズ・ロックに何日ぐらいいたのか、本文を読む限りよくわかりません。"Lobscouse & Spotted Dog"(このシリーズに出てくる食べ物のレシピ本)では「約一週間」となっていますが…バビントンたちが「彼を生きて見つけられるとは思っていなかった」という記述と、実際はあの状態でなんとか生きていたということを考え合わせると、まあそのぐらいかな、と思います。…で、何でレシピ本にそんなことが書いてあるかって?それは後で。それにしても、スティーブンの心配をしてばかりで心休まる暇のないジャックです。

ところで、救出されて艦に戻った時の彼はmother naked(<辞書を引いて下さい)だったようで。しかし「裸に関しては羞恥心を持ち合わせない」と言われる彼のこと、アトキンズが(皮肉まじりで?)服をもって来させようとした時に「これが僕のbirthday suitです」なんて言っています。birthday suitとは、ランダムハウス英語辞典(CD−ROM版)によると 【1】英国王[女王]誕生日の式服.【2】(こっけい)素肌,裸. ということです。このシーンを読むと、どーしても「ロック・ユー!」のポール・ベタニー氏の初登場シーンが思い出されます。それにしても、いくらスペイン系の血が混じっていると言え、白人がこんなに陽光にさらされて大丈夫なのかな?

翌朝、スティーブンは元気に朝食の席にあらわれ、岩で陽にあぶられたお陰でかえって体が回復した、と言う。ジャックが「岩で何を飲んでいたのか?」と訊くと、彼は「boiled shit(茹でた糞)」と答える。

boiled shitと言うのはつまり、岩のくぼみに溜まっていた雨水で、海鳥の糞がたぁっぷりと混ざったやつということです。まあでもそんな水でも、なければ渇き死にしていたわけですから、岩にくぼみがあってよかったです。たっぷり溶け込んだ海鳥のフンのおかげで栄養分もあったかもしれないし…(<自分で書いててキモチワルイけど)ところでさっきの話ですが、レシピ本には恐ろしいことにちゃんと「海鳥の茹で糞」というメニューがあるのです。(その解説のところで、さきほどの「約1週間」が出てくるわけ。)作り方は簡単、「海鳥の糞各種1オンス」を「雨水カップ1/4」に混ぜ、ゆだるまで陽にさらすだけ…って、あのなあ。ちなみに5巻に、スティーブンがある女性の入れた紅茶を飲んで「彼は鳥の糞の溶けた雨水だけで生き延びたことがあるが、この紅茶の味はあれよりは少しましだった」という文がありました。…そりゃ、どういうお茶やねん!

ところでこのシーンに「彼は自分の爪のない指を見つめ…」という記述があり、はじめて拷問の時に爪を剥がされていたことがわかりました。ほら、これだから…

岩に戻った時の重労働がたたって、乗組員の壊血病が悪化。スティーブンはビタミン源の補給のため、東ブラジルに立ち寄ることを主張する。スティーブンは実験に使っていたネズミが盗まれたことをジャックに訴える。

ここでジャックが東ブラジルは「Vampire」の産地だと言うのを読んで、私は「吸血鬼の産地はトランシルバニアでは?」と呆けたことを考えてしまったのですが…「吸血動物(コウモリとか)」のことなんですね、はい。ところでスティーブンのネズミですが、やっぱりペットとして飼っていたわけじゃなかったのね。染料入りの餌を食べさせて、骨まで染まるかどうか実験していたなんて、かなりマッド・サイエンティスト的だぞ。「盗んで食べた奴を解剖すればわかる」なんて、本気で言っているんじゃないにせよ、そりゃ怖いってば。

ジャックはニコルズの代わりにバビントンを海尉心得に昇進させることにする。艦長室に呼び出され、艦長の優しい言葉を聞いたバビントンは、感極まって「ドクターのネズミを食べたのはぼくです」と告白する。「ごめんなさい、でも腹が減っていて…もう死んでいて、オニオンソースで煮てあったので…」

ちなみに、先ほどのレシピ本の「茹で糞」の隣のページのメニューは「ネズミのオニオンソース煮」。(…いや、ちゃんとした料理も沢山載っているので誤解しないでね。)

ジャック:He only ate it when it was dead.(まあ、食べたのは死んでからだから…)
スティーブン:It would have been a strangely hasty, agitated meal, had he ate it before,(生きてるうちに食べたんなら、さぞすさまじい食事風景だっただろうな。)
ここの漫才、最高に好きです。

スティーブンは壊血病に効く食糧を仕入れに、東ブラジルに上陸する。帰ってきた彼の胸には、緑色で毛むくじゃらの生物がはりついていた。

このシリーズに出てくる数多の動物の中でも、とりわけ印象的なナマケモノの登場です。それにしても、なぜスティーブンは世界各地のありとあらゆる動物にたちどころに懐かれるんだ?フェロモンでも出ているのだろうか?それにしても、このナマケモノ、可愛い〜

サプライズ号は貿易風を捉え、本来の性能を発揮して11ノットの快速で進んでいた。月のない夜、青緑色の船首波が高く上がり、長い真直ぐな航跡は輝き、索につかまって揺れているナマケモノに南十字星が重なる、サプライズ号のいつもの夜。スティーブンとホワイト牧師が「海の燐光だけで本が読めるか」という賭けして遊んでいると、トビウオが艦に飛び込んできて牧師の顔にぶつかる。

このあたりも、夜の航海の描写がとてもきれいで大好きです。スティーブンがホワイト牧師との賭けで読む詩、(『時空を超えて魂は交わり インダスより極点まで溜息は届く』)インドに着いてからの彼を暗示しているようです。

ジャックはナマケモノが自分にだけ懐いてくれないのを気にしている。艦の生活にはすっかり馴染んだ様子のナマケモノだが、ジャックの顔を見ると目に涙を浮かべて怯えるので、馬や犬には嫌われたことのない彼は深く傷つく。彼は忙しい合間をぬってナマケモノに話しかけたり餌をやったりしていた。

ジャックったら、かわいい〜〜。でも、わざわざポルトガル語で話しかけたって無駄だと思うぞ。ここで、ナマケモノがなぜジャックに懐かなかったかですが…前にも掲示板に書いたのですが、私の意見では、艦上のジャックは艦長としての威厳が知らず知らずのうちににじみ出ていて、それが怖かったのではないかと…推測ですが。馬や犬は「陸のジャック」を見ているわけですからね。

ある日、ジャックがグロッグを飲みながら海図を調べていると、そばで眠っていたナマケモノが目を覚まし、彼を心配そうに見上げる。ジャックはケーキをグロッグに浸して食べさせる。ナマケモノはグロッグがすっかり気にいり、急速にジャックに懐く。ナマケモノが呑んだくれになっていることに気づいたスティーブンは烈火のごとく怒る。「ジャック、君は僕のナマケモノを堕落させたな!

"Jack, you have debauched my sloth."…名ゼリフです(笑)。(ちなみに、debauchには女性を誘惑するという意味がある。)

ナマケモノに酒を飲ませた件ではスティーブンに散々怒られたジャックだが、リオ・デ・ジャネイロでソフィーの手紙を受け取って機嫌を直す。例のスペイン艦の拿捕賞金が一部支払われることになり、借金返済の目処がついたという朗報も届いていた。サプライズ号はリオで修理されることになる。その間スティーブンは上陸することができ、新大陸の動物を満喫する。1週間後に彼が戻って来ると、艦は修理を終えていた。ジャックはフランス海軍のリノワ提督の艦隊(1巻でジャックのソフィー号を拿捕した艦隊)がインド洋に入ったことを知り、対決の可能性があるかもしれないと張り切っている。

気になるナマケモノくんのその後ですが、リオの修道院に預けられてミサ用のワインを盗み飲みしているそうです(笑)。

ジャックはソフィーの手紙を受け取って有頂天だが、スティーブン宛のソフィーの手紙には、ジャック宛の手紙には書いていない事がいろいろ書かれていた。ウィリアムズ夫人は健康を害していて、死の床(と、自分で称するもの)から、病にも負けぬエネルギーを発揮してソフィーに別の結婚相手(今度は新しい教区牧師のヒンクゼイ氏)を押しつけようとしていた。「ソフィー、私が死ぬ前に、海の向こうにいる相手なんかじゃなくて、ちゃんと近くにいてお前と妹たちを守ってくれる相手と結婚して、母さんを安心させておくれ。オーブリー艦長はすぐにお前の事など忘れますよ−まだ忘れていなければの話だけど。『ジブラルタルを越えれば、全ての男は独身だ』って、艦長の尊敬するネルソン提督が言ってたのを知っているかい?インドはジブラルタルよりずっと向こうですよ。それにインドにはあの女を追って行ったって、誰でも知ってる事ですよ。」…

2巻でソフィーママがソフィーに押し付けようとしていた結婚相手は嫌な奴でソフィーも嫌っていましたが、ヒンクゼイ牧師は非の打ち所のない男性とか。ジャック、ピンチ…(本人はまったく気づいていないが)。またここでソフィーママが言っていることは、結構当たっているし。「ジブラルタルを越えれば」云々は本当にネルソンが言った言葉とされていますね。