Chapter 6-2〜アルバトロスと嵐


リオを出航したサプライズ号は一路南へ、南緯40度台の悪名高い荒海へ向う。ジャックは修理をすませてますます快速になったサプライズ号に目を細めるが、スティーブンは早くアルバトロス(オオアホウドリ)を見たいということで頭がいっぱい。ある日、トップ(檣楼)でボンデンに字を教えていたスティーブンは、ついに待望のアルバトロスを目撃する。彼はトップに立ったまま、寒くなってきたのもかまわず、時間を忘れて巨大な鳥に見とれていた。

ナマケモノの次はアホウドリ、6章は動物の大盤振る舞い。アルバトロス(オオアホウドリ)というのは世界最大の海鳥で、翼を広げた全長は最大15フィート(4.5m)もあるそうです。ちょっと想像のつかないデカさですが…一度でいいから、ナマで見てみたいものです。船乗りの間では、嵐をもたらす鳥と信じられているそうですが、それは単にそういう海域に生息しているだけでは?

ところで、スティーブンはボンデンにトップで字を教えているんですね。なんでわざわざそんな高いところで…と思いますが、他に場所がないのかも。スティーブンが詩を暗誦して、ボンデンがそれを書き取っているのですが、先生の「あっ!アルバトロスだ!」という叫びを詩の一部だと思って「韻を踏んでませんよ」と冷静に指摘するのが可笑しい。ボンデンも可愛いです。(ここで余談:ボンデンがビリー・ボイドってのはちょっと違和感。ボンデンは艦隊のボクシング・チャンピオンだった男で、もっとごっついイメージなんですけど。あんなに可愛くないですよ…いや、外見は。)

水夫たちが「アルバトロス狩り」を始めたので、スティーブンは怒りを爆発させる。彼が甲板にいる間はやらなくなったが、目を離したとたんにまた狩りが始まり、鳥の肉はパイに、羽毛は防寒着に、骨は溺死よけのお守りに姿を変えた。病室と甲板の間を走り回るのに疲れた彼は、たまりかねて権力にたよる事にして、艦長に訴える。ジャックは、それは伝統に逆らうことになる、古参の水兵は嵐に突っ込むと言って嫌がるだろう、と言うが、禁止命令は出してくれた。彼の言葉通り、アルバトロス狩りを禁止された古参の水夫たちは不機嫌に「来るべきものが来るぞ」とつぶやいていた。

珍しく動物愛護団体のヒトのようになっているスティーブン。ところで、「Sea Of Words」には「アホウドリには海で死んだ船乗りの霊が宿ると言われ、殺すことが縁起が悪いと言われた…」と書いてあるのですが…ここに書いてあることとは逆?骨が溺死よけのお守りになるのは「アホウドリが溺れ死ぬのを見た事がないから」だそうで。そりゃそうだって。肉はパイにするって言うけど、飛ぶ鳥は肉が少なそう。でも羽毛は、さぞあったかいダウンジャケットになるでしょうね。

古参水兵たちの予言どおり、嵐がやってくる。ジャックはなかなか帆を畳まずに、ぎりぎりのタイミングを計りながら強風から最後の一マイルまで引き出そうとする。艦長と艦は一体となり、ジャックは無上の喜びを感じる。

南緯の高い海域が荒海なのは、波風を遮る陸地がないから…とこの間テレビで聞いて「そうだったのか!」と納得した私ってニブい?考えてみれば当然なのですが。強風が大好きなジャック、自分では「心ひそかに」ワクワクしているつもりなのに、実は顔に出まくっているところがかわいいです。

嵐はますますひどくなり、大使と随行員のキャビンが浸水する。大使の様子を見に来たスティーブンに、大使秘書のアトキンズ氏は文句を並べ、艦長が説明に来るべきだと言う。スティーブンは「艦長はずっと甲板にいるから、文句があるなら言いに行けばいい」と答える。嵐の間、ジャックは昼夜にわたって甲板に出っぱなしだったが、肺炎の老水兵が臨終だと聞いて声をかけにゆく。

かわいいジャックもいいですが、こういう、なにげなく艦長の義務を果たしている頼りがいのあるジャックも素敵だなあ、と思います。

嵐の中、落雷でフォアマストが倒れて海に落ちる。マストに引きずられて艦はバランスを失いかけるが、ジャックがバウスプリットを這って行って索を切り、なんとか持ちこたえる。その後しばらくして、ようやく風が弱まりはじめ、サプライズ号は危機を脱する。

艦がいよいよヤバいか!?って時に、思わずソフィーのことを考えているジャックが、また…以下略(しつこいので)

嵐が過ぎた後は平穏な航海が続くが、ジャックは予備の船材が全然なくなってしまった事を心配している。スティーブンは習慣にしているピストルの訓練をするが、拷問で傷を負った手が思うように動かないのに苛立つ。ボンデンに字を教えるためにトップに時、彼はいつもの素人用の穴(ラバーズ・ホール)からではなく、習熟した船乗りが使うフトック・シュラウドから登る。彼がボンデンのために詩を暗誦していると、士官候補生がやってきて、もうすぐ大使主催の午餐会が始まる、という艦長の伝言を伝える。「それから…『降りる時は、どうか頼むから、いつものように穴を通って降りてくれ』とのことです。」

「自分の体がある点で言うことを聞いてくれないなら、他の点で聞いてくれてもいいはずだ。」って、そりゃ無茶苦茶な論理だって。アンタほんとに医者か?…「医者の不養生」を絵に描いたような人です、彼は。

それにしても、ジャックはスティーブンがマストに登るところを見ていたんですね。ひょっとしていつも見ているのか?危険な方の経路で登り始めたのを見て仰天したけど、途中で声をかけると余計に落ちるかもしれないから、黙ってハラハラしながら見守っていたのかも。過保護気味のお母さんのようなジャックです。

ジャックはスティーブンを20秒きっかりで正装させ、なんとか大使の午餐会に間に合わせる。体調がすぐれない大使は無理をしてホスト役をつとめていたが、やがて気分が悪くなり、スティーブンに付き添われてキャビンにさがる。その午後、午餐会での会話からインドにいるダイアナを想い出したスティーブンは、バウスプリットにもたれながら思いに沈んでいた。

わからないのは、スティーブンがこの航海を望んだのは、どの程度まで「ダイアナに会うため」だったのかということです。「暑い地方に行きたい」とサー・ジョセフに言ったのは、ダイアナのことが頭にあったから?それとも、偶然そうなっただけか?彼ならそのぐらいの策略はめぐらしそうですが。まあとにかく、この航海の間中(文章にはダイアナのダの字も出て来ませんでしたが)彼女のことを思い続けていた、ということは確かなようです。このシーンでは、スティーブンがダイアナのどういうところを愛しているかというのがかなり詳しく描かれています。自分で意識していない時の優雅な仕草、普通とは違った意味での純粋さ、明敏さ、向こう見ずの勇気…彼だけがダイアナの本質を見抜いているような気もするし、頭の中で作り上げた幻を愛しているような気もする。多分どっちも真実。

陸も他の船も見ることのない4ヶ月間の孤独な旅の後、艦はいよいよ陸地に近づいていた。バビントンはスティーブンにウルドゥー語会話集を借り「女よ、我と寝てくれぬか?」というフレーズを練習している。スティーブンは毒のある海ヘビを捕まえる。マストヘッドの見張りが「陸地を視認!」と叫ぶ。

海尉になっても悪いクセの直らないバビントンくん、そのフレーズを使うチャンスはあるのでしょうか(笑)。

オブライアンの文章には実はいろいろ象徴が散りばめられていると思うのですが(別にそれを気にしなくても楽しく読めますが)、この海ヘビは何の象徴なのかなあ。猛毒のある美しい蛇、自分を噛んで死ぬ蛇。ところで、このヘビを見たプリングズはドクターに「彼女に触っちゃだめですよ」と言うのですが、なぜメスだと分かったのでしょう。

次章はいよいよボンベイ上陸、頭文字Dの二人の女性が登場。