Chapter 9〜中国船団とフランス艦隊


サプライズ号は、英国への帰途へつく前にカルカッタへ向う。途中、手紙を預けたいと思って東インド会社の中国船団を捜し、追いつく。中国貿易船団は、巨万の富を載せた40隻の豪華船団だった。船団の司令官マフィット船長は、サプライズの艦長と士官たちを午餐会に招く。

ここでマフィット船長が仲間の船に出した信号旗が-「乗客のうち、若く美しい女性客は−繰り返す、若い女性客−繰り返す、美しい女性客−は、午餐会に参加されたし」…ここまで言われて出席する女性って、よっぽどの自信があるか、それともただ図々しいのか。

この午餐会、艦長は隣に座った女性は「頭も胸もない」とあっさり無視してマフィット船長との会話に集中し、軍医は両隣の姉妹がダイアナの悪口を言っていたのを聞いて不機嫌に黙り込み、最年少の士官候補生チャーチくんはお喋りなどで時間を無駄にせず、敬愛する艦長のモットー"Lose not a minute"の精神でご馳走に突撃し撃沈。…サプライズの士官と士官候補生をひきつけるような女性はあまりいなかったみたいですね。「女なら誰でも」のバビントンくんは別でしょうけど。

「あんな砂みたいな髪の、肌の荒れた、にきびだらけの、首の短い、ずんぐりむっくりの低俗で下品な馬鹿女…あれがニンフなら、悪臭漂う澱んだ沼から這い出して来たに違いない…」(ダイアナの悪口を言っていた姉妹へのスティーブン評)普段は無口なくせに、怒った時と人の悪口を言うときはむちゃくちゃ語彙の豊富なドクターです。(<それって嫌な性格では…?)そして、ジャックの女性を見るポイントは胸らしい。いや、それはみんなそう…かな?

翌日、サプライズ号はリノワ提督のフランス艦隊を視認する。艦隊は中国船団が翌日通るはずの航路へ向っていた。無防備な貿易船団が敵艦隊と遭遇したら大変なことになる。サプライズ号は囮になって艦隊を逆方向に導き、暗くなったらひそかに方向転換して中国船団に警告しに行く作戦を取る。サプライズは艦隊最小のコルベット艦、ベルソー号と短い砲撃戦を戦い、マストを撃ち落されたように装ってわざとゆっくり逃走し艦隊を引きつける。スティーブンはホワイト牧師に負傷兵の手術を手伝ってもらおうとするが、彼は血を見て気絶してしまう。

気の毒って言えばこのホワイト牧師もですね。大使が死んじゃって失業だし、他の随行員は中国船団に乗換えたのに彼だけ切符を買うお金がないし、艦長には疫病神扱いされるし、おまけにこれ。ま、聖職者なのだから、このぐらいの試練には耐えてもらいましょう。

あ、ここに出てくるリノワ提督っていうのは1巻でソフィー号を拿捕した提督なんですね。(でも正直、あんまり印象に残ってない…1巻はカカフエゴ号の方が印象的だったし、あんまりいろいろありすぎたので。)

闇の中で方向転換し、中国船団に警告しに向うサプライズ号。夜明けに中国船団に追いついたサプライズ号だが、水平線にはフランス艦隊が迫っていた。敵は囮作戦に気づき、元のコースに戻っていたのだ。貴重な時間を稼ぐことができたので完全な失敗ではなかったが、一刻の猶予もならない状況だ。彼は船団の船長たちをサプライズ号に呼集して宣言する−「道は二つしかありません−逃げるか、戦うか。逃げれば、彼らは追って来てあなた方をずたずたにするでしょう。しかし、力を結集して戦えば、勝ち目はある。」一部の船長たちからは、反対の声が上がる。「ばらばらに逃げた方が、少なくとも一部の船は助かる。商船が強力な砲を積んだ軍艦に勝てるわけがない…」しかし、マフィット船長はジャックを全面的に支持する。「知らないのですか?ここにいらっしゃるオーブリー艦長こそ、16門のブリッグ艦ソフィー号で32門のフリゲート艦カカフエゴ号を拿捕した方なのです。」

ジャック、かっこいい!(ここのところ「かわいい」ばかり言っていたけど、やっと「かっこいい」と言えたぞ。)

ジャックは船団のうち最大の3隻に士官を送り込み、船長たちに軍服を貸して軍艦に偽装する。船員は協力的だったが、うるさい乗客には悩まされる。15隻の貿易船はサプライズ号の指示で戦列を組み、軍艦顔負けの見事な操船を見せる。フランス艦隊はそれを見て一時退却し、即席艦隊の意気は上がる。

9章はこの巻唯一の海戦です。3巻はもう何度も読み返しているのですが、二度目に読んだ時に、一番新鮮に感動したのがこの9章でした。つまり、初めて読んだときは一番わかってなかったってことなんですけど(汗)。しかし考えてみれば、この海戦ってジャックが初めて「艦隊司令官」として指揮した一戦ですね。もちろん正式な艦隊司令官ではありませんが、率いるのが商船団だから、余計に指揮能力を要求されるわけです。それなのに、少しも怯むことなく千五百人の(即席の)部下の命を預るジャック。やっぱりすごい人です。天然なだけじゃないね。

翌朝、5隻のフランス艦は攻撃に移る。敵に対して優位なのは「船の大きさと数」だけであるサプライズ号と中国船団は、密集した戦列を組んでお互いにカバーしあうことで対抗しようとする。が、敵は突然方向を変え、戦列を崩して一番弱い二隻の間に割り込む針路を取る。船団が態勢を立て直すまでなんとか敵を食い止めようと、サプライズ号は戦列を離れ、敵旗艦マレンゴ号の前に立ちふさがる。サプライズは敵の砲火を浴び、舵輪を吹っ飛ばされる。ジャックは棚から落ちた砲弾が足を直撃して軽傷を負う。マレンゴがサプライズをまさに沈めようとしていた時、中国船団のロイヤル・ジョージ号が他の二隻を連れて援護に来る。危機を逃れたサプライズは敵艦に斉射を浴びせ、マストに致命傷を与えることに成功する。フランス艦隊は撤退を始めた。

ロイヤル・ジョージがサプライズを助けに来るところ、なんか船自体が「キャラクター」みたいに感じるシーンです。ロイヤル・ジョージの船長は偽装のため、ジャックの「二番目にいい軍服」を借りて着ています。(一番いいのはキリックが渡さなかったのだろう)軍服効果でジャックが乗り移っていたのかも…

ジャックはフランス艦隊を追跡するが、傷ついたサプライズ号と元々足の遅い船団では追いつくことはできなかった。しかし、中国船団のマフィット司令官は、サプライズ号と商船団だけでフランス艦隊を追い払ったことに感激し、ジャックに深く感謝する。マフィットは傷を負ったサプライズ号を曳航しようと申し出るが、ジャックは頑として断った。「マストが一本でも立っている間は、曳航なんてごめんですよ。」

海戦のたびにほぼ必ず怪我をするジャックですが、今回はわりと軽傷でよかった。9章はジャックが大活躍でした。(スティーブンも最下甲板で奮闘していたのだろうけど。)今回の戦死者は3名だそうで。ジャックの指揮する海戦はいつも戦死者が少ない。それはジャックの腕なのか…スティーブンの腕も貢献しているのかな?