Chapter 11-1〜出撃


クタリという都市の様子について、前章でいろいろ描写がありましたが、よくイメージがつかめないので、写真か何かないかと探してみました。クタリは架空の都市ですが、グレアム教授が「RagusaやCattaroと似ている」と言っていたので、そっちで検索してこちらのページを見つけました。クタリはもっと坂が急かもしれませんが、これに似た感じなら、なかなかエキゾチックできれいなところです。住みにくそうですが。

クタリの埠頭から要塞までロープを張る作業が行われる。

ジャックの決意を受けて、早速ドライアド号が、砲を乗せた輸送艦を迎えに行きます。

もちろん砲が来たら、街のてっぺんにある要塞まで運び上げなくてはいけないのですが、砲というのは一つでもむちゃくちゃ重いもの。肩にかついで坂を登るってわけにはゆきません。そこでジャックは、町の下からてっぺんまでケーブル(錨索、直径が40センチ以上もある太くて丈夫なロープ)を張り、ロープウェイ式に引っ張り上げることにします。

このオペレーションは、ジャックに"Tom Pullings could always be relied upon to do wonders in the line of seamanship"(船乗りの技術という分野では常に奇跡を起こしてくれる)とまで信頼されているプリングズくんがリーダーとなって進められています。

クタリの住民たち、特にキリスト教徒やユダヤ教徒たちは、イズメイルやムスターファがクタリを支配するようになったらどんな目に遭わされるかとひどく恐れています。彼らに自治を認めてくれているサイアハンにベイを続けてほしいと思ていて、英国海軍がサイアハンと組んで自分たちを守ってくれることを大いに喜んでいます。

というわけで、ロープを張るのに邪魔な煙突や物干し台や鳩小屋があれば、プリングズがちらりと見ただけでさっと消えうせる、という惜しみない協力ぶりで、作業は順調に進んでいます。そのうちにクタリの地元民とすっかりお馴染みになったプリングズくんは、その優しい顔と穏やかな性格から、住民たちに"Maiden"(乙女)と呼ばれたりしています。か、かわいすぎる…

しかしこの乙女、地元のアニーという女の子と仲良くなっているようで。艦長との会話でうっかり彼女の名前を出し、「アニーって誰だ?」と訊かれて顔を真っ赤にして、「ここの言葉や習慣を学ぶために、時々コーヒーを飲んでいるところの若い人です。ほんの小さいカップで」と、しなくてもいい言い訳をしているあたりが、またかわいいけど。(注:彼は妻子もちです、一応。)

ジャックとグレアム教授、ケンカする

さて、前項にちらっと書いた理由で、グレアム教授とジャックは大喧嘩をやらかします。

グレアム教授に言わせると、圧倒的にこちらが有利な交渉で、相手の人柄が気に入ったからといって、何の条件もつけず、何の保障も求めず、逆にこちらが縛られてしまうような口約束を与えてしまうのは愚の骨頂。いや、艦長がその代表として、その利益を第一に考えるべき国と国王に対する義務を怠ることだ、とまあ、たしかにもっともな主張です。

一方のジャックは、サイアハンのような人物の場合、かえって率直に話した方が交渉はうまく進むものだ、と、これも一理ある主張なのですが…ジャックは口下手なので、グレアム教授の立て板に水の主張にうまく反論できず、「この作戦の最高責任者はサプライズ号艦長である私であり、君の意見を聞く必要はない」と、ついこういう言い方になってしまいます。それに対してグレアムは、私は海軍に属してもいないしあなたの部下ではないから、権力や暴力で脅しても無駄だ、体が大きく力が強い者が正しい知恵を持っているわけではない、とまたイヤな反発の仕方をして、二人の言い争いはだんだん感情的になり、しまいには子供の喧嘩めいてくるのでした。

この二人の喧嘩には、スティーブンは一切口を挟まずに中立を保っています。後でジャックはスティーブンに「ちょっとは味方してくれてもいいじゃないか」と愚痴るのですが…

まあ友達としては冷たいようだけど、スティーブンの態度は正しいと思います。元々ジャックの親友である彼がジャックの味方をしたら、グレアム教授は余計にひがむだろうし、かといってグレアムの味方をしたらジャックがいじけるだろうし、仲裁するにしても、双方の頭が少しは冷えるまではどうしようもないし。

「グレアムの言っていることは正しいし、とにかく、彼の意見を聞かずに決めたのはよくなかった。彼のプライドを傷つけた。彼はトルコの政治に関しては凄いエキスパートなんだ。」と、痛いところをつくスティーブン。それにしても、8巻の後半はスティーブンの出番が少ないなぁ。全巻でも珍しいぐらいなんですが。

風向きが悪くて輸送艦がなかなか来ない。サルタンがイズメイルをベイに指名したという噂が広がり、住民はパニックになる。

砲を引っ張り上げるロープウェイは完成したのに、今度は肝心の砲がなかなか来ない。風向きが悪くて輸送艦がクタリへ向えないのです。住民の間には不安が募り、そんな時、それに拍車をかけるように「イズメイルがサルタンによってクタリのベイに指名された、彼はこちらへ向かっている」という噂が立ちます。

ムスターファよりは多少マシとはいえ、イズメイルも残虐な君主と言う噂で、住民たちはひどく怖がっています。パニックを起こした各民族・宗派の代表たちがサプライズ号に押し掛け、「どうか、半分でいいですからサプライズ号の砲を要塞に上げて、我々を守って下さい」と、ひざまずいて懇願する始末。

ジャックはグレアム教授に相談します。「噂が本当だとしたら、どうしたらいいと思う?」「それは、私にアドバイスを求めているのですか?」「そうだ。」

というわけでジャックと仲直りした…いや、仲良くなったわけではないけど、お互いプロなので、個人的腹立ちは措いて協力することにしたグレアム教授。事の真相を確かめ、もし本当なら手を打つため、はるばるコンスタンティノープルまで馬を飛ばしてゆくことにします。「その前に、イオアニナ(ずっと近い)のアリ・パシャ(Ali Pasa)のところに寄って宮廷の様子を探ってみます。彼にはちょっとした貸しがあるので…」

※アリ・パシャ(1741?-1822):オスマン・トルコ帝国のパシャだが、アルバニアで半独立国を築き、勢力を振るっていた。1820年(この7〜8年後)、オスマン・トルコ帝国に対して独立戦争を起こすが失敗。

グレアム教授、馬でアリ・パシャの所まで行き、真相をつきとめる。ムスターファ、サルタンに反旗を翻して英国の輸送艦を拿捕する。サプライズ号出撃する。

グレアム教授は、予定よりずっと早く帰ってきます。アリ・パシャのところで大変な知らせを聞いて、コンスタンティノープルには行かず、不眠不休で馬を飛ばして引き返して来たのです。「砲を乗せた輸送艦が、ムスターファに拿捕されました!急げばまだ追いつけるかもしれません。」

このあたりの事情はグレアム教授が説明するのですが、これまた結構ややこしくてわかりにくい。自分の頭を整理するために、例によって箇条書きにします。(余計わかりにくいかもしれないけど。)

1) 「イズメイルがサルタンによってベイに指名された」という噂は嘘で、それを流したのは他ならぬアリ・パシャであった。

2) なぜそんな噂を流したかと言うと、イズメイルを激しく憎んでいるムスターファは、それを聞いたらサルタンに対して反乱を起すだろうとふんだから。

3) なぜアリ・パシャがムスターファに反乱を起して欲しいかというと、アリ・パシャ自身がいずれはサルタンに反乱を起そうと思っているので、ムスターファの強力な半私設海軍がサルタンについていると邪魔だから。

4) なぜそれをグレアムに教えてくれたかというと、できれば英国海軍にムスターファの始末をつけて欲しいと思っているから。

アリ・パシャの思う壺にせよ何にせよ、とにかく輸送艦はどうしても取り戻さなくてはなりません。サプライズ号はムスターファを追って、急ぎ出航するのでした。

…しかし、住民の泣き落としに負けてサプライズの砲を上陸させたりしなくてよかった。(ジャックにはその気はさらさらなかったようですが。)