Chapter 1-2〜ダイアナの贈り物


前回書き忘れたのですが、別居結婚のところで、「愛と友情と、二人で分かち合った数々の冒険の他には何の共通点もない二人」という表現がありました。うーん…素敵。

ダイアナ、スティーブンにプレゼントをする。

出航するスティーブンのために、ダイアナは「いってらっしゃいパーティー」を開くのですが、その前に彼にプレゼントをします。

このプレゼントというのが、素晴らしいものなのですが…何と表現したらいいのかな?とびきりの贅を尽くしたドレッシング・ケースのような物なんですが、バックギャモンボードにもなり、携帯用食器セットも入っていて、書見台にもなり、折り畳み式の脚がついていて洗面台にもライティング・デスクにもなり、ローソク台もついていて、鏡はもちろん、当時の技術を総動員した細かい引出しや隠しがついていて、ダイアナが自ら監修し、職人の後ろで声が枯れるほどやいのやいのと注文を付けて作らせた(本人談)代物です。

何とも表現のしようがないので、後にウースター号の乗員たちには「ドクターのあれ(Doctor's object)」と呼ばれるようになる(戦闘準備に入る時に「おーい、ドクターのアレを気をつけて船倉に運べ!」みたいな)プレゼントなのですが、とにかく愛情はこもってます。

実はスティーブンはこれを見て「従兵がいっぱいついている陸軍の士官ならともかく、軍艦では船倉のなるべく湿気の少ないところにしまっておくしかない」と思うのですが(ダイアナは陸軍士官の娘で元妻だから…)とにかくダイアナの気持ちには大感激したので、そんなことは口に出さず、心からのお礼を言います。

このプレゼントは、後々までいろいろなシーンに登場するのですが…実は私、映画が公開される前にジャックとスティーブンが合奏しているスチル写真を初めて見た時、二人の間にある蜀台つきの楽譜台を見て「あれはもしかしてドクターのアレかしら?」と勝手に興奮しかけたのですが、違ってたら恥ずかしいので言いませんでした。映画を観てみると、全然違うただの楽譜台だったので、言わなくてよかった〜(って、こんなところで書いてしまったら同じだけどね。)

余談:The Gunroomにこのプレゼントが登場するファンフィクションがありました。19巻ネタバレですので、既読か「すでにネタバレちゃってるわよ〜」という人だけどうぞ。英語です。「健全」です。→"Godspeed, My Love"

それから、この…「物」の他に、ダイアナはシャツをプレゼントするのですが、「どうしても間に合わなくて、1ダースしかないの」と嘆いています。スティーブンは1ダースで十分だと答え、「生まれてから、こんなに沢山のシャツを1度に持ったことはない」…そうでしょうね。いや、さすがはスティーブン。

スティーブン、ダイアナにジャックがウースター号を引き受けた理由を話す

ここまでスティーブンとダイアナの話ばかりでしたが、ジャックの方はどうしているかというと…あまり芳しくないです。例のキンバーのインチキ銀鉱の件が裁判になっているのですが、ジャックはその裁判で怒りのあまりちょっと…暴れてしまったようで(ああ、ほんとにあんたは…)、大至急英国を離れた方がいいはめに陥っています。

この「ウースター号」、74門の二等級戦列艦で、今までのジャックの指揮艦の中では最も大きく、形の上ではシニア・ポスト・キャプテンであるジャックの地位に相応しいのですが、実はこれ、腐敗した工廠で作られた「40隻の泥棒」と呼ばれる有名な欠陥艦の、まだ沈んでいないうちの1隻で、誰も引き受けたがらない艦のようです。2巻のポリクレスト号といい、ジャックって有名な欠陥品を押し付けられる運命なのか。おまけに封鎖任務だし。

本当はジャックは「ブラックウォーター号」というもっと良い新造艦がもらえるはずだったのですが、a)上記の裁判騒ぎ b)急進派の議員になり、議会で海軍本部を攻撃しまくっている父親に足を引っ張られている c)5巻1章のイカサマトランプの件でジャックをねちねち恨んでいるアンドリュー・レイが海軍の偉いさんになってしまったため という3つの理由から、彼の友人たち(ヘニッジ・ダンダスとか、たぶんサー・ジョセフも)が影響力を駆使しなければウースター号さえもらえなかったという状態らしい。かわいそうなジャック。…まあ、半分ぐらいは自分のせいと言えなくもないけど。

スティーブンのお別れパーティ

パーチー好きのダイアナは、ロンドンで手に入る最高の食事を用意します。それもスティーブンの好物ばかりを。スティーブンの好物は「鴨とトリュフのパイ」。「豚の顔の塩漬け」だの「スポテッド・ドッグ」だの、どーんとして雑駁な英国料理が好物のジャックと比べると、さすがにフランス的というか繊細というか、好む食べ物にも性格があらわれてる気がする。

8巻は話の進みがゆっくりしているせいか、こういう「余計な」話がたくさん出てきて楽しい。最初に読んだときはこのスローさがほんのちょっとだけ苛立たしかったのですが、再読時はこういう脱線がむちゃくちゃ楽しかった。

このパーティの招待客には、ダイアナの財産を管理している銀行家のネイサン氏とか、dowager(亡夫の称号財産を継承している貴族の未亡人)であるさる年配のレディとかがいらっしゃいます。このレディは、ロンドンの社交界に多大な影響を持っていらっしゃる方らしく、「インドやアメリカでの行動により地に落ち、結婚によっても部分的にしか回復しなかったダイアナの評判を回復させるのに大いに貢献してくれた」方らしい。スティーブンが手を回して味方につけたのだろうか。(それともサー・ジョセフが?)こういう「評判」って、上流社会では大事なんでしょうね。このレディが影響力を発揮して評判を上げてくれていなければ、ダイアナがパーティー開いたって誰も来ない、ってことになるのでしょうから。

パーティにはいろんな人が来ているのですが、その中で注目すべきはヤゲロくんです。例のハンサムくんは、スウェーデン大使館付き武官としてロンドンに住んでいるのですが、7巻で一緒に捕虜になって以来スティーブンになついていて、ハーフムーンストリートの家に入り浸っている模様。(それとも、本当はダイアナになついているのか?)相変わらずモテモテで、彼が目当てでパーティに来るお嬢さん方も多いようです。

ヤゲロくんですが、7巻の感想で彼のイメージキャストとしてオーランド・ブルームと書いたのですが、考えると違う気がしてきました。オーランドくんは綺麗だけど、ちょっと影のある感じだから、底抜けに陽気で「馬鹿馬鹿しいほど美しい」と言われるヤゲロくんとは、ちと違うかな。このパーティで、ヤゲロが楽しそうにしているのを、まるで関係のない銀行家のネイサンさん(ホモではないと思う)がニコニコしながら見守っているという描写があります。スティーブンは「彼には、人を思わず微笑ませるところがある。彼の溢れる健康さ、美しさ、明るさ、単純さがそうさせるのだろう」と思い、自分は若い頃でさえそういう資質を持っていなかった、とちょっと残念そうなのですが…

いやスティーブン、あなたにも「人を思わず微笑ませるところ」はあるのですけどね。ニコニコしながら見守っているのが本人にばれたら怒られそうだから、みんな気づかれないようにしているだけで。

ヤゲロが馬車を出してくれる

ウースター号の出航は翌朝なので、スティーブンは夕方に出る郵便馬車に乗ってポーツマス港まで行く予定だったのですが、ヤゲロが大使館の馬車を借りて送ってくれることになります。スティーブンはそのおかげで12時間以上余計にダイアナと一緒にすごせることになり、彼に感謝するのですが、ヤゲロは「奥さんが馬車の運転をしたいって言うので、明るくなったらいいと言ったのですが、ご主人の許可を頂かないと…」とか気にしています。スティーブンは「ダイアナは馬車の運転が上手いから心配ない」と答えるのですが、「彼女ならラクダの一群を率いてラウンド・トロットで針の穴に通すこともできる」と、嬉しそうに自慢してるのが可愛い。

ダイアナ、スティーブン、ヤゲロ、銀行家のネイサン、ビリヤードをする。

ヤゲロの馬車のおかげで出発時間に余裕ができたので、他の客が帰った後ビリヤードをすることに。銀行家のネイサンが残っているのは、家が近いのと、ダイアナの財産活用について彼女に相談しようと思っているから。「他の夫婦なら夫にも相談するのだが、スティーブンはダイアナの財産の管理を完全に彼女自身に任せているので」と書かれているのを読んで思い出したのですが、当時の英国の法律では、結婚した女性の財産は夫が完全に自由にできるようになっていたのではないかしら。オーブリー家はどうだったっけ?と思い出してみたのですが、ミセス・ウィリアムズが結婚時の契約書で娘の財産をがっちりおさえているようでしたね。賢い。

ダイアナはビリヤードの名手、スティーブンは下手です。スティーブンは外科手術ではものすごい技術を持っているのに、物事によっては上手いことと下手なことが極端で、器用なんだか不器用なんだかわからない−という話を掲示板でしていたのですが、要は自分が興味があるかないかによって違ってくるのでしょうね。興味のないことはいつまでたってもちっとも上手くならない…ワガママなんだな、要するに。ビリヤードには興味がないので、ゲームはおざなりにやって、部屋の隅にあるオリーブの木(故郷のカタロニアから持ってきた苗)にお別れを言うのに忙しいようです。

ダイアナ、ビリヤードで勝つ。

「肉食動物のように目を光らせ、スリムな身体をビリヤード台にひょいと乗せて」、「目を細め、口の端から舌の先をのぞかせて」キューを構えるダイアナ。想像すると(ゼタ姐で想像している)、むちゃくちゃカッコよく、また色っぽい。彼女が妊娠している可能性があると思っているスティーブンは、彼女の危ない体勢を心配して止めようとするのですが、彼女はかまわず、ひと撞きで台をスイープし、勝利に顔を輝かせて優雅に台から降りるその姿に、スティーブンの心臓は「一瞬止まり」、あとの二人もうっとり。−ほんとにいいのかな、こんな奥さん置いて海に出ちゃって