Chapter 4-1〜ソーントン提督


ジャック、ヘニッジ・ダンダスと食事する

ツーロン封鎖艦隊には、ジャックの親友のヘニッジ・ダンダス艦長もいます。今日はダンダスにディナーに招かれたジャック。物資不足なので食事は大した事はないのですが、こうやって旧友と話をするのは貴重な時間です。艦長には、艦内に対等に話せる相手がいないので…特に封鎖任務だと、おっそろしいほど長い間艦から出られず、互いの艦を訪ねあう事もめったにないようなので。

それでも、暇があればスティーブンと合奏してるジャックはまだいいのですが、ダンダスさんの夜は本当に退屈で、自分の右手対左手でチェスをすることもあるとか。そ、それは寂しい…「君はマチュリンがいて本当に幸運だよ(You are most uncommon lucky to have Maturin.)」と、しみじみと羨ましがるダンダス。

二人は主にソーントン提督の話をするのですが、ダンダスさんは父と兄が元第一海軍卿という名門のドラ息子なので、いろいろ表に出ていない事を知っています:

6) 提督がなかなか引退できないのは、地中海沿岸の複雑怪奇な政治状況を把握していて、外交をこなせるのは彼しかいないため。
7) 何度も帰国願を出してはいるものの、本当は彼自身も引退を渋っている。一度でもいいからフランスと艦隊戦をやらない限り、引退できないと思っている。

カラミー、子牛を運ぶ

ところで、新米士官候補生のカラミーくん(11歳)ですが、大きく逞しい男になりたい!と思いつめ、毎日トレーニングを続けています。ちびなのを気にしている彼に、先輩士官候補生が言ったんですな…「生まれたての子牛を毎日運んでいれば、子牛は毎日成長して少しづつ重くなるから、成牛になる頃には、カラミーもヘラクレスのように牛を持ち上げられるほどの力持ちになれるだろう」と。なんか、木を植えて毎日飛び越す忍者の修行みたい。要はからかわれたのですが、蹴飛ばされながら毎日えっちらおっちら子牛を運んでいるカラミーが可愛いせいか、艦長はじめみんなが声援を送っています。スティーブンを除いて。スティーブンは、そのトレーニング理論のあまりのアホらしさのせいか、今に怪我をすると思っているせいか、けしかける大人たちにあまり感心していないようです。

マーティン、軍法会議と刑罰にショックを受ける

さて、ジャックは到着早々、軍法会議の裁判官役の一人を勤めることになり、正装して旗艦へ。スティーブンは仕事の件(医者と諜報員と両方の)で提督に呼び出されているので一緒に旗艦へ。スティーブンのすすめで、マーティンは後学のために軍法会議を傍聴することになります。

軍法会議で裁かれるのは、水兵の軍旗違反のうち、艦長では裁けない重大なもの(脱走、殺人、金額の大きい盗み、ソドミー(獣姦or男色<おいおい一緒くたか?)、上官を殴った等)、士官同士・士官と艦長の争いなど。長い封鎖任務で、上も下もストレス溜まりまくりなせいか案件リストは長く、ジャックは憂鬱になります。裁判はどんどん進み、絞首刑、艦隊引き回しの鞭打ちなど、重い判決が続出。それにしても、水兵はこんな重い刑を受けるのに、士官は一番重くてせいぜい不名誉除隊っていうのは、やっぱり不公平だなあ。

刑は翌日に執行。マーティン牧師は、死刑になる水兵たちの最後の夜に付き添い、艦隊引き回しの鞭打ち刑を見学するのですが、海軍の野蛮な面に触れてショックを受け、海軍に対する幻想はすっかり覚めた様子。

スティーブン、ドクター・ハリントンと話す

さて、ジャックが軍法会議に出席している間、スティーブンは艦隊医長(physician of the fleet)のドクター・ハリントンとお仕事中。艦隊全般の健康状態を話し合った後、話はソーントン提督の健康のことに移ります。提督の話は全部箇条書きにしてしまおう。:

8) 提督は非常に扱いにくい患者である。
9) 帰国するように何度も忠告したが聞き入れられない。
10) 彼の健康を蝕んでいるのは何よりストレスだが、フランスと大海戦をやって勝利すれば見違えるように健康を取り戻すだろう。

スティーブン、提督と会談

ドクター・ハリントンとの話の後、スティーブンは提督に呼ばれます。ソーントン提督はかつて海軍委員会で諜報関係を担当していたので(当然その方面でも有能)、スティーブンとも顔見知り。

今回スティーブンは反ナポレオン派のフランス人に会うため、フランスの海岸に上陸する予定になっているので、そこまで送ってゆく船が必要。「適当な小型艦がないので戦列艦を出す」という提督に、「それならウースター号にして下さい。」とスティーブンは希望します。オーブリー艦長は気心が知れていて私もやり易いですし、彼は非常に思慮深い(discreet)人間なので。(discreetには『口が固い』という意味も含まれている。)

提督が「オーブリーは有能だし勇敢だが、彼が『思慮深い』と言われるのは初めて聞いたな」と笑うと、スティーブンは「彼は海では思慮深い(discreet at sea.)」と言い直します。つまり、陸では思慮深くないってことね。

ところで、ジャックを噛んだパグ犬のタビサちゃんですが、なぜかスティーブンの顔を見ると尻尾をふりふり膝に飛び乗って来ます。相変わらず動物にはモテモテのスティーブン。「タビーは君が気に入ったみたいだな。彼女は人を見る目があるんだ(rare judge of character)」と、犬好きらしい感想をもらす提督。噛まれたジャックの立場は…?

スティーブン、提督を診察

仕事の話が終わったところで、スティーブンは診察を申し出るのですが、提督は「それは後だ。私はとりあえず健康だ。Mungo's Cordial(民間薬の強壮剤らしい)を飲んどるから大丈夫」と突っぱねます。ハリントンさんが「扱いにくい患者」と言っていたのはこのことか。やっぱりこの人、スティーブンとタイプが似ているような気がする。

しかし、自分と似ているだけに扱い方を心得ているスティーブン、このぐらいでひるんだりしません。「艦隊司令官の健康は海軍にとっての最重要事項」と、問答無用で服を脱がせ、Mungo's Cordialを「二度と聞きたくない」とあっさり却下し、時間をかけてじっくり診察。しかし、特にここといって悪いところは見つからず…要は長年の過酷な艦上生活と、積もり積もったストレスですね。無理もない、この人、軍の司令官と外務省を一人でやっているみたいだから…