Chapter 7-1〜ポート・マオン


ジャック、ソーントン提督に報告する。

封鎖艦隊に戻ってきたジャック。メディナでの件をソーントン提督に報告しますが、そこで意外な話を聞かされます。

提督はメディナにフランス艦がいることを最初から知っていて、この任務の目的はフランス軍に中立協定を破らせることにあったというです。バビントンのドライアド号は、命令通り単独でメディナ港に入って拿捕されそうになったのですが、実はドライアド号をフランスに拿捕させることがそもそもの目的でした。そうなればそれを口実に攻撃し、付近の港からフランス艦おびき出して叩き、フランス寄りの現パシャを廃して英国の息のかかったパシャを送り込む…という作戦でした。計画を台無しにされて、ソーントン提督は「命令違反で軍法会議にかける」と激怒しているのですが…

しかし、これを聞いて怒ったのはジャックの方。「そんな命令はまったく受けていない、命令書を読めばわかるが、ハート提督は中立協定遵守を厳命した」と反論。またバビントンを捨て駒にしようとした提督に腹を立てます。ハートは「口頭でちゃんと説明した」と言うのですが、ソーントン提督には、どちらが嘘をついているか分かったようです。

このソーントン提督の計画ですが、ハートはどうしてあんな、ややこしい伝え方をしたのでしょう。その理由ははっきり書かれてなくて、わかりにくいのですが…どうやらファニーちゃんの件と関係がありそう。

バビントンを犠牲にする計画を包み隠さずジャックに伝えたら、ジャックは怒って断るか、少なくともバビントンには内実を明かして、気をつけるよう忠告するでしょう。敵のいる所へ何も知らずに突進させて、拿捕される前になるべくたくさん犠牲を出させ、その中に艦長が入っていればラッキー…と思っていたのかも。そもそも、この計画を立てたのはソーントン提督でも、犠牲にバビントンを選んだのはハートだったかもしれない。

でも、「中立協定を尊重しろ」と強調したのはなぜでしょう?拿捕されたドライアド号をジャックが単独で救出に行き成功して大手柄、なんてことにならないようにかな?

ハート提督は前からこういう人ですが、こんな計画を立てるソーントン提督ってけっこう冷血。本当に「海軍全体の利益になれば平気で個人を犠牲にする」人なのね。冷徹な人だけど、なぜか憎めないのは、彼が誰よりも自分を犠牲にしているからかな。1巻でジャックがスティーブンのことを「外を一人で歩かせてはいけない人間のような気もするし、艦隊を指揮できるような気もする」と評していましたが、スティーブンが艦隊を指揮したらソーントン提督みたいになるのかも。

ジャック、ウースターの乗員たちが自分に失望していることを感じる。ジャックのold shipmatesとその他の水兵の間にケンカが起こる

ソーントン提督の誤解は解け、軍法会議は免れたジャックですが、気分は落ち込んでいます。メディナの一件以来、艦の中で彼の評判ががた落ちになっているのを感じているからです。

臆病…とまでは言わないけど、消極的、慎重すぎ、事なかれ主義の人を"shy"と表現するのですが…今回初めてジャックの艦に乗り、まだ彼のことをよく知らない水兵の間で「艦長はshyではないか」という評判が広がっています。あからさまに反抗することはないけれど、今まで彼が当然だと思っていた、過剰までの敬意は消えてしまいます。水兵にも士官にも、今まで自分がどれほど崇拝されていたか、それが艦長としての仕事をどれほどやりやすくしていたか、失って初めて実感するジャック。

また彼の古くからのシップメイト、ボンデン、デイビス、ジョー・プライスあたりは、痣を作っていることが多くなります−といっても、もっとひどい痣を作っている人が必ずちゃんといるのですが。つまり、艦長の悪口を言っている連中とやりあったんですな。(ちなみにボンデンは艦隊のボクシング・チャンピオン。デイビスも、船乗りとしては不器用でも喧嘩はめちゃ強そう。)

ところがジャックは、普段から水兵の判断力を信頼していて、彼らの評価はめったに間違うことがないと思っています。なまじそうなので、彼らの非難をもれ聞いているうちに、自分の判断に自信が持てなくなってきます。提督にも指摘されたように、中立協定違反の非難を回避しつつ強引に戦闘に持ち込む手もなかったわけではないし(※)。いろいろ言われているうちに、その時の自分の気持ちがだんだんわからなくなってきて、ひょっとしたら不利な戦いに怖気づいた面もあったのかなぁ…とか思い始めたりして…

ジャック〜しっかりしなさい。あなたは考えすぎるとロクなことはないのよ。あ〜、こういう時こそスティーブンがいればなあ。

※陸に海兵隊を上陸させるなど。陸での小競り合いなら、どちらが先に撃ったかはうやむやにしやすい。

ジャック、メノルカ島へ向う

さて、そのスティーブンですが、今は補給船に乗ってバルセロナからメノルカ島(※)に行っています。彼がスペインで何をしているかというと、フランス政府の高い地位にいる反ナポレオン派大物との会見を根回ししているようです。会見自体は、フランスへ行かなければならないのですが。

スティーブンが提督に頼んだ通り、会見場所(フランス南岸)までスティーブンを送ってゆく役はジャックがすることになり、ウースター号は再び封鎖艦隊を離れ、スティーブンを迎えにポート・マオンへ向います。

※1巻当時(1800年)イギリス領だったメノルカ島は1802年にスペインに返還。3巻当時(1804-5年)スペインは敵国だったが、8巻現在(1812年ごろ)は中立国。

ジャック、ポート・マオンに上陸

メノルカ島、ポート・マオンに上陸したジャック。スティーブンはラバでシウタデラ(メノルカ島の反対側の街)へ行っていて、数日戻らないと聞いてがっかりしますが、せっかく青春後期を過ごしたを思い出の地に来たのだから、昔を懐かしんで一人で少し散策しようと思います。港町はイギリス占領時代とあまり変わっていなくて、ただ街に溢れていた英国軍人がいないぶん、ひっそりとした佇まい。あの花の咲いている鳩小屋は、初めてモリー・ハートと愛を交わしたところ…(<それかい。)

長いこと海で過ごした後なので、陸を歩くとすぐに疲れてしまうジャック。昼食を食べようと、昔の定宿「クラウン亭」に向います。

ジャック、クラウン亭へ。空っぽになっている。

彼が裏口からクラウン亭に入ると、そこは人影がなくがらんとしていました。二階でフトンを干している女性の鼻歌が聞こえる他は、あたりは静まり返っています。ジャックはかつてここで働いていた可愛いウェイトレス、メルセデスを思い出します。あれから10年以上、彼女はもうどこかの兵士と結婚して、子供も沢山いて、太ったおかみさんになっているだろう…

ところが、彼の呼び声に答えて降りてきた女性は、他ならぬ彼女でした。メルセデスはクラウン亭の主人と結婚して、ここの女将になっていたのです。彼女は全然変わっていませんでした。彼がここを定宿にしていた頃と寸分たがわぬ、鳩のようにぽっちゃりとした、つやつや、ぴちぴち、むちむちの…いかんいかん、つい表現がエロオヤジに…「かぴたん・みぃゃ〜〜っく!!」と叫びながら階段をかけおり、彼の腕に飛び込むメルセデス。二人はキスを交わし…二人のキスは思わず、ちょっと熱烈すぎるものになってしまうのでした。

私のメルセデスのイメージはペネロペ・クルスだったのですが、「バニラ・スカイ」とかの彼女だと、ちょっと細すぎ、洗練されすぎかな。メルシィはもっと素朴なかんじで、胸が大きくて、むちむちで…(もういいって)

ジャックとメルセデス、二人で部屋で食事。

夫(クラウン亭の主人)は旅行中で数日帰らない、と彼女は言い、ジャックを「マーメイドの間」に案内し、食事を運ばせて二人きりでディナーをとります。ますます訛の強くなった英語で、彼女は今までの事を話すのでした。夫はうんと年上で、ケチで、わたしの給料を節約するために結婚したの。プレゼントのひとつも買ってくれたことないのよ…彼女の胸の谷間には、昔彼が彼女に拿捕賞金でプレゼントしたダイアモンドのペンダントが下がっていました。

家鴨パイをたっぷり食べ、ワインをたっぷり飲みながら、旧交を(ちょっと温め過ぎなほど)温めたジャック。「カピターンの昔の部屋を取ったからぜひ泊まっていってね」と言うメルセデスに、ジャックは「艦長は艦の外に泊まるわけにはいかないんだ」と断るのですが、彼女は「でも、ほんのちょっとシエスタするだけならいでしょう…?」ここでジャックの目が細ーくなり、頬は薔薇色になり、メルセデスもよく知っている、何か気の利いた(と自分では思っている)冗談を思いついた時の表情になるのですが…

間の悪いときにスティーブンが入ってくる。

しかし、その時、数日戻らない筈だったスティーブンが「彼の生涯で最も歓迎されない登場」をしたため、ジャックとメルセデスがしようとしていたことは…それが何であったにせよ…おあずけになってしまいました。

唐突に部屋に入ってきたスティーブンは、二人の雰囲気にもかまわず、「一刻も無駄に出来ない、すぐに艦に戻って出航してくれ」とジャックを急かします。

スティーブン、ジャックにすぐ出発しなければならないと言う。ジャックは渋るが、艦に戻る。

スティーブンはシウタデラで反ナポレオン派フランス人たちとの会見を根回しして、苦労してやっと確約を取ったのですが、それが当初の予定より3日も早まってしまったようです。約束の日まで時間がないので、彼は1日中ラバを急がせ、強行軍で島を横切って来たのでした。

ジャックは「ここにどうしても会いたい友達がいるから、夕方まで待ってくれないか」と渋るのですが、気がせいているスティーブンはぴしゃりと「これは重要な任務なんだ。旧交を温めることよりも、不倫の関係(spouse-breach)なんかよりも、ずっと重要なのがわからないか?」

むっつりと不機嫌なまま艦に戻り、すぐにウースター号の出航準備にかかるジャックですが…

スティーブン、ジャックに行き先を告げる

スティーブンはジャックにフランス南岸の会見場所を告げ、約束の時間までに着けるかと訊きます。ジャックは「そんなに距離があるなら、風向きを予言できない限りはっきりとは言えない」と答えるのですが、いろいろチェックした後「なんとか行けそうだ」と報告します。しかし、艦に戻って以来ずっと、彼の口調は冷たく事務的な感じで、単に不機嫌なだけじゃなく、(珍しいことに)スティーブンに腹を立てているようです。

「君がクラウン亭で『不倫関係』と言ったのはどういう意味か、ぼくにはよくわからない。しかし、もしぼくの考えている意味なら、言っておくが、そういう皮肉は非常に不愉快だ。」と言い捨て、スティーブンが(これも珍しく)何と言い訳していいかわからなくて口をぱくぱくさせている間に、足音荒くキャビンを出て行ってしまうジャック。うーん、怒らせてしまったかな、と自分の言葉を(またまた珍しく)後悔するスティーブンですが…

でもジャック…本当にメルシィとその気はなかったの?本当に?本当に?(笑)