Chapter 7-2〜即興演奏


スティーブン、「不倫」(spouse-breach)と言った事を後悔する

下司な、失礼な言葉だった。どうしてあんなことを言ったんだろう?疲れて、気が急いていたせいか、それともあんまり色っぽい女性と一緒にいたので、嫉妬を感じたのか?(いやその…まあ、お好きなように解釈して下さい)…などと考え込みながら寝床に入ったスティーブンですが、1日ラバに乗っていた疲れから、すぐに眠りに落ちるのでした。

翌朝遅く、彼が目覚めると、キリックが部屋を覗き込んでいます。「艦長がドクターを呼んでいます。もし目を覚ましていらっしゃったら、朝食をご一緒したいそうです。」

2巻の決闘未遂事件からこっち、この二人のケンカは一晩と続いたことがないんですよね。私としては、仲良しなところはたっぷりと読めるから、たまには喧嘩している二人っていうのも読んでみたい気もするのですが…贅沢かな。

だから、映画の二人のケンカなんかは、けっこう微笑ましく(?)見ていたりしたのですが。

ウースター号、拿捕船のあてがあると思って張り切っている。

ところで、ウースター号の乗員たちは、副長から新米水兵まで異様に張り切っています。なぜなら、元ソフィー号の水兵たちがまた噂を広めたからですな…「ソフィー号の頃も、艦長はよくこうやって、大急ぎでポート・マオンを出航させたもんだよ。そういう時は、行く先には必ず、たっぷりお宝を積んだ敵の商船がいたもんだ。ラッキー・ジャックは秘密の情報網を持っているのさ…」ジャックはまたみんなを失望させると思って気にしています。

なお悪いことに、ウースター号は実際に敵の商船団(しかも護衛なし)と出くわしてしまいます。それを報告しに駆け込んできたマウアット君の人の好い顔には、不似合いな海賊じみた表情が浮かび、「気立てのよい狼」という感じ。(<この表現が気に入ったもので。)しかしそんなものを追っかけていてはスティーブンを時間までに送り届けられないので、泣く泣く無視します。

ジャックとスティーブン、一緒に朝食を食べる

ジャックの食事スケジュールは、だいたいにおいて下記のようになっています。

朝起きてすぐ:最初の朝食
一仕事してから:二度目(メイン)の朝食
午後2時:ディナー(昼食)
夕方ごろ:サパー(夕食)
夜、スティーブンと合奏中:夜食(キリックのトーステッド・チーズ)

あんたはでっかいホビットかって感じですが、まあそれはともかく、ジャックがスティーブンと一緒に食べるのはこの二度目の朝食です。

特にどちらが謝ったというわけじゃないのに、すっかり仲直りしている二人、ベーコンだの卵だのたっぷりついたフル・イングリッシュ・ブレックファーストをゆっくり食べながら、いろいろ語り合います。ジャックは、メディナの一件から艦の雰囲気が悪くなっていることを愚痴り…「それでずっと機嫌が悪くて、怒りっぽくなっていたんだ。こういうのに効く薬はないかな?」(<さりげなく謝っているっぽい。)

ジャックは彼の心を悩ませている疑い(一言でいえば『自分は怖気づいたのか?』ってこと)をスティーブンに相談しようかと思うのですが、彼がこれからどこへ何をしに行こうとしているのかを思い出し、自分のややこしい悩みを話すのはやめておこうと思います。

ジャックは、食後の葉巻を吸っているスティーブンを見つめ、しみじみと「君が行くんじゃなければいいのになあ(I wish to God you were not going.)」と…(ああ、何てストレートな。可愛すぎる)…それに対してスティーブンは「選択の余地はない(There is no option.)」と答えます。

ジャックにも分かっているのでした−ジャックが自分の指揮艦を戦闘に突入させるかどうかに選択の余地がないのと同様に、スティーブンがどこかの遠い入江に上陸することにも、選択の余地がないのだと。

もちろんこの場合、「選択の余地がない」というのは、「強制されている」というのとは全然違うのですが。二人とも、嫌ならいつでもやめられる。でも、生き方を選んでしまった以上、そして目指すものがはっきりしている以上、一つ一つの行動には「選択の余地」などないということ。

だからジャックは、「怖ろしく冷血で、暗く、寂寥としたものを感じる」その入江に、スティーブンを上陸させるのが嫌で嫌でたまらないのに、彼を時間通り上陸させようと、今までの人生で学んだ技術の全てを使い、全力を尽くして艦を急がせている…

ジャックとスティーブン、即興演奏する。

ジャックの優れた船乗りとしての技量(seamanship)のおかげで、時間の余裕を持って入江に着いたウースター号。二人は時間つぶしに合奏します。言葉より雄弁なチェロとバイオリンの会話。「二人とも特別に優れたプレーヤーではないが、表現したいものを表現するだけの技量は持っていた。」ここで二人が弾いているのはハイドンですが…これ、聞きたいなあ。

"Musical Evenings with the Captain"という、このシリーズに名前が出てくるものや、他にも彼らが演奏したであろうバイオリンとチェロの曲を集めたCDがあります。私はよくそれを聞きながら、合奏するジャックとスティーブンの姿を思い浮かべているのですが…即興演奏の曲はありませんでした。入れてくれたら面白かったかも。