マスター・アンド・コマンダー Master and Commander:The Far Side Of The World
感想(ネタバレなしバージョン)



<全体的な感想>

この映画に対する私の期待の大きさたるや、かつてないほどでした。何しろ、この映画を観るのが主目的で「世界の向こう側」からロンドンまで出向いてしまったぐらいですから。映画に対する期待が大きすぎると、観た時につまらなく感じてしまうというのはよくあることで、実はちょっと心配だったのです。バランスのとれた評価をするには、2度は観ないといけないかな?と思っていたのですが…意外にも、1度目から完全に心を奪われました。

ロンドンでは3回観たのですが、3回とも観終った瞬間に、すぐまた観たくなりました。とにかく、いつまでもこの世界に浸っていたいという感じ。放っておいたら私は、正味4日間のロンドン滞在中、ずーっとこの映画を観て過ごしてしまいそうでした。さすがにそういうわけにもいかず、3回で我慢しましたが。

でも、公平に言うならば…私、この映画が「客観的に見ていい映画」なのかどうかは、なんかもう判断がつかないのです。原作への思い入れが強すぎて、原作ファンでない人が見てどう思うか、よくわからないのですよね。「恋に落ちたらアバタもエクボ」状態になっているのかなあ、とちょっと不安ではあります。まあ、海外の(原作ファン以外の人の)批評を読む限りでは、大丈夫そうですけど…


<ストーリー(ネタバレなし)>

「1805年4月−ナポレオンはヨーロッパの支配者であった−彼を阻止できるのは英国のみ。海は戦場となっていた…」

「サプライズ号 28門、乗員197名 ブラジル沖 ジャック・オーブリー艦長に対する命令書−太平洋に向っているフランス私掠船アケロン号を阻止し、沈めるか、焼き払うか、または拿捕せよ」

大海原に浮かぶサプライズ号の美しい姿を背景に、まずこの2つの字幕から、映画は始まります。

最初のシーンは、夜半直八点鐘(午前4時)。夜明け、サプライズ号は深い霧に包まれている。狭苦しい下部甲板で揺れている水兵たちのハンモック、食用に飼われている牛とヤギが映り、その間を歩いてゆく人影。艦長の給仕キリックが、艦長の朝食のために卵を取りに行くところ。

甲板を預かっているのは二人の士官候補生−29歳の「万年士官候補生」ホラムと、17歳のカラミー。ホラムの望遠鏡に一瞬、船の陰が横切る。カラミーはホラムに「戦闘準備(beat to quarters)するか?君は当直士官(officer of the watch)だから、君が決断しないと」と言うが、優柔不断なホラムは決断できない。代わりにカラミーが「戦闘準備」の命令を発し、全員が位置につく。軍医は救護室で手術道具を並べ、艦長は剣を帯びて甲板へ急ぐ。そして…

…と、いうのが物語の始まり。

その後のストーリーは非常に直截かつ単純にまとめてあって、原作を知らない人にも分かりやすくなっています。原作のストーリーとはまるで違うのですが、2時間の映画にするには、この方法で正解…というか、この方法しかなかったと思います。

原作は1巻づつ完結した物語というより、20巻一続きの長い長い物語です。だから、どの一部を取り出してまとめても、結局中途半端になってしまったと思うのですよね。この映画は、10巻の大枠だけを借りて、中身を一旦全部とっぱらい、そこに海戦と嵐のシーンを入れて、残った時間に「キャラクターを描く」ことを主眼に別の巻のエピソードやオリジナルのエピソードを盛り込む…という構造になっています。

その盛り込み方がなかなか絶妙で、原作ファンならツボをつかれて何度も見たくなるだろうし、原作ファン以外なら、キャラクターに興味が湧いて原作を読みたくなるでしょう。

この脚本は、ストーリーを変えながら原作のスピリットに忠実だという点で、「L.A.コンフィデンシャル」の脚本並に優れていると思います。

<登場人物(キャスト)>

ジャック・オーブリー(ラッセル・クロウ):ラッセル・クロウの場合、彼の演技がどうとか、適役かどうかとかは、あまり考える必要はない。なにしろ、映画を観ている間は「ラッセル・クロウが演じている」ことなんかすっかり忘れて、役の人物だけを見ていることになりますから…そういう意味では、この映画も「いつものラッセル」です。

映画版のジャック・オーブリーに対する心配は、役者よりむしろ脚本でした。原作のジャックの、あの愛すべき抜けたところが消えて、ひたすらヒーローっぽくなっているのではないかと。

で、結論をひとことで言えば−「100%原作のイメージではないけど、映画版のジャック・オーブリーも好きだ」ってところかな。確かに、原作よりは大分かっこいい方に寄っているかも。でも、ジャックのユーモアや温かさは、意外なほどよく描けていたと思います。

スティーブン・マチュリン(ポール・ベタニー):ジャック=ラッセルと違って、彼はビジュアル的にあまりにも原作と違うんで、ちょっと心配だったのでした。しかし…いや、うん。原作のイメージとは全然違うけど、「このスティーブン」もなかなかいいじゃないか。よかったねぇスティーブン、こんなにカッコいい人に演ってもらえて…(<?)うむ、原作の彼の内面的なかっこよさが、映画では外見に表れていると解釈しよう(笑)。

ポスターや予告編から、映画はあくまでジャック中心でスティーブンはほんの脇役なのかな、と心配していたのですが、そんなことはなかったです。スティーブンファンとしても、満足のゆく充実ぶり。あ〜、あのシーン、早くもう一度見たいよぅ〜(悶)。

現在、私の頭の中では「原作を読んで私が想像していたジャックとスティーブン」と「映画のジャックとスティーブン」と「映画の印象を加味してイメージし直した原作のジャックとスティーブン」がぐちゃぐちゃになって、ちょっと混乱状態なんですが(笑)。

ジャックとスティーブン以外で目立っていたのは、何と言ってもブラックニー士官候補生(マイケル・パーキス)13歳。ちと目立ちすぎの感もあるのですが…とにかく可愛らしくて、日本の女の子にウケそうな感じかな。

原作ファンにウケること間違いなしなのはキリック(デビッド・スレルファル)。原作のイメージ通りという点では、彼が一番かも。

あと印象的なのは士官候補生のホラム(リー・イングルビー)とカラミー(マックス・ベニツ)。この映画では、海尉より士官候補生が目立っていたような…そのあおりを受けて出番が少なかったプリングズ副長(ジェームス・ダーシー)とマウアット二等海尉(エド・ウッダル)はお気の毒。ボンデン(ビリー・ボイド)は思ったとおり可愛すぎ(<褒めているのではない)だけど、幸か不幸か出番は少ない。プリングズ、マウアット、ボンデンのシーンはかなりカットされていると思しく、今からDVD特典映像に期待かな。

他には、最年長水兵のジョー・プライス(ジョージ・インズ、手の刺青に注目)、ちょっと生意気な船大工助手のナイグル(ブライアン・ディック)、スティーブンのサーバントのパディーン(ジョン・デサンティス、セリフはないがとにかくデカい)、海兵隊長のハワード(クリス・ラーキン)、軍医助手のヒギンズ(リチャード・マカベ)…きりがないので、このへんでやめておきます。

<ちなみに…>

この映画、原作を読んでいなければわからないということはないけれど、知っていればより楽しめることは確かだと思います。たとえば、六分儀で天体観測するところや、艦のスピードを測っているところ、それから砲を…ああいう風に改造するところ…これらのシーンの意味が分かる程度には、勉強しておいてよかったと思いました。

あ、それとひとつだけ…オフィシャルページの「Captain's Log(艦長の日誌)」ですが、あの内容は映画のストーリーそのままというわけではないようです。

<結論>

この映画は、なるべく大きなスクリーンの、サウンド・システムの良い映画館で、前の方の真ん中の席に座って観る事をおすすめします。実際にその場にいるような迫力を100%満喫するために。

この映画に対する批判では、「中盤あたりがダレる」というの多いようなのですが…そうかなあ?まあ、アクションにしか興味がない人にとってはそうなのかしら。原作ファンにとっては、その中盤こそが、泣いて喜んじゃうようなシーンが満載なんですけど。私に言わせれば、この映画の唯一の欠点は短すぎること。2時間18分か。あと20分ぐらいはいけたんじゃないかなあ。

それと、この映画に「ロマンスの要素がないから女性に受けない」と言う人は、わかってないなーと思うのです。女性はロマンスにしか興味がないと言うのは偏見じゃないのか?(ま、自分を基準にして女性一般を語ることはできないと思うが…)

個人的には、この映画は女性こそ楽しめる要素が満載だと思うのですが。だって、ロマンスはないかもしれないけど、愛はある(笑)。

早くもう一度見たい。それと、是非このキャスト・スタッフで続編を!



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