Chapter 10-2 真相


スティーブン、デュアメルの亡命をダンダスに頼みに行く。

幸い、ヘニッジ・ダンダス艦長のユーリデシ号がもうすぐ北米基地に向う予定だったので、スティーブンは彼にデュアメルのことを頼みに行きます。

スティーブンは話せる範囲で事情を説明しました。ある人物が亡命を希望している−カナダまでの航路を確保してくれれば、ジャックにとって非常に役に立つ情報をくれると言っている。その人物は完璧な英語を話すので、言わなければフランス人だとはわからないし、「艦長の客」として乗艦させてくれれば、船酔い体質なのでずっと船室にこもっていて面倒はかけないだろう…

ダンダスはそれだけでは納得できず、スティーブンが騙されているのではないかと心配します。「これだけの話では、信用できないのは当然です。しかし、全てをお話するわけにはいかないので…少なくとも、これをお見せすることはできます。」スティーブンはブルー・ピーターを見せました。「すごい宝石だ。サファイアですか?」「ブルー・ダイアモンドです。ダイアナのもので、ある事情でフランスに置いて来ざるをえなかった。その人物はこれを届けてくれたのです。彼がこれを我が物にしても、誰にも気づかれることはなかったでしょう。それなのに、これから亡命しようという男が、これほど持ち運びやすい財産を何の条件もつけず、ただ約束を守るために返してくれた。私が彼を信用している理由の一つです。」「情報を先にもらって、それが本当にジャックの役に立つものだった乗艦を許すという条件ではだめですか?」「だめです。」

ダンダスはそれでもまだ迷っていましたが、しばらく熟考した後、乗艦を許可する旨の手紙を書いてくれました。

デュアメル、彼の知っている3人の二重スパイの名前を明かす。

翌日、デュアメルは時間どおりにブラックスへやってきました。スティーブンは彼を人気のない図書室へ通し、ダンダスの手紙を渡しました。デュアメルは感謝し、話を始めます…

「私が知っている英国政府内のフランスのスパイは3人いる。一人は昨日話した『連絡相手』だ。よく一緒に狩りや釣りをした…友人だった。君も会えば気に入っただろう。いい人間で、いいエージェントだった。昨日言ったように、彼は使い捨てられた。彼はパルマーという偽名を使っていた。

「もう一人は、金遣いの荒い、底の浅い人間で、いいエージェントではない。尋問されればすぐにベラベラ喋るタイプだ−君も知っているアンドリュー・レイだ。君がマルタで気づかなかったのには、正直言って驚いた。」

それを聞いた瞬間、スティーブンは全てが思い当たり、今まで気づかなかった自分の愚かさに顔が赤くなる思いでした。「あんな軽薄な、信用できない男をフランスがスパイとして雇うとは思わなかった…」「そうだな。しかし、もう一人のエージェントが彼と親しく、彼の引きでスパイになったんだ。その男については、『スミス』という偽名しか知らない。レイよりずっと高い地位の人間で、有能で重要な情報源だ。

「しかし、『スミス』もレイ同様派手好きな男で、金に困っていた。二人は何かにつけてフランス諜報部に金を要求していたが、最近こちらで組織の改変があって、あまり金を出さなくなった。『スミス』はしつこく要求したが、フランス側は『最近の情報は質・量ともに不十分』と断った−それは事実だからな。『スミス』は、あと数週間でサー・ジョセフ・ブレインを完全に排除し、国防委員会を掌握できる、そうすればもっとよい情報を送れる、と言った。それでも二人は金を引き出せなかった。困り果てた彼らは、証券詐欺を思いついた…

スティーブン、気が付かなかった自分のうかつさにショックを受ける

この言葉に、スティーブンはふたたび大ショック、自己嫌悪。なぜ気づかなかった?レイが珍しく借金を返してきたのは、株が暴落する直前だった−そして、レイ夫人の言葉。イカサマトランプの一件以来、ジャックに個人的な怨みを抱いているレイ…

「二人は高騰した株を売り抜けてかなり儲けた。しかし、それでも彼らの借金を完済するには足りなかった。で、彼らはまず、『高額な紙幣が手に入ったので、北欧市場に流す』と言った。次に、君をフランスに引き渡すことを約束して金を要求した。しかし、紙幣の件は途中で撤回され、君はフランスに来なかった。諜報部長のラカンは激怒して、月々の手当ても含め全ての送金を中止した。二人は今、追いつめられているはずだ。最近スミスは『英国政府についての非常に価値の高いレポート』を用意すると言ってきた。

「前回英国に来た時、パルマーと釣りをした。その時、彼が証券詐欺の件を教えてくれた…彼に多額の賞金がかけれられたので、逮捕されることを怖れたスミスとレイが彼を殺させた。逃がそうともせず、殺したんだ。許し難いことだ。単なる犯罪行為だ…」

「君の話に確たる証拠はあるのか?」「今はない。しかし、あと5分で提供できる。

デュアメル、証拠を提供する

二人が話していた図書室には、セント・ジェームズ・ストリートを見下ろす窓がありました。デュアメルはそこから見ているようにと言い残してクラブを出てゆきます。

スティーブンが見ていると、ホワイトホール方面から、レイと財務省の高官レッドワードが腕を組んで歩いて来るのが見えます。デュアメルが近づくと、二人は彼に挨拶し…しばらく話した後、レッドワードとデュアメルは小包と封筒を交換し、そのまま別れました。二人は所属のクラブ「バトンズ」に入り、デュアメルはスティーブンの方を振り返りもせず、反対方向へ歩み去りました。

スティーブンは慌ててメモを殴り書き、クラブのボーイに向って叫びました−「これを、大至急サー・ジョセフの自宅に届けてくれ!」「サー・ジョセフなら、ちょうど今お見えですよ。ウォーレン大佐の腕にもたれて。


蛇足解説:腕を組む男たち

ここで10巻は終わりです。(いつもながら、「ここで終わりです」と書かないと終わりだとは絶対分からない終わり方だなあ…)で、ちょっとだけ解説を。ほんとーにほんとーに蛇足な解説なんですが。あー、9章の感動的なクライマックスの後で、こんなこと書くのも顰蹙を買いそうだけどなあ…

問題は、「サー・ジョセフがウォーレン大佐の腕にもたれて入って来た」というこの幕切れの一言なんです。最初に読んだ時、私は「え、え、どういうこと?」と慌ててしまいました。最初、サーは具合が悪いのか、怪我でもしているのかな?と思ったのですが、次の巻を読んだら、全然そんな話はないし。それでは、サーとウォーレン大佐には、何か特別な関係が?…でも以降の巻にも、そういう話はまるでないし。大佐はこの後、まったく出てこないし。

ならあっさりスルーすればいいのですけど、最後の文なので、なんか意味ありげなんですよね。特に、実はホモカップルであるレッドワードとレイが「腕を組んで歩いていた」という文のすぐ後だし。

しかし、レイもレッドワードも政府の要職にある人間。この時代にカミングアウトしているわけもなく、ひた隠しにしているはず。(レイは偽装結婚してるし。)秘密のカップルであればなおさら、人通りの多い官庁街で疑いを招くような目立つ行為はしないはずです。

そこで例によって、説明を求めてGunroomを検索してみたのですが…ウォーレン大佐のことは、まったく話題になっていませんでした。ここを気にしている人は、あまりいないようです。ただ別のことで、「この時代には、男性同士が腕を組んで歩くのはごく普通のことだった」というのを読みました。親しい友人同士が腕を組んだり、頬や額にキスしたり、話す時に相手の胸や膝に手を置いたり(これはジャックとスティーブンもよくやってますが)、マイディアとかジョイとかソウルとか呼び合ったり、単なる経済的理由から同じベッドに寝たりすることはごくありふれたことで、特に変だとは思われなかったそうです。ヴィクトリア時代には、もうかなり変わっていたようですが…

多分、そういうことをするとすぐにゲイだとか思う現代人の方が意識過剰なんでしょうね。

ちなみに、Gunroomでこの話が出てきたのは、ネルソンのいまわの際の言葉が「Kiss me, Hardy」(Hardyは部下の名前)だったという事実にからんででした。「美女ありき」という映画でこれを聞いた時、私も「え??」と思ってしまったのですが…何事も、一概に現代の基準で見てはダメということですね…

結論として、サーとウォーレン大佐は「密談中だったので頭を近づけていた。クラブのボーイには、それがもたれているように見えた」というのが、無難な解釈かと思われます。

蛇足その2:疑問点

これで11巻を締めくくるのはちょっとアレなので(笑)…

レイと「エージェント・スミス」ことレッドワードがジャックをハメた動機については、ちょっと分かりにくい点があります。

まず「フランスの諜報員が(サー・ジョセフはともかく)何の目的でジャックを陥れたのか?」という点。

これについては、この株式詐欺自体はほぼ純粋に金目当てで、彼らがフランスのスパイであることにはあまり関係がない−と考えるべきかと。主目的はあくまで「自分たちは安全圏にいるまま株価をつり上げさせ、売り抜けて儲ける」ことで、恨みのあるジャックを陥れたのは「行きがけの駄賃」だと思います。

考えたのですが、レイのジャックに対する恨みって、意外と深かったのではないかな?レイは5巻でジャックに糾弾される前は、トランプのイカサマでかなり儲けていたのではないでしょうか。でも、一度公式に非難された以上、もう危険が大きすぎてイカサマはできない。しかし、ギャンブル中毒のレイはトランプをやめられない。借金はどんどんかさんでゆく…イカサマさえできたら負けないのに。これもオーブリーのせいだ…と、逆恨みを募らせていたということは、十分考えられるかと。

もう一つ分からないのは、「レイたちはなぜ、ジャックが父にこの話をすることを予想できたのか?」という点。ジャック自身は噂も広げず、株も控えめに買っただけなので、父とその仲間が派手にやらなければこれほどの事件にはならなかった筈。急進派を攻撃する目的で政府が「協力」してくれることもなかったので、彼らの思惑通りにいかなかったのでは?

これについては、いくつか可能性を考えてみました。

(1) レイたちは、ジャック自身が欲にかられてもっと派手に買い、噂を広めると思っていた。ジャックの性格を一部はうまく利用したが、一部は読み違えていた。(しかし父が代わりにやってくれたので結果オーライとなった。)
(2) レイたちは、ジャックの父にも別ルートでこの情報を流すつもりでいた。ジャックが偶然クラブで父に会ってこの話をしたので、手間が省けた。
(3) ジャックがクラブで父に会ったのは実は偶然ではなく、同じクラブに所属するレイたちの細工であった。
(4) レイたちは、ジャックの父の取り巻きの中に手下を送り込んでいた。その手下が株を買ったり噂を流したり、ジャックひとりを逮捕させて姿をくらますところまで誘導した。

いろいろと辻褄が合うのは(4)かなあ…

いろいろ、きりがないので、このへんで。11巻と12巻は、私の中ではペアになっているので、12巻もすぐに始めたいと思います。大好きなんです、この2冊。