Chapter 1〜ウォンバットとクリケット


ここは香料諸島(Spice Islands)、ジャワ島プロ・バタンの港。見る影もなくボロボロの状態で、レパード号は入港した。

荒涼島から香料島へ…(日本語でしか通じないダジャレ。)

「スティーブン!君のウォンバットがおれの帽子を食べている!」レパードの甲板で、ジャックは叫んだ。彼は旗艦に呼び出されて出頭するところで、一張羅の軍服に着替えていた。「心配ないよ、ジャック。食べても害はない。ウォンバットの消化器官は…」ウォンバットは帽子を放し、スティーブンの腕の中へ駆け登り、深い愛情のこもった目で彼を見つめた。「しょうがないな。抱えていればわからないだろう…」ジャックはレースが破れた帽子を拾い上げ、旗艦へ向うボートに乗り込んだ。

そういう問題じゃない…(ジャック独白)

レパード号は5巻と6巻の間でオーストラリアへ寄ったみたいですが、非常に短い滞在だったようで、スティーブンは不満たらたら。それでも、ウォンバットと他の有袋類を連れてくる時間はあったみたいで。レパード号にはウォンバットだけでなく、カンガルーも乗っているようです。海に浮かぶ牢獄の役割を終えたと思ったら、海に浮かぶ動物園と化しているな。んーでも、このウォンバット、かわいー。

「オーブリー、よく無事だったな!死んだとばかり思っとったぞ!」提督はジャックを歓迎した。提督は彼に、グラント副長のボートが喜望峰に着いたことを話した。ジャックは提督に今までの経緯を説明した。ワークザームハイド号を沈めたことを説明すると、提督は喜んだ。「…そういうわけで、その島を出た後、ボタニー・ベイに到着しましたが、ブライ艦長の問題はもう決着がついていました。そこで残った流刑囚を降ろし、ここに来たというわけです。」「よくやった。歓迎するぞ。私は君が死んだと思っていた。しかし、奥さんは君の死を信じなかった。彼女の手紙があるぞ」提督が差し出したソフィーの手紙の字を見て、ジャックは彼女の声が聞こえ、姿が見えるような気がした。

「海軍省も君を諦めていなかったぞ。君をアカスタ号の艦長に任命した。もうすぐラ・フレシェ号が入港するから、それに乗って一刻も早く英国へ帰れという命令だ。ところで、その前に…君の艦、11人出せるか?艦対抗で100ポンド賭けてクリケットの試合をしているんだ。」提督は言った。


この提督はクリケット狂、ジャックも実はかなりクリケット狂です。あー、今回ずいぶんクリケットのことを勉強してしまったよ。このシリーズを読んでいるといろいろ勉強になります。いやほんと。

スティーブンは、当地の諜報責任者であるウォリスに会った。「マチュリン!君は死んだものと諦めていたよ。」「ウォリス、会えて良かった。ペニスの具合はどうだ?」前回会った時、ウォリスがユダヤ人になりすます必要があったので、スティーブンは彼にある種の手術を施していたのだ。「大丈夫だ。」ウォリスはちょっと顔を曇らせた。「まあ、手術前と同じというわけにはいかないが。…それより、君の航海の話をしてくれ。サー・ジョセフも君の事を心配してた…彼は元の地位に完全に復帰したんだ。喜望峰から君の手紙が届いた時は喜んでいたが…」「ボートは喜望峰に着いたのか?」「グラントの指揮してた一艘だけな。君の書類は水に濡れて、血の染みもついていた−グラントは部下と争ったみたいだな。」

スティーブンは彼に今までの経緯を説明した。「…そういうわけで、ミセス・ウォーガンはその毒入り書類を持って捕鯨船でアメリカに逃亡した。彼女があれをフランスに渡しているといいが…」「彼女は渡したよ。素晴らしい効果を上げている!フランス諜報局は大混乱だ。お互いを信用できなくなって、殺しあっている。サー・ジョセフは大喜びだよ。この混乱を最大限に活かすために、君にすぐ帰って欲しいそうだ。彼の手紙だ。」ウォリスは手紙の束を差し出した。


まったく、スティーブンったら…いや、事情はわかるよ、事情は。医者として心配なのもわかる。しかし、久しぶりに会った友人へ、開口一番の挨拶がそれかい(爆)。

スティーブンは領事館でジャックに会った。ジャックは、レパード号がここで輸送艦になること、新しい艦をもらったのですぐ英国に帰ることを彼に話した。「ところで…君はバットとボールを扱えるかい?」「失礼な。僕は故国では、ハーリングにかけては並ぶものがいなかったんだぞ。」

ジャックはソフィーからの手紙に没頭した。彼女はジャックとグラントがうまく行っていないことを知っていたので、グラントの言葉を信用せず、ジャックが無事でいることを信じて疑わなかった。彼女の手紙はジャックを感激させた。しかし、手紙に書かれているキンバーの動向を読むと、だんだん心配になってきた。彼は英国を出る際、出発間際のごたごたの中で、ろくに目を通さずにいくつかの書類にサインし、キンバーに渡してしまっていたのだ。もしキンバーが彼の財産を自由にしていたら…

スティーブンは、「今ここで何も分からずに心配していても仕方ない、英国に帰るまではそのことは忘れろ」と忠告した。


ハーリングはアイルランド伝統のゲームで、本国では今でも大変人気のあるスポーツだそうです。紳士的なクリケットと違いとても激しく危険なスポーツで、プレーヤーの勇気と技量が試されるそうです。意外に血の気の多いスティーブンにはぴったりのスポーツかも?

後の方の巻で、ジャックが部下たちと何日もかけてクリケットの試合をしているのを、スティーブンが「よくこんな退屈な競技をやってられるな〜」みたいなことを言いながら見ているシーンがありました。確かに、アイスホッケーみたいな激しいスポーツがお好みの人なら、野球みたいなきっちり攻守が分かれた時間のかかるゲームは退屈に思えるだろうなあ…と、私はクリケットとハーリングがぴんとこないので、自分の知っているスポーツに置き換えて考えていたのです。でも、いろいろ読んでみると、クリケットって実際、好きな人以外には退屈な競技のようですね。

キンバー氏については5巻1章を参照。

レパード号のメンバーは、大張り切りで旗艦カンバーランド号とのクリケット試合に臨んだ。スティーブンも参加するつもりだったが、途中でウォリスに呼び出され、彼の家に書類作成を手伝いに行った。彼がウォリスの報告書を暗号化していると、レパード号の士官候補生が息せき切って駆け込んできた。「ここにいらしたんですが!病院にもマダム・ティティンの店にもいらっしゃらないから、探しましたよ!」「落ち着きたまえ、ミスタ・フォーショウ。どうして僕がマダム・ティティンの店にいると思ったんだ?」「いいから、早く来てください!負けそうなんです!」

「マダム・ティティンの店」っていうのは…たぶん、売春宿でしょうか(笑)。

「敵のウィケットを倒せばいいのか?」スティーブンはフォーショウに訊いた。「そうです。とにかく、自分のエンドを守って、あとは艦長がやりますから。」スティーブンとジャックが打者に立った。カンバーランド号の投手は提督で、彼がボールを投げると、スティーブンはそのボールを彼のハーラー(バット)で止め、ドリブルしながら走った。全員が唖然として見守る中、彼はボールを反対側のウィケットに思い切り叩き込んだ。

その時、ラ・フレシェ号が入港し、礼砲が港に轟いた。


ここは…実は最初読んだ時何のことかさっぱり分からなかったですが…要するに、クリケットのルールを知らないスティーブンは、勝手にハーリングのルールと混同して無茶苦茶をやってしまっているということらしいのです。クリケットのルールも知らず、ハーリングに至っては見たことも聞いた事もないという日本人には分からないわ。野球を全く知らない人が水島新司の漫画を読んだらこんな感じかしら。

気を取り直して…色々調べてみたのですが、ハーリングのルールはホッケーとかラグビーに近くて、要は「ボールを敵のゴールに入れる」ことで得点します。一方、クリケットのルールは基本的に野球に似ていて(というより、クリケットが野球のご先祖なのですが)、「ボールを飛ばし、それが戻ってくる前にどこかを走り抜ける」ことで得点になります。野球と違うのは、打者は1人ではなくペアになっていること。(他にもいろいろ違うところはありますが。)どうも、木製の棒(クリケットはバット、ハーリングはハーラー)を使うということ以外では、クリケットとハーリングは似ても似つかないようなんですが。

私も即席で調べただけなので、クリケットのルールを説明するのは、まことに心もとないのですが…クリケットには「ウィケット」と呼ばれる門が2つあって、守備側はボールをぶつけてそれを倒そうとする、攻撃側は倒されないようする。攻撃側は、2人の打者がペアになり、1人がボールを打つ。ボールが遠くへ飛んだと判断したら、打者は2つのウィケットの間を走る。反対側のウイケットに到達すれば1点、往復すれば2点。走り抜けるまでに野手がボールを戻し、ウィケットを倒したらアウト。野球に似てますね、やっぱり。

フォーショウ君は「敵のウィケットを倒す」というのを「敵の攻撃中にウィケットを倒す」という意味にとったのだと思いますが、スティーブンは反対側のウィケットが「敵のウィケット」だと勘違いしたようです。

こんな説明では、当然分からないと思いますので…クリケットに興味がある方がいましたら、ここのページが絵もついていて分かりやすかったです。