Chapter 3-1〜漂流


全長5.5mのカッターに13人が乗り込んでいた。ジャック、スティーブン、海尉2人、士官候補生4人、ボンデン、キリック、そして海から助け上げたラ・フレシェ号の水兵が3人。ラ・フレシェが爆発したその夜、彼らは激しいスコールの中、他のボートを見失っていた。熱帯の太陽にさらされて、彼らは黙ってじっと耐えていた−飢え、渇き、暑さ、日焼け、そして恐怖に。

数週間が経っていた。カッターにはマストがあったが、帆は喜望峰で掌帆長が売り飛ばしてしまっていたことが判明した。彼らはシャツで帆を作った。(キリックがとっさに持ち出した艦長の正装用シャツが役に立った。)彼らの背中は過酷な日差しにさらされて火ぶくれになっていた。艦長はここの正確な位置を掴んでいると断言し、陸に向かう針路を取っていた。ドクターは海鳥を指差し、あれは陸より数百マイル以内にしかいない種類だ、と言った。彼らは希望を持ち、まるで時鐘に従うように規則正しく交替で当直をしていた。しかし−夜露をなめ、尿を飲み、ベルトの革を噛んで耐え忍んでも、水と堅パンの残りは少ない。


5巻の始めから、とどまる所を知らない災難の連続、100ページに1度はジャックとスティーブンのどちらかが死にかける、という勢い。まさに「巻置くをあたわず」って言うか…このへんを読んでいる時、仕事中と睡眠中と食事中以外はぶっ続けで読んでいました。仕事と睡眠はある程度以上削れないので、どうやったら食事時間(食事を用意する時間も含めて)を削れるか真剣に考えましたよ。いや、本当の話。

4巻で、やはり喜望峰で艦の備品を売り飛ばして軍法会議にかけられる掌帆長が出てきますが、喜望峰には盗品売買ルートでもあるのでしょうか。(まあ、大きな港ならどこにでもあるのでしょうけど)こんな状況で帆がないと気づいたときのジャックたちの気持ちはいかばかりか。その掌帆長を呪い殺してやりたいでしょうね。

ボンデンの鋭い目が、遠い影を捉えた。「船影です!」全員が色めきたった。ジャックは遠い船の針路と交わるコースを取った。日が暮れる前に、あの船の見張りが見える所まで近かなければ。彼らはハンカチや雑嚢を縫い合わせて新たな帆を作り、風を必死で捉えようとした。が、風は弱くなり、ついに止んでしまった。日暮れは迫っている。彼らはオールを出し、疲れた身体に鞭打って必死で漕いだ。

どんなに不注意な見張りでも、もうカッターに気づいているはずだ。船の甲板の人が見える距離に近づいた−彼らは見張りを立てていないのか?もう声が聞こえる距離だ。「さあ、呼びかけるぞ。1、2、3!」ジャックの合図で、全員が声を揃えて叫んだ−「おおい!おおい!」その時、船は帆を張り増し、スピードを上げてカッターから離れて行った。ジャックは合図にピストルを発射した。「おおい!おおい!」しかし、まるで気づかないかのように、船は彼らを見捨てて行った。日が落ち、あたりは暗闇に包まれた。

必死で漕ぎ続けた男たちの苦しげな息と、士官候補生のすすり泣く声が聞こえた。ラ・フレシェの水兵の1人、ライクスの息が止まった。スティーブンが心臓マッサージをして蘇生させた。「元気を出せ、みんな」ジャックが言った。「少なくとも、我々は航路筋にいるってことだ。明日のうちに陸か船が見える方に10ギニー賭けるぞ。」「そんな賭けには乗りませんよ。艦長が勝つに決まってますからね」バビントンが答えた。


漂流者に気づいているのに見捨てて行っちゃう船って酷いですよね。何か、人に知られたらまずい事をやっている船だったんだろうか…

それにしても、どんなに厳しい状況でも、ジャックがいるといないじゃ大違いだな〜と感じます。優秀な船乗りだということ以上に、なんか言葉では説明できない頼りがいがあるのですよね。こういうのって生まれつきなんじゃないかと思います。

ライクスが死んだ。死体を食べることは誰も口には出さなかったが、彼らは死体を海に落とそうとはしなかった。

ある夜、スティーブンは目覚めた。彼は息を止め、極度の空腹からくる腹部の痙攣をやり過ごした。ジャックは座っていた−ジブラルタルの巨岩のようにじっと動かずに。まるで、飢えにも渇きにも、疲労にも失望にも影響を受けていないようだ。彼は痩せ衰えていたが、月の光の中ではまるで変わっていないように見えた。スティーブンが起きたのに気づくと、ジャックは微笑み、暗い中に白い歯が光った。彼はスティーブンの肩を叩き、北を指差した。「雨…すぐだ。」彼はかわき切った咽喉から、なんとかそれだけ声を絞り出した。

スコールが来た。彼らは水を集めようとしたが、その必要はなかった。雨はあまりに激しく、ボートが沈まないように汲み出さなければならなかった。彼らは上を向き、雨水をごくごくと呑んだ。「うわっ!」雨の中、バビントンが叫んだ。「何か柔らかいものが…」カッターはトビイカの群れに突っ込んだのだ。何百匹というほのかに光るトビイカがあたりを埋め、次から次へとボートに飛び込んできた。彼らはイカを拾い上げては、生きたまま食べた。


イ、イカの踊り食い…(違)。しかし…非常時でもないのに生のイカを食う民族がいると知ったら、彼らは驚くでしょうね〜(笑)。われわれ日本人からすれば、海の上にいるのにあまり魚を獲らずに、毎日毎日塩漬け肉なんて食べている彼らの方がフシギですけど。

それでも、空きっ腹にナマのイカ、胃にこたえそうだ…

夜明け。霧が晴れると、風下2マイルの地点に船が現れた。ジャックは黙ったままカッターを風に乗せた。誰も、何も言わなかった。その船はあまりに蜃気楼のようで、口に出せば消えてしまいそうで怖かったのだ。

近づくにつれ、それは蜃気楼ではなく本物の船であることがはっきりした。軍艦だ。国籍はわからない…敵艦か、味方か…今はどちらでもかまわない。望遠鏡でじっと見つめていたジャックが、初めて口を開いた。「…英国艦だ。おお、神よ…あれはジャワ号だ。」

ひとつだけ問題があった−救助が確実になった今、ライクスの死体を海に落とすべきだろうか?死体はひどく膨れ上がっていたし、誰も何も言わなかったが、夜のうちに太腿のあたりを食べられた跡があった。しかし、ラ・フレシェの2人の仲間は、ここまで来たらちゃんと水葬をしてやりたいと言った。ちゃんとハンモックに包んで、砲で重しをつけて、牧師が聖書を読んで。

ジャワ号に近づくと、彼らは急に落ち着かなくなった。彼らは日差しを防ぐためにばらしていた髪を結いなおし、服と髭に覆われた顔を神経質にこすった。「何のボートだ?」ジャワ号から声が掛かった。「難破した船乗りだ」カッターが舷側にぶつかった。「舷側を上がれるか?」「大丈夫だ。」ジャックは立ち上がった。頭がくらくらしたが、名誉にかけて、何が何でもちゃんと乗艦しなければ。

彼は艦尾甲板に上がった。膝ががくがくする。「おはようございます。私はオーブリー艦長、元レパード号です。こちらの艦長にご挨拶したい」「オーブリー?何ということだ!わからなかった。君はとっくに死んだと…」ジャワ号のランバート艦長が叫んだ。「艦長、部下たちの面倒を見ていただけますか?ひどく疲れていまして…軍医には吊り腰掛けを用意してやって下さい。ラ・フレシェ号のボートの消息を聞いていませんか?」残念ながら、他のボートは行方不明のようだった。


ラ・フレシェの人たちは助からなかったのですね…残念。(マクリーンさんとカッターの帆を売り飛ばした掌帆長だけは助からなくてもいいけど。)グラントが助かってヨーク艦長みたいないい人が死ぬなんて、間違ってるなあ。しょうがないけど。

ランバート艦長はジャックを艦長室に導こうとした。「さあ、私の腕につかまって。ブランデーを…」「部下が乗艦するまでここで見ています。」彼はくたくたで、座りこみたくてたまらなかったが、立ったまま全員が乗艦するのを見守った。彼は士官たちをランバートに紹介し、その後、艦長室に案内された。ランバート艦長が「ブランデーを持って来い、あと小さいミンスパイを」と命令しているのを聞きながら、彼は霞んだ目でコーター・ギャラリー(艦尾回廊)までよろよろと歩き、ばったり倒れた。そこで気持ちよく伸びたまま、彼は考えた−「ミンスパイ?そういえば、もうすぐクリスマスだ…」

5巻9章がクリスマスだったのですよね。あれから1年も経っているとは、ちょっとびっくりしたのですが…まあ、その間に南氷洋→オーストラリア→東南アジア→喜望峰→大西洋の真ん中、と来ているのだから、そのぐらい経っていて当然か。

さて、ミンスパイといえば、クリスマス・プディングと並ぶ英国伝統クリスマス料理の定番で、同じくミンスミートを使っています。ミンスミートとは、ドライフルーツやなんかをスエット(ケンネ脂)で漬け込んだもの。これまた、空きっ腹にはこたえそうな代物です。ブランデーだのミンスパイだのより、お粥(ポリッジ?)でも出してあげればいいのにね。