Chapter 6-1〜再会


ダイアナとの再会が近づき、スティーブンは恐怖に近いものを感じていた。彼はフランションズ・ホテルに赴き、ジョンソンに紹介された。彼は「あなたのカツオドリの研究に感動しました」と言い、2人は鳥の話をした。彼は素人ながら、かなり熱心な鳥類学者だった。

ジョンソンに来客があり、彼は席を外した。「ではその間に、ミセス・ビリャズにご挨拶してよろしいですか?」スティーブンは訊いた。「ええ、ぜひそうして下さい。喜ぶでしょう。」


このジョンソンさんは、動物好きだからって、いい人とは限らないという真理の例証です。でも、彼が本当に鳥好きだってのは、何となくイヤだなぁ。常々、大喜びでアホウドリとか見ているスティーブンを微笑ましく思っているだけに。

「スティーブン!とうとう会えたわね!オーブリーは大丈夫?」ダイアナは心から嬉しそうだった。「ダイアナ、ジョンソンに僕のことをどのぐらい話した?」「何も。幼馴染だって言っただけよ。ああ、スティーブン、会えてどんなに嬉しいか…ロンドンでのこと、本当にごめんなさいね。」

ポリーという黒人奴隷がコーヒーを運んできた。ダイアナは彼女に聞かれないようにフランス語で話した。ダイアナが彼を"tu"と呼ぶのを聞いて、スティーブンは驚いた。ダイアナの様子も、彼を驚かせた。ダイアナは堰を切ったように喋り続けたが、その話は内容も脈絡も無茶苦茶だった。こんなダイアナを見るのは初めてだ。スティーブンはダイアナが彼に縋りついているように感じた−いや、彼にではなく、彼の名を持つ理想の誰かに。それだけではない…彼女の何かが、本質的に変わっている。彼の胸を冷たいものがよぎった。ダイアナの外見はほとんど変わっていない。相変わらず美しく、物腰は優雅だ。しかし−何かはわからないが、何かが決定的に欠けている。


フランス語で"tu"というのは、ごく親しい人に使う二人称代名詞です。親しくない人は"vous"となります。これは私が大学でフランス語を3年やった(<1年落第したので)中で、憶えている数少ないことのひとつ。ダイアナに"tu"と呼ばれて驚くってことは、当時はよっぽど親しい人じゃないと"tu"は使わなかったということでしょうか。

ジョンソンとルイーザが部屋に入って来た。4人がコーヒーを飲んでいる時、ポリーがカップを落として割った。ジョンソンがぱっと振り返り、スティーブンはポリーがひどく怯えているのに気づいた。しかし、ジョンソンは客の手前、「カップが割れなければ、陶器商は商売上がったりですね」と言って笑った。

スティーブンは霧の中を歩いて帰った。頭の中にも霧がかかっているようだった。彼は強い悲しみと喪失感に襲われいてた。心に大きな空洞ができたみたいだ。


ポリーさんはものすごくでっかい女性です。ジョンソンは身体の大きい奴隷を「繁殖」させているそうです。わー、やな奴、やな奴!

ジャックの体力は戻りつつあった。彼は身体を鍛えようと、パジャマのまま病室の中を跳ね回ったり、左手で椅子を振り回したりていた。アスクレピアの患者たちはジャックに同情していたが、これはやりすぎだと眉をひそめた−ここは精神病院じゃないんだから。

アメリカ海軍省のブレントンたちが、再びジャックを訪ねてきた。彼らはジャックにジャワ号から回収した書類を見せ、説明を求めた。彼らの態度は無礼だった上に、私信を勝手に開封しているのを見て、ジャックは怒って声を荒げた。スティーブンは階段でその大声を聞いた。彼は病室に入り、患者の脈を取って言った。「すぐにお引取り下さい。あなたがたは患者の容態を悪化させている」ブレントンは怒り、絶対に引き下がらないと言った。スティーブンはベルを鳴らし、大男のインディアンのポーターを呼んで「この方々を出口へ案内してくれ」と言った。彼らは恐れをなして出て行ったが、ブレントンは「これが最後じゃないからな!」と捨て台詞を吐いた。

スティーブンは後でポーターのところへ寄って礼を言った。「役人を追い出すんなら、いつでも喜んで。役人は大嫌いでね。」と彼は言った。「驚いたな」「あなたがこの国のネイティブだったら、驚かないでしょう。」ポーターは答えた。


「インディアン」という言葉は、最近では使っちゃいけないのかも。「ネイティブ・アメリカン」と言うのですよね。このポーターさん(名前が出てこない…)はアメリカ人全般を憎んでいるのですが、ドクター・チョートのことは、彼がネイティブの迫害に絶対反対している人なので、例外的に「いいアメリカ人」として認めているようです。スティーブンに敵意を抱いていないのは、「アメリカに負かされた同士だから」ということらしいです。スティーブンと彼は仲良くなります。

その夜、スティーブンはチョートの手術を手伝い、その後自分の部屋に帰った。ダイアナのことが頭から離れなかった。彼は日記帳をサー・ジョセフの元へ送ってしまっていたが、今は日記が恋しかった−日記は彼にとって、心を打ち明ける友の代わりだったのだ。彼は紙を取り、「もし僕がもうダイアナを愛していないなら−」と書いた。「これからどうすればいいのだろう?」

彼女への想いは、彼を動かしていた力の源だった。彼はダイアナを永遠に愛すると思っていた。あまりに当たり前すぎて、わざわざ誓ったこともなかった−「死ぬまで息をし続ける」と誓いを立てる人間がいるだろうか? 他の男が心変わりをするのは知っていたが、自分だけは例外だと思っていたようだ。 あるいは、これは体調や環境による一時的な変化なのか? …彼は書き付けた紙を暖炉で燃やし、ドクター・チョートにもらったアヘンチンキを飲んで、眠りについた。


スティーブンはここで、「永遠は8年9ヶ月で終わってしまった」と書いてます。2巻でダイアナと出会ってから8年9ヶ月…そんなに経っていたんですね。6巻のこの時が1813年5月ですから、出会ったのは1804年8月ということに…あれ?計算が合わない。和平の時だから1802年のはずでは。(…ちょっと待て、初めて会った時ダイアナは27じゃなかったか?じゃあ今は36か37?…あんまり追求しない方がいいのかも。)しかし、愛していても愛していなくても、ダイアナが出てくるとアヘンチンキも再登場となるのか。うーむ。

しかし、スティーブンて…こういう人のことをを "Helpless Romantic" と言うんだろうなぁ…と、ここを読んだ時思ったものです。

あ、そうそう、サン・サルバドルで質問されて以来、スティーブンは日記を書かなくなっちゃったのですよね。ちょっと残念。でも、サー・ジョセフに送ったって…サー・ジョセフなら、暗号化の甘いところは読めてしまうのではないでしょうか。彼になら読まれてもいいと思っているのか、彼ならあえて読まないだろうと信頼しているのか、どちらでしょうね。