Chapter 10-1〜アドリア海の海豚


スティーブン、イルカとコミニュケーションする。

美しいアドリア海は快晴、微風。

サプライズ号とドライアド号は、オトラント海峡(アドリア海の出口)へ向ってゆっくりと南下していました。オーブリー艦長の言う"that vile tub of Babbington"(バビントンのあのみすぼらしいタライ船)ことドライアド号は、この微風ではあまりスピードが出ないので、つき合ってゆっくり進んでいるサプライズ号。

そのサプライズの周囲を、イルカの一隊が元気よくぐるぐる回って遊んでいます。スティーブンはフォクスルから身を乗り出して艦首像にもたれ、夜明けから昼間までずっとその姿勢のまま、飽きることなく彼らを眺めていました。そのイルカたちは今までに何度もサプライズ号の近くに現れていたので、ひょっとしたら自分のことを覚えてくれるかもしれない、あるいは好いてくれるかも…と期待しているスティーブンは、艦首を横切る時に海面をジャンプするイルカの一頭一頭に手を振って挨拶するのでした。

このイルカたち、サプライズ号を遊び道具だと思っているらしい。それとも、大きな生き物だと思っていたりして…スティーブンはその大きな生き物の体の一部だと思われていたりして(笑)。

「海のいきもののうちでも、イルカほどスティーブンに大きな喜びを与えてくれるものはほとんどない」(10章冒頭より引用)

「いきものを見ているスティーブンのうちでも、イルカを見ている彼ほど私に大きな喜びを与えてくれるものはほとんどない」(ただの私の寝言…)

スティーブン、イルカを眺めながらローラの件を考える。

このイルカのシーン、これだけでも充分カワイイのですが…海に大きなうねりができると、その中を泳ぐイルカが真横から見えて、まるで巨大な水槽の中にいるみたい…という描写が、とりわけ綺麗で印象的でした。現代なら、水族館に行けばそういう水槽もありますけど。でも、この天然水槽の方がいいなあ〜

気持ちいい陽光と美しい海と、イルカを眺める喜びに身を任せながらも、彼の心の片隅は、これからの計画に占められていました。バレッタに帰ったら、すぐにサー・フランシスとレイに全てを打ち明け、ローラを保護しよう。ローラの利敵行為をなるべく公にはしたくないが、こうなったら仕方がない。スティーブンが作戦を説明すれば、司令長官はローラを無罪放免してくれるだろう。レイの方は、その点まったく心配ないし…

しかし、この計画はすべて、「チャールズ脱走のニュースより先にスティーブンがバレッタに着く」ことを前提にしているのです。スティーブンが海の上のことでは絶対的信用を置いているジャックが大丈夫だと言ったので、その事では安心しきっているのですが…

でもね。海の上のことで「絶対」はあり得ないのでした。

サプライズ号とドライアド号、フランスの私掠船を追跡・拿捕する。

夜半、サプライズ号はフランスの私掠船を発見、追跡を開始します。途中、敵にマストを打ち落とされたドライアド号は戦線離脱。サプライズが単独で追い詰めます。…えーと、この追撃戦の詳細はばっさり省略させていただくとして…結局、私掠船は降伏しました。

スティーブンはといえば、この追跡のことは何も知らずに寝ていました。起きて甲板に行くと、ドライアド号ではない船がそばにいるのでびっくり。それが拿捕した敵船だと聞いたスティーブンは不安になり、「この船がサプライズより先にマルタに着くことはないのだろうね?ドライアド号は?」スティーブンは少し躊躇いがちに、低い声で−「フィールディング脱走のニュースが、僕が行くまでにバレッタに広まると本当に困るんだ。」

ジャックは「それは確実だ。ドライアド号はマストを失っているし」と請け負うのですが、彼はスティーブンが「先に着きたい理由」を根本的に誤解しているので、その声はかなり冷たいものでした。

…もう、もどかしい。もうしつこいほど何度も言っていることですが、スティーブンは何でジャックにぶっちゃけた事情を話さないんだ!事情を知ったら、ジャックはもっと真剣に全面的に協力してくれるだろうに。…というのが、私の気持ちの95%。

あとの5%では…ジャックも鈍いよな〜、スティーブンの様子と普段の性格から考えて、これは何か事情がありそうだとか思わないのかな。もっとスティーブンを信じればいいのに…という気持ちも、ちょっとだけあったり(笑)。

サプライズ号、マルタに到着。スティーブン、ドライアド号が先に帰港しているのを見てショックを受ける

ある荒天の日曜夕方、サプライズ号はマルタのグランド・ハーバーに帰港しました。そして…港内にドライアド号が停泊しているのを発見したスティーブンは、息が止まるほどのショックを受けます。

聞くと、ドライアドが入港したのは金曜の夜。もう二日近く経ってしまっている。多くの乗員が上陸しただろう。彼らはフィールディングのニュースを、どれだけ広めただろう?敵が速やかに動いていれば、もうローラはこの世の人ではないかもしれない。彼にしては珍しいぐらいの焦燥にかられたスティーブンが、礼儀もかまわず艦長室に飛び込むと、ジャックは港湾司令官の呼び出しに応じるために着替えているところでした。「ジャック、聞いてくれ。すぐにバレッタに上陸しなければならない。連れて行ってくれるか?」

ジャックは厳しい目で彼をじっと見つめ−「海軍のルールは知っているな。艦長が出頭するまでは、乗員の上陸は許されない。これを敢えて曲げるだけの理由があるのだろうな?」「ある。名誉にかけて。」「それなら、いいだろう。」

ジャックの承諾をもらったスティーブンは、ピストルと外科用のメスを身につけて上陸するのでした。

スティーブン、ローラの家へ急ぐ。途中でプリングズたちに会う。

雲行きの怪しいバレッタの街を、彼は人波に逆らって急ぎます。サー・フランシスの旗艦はマルタを離れていたので、彼はアンドリュー・レイに相談しようと彼の家に向いますが、彼も留守でした。思っていた計画が根底から覆され、(これも彼にしては珍しく)どうしていいのか途方にくれたまま、とりあえずローラの家へ急ぐスティーブン。(彼は知らないけど、ここでレイが留守だったのはたいへんな幸運でした。ここでレイが家にいたら…どうなっていたか。)

一方、不運だったのは、道でこのスティーブンに偶然行き会ったバビントン・プリングズ・マーティンの三人組でした。一杯飲んで上機嫌の彼らはドクターを呼びとめ、「一緒に飲みに行きませんか?」と陽気に誘うのですが−「爬虫類のような冷たい眼で睨まれて」、ショックを受け、一気に酔いも醒める思いですごすごと引き下がるのでした。(バビントンに対しては「普段はノロい艦のくせに、余計な時だけスピード出しやがって!」という気持ちも入っている視線かな?)こういう時のマチュリン先生とは、うっかり目を合わせると石になるので注意。(うそですが)

しかし…スティーブンのこういうとこって、みんなどう解釈しているんだろう。「ドクターは時々わけもなく怖くなるけど、見なかったことにしておこう」ってとこかな。

スティーブン、ローラの家に着く。

降り出した豪雨の中、ローラの家に着いてみると、そこには誰もいませんでした−ローラも、犬のポントも。彼は鍵の隠し場所を知っていたので、それを使って家に入ると、庭には新しい墓のような盛り土がありました。

しかし、それ以外には家に特に変わったところはなく、寝室にはチャールズの肖像画が戻っていました。暗い部屋の中、時々稲妻に照らされる絵の中の、逞しい、不幸そうな、情熱的な男を見つめながら、スティーブンは「彼をうまく扱えるのはローラだけだな」と思うのでした。

ローラの帰りを待ちながら、スティーブンはなんとなくピアノを弾いています。スティーブンがピアノを弾ける事は知っていたけど、「自動的に指が動いて」と書いてあって、そんなに上手だったんですね。すてきだ。ローラの無事を祈って、無意識に曲がプレインシャント(聖歌)になる、というのもすてきだ。

ローラの家に男たちが侵入する。

スティーブンがピアノをやめ、雨の音が静かになった時、表のドアから怪しい音が聞こえます。それは錠前をこじ開ける音。続いて、二人の男が入ってくるのが見え、スティーブンはカーテンの陰に隠れるのですが…