Chapter 10-3〜ザンブラ湾


9巻最後のセクションは、8巻と同じく海戦です。このあたりはね、サプライズ号がかっこいいのですよ。ジャックもですけど。相変わらずまとめ方が下手なので、そのへんが伝わるかどうかはわかりませんが…

サプライズ号、ザンブラ湾に到着。給水する。

というわけで6日後、楽しい旅に名残を惜しみつつ、アフリカ北岸ザンブラ湾に到着したサプライズ号。ジャックはここに来るのは20年ぶりぐらいですが、海尉時代にこの湾を時間をかけて測量したので、今でもよく覚えていました。

ここでサプライズ号はポラックス号と別れ、湾の奥にある目的地のザンブラ港へ向うのですが、その前に水を積み込んでおくことにします。湾を少し入った所の、東側の入江にある泉は、ジャックの記憶通り、まったく変わっていませんでした。

ハート提督のポラックス号、湾に入ってくる。

ところで、ハート提督ですが…彼はもうすぐ英国に送り返されるという噂が立っています。実は、司令長官と彼は折り合いが悪い。というより、サー・フランシスがハートの無能さを心の底から嫌っているのです。ジャックは、ハート提督をこの任務に関わらせるなという命令を受けています。というわけで、ハート提督は任務の詳細を知らず、ポラックス号はサプライズ号が任務を果たすまで湾の外で待つことになっているのですが…

ところが、何にでも鼻を突っ込みたがるハート提督。水の積み込み作業をしているジャックたちは、ポラックス号が好奇心にかられて覗き込むように、湾の入り口辺りをうろうろしているのに気づきます。

ポラックス号の動きにちょっと苛立つサプライズですが、ザンブラ港から見えない位置にいるので害はなかろう、と放っておきます。その時、岬の砲台からポラックス号に砲撃がありました。砲台はどこの旗も揚げておらず、つまり公式には使われていない筈。不審に思ったジャックが望遠鏡で見ていると、西側の岬を回って、軍艦が3隻姿を現します。トルコの旗を掲げた、80門ぐらいの二層甲板戦列艦と、大型と小型のフリゲート艦が1隻づつ。

艦隊が現れ、ポラックス号が襲われる。サプライズ号、救出に駆けつけようとする

突然現れた3隻の軍艦はトルコ旗を降ろし、代わってフランス旗を揚げました。同時に、戦列艦がポラックス号に砲撃。大型のフリゲートが前に回りこみ、最もダメージの大きい角度から縦射を浴びせます。

ジャックは水を積み込んでいたボートを置き去りにして、全速力でポラックス号の方へ向かいます。サプライズは大きく傾斜してぐんぐん加速し、サラブレッドのように颯爽と駆けるのですが…湾の東端と西端で9マイルは離れている上、二度方向転換して風上に向かわなければならないので、すぐというわけにはいきません。2隻の戦列艦は、凄まじい勢いでお互いを叩き合っていました。ポラックス号はすでにマストを失い、身動き取れなくなっていますが、フランス艦も相当なダメージを受けているのが見て取れます。「ハート提督のことをみんな好きなように言うが、臆病だ言うやつはいない。あの戦いぶりを見てみろ。」

2隻の敵フリゲート艦はサプライズの方へ向かって来ました。ジャックは望遠鏡を構え、2隻を観察します。1隻は44門と大型だが、艦長も乗員も操船に慣れていない感じだ。おそらく、海より港で多く過ごしていたのだろう。もう1隻は28門、大きさはサプライズと同じだが、サプライズと違ってとてもノロい。しかし、2隻を同時に相手にするとなると…

湾の中の砲台が、サプライズに向かって砲撃している。やはり、ザンブラはとっくにフランスと同盟関係になっているのだ−マスカラ太守の挑発行為自体が、またしても、罠だったのだ。

ジャックがそんなことを考えていると、突然、耳を聾せんばかりの轟音が海を揺るがし、サプライズの帆を震わせました。ポラックス号が爆発したのです。

ポラックス号、爆発炎上。ハート提督戦死する

これが、ハート提督の最期でした。

主人公たちにも読者にも(多分)嫌われていたキャラとはいえ、1巻からずっと出ている準レギュラーがこうあっさり死ぬと、なんとなく寂しいものがあります。

もちろん彼が、アンドリュー・レイの言っていた「一石三鳥」の中の一羽なわけです。(あとの二羽は…わかりますね。)妻が父親の財産を相続するのがどうしても待ちきれなかったレイが、手を回して罠の中に飛び込ませたわけで。考えてみればハートも可哀想な人だ…財産目当ての娘婿に殺されるなんて。バビントンを婿にしておいた方がまだよかったんじゃ…

さて、救うべきポラックス号がなくなってしまったので、ジャックは自艦を救うために全力を尽くすことにします。サプライズ号はくるりと方向転換して、湾の奥に向かいます。

サプライズ号、フランス艦を罠にかける

敵の戦列艦は、ポラックス号爆発のまきぞえでかなりのダメージを受け、動けなくなっていました。2隻のフリゲート艦がサプライズを追って来ます。ある程度引き離したところで、サプライズはまたくるりと向きを変え、湾の西側の岬を目指しました。

敵の目から見ると、慌てて港へ逃げ込もうとした艦が、途中で気を変え、外海に逃げようとしている−と見えるはず。しかし、実はこれは、緻密な計算に基づいた進路でした。ジャックはこの湾を知り尽くしていたのです。

ジャックの頭の中では、速度と角度の複雑な計算が高速で行われていました−何の苦もなく、なめらかに。まるで、高性能のコンピュータ上で動く優秀なソフトのように…(<こんな表現が使われているわけではないけど)

サプライズ号はいつものように、ジャックの計算にぴたりと合った動きをしてくれています。彼は再び、今まで以上に、サプライズ号と一体になっていることを感じていました。前に彼は、「サプライズ号は緊急事態に期待を裏切ったことは一度もない」と言ってましたけど、今もまさにその通り。ということは、緊急事態に艦に裏切られたと思ったこともあったのかな。ポリクレスト号(2巻)やウースター号(8巻)なんかは、そんな感じでしたが。

サプライズを追っていた−つまり、彼女より外海側にいた2隻の敵艦は、方向転換してサプライズの行く手に先回りするコースを取ります。大型艦の方は、サプライズの前を遮るコース、小型の方は後に回り込むコース。まさに、ジャックが計算した通りのコースでした。

湾の西端の近くには、3隻の行く手を遮る形で、4つの大きな岩が海から突き出していました。これは「兄弟岩(The Brothers)」と呼ばれるもので、ジャックには思い出深い岩でした。サプライズは岩と岩の間を通り抜けるコースを取り、大型フリゲートはその前に回り込もうとスピードを上げています。

ジャックは慎重にタイミングを計り…計り、ぎりぎりのところで縮帆してスピードを落とし、舵を切ります。敵の大型フリゲートは、高速でサプライズの前に出て岩の間に飛び込み…座礁しました。それも、一瞬でマストが傾くほどの勢いで。

「海面に出ている岩と岩の間には、必ずと言っていいほど浅瀬があるから注意しないといけない。」…ジャックは士官候補生に、そう教えていたものでした。この兄弟岩の間の浅瀬こそ、昔、オーブリー海尉の艦が座礁した場所。離礁させるのに必要な補給を待たねばならず、何週間もここに足止めされたジャックたちは、この湾のあちこちを測量して回ったのでした。いざという時、役に立つのは知識だね。

座礁した大型フリゲート艦はたちまち沈みはじめ、乗員はボートで避難を始めていました。小型艦の方は諦めて、港へ逃げてゆきます。サプライズ号はその間に、兄弟岩を避けた深い航路を通って外海へ逃れました。乗員たちは歓声を上げ、お互いの背中を叩き合うのでした。

このシーンを読んでいて、何となく「チキン・レース」(崖に向って車を走らせ、先に止めた方が負け−崖ぎりぎりで止めた方が勝ち−という危ないゲーム)を思い出しました。…いや、全然ちがうのですけどね。

ジャック、スティーブンに相談する。スティーブン、ザンブラを攻撃するのはまずいと言う。

「一瞬の爆発で、五百人が死んだのか。何てことだ。」ポラックス号の残骸を遠くに見ながら、スティーブンが言いました。ジャックは彼に現在の状況を説明し、自分のこれからの計画について、政治顧問としての彼の意見を訊きます。

ジャックの計画は、これからザンブラ港の太守のところに乗り込んで、謝罪しなければ港の全艦船を焼き払い、街を攻撃すると宣言する−というものでしたが、スティーブンは「それはまずい」と言います。「太守は明らかにフランスと同盟して、既に英国と交戦状態だと考えている。ここで攻撃したら、エリオット領事は殺されるだろう。今すべきことは、一刻も早くジブラルタルへ行って、現在の状況を報告した上で新たな指示を受けることだ。」「やっぱりそうか。たしかに、街を攻撃するのは命令の範囲を超えているし、領事を殺させるわけにはいかないからなあ。でも、『鉄が熱いうちに干し草を作れ』って言うじゃないか。」と、残念そうなジャック。

まことに蛇足ですが…

Make hay while the sun shines. :【ことわざ】日が照っているうちに干し草を作れ/好機を逸するな。
Strike while the iron is hot.:【ことわざ】鉄は熱いうちに打て/好機を逸するな。

ジャックのオリジナル諺辞典を作りたい(笑)。

サプライズ号、ジブラルタルへ向う。

結局、ジャックはスティーブンの忠告通りジブラルタルへ向うことにします。今回の任務は成功とは言えないとはいえ、2隻のフランス艦を航行不能に追い込んだことは収穫でした。これを報告すれば、ブラックウォーター号の件でつまずいた自分のキャリアがいい方向へ向うのではないか…と、ほのかな期待に胸を膨らませているジャック。

もっと期待に胸をふくまらませているのは、ローラ・フィールディングでした。「ジブラルタルへ着いたらすぐに、夫に手紙を出して迎えに来てくれるように言いますわ。」

一方のスティーブンは、まったく違う考えに沈んでいました。この湾でのジャックの任務を正確に知っていたのは、海軍でもほんの8人か9人だ。これでレイは、海軍の上層部にいる情報漏洩源を発見できるだろう…しかし、もしそれが出来なかったら…

三人三様の思いを乗せて、地中海を西へ向うサプライズ号でした。


9巻はこれでおしまい。ますます、巻のラストで話が切れなくなってきたなあ。とりあえず、ここでやっと、10巻のはじめに話が繋がったわけですね。

ここまでお読みいただいた方々ならすでに、4巻〜9巻を飛ばして10巻を読むということの無茶さを、しみじみと納得していただけたことと思います(笑)。暖かい海域で1ヶ月凪につかまっていた艦の船底にへばりついた海藻よりも、たくさんの未解決な話を、ずるずると引きずっているのに。(<なんか自分でもよくわからん喩えだが。)映画の方はまるきり別の話なので、いいのですけど。

まあ、それはともかく。この巻は2ヶ月で終わらせるつもりが、結局3ヶ月と10日もかかってしまいました。わたくしの読みにくい駄文に長々おつきあい下さった素晴らしい方々、まことにありがとうございます。次はもうちょっとスピードアップします…たぶん。