Chapter 1-2〜ローラ・フィールディング


ローラ・フィールディングについて。

ミセス・フィールディング…ローラ・フィールディングは赤毛のナポリ人美女、英国海軍士官チャールズ・フィールディングの妻です。ローラ(イタリア語読みだと「ラウラ」かな?)の夫はフランスの捕虜になり、今はフランスの収容所にいます。彼は脱走を試み、逃げる時に憲兵を殺してしまったので、裁判にかけられたら死刑は確実な状況。しかし、彼の裁判はいろいろな口実で延期され続けています。ルシュールはローラを脅迫し、彼女の協力次第では夫の裁判は永久に延期されるかもしれないと言って、彼女に情報収集をさせています。英国海軍の艦長たちと親しく、彼らの妻や娘にイタリア語を教えたりしているローラは、情報を集めやすい立場にいるからです。

(塔の上の会話続き)「…だから、彼女がオーブリー艦長にイタリア語を教えるように手を回して、そこからマチュリンに近づくようにさせた。艦長はオペラが好きなんだ。」「オペラですか?あの赤ら顔の牛みたいな男が?せいぜいビールとスキットル(ボーリングのようなもの)がお似合いに見えますがね。」「見かけで判断してはいけない。ただの馬鹿に見えるが、馬鹿ではサイアハンを味方につけたり、ムスターファを負かしたり、マルガから我々を追い出したりできない。あの男はそれをやったんだ。」

…こう、第三者(しかも敵)が、ジャックとスティーブンについて客観的に眺めながらイロイロ言っているのが妙に面白くてつい引用してしまいました。ジャックは"red faced ox of a man"、スティーブンは"nasty looking crocodile"とか言われてるし。雄牛とワニですか〜(笑)

ちなみにローラは、ポントという名の、子牛ほどもある巨大なマスチフ犬(オス)を飼っています。この犬、あまり頭はよくないのですがロバを殺せるほど強く凶暴そのもの。彼女の行くところにはどこにでもついて行ってボディガードを勤めています。

さて、ローラはすでにスティーブンへの「攻撃」を開始しています。実は、前項で書いたスティーブンがイラついている原因の一つが彼女なのです。彼は"sexually starved"(性的に飢えている…そのまんまな表現やなあ)状態な上、「彼の情愛性癖を刺激する出来事があったので(his amorous propensities had been stirred)」落ち着かない気分になっているとあったのですが、それが彼女のことなのですね。

しかし、「虫には騙されても女には騙されない」スティーブン。彼女が自分に対してあからさまに秋波を送っている(死語?)…いや、モーションをかけている(これも死語?新しい言葉では何というのよ)のを感じて、ほとんど即座に「敵のスパイじゃないか」と疑っています。さすが鋭い…けど、相手が自分に本当に惚れているという可能性はまったく考えてもみないあたりは、ちと悲しいような気も。

あ、「虫には騙される」というのは、彼は虫が体にとまったりしても反射的に振り払ったり叩いたりせずに、「何の虫だろう」とまず見てしまう癖があるのですね。さっきもそれで虻に刺されたばかり。むー、かわいいっ!けど、そういう可愛さというのは浅い付き合いではわからないしなあ。彼もそういうところをめったに女性に見せないし。

それはともかく、彼は「もし彼女が諜報関係の目的で近づいてきているのなら、調子を合わせなければならない」と考えています。…というかまあ、理性ではそう考えているのですが、それとは関係なく、彼女にはこころ惹かれるものを感じているようなのですよね。なぜなら…「ひとつには、彼女は彼の初恋の人を強く思い起こさせるからだ。同じような体つきで、どちらかと言えば小柄だがほっそりしていて背筋がまっすぐ伸びていて、印象的な赤茶色の髪をしている。(For one thing she reminded him strongly of his first love: she had the same build, rather small but as slim and straight as a rush, and the same striking dark red hair.)偶然髪型も同じで、感動的なほど優雅なうなじと、繊細なカーブの耳が見えている…」

このあたり、電車の中で読んでいて「うわー」と思ったところでした。私の"amorous propensities"が刺激されてしまったので(照)。スティーブンの初恋の人かぁ。(どうして私はスティーブンのラブライフにこうも興味があるのだろう。)

スティーブンの過去の恋について、オブライアンさんはちらちら思わせぶりに出すばかりで、ちっともはっきり語ってくれないのですが、これもその一つです。1巻2章に、彼がアイルランド時代の恋人の夢から目覚めて悲しみにくれるひどく印象的なシーンがありますが−「彼の顔は身を刺すような悲しみを映し、目は涙に霞んだ。彼の思慕はこの上なく強かった。それに、彼女はあの時代とあまりに離れがたく結びついていて…(His face reflected the most piercing unhappiness, and his eyes misted over. He had been exceedingly attached; and she was so bound up with that time...)」(訳は管理人)−ここで語られるアイルランドの恋人は、後の巻でどうやら「モナ」という名であることが明らかになるのですが(でも生死は不明)、この赤毛の「初恋の人」と同一女性でしょうか。

んーでも、モナは1798年の暴動の時に「失った」そうなので(1巻時点はその2年後、まだ痛手は癒えていない)、スティーブンは20代の終わり。そんな歳で初恋というのは遅すぎるか。とすると別の人かな。うーん。赤毛というのは、スペイン(カタロニア)の女性よりアイルランド女性を思わせるのですが。

それはともかく、「すらりとして背筋がまっすぐ」というあたりがダイアナと共通していますね。ダイアナの耳についての記述も、どこかにあったような。彼のツボなのかな。

ミセス・フィールディング、ジャックのイタリア語レッスンに遅れて現れる。

珍しく犬を連れずに現れたローラは、一杯機嫌の英国海軍艦長たちに熱烈な(しかし品位をわきまえた)歓迎を受けますが、ちょうどパーティに出かける時間となった艦長たちはすぐに立ち去らねばならず、二人きりで残されたローラとスティーブンは、一緒にアイスクリームなど食べるのでした。

(塔の上の会話続き)「どうやら、計画はうまくいっているようですね。」「そうだな。醜男ほどうぬぼれが強いものだ。」

つづく。