Chapter 3-1〜ダイビング・ベル


第3章は、ジャックとスティーブンの二人ともがそれぞれに、前にも増して可憐さ爆発で、ちょっともう、どうしたらいいんだかって感じです。あーもう、好きだよ二人とも。まったく、9巻は電車の中で読むのが危険でしょうがない。ついニヤニヤしてしまう所が多すぎて…

ジャック、ローラ・フィールディングにイタリア語のレッスンを受ける。

ハートレー提督とのショッキングな会見により、すっかり「命短し、恋せよおのこ」という気分になっているジャック。

いや、「恋せよ」はちょっときれいに言い過ぎか。まあはっきり言ってしまえば、「やれるうちにやっておかないと歳をとってから後悔する」という提督の助言が強烈に頭に残って、そこはかとない焦燥感を感じていたりするわけです。そんな折、タイミング良く(悪く?)ローラと二人きりのプライベート・レッスンがあります。

二人のことがこれほど街の噂になっているのにもかまわず、ローラが一人で彼のホテルの部屋にやってきたことを「明白なシグナル」と解釈したジャックは、彼女に「さりげないアタック」を試みています。

とはいえ、ジャックは今までの人生で「意図的に」女性を誘惑したことは一度もないので(そうでしょう、そうでしょう)、彼の誘惑のテクニック(?)というのは「やたらニコニコする」と「椅子を少しづつ近づける」の二つだけ。セクハラおやじというより、家庭教師のお姉さんに憧れる男子中学生です(呆)。

「不規則動詞"stare"を練習している時、ミセス・フィールディングは生徒のふるまいが動詞よりももっと不規則になりかけているのを見て警戒した。(Mrs Fielding saw with alarm that her pupil's conduct was likely to grow even more irregular than her verb.)」(何度読んでも爆笑してしまう、ここ…たまりません。)

もちろん、年端もゆかぬ少女の頃から並み居るイタリア男の攻撃を撃退してきたローラには、彼の気持ちなど本人より先にお見通し。絶妙のタイミングで「夫に手紙を書くのを手伝っていただけます?」とかわします。「わたくし、英語の綴りが心もとありませんの。これから言う事を書きとめて下さいます?『…万一おかしな噂がお耳に届いても、信じないで下さいね。オーブリー艦長は立派な方で、同胞の海軍士官の妻への侮辱を許すような人ではありません。だからこそ一人でホテルの部屋に来ても安心なのです…』」

「シグナル」については勘違いだったと、これ以上ないほどはっきり釘をさされたジャックですが、彼にはなぜか「自分の誘惑を拒否した女性には尊敬の念を感じる」傾向があります。もちろんがっかりする気持ちはあるのですが、さっぱりと諦めた後は、夫に忠実な妻の鑑として、むしろ彼女にますます好感をもつようになります。こういうところがまたかわいいというか。いや、いい奴だよな…

スティーブンがおおはしゃぎで駆け込んで来る。

ジャックとローラがにこやかに別れようとしていた時、スティーブンがどたどたと駆け込んで来るのですが、この時のスティーブンの様子がまたかわいくてねー。

普段は青白い顔が、喜びにピンク色に輝いていて、これは博物学関係で何か素晴らしいことがあった証拠。また海に落ちたらしく頭からずぶ濡れなのも、興奮のあまりそれをまったく気にしていないらしいのもかわいい。ジャックが「また落ちたのか?」と言いたいけど、ローラの前で友人に恥をかかせたくないので言えないでいるのもかわいい。スティーブンがあまりに頻繁に海に落ちるので、彼の服には塩が乾いたところに「潮位点(tidemark)」みたいに線が入っているというのもかわいい。(いいかげんしつこい?)

彼はローラへの挨拶も上の空に、「ジャック、喜んでくれ。僕のダイビング・ベルが届いたんだ!

スティーブン、ダイビング・ベルを購入する。

さて、「ダイビング・ベル(潜水鐘)」とは一体何でしょう?

Diving Bellとは初期の潜水作業に使われた大きな器具で、ごく簡単に言うと、中に人間の入った釣鐘(下は開いている)を水に沈めるものです。もちろんそのまま沈めたら中の空気が圧縮されてどんどん水位が上がってきてしまうので、同時にベルより下に、底に穴の開いた空の樽を沈め、樽の中の空気をベルの中に取り込むことでベル内の気圧を一定に保つ…いや、書いていてもわかったようなわからんような。とにかく、かなり長時間の海底作業を可能にする装置だそうです。興味のある方は例によってリンクをご覧下さい。→ダイビング・ベル

スティーブンのダイビングベルは上部にはめ込まれたガラス窓から光を取り入れ、海底が観察できるようになっているようです。もっとも、このタイプのダイビングベルが発明されたのは1691年で、1788年には新式のものが発明されていたので、この時点ではむしろ旧式のものであったようですが。

もちろんスティーブンは、海底の生物を観察するためにこれを買ったのです。潜るのが待ちきれない様子で、おおはしゃぎでダイビング・ベルのことをジャックにしゃべりまくるスティーブン。無視されたローラはちょっと機嫌をそこねた様子で帰ってしまいます。(本当は、愛する夫のためにドクターをモノにしなくてはいけないのに、勝手が違って焦っているのですが。…なにしろ彼女、自分よりダイビング・ベルに興奮する男には慣れていないので…)

ジャックが中学生なら、スティーブンはクリスマスに新しいオモチャをもらった小学生そのものですが…海に落ちたのも興奮のあまりなのかな。

ジャックとスティーブン、ダイビング・ベルを運んできた輸送艦ドロメダリー号へ。

スティーブンが買ったダイビング・ベルは、彼に言わせれば「ほんの小型のやつ」なのですが、タテ2.4m、ヨコ1.5m、重さ約2トンあります。こんなものを私物として軍艦に持ち込むつもりで買ってしまうあたりが、いかにもスティーブンというか…

当然、ジャックは反対するのですが、スティーブンがいかなるチャームを発揮したのか(まあ想像はつきますが)、輸送艦ドロメダリー号の乗員は完全にドクターの味方になっています。ジャックが「こんなもの、フリゲート艦のどこに載せればいいんだ?」と言うと、ドロメダリーの全員が不満そうな顔で彼を見て、「でも、これはハレー博士(※)のダイビング・ベルなんですよ」とプレッシャーをかけたりします。

※エドムンド・ハレー博士(1656-1742):彗星に名を残す偉大な天文学者。航海術に多大な貢献をした人物で、船乗りにとっては恩人だが、このダイビング・ベルの発明者でもある。

結局ジャックは、分解した状態でなら艦に乗せていいと譲歩します。ジャックって、なんのかんの言ってスティーブンには甘いと思う。そういうところがまたかわい…(もういいって)

ちょうどマルタに入港していたヘニッジ・ダンダス艦長の好意で、サプライズ号の修理が済むまでダイビング・ベルは彼の艦に預かってもらうことになります。スティーブンはグランド・ハーバー(マルタ島の誇る広大な港)でダイビング・ベルの初潜水をするのですが、ダンダス艦長が心配して(?)一緒に潜ってくれたり、ああ、みんなして甘やかしすぎだ…