Chapter 8-3〜密会者たち


スティーブン、ローラとホテルの自室で「密会」。ニセ手紙を渡す

さてその夜、スティーブンはローラと自分のホテルの部屋で密会する予定になっていました。と言っても、密会に見せかけているだけで実は色っぽいことは何もないのですが。

何もないし、これからもあってはならない、とはわかってはいても、ローラに会えるというだけでなんだか嬉しくて、ついいそいそと準備をしてしまうスティーブン。花と食事とケーキとマンドリンを用意し、珍しくもフロに入り、下着を替え、司令長官の会議でも総督のパーティでも剃らなかった不精ヒゲを剃り…「自分の身を、そのほんの僅かな可能性の許すかぎりきれいにしようと試みたり、何かの奇跡で違う姿が現れはしないかと鏡を何度ものぞきこんだり」…容赦ないなあ、オブライアンさん(泣)。なんか、賭博のところのスティーブンが超然としてカッコよかったので、あまりカッコよくないところも描写してバランスをとっているみたいです。

ローラはファルデッタ(でかいフードつきのマント)とドミノ(小さな仮面)という、かえって目立つんじゃないかと思われる仰々しい変装でスティーブンのホテルにやってくるのですが…

スティーブンはやっぱりローラのことを、かなり好きになっているみたいで、意志とは関係なく盛り上がるキモチを、あわてて別室に行ってアヴェ・マリア(お祈り)を3回唱えて鎮めなければならなくなったり…カッコよくはないけど、かわいいと言えなくはないかも。

でも、ローラが旦那様を心から愛している以上スティーブンとしては何もしないだろうし、もしそうでないとしても、なんのかんの言って彼もダイアナを裏切る気はさらさらないのですけどね。でも、もし二人がお互い独り身だったら、この二人はけっこううまくいったりしていたのかなあ。

スティーブンとローラ、語り明かす。ローラ、夫の欠点は嫉妬深い所だと言う

ともかく、お祈りと食べ物でキモチが落ち着いたスティーブンは、ローラに約束のルシュールに渡すニセ手紙を渡し、あとは朝まで一緒に食べたり飲んだり、ローラがマンドリンを弾いて歌ったりしながら、楽しくも清らかに語り明かすのでした。

自分の意志とは関係なく、女性といい友達になってしまうスティーブン…

二人はお互いの若い頃の話をし、ローラは、自分は少女の頃は慎み深いタイプとはとても言えなかったが、結婚してからは一度も浮気していない、だから余計に、夫の唯一の欠点が嫉妬深いところだというのが悲しい、と言います。しかし、夫の悪口を言ってしまったのに気がとがめたのか、その後その10倍ぐらい夫の美点を延々と並べ立て、スティーブンをうんざりさせるのでした。

(余談)ここで、「ローラは黙りこみ、ひそかな笑みを浮かべて床を見ていた。明らかに、夫の別の美点を思い出しているのだろう」という文がありました。オブライアンって、昔を舞台にした小説には珍しく、女性のこういう面をさらっと書いているのがいいなあ。

スティーブンとローラ、キリックがドロボーを追っているところに出くわす

夜明け。ローラが例の変装を再び身につけ、スティーブンが彼女を送って行こうとホテルの下の階に降りたところで、ちょっとした事件が起きます。

下の階にはジャックが泊まっている部屋がありました(ジャックはたまたまその時留守だったのですが)。スティーブンとローラがこそこそと廊下を歩いていると、その部屋から二人の男が飛び出して窓から逃げて行き、その後を「ドロボー!捕まえろ!」と叫びながら追いかけてきたのは…キリックでした。たちまちホテルの泊り客が集まってきます。野次馬の多くは、英国軍関係者でした。

顔は隠れているものの、大勢の友人(夫の友人でもある)に姿を見られてしまったローラはファルデッタの中で身を縮めました。キリックが観客に向って、自分がいかにしてドロボーを撃退し、艦長のダイアモンドを守ったかを自慢している間に、二人はそっと抜け出すのでした。

この後も、ローラの愛人はオーブリー艦長だと思っている人も多いのですが…この一件のせいか、マルタの住人のうち少なくとも何人かはスティーブンを疑うことになったようで…

ドロボーはハイラベディアンの残した手紙を盗むルシュールの部下だった

この二人のドロボー、実はジャックのchelengkを狙ってきたのではなかったのです。そう、彼らが盗んでいったのは、艦長の書類入れの中に入っていたハイラベディアンの手紙。彼はやっぱりアンドリュー・レイの手先のフランスのスパイでした。彼が何かやばいこと(レイの名前とか)を書き残しているのではないかと心配になったレイとルシュールが盗ませたのです。

レイが会議以来落ち着かなかったのは、この手紙のことが心配だったせいです。彼は「そのせいでギャンブルに負けた」とルシュールに文句を言います。でも、手紙には何もまずいことは書かれていなかったとわかって安心した後でも、彼は負け続けるんですが。

スティーブンとレイ、トランプをする。レイ、負け続ける

レイはスティーブンにピケットの「リベンジ戦」を挑み、負け続けます。よせばいいのに負けを取り戻そうと何度も何度もリベンジを試みるものだから、その度に借金はふくらんでゆくのでした。

彼とのゲームにはとっくに飽き飽きしているスティーブンですが、ここまで来ると「勝ち逃げ」するわけにもいかないので嫌々つき合っています。最期に「レイが勝てば借金帳消し(負ければ二倍)」という大勝負にも応じてやるのですが、レイはそれにも負けて莫大な借金を負うことになってしまいます。

あげくに、「実は金がないので払えない、これから毎月利子を払うので、元金は妻が父親の財産を相続するまで待ってくれないか」などと言い出すレイ。「なに、そんなに先のことではありませんからご安心下さい。義父は67ですし、持病がありますし…」ひどいことを言いますなあ、いくら相手がハート提督でも。

ちなみに、前にも書きましたが、当時の英国の法律では、妻の財産は夫が完全に自由にできることになっています。男の財産目当て結婚は多かったのではないかなあ。だからこそ逆にジャックなどは、2巻で借金を抱えた時、「この状態で金持ちの娘であるソフィーと結婚するわけにはいかない、財産目当てになってしまう」と、あれほど強く思ったんだろうな、と今更ながら納得。

スティーブン、借金の返済を待つ代わりに条件を出す。

「ない金を賭ける」というギャンブラーの基本ルールにもとることをしたレイを許してやる代わりに、スティーブンは条件を持ち出します。

ひとつ−オーブリー艦長に約束されていた「ブラックウォーター号」が他の艦長のものになったと聞いた。海軍省第二事務次官代行としての影響力を駆使して、北米基地の同等のフリゲート艦をオーブリーに与えること。ふたつ−同じく、プリングズ艦長にはスループ艦を与えること。みっつ、マーティン牧師にも、彼の希望通りの仕事を与えること。

レイは、牧師のことは何の問題もないが、指揮艦、ことにスループ艦は非常に不足しているので難しい、でも努力してみる、と答えます。

スティーブンたら、常にジャックのことをいちばんに考えているのね。(次にプリングズのことを、その次にマーティンさんのことを…)

レイ、ルシュールと密会する。

でも、レイにその約束を果たす気があるとは、あまりアテにしない方がいいようです。

ルシュールに「今はマチュリンをある間接的な手段で利用できているが、彼は危険なやつだ。その手段がなくなった時には、消さなければならない」と言われ、レイは「『マスカラの太守』に始末をつけてもらおう。一石二鳥、いや、一石三鳥になるかもしれない」などと答えていますから。

「マスカラの太守」というのは2章にも出てきましたが、もう読者はそんな伏線忘れていると思われるので、もう一度ここで出したようです(笑)。2章では一石二鳥と言ってましたね。鳥が一羽増えたのは?なんとなく想像はつきますが…

ジャック、サプライズ号に最後のオシャレをさせる

さて、ここまでスティーブンのことばかり書いていましたが、その頃ジャックは何をしていたかというと…サプライズ号に最後の愛情を注いでいました。

サプライズ号はもうドックでの基本修理を終えているのですが、ジャックは仕上がりに満足していないので、サプライズ号は乗員総動員であちらを直し、こちらを磨き、とやっています。

普段ジャックは、艦のバランスとか艤装とかそういう実用的側面にはうるさいのですが、美観的側面にはあまり注意を払っていません。むしろ、飾り立てるのはキライな方です。

しかし、サプライズ号がもうすぐ(海軍にとっての)死を迎えるのなら、できるだけカッコよく迎えさせてやろうと思ったジャックは、今回は金箔やペイントやさまざまな飾りにも、たっぷりと時間をお金をかけています。艦首像(名前のない巨乳のレディ)を塗らせるため、マルタで一番の看板描きを雇ったほど。

全員の熱心な仕事ぶりに満足しながらも、これが最後かと思うと、ほろ苦い胸の痛みを感じずにいられないジャックでした。

スティーブンとマーティンとプリングズ、コウモリの洞窟へ行く

ところで、そうやってサプライズ号のメンバーが忙しくしていると、かえって暇になる人たちが三人。艦にいると邪魔にされるスティーブンとマーティン牧師、それに、つるむ仲間がいなくなってしまうプリングズ艦長です。というわけで三人一緒に、珍しいコウモリが沢山巣くっている洞窟を探検したりするのですが…

スティーブンとマーティンにつき合って、コウモリを捕まえる手伝いもしてくれるプリングズはいいやつです。でもよっぽど暇なのかも…