Chapter 9-2 〜 オーブリー艦長の作戦


ジャックたち、プオラニ女王の歓迎を受ける

礼装に身を包んだジャックたちはプオラニ女王の戦闘用カヌーで上陸し、歓迎の儀式がとり行われました。

美しい羽根で飾られた上着を着たプオラニ女王は、30代前半、肌の色は南欧人と変わらないぐらいで、ジャックと同じぐらい背が高く、体重はずっと軽そうだけど、肩幅は負けていない、なんとも堂々とした美人でした。女王はヨーロッパ式にジャックと握手しました。

ジャックが通訳を通して「カラフアがアメリカ人たちと攻撃しようとしている」と言うと、女王は答えました。「知っている。37人の白人を連れて、マスケット銃と大砲を一門持っている。明後日の早朝には到着するだろう。」「大砲のことは心配ありません。こちらの方がずっと強力な砲をたくさん持っていますから。」

「できる限り礼儀正しい言葉で言ってくれ−」ジャックは通訳に言いました。「アメリカ人は我々の王の敵です。我々は彼らとカラフアからあなたがたを守ります。あなたがジョージ国王の保護を受け入れるならば−こういう言い方でいいのかな、スティーブン?−忠実と友愛に溢れた同盟国になるならば。」

通訳の言葉を聞いたプオラニ女王の顔が明るくなり、彼女は目を輝かせて答えました。「ジョージ国王の保護を歓迎します。忠実と愛に溢れた同盟国になりましょう。亡き夫に捧げた忠実と愛にも負けぬほどに。」

噂によると、プオラニ女王の夫というのは、「身体の一部に欠陥があった」ので、女王は彼を「戦いの最前線に立たせた」そうです。この人のどこが「か弱い女性」に見えたのでしょうね、ウェインライト船長は…

ジャック、スティーブンに戦術を説明する

明後日の地上戦に備え、ジャックはカロネード砲の一部を急いで運ばせました。大変な作業が一段落ついてキャビンに戻ったジャック。「スティーブン、君が患者の手当てで忙しくて上陸できなかったのは残念だよ。鳥がいたのに。クチバシのある鳥だ。」「…それは珍しい。」「ものすごく大きい、鎌みたいな形のクチバシなんだ。でも、後で見られるだろう。戦場になりそうなところを調べていたんだが…」ジャックはこれからの作戦を図を書いて説明しました。

「断崖に挟まれた峡谷で、幅は約20ヤード、長さは約200ヤード。北の入り口に壁を築いて、その陰にカロネード砲を2門、南側の出口に4門設置する。敵は壁を壊して進入して来る。そうしたら、プオラニ軍の一部が囮になって峡谷に敵を誘い込む。敵が全員峡谷に入ったら、両側からカロネード砲を撃ちこむ…」

「敵には退路はないのか?」「ない。」「敵に退却の道を残しておくのが、軍隊の大原則だと思っていたが…」「陸軍ではそうかもしれない。でも、海軍に求められるのは拿捕、撃沈、焼尽、破壊だ。…そんな顔をしないでくれよ、スティーブン。戦争を仕掛けた側は、全滅しても文句は言えないだろう。それに、降伏するならいつでもできるのだから。」

たしかに、軍艦同士の海戦では退路はないですね。この作戦自体、敵艦の前と後ろに廻りこんで縦射する海戦に似ていますが…同じ国の軍隊でも、そういうルールに陸軍と海軍で違いがあるんですね。

ジャック、オークス士官候補生を昇進させる

スティーブンが病室に戻った後、ジャックはオークスを呼び出しました。

「知っている通り、我々は明日、プオラニ女王を助けてカラフアとアメリカ人と戦う。プリングズ艦長と私をはじめ、士官はほとんど全員上陸する。君は艦に残って指揮を執れ。拿捕船の指揮はミスタ・リードが執る。我々が陸にいる間にフランクリン号が現れたら、戦えるだけの人数を残して行く。相手が逃げたら、湾の外までは追って行くな。質問は?」

「ありません。しかし…これまで、私は名誉を挽回するチャンスがありませんでした。できれば…」「たしかに、ミセス・オークスを密航させたことでは、君に腹を立てていた。しかし、その後の君の仕事ぶりは立派だった。バタヴィアまで回航するトゥルーラブ号の指揮を任せるに足る。」「艦長、何とお礼を申し上げたらいいか…クラリッサに教えます。はい、船を扱う自信はあります。もちろん、艦長には遠く及びませんが…」「君に海尉心得の命令書を出す。バタヴィアから英国への旅費が払えるように、拿捕賞金を前払いしよう。…さて、全ては明後日の勝利にかかっているが、今のうちにトゥルーラブ号へ行って、船と乗員に慣れておきたまえ。」「先に妻に知らせていいですか?」「もちろん。ミセス・オークスによろしく伝えてくれ。」

一時はドメスティック・バイオレンスもあったらしいオークス夫婦ですが、すっかり仲直りしたようですね。と言うか、オークスがクラリッサに宥められた、あるいは丸め込まれた、という気がしますが。

オークス夫妻に関する謎の一つは、「オークス(夫)は、妻の密通について知っていたのか、知っていたとしたらどの程度知っていたのか?」ということなんですが、オブライアン氏は例によってはっきり書いてくれません。(「密通」って言葉は古いですけど、クラリッサの場合「浮気」「不倫」というのとは違うと思うので。翻訳していて時々思うのですけど、恋愛や性に関する言葉って、古い日本語の方がボキャブラリー豊富なのは不思議です。)

私は個人的には、「ほとんど全然知らない」という意見です。クラリッサは、別の文脈でだけど、「夫は肝心なことは何も知らない」と言っているし…オークスは、妻にそういうことを正直に告白されて、「でも、私にとっては何の意味のないことなのよ」と言われて、すっきり納得して仲直りするタイプとは思えないし。(と言うか、そんな男はいない。)クラリッサが何と言ったのかは知らないけど、うまく言い逃れた、ということだと思います。まあ、それでいいのではないでしょうか。夫婦円満なら。正直が最良の道とは限らないし。

もう一つの謎は、「クラリッサは本当に赤ん坊を井戸に投げ捨てたのか、それともあれは本当に物の喩えなのか?」ということなのですが…う〜ん、これについてはまた後で(多分)

あと一つ、「結局、ガンルームメンバーのうち誰と誰がクラリッサと寝て、誰と誰が寝なかったのか?」というのもあるのですが。(下品ですみません。)これについてもまた後で。(もちろん、私が気になっているのはアノ人です。)

ジャックとスティーブン、明後日の戦闘について話す

その夜遅く、カロネード砲の陸揚げが終わり、戦いの準備万端整った後、ジャックはスティーブンと夜食のシー・パイを食べていました。

「スティーブン、プオラニ女王をどう思う?」「とても立派な、女王らしい女性だ。ジュノーだ。気性が激しすぎるのは残念だが。」「彼女はとても親切だ。おれのために小屋を作ってくれている。戦士たちもとても優秀で、規律正しいし、英国の陸軍と違って海軍を妬んだりしない。こちらの提案を素直に受け入れてくれて、峡谷の半時間ぐらい手前に救護室を作ってくれた。」

「戦場から半時間も離れているのか?」「ああ。彼らは捕虜を取る習慣がない。どうにもできないんだ。多分、一方的な殺戮になる。この手の戦闘は、一瞬でも人道的な理由で干渉されるわけにはいかないんだ。」「僕が戦闘に干渉したことが一度でもあるか?」「いや。でも、君が優しい心を見せるのではないかとは疑っている。だから、君はずっと後方に、戦列艦のコックピットに相当する場所にいた方がいいと思う。」

"But I strongly suspect you of a tender heart."スティーブンをこんな風に思っているジャックはかわいいなあ。ここでそんなことを言うのは変かもしれませんが。

プオラニ&英国連合軍vs.カラフア&アメリカ連合軍の戦闘が行われる

翌日の夜、ジャックとサプライズの士官たちはその救護室で眠り、夜明け前に戦場に向かいました。パディーンと二人で残ったスティーブンは、間もなく始まるはずの殺戮をなるべく思い浮かべないように、低い声で賛美歌を歌いながら、じっと待っていました。

やがて、早朝の静寂をついてカロネードの砲声が響き、彼の歌は止まりました。ほとんど同時に4発、続いて2発、その後は反響と混ざって数えられなくなり、最後にまた4発。叫び声が聞こえたかと思うと、あっという間に止み、山はまた静かになりました。

しばらくして、若者が一人、喜びに顔を輝かせ、良い知らせを告げに村へと走って行くのが見えました。その後に、プオラニの戦士たちが、手に手に戦利品(略奪した敵の武器、鎧、装身具、切り落とした頭、切り落とした耳、白人の頭、etc...)を持って戻るのが見え、続いてサプライズの水兵たちが来たので、スティーブンはその一人に声をかけました。「ウィルトン、味方の負傷者は?」「一人もいません。女王の部下たちにも負傷者はいないようです。でも、峡谷にいた敵の方は…まったく、一方的でしたよ。」

すぐに、暗い顔をしたジャックが、心配そうなボンデンと一緒に降りて来ました。「『勝利おめでとう』と言っていいか?」「ありがとう、スティーブン。」「治療できる負傷者はいるか?」「逃げた連中以外は、もう全員死んでいるだろう…兄弟、脇道を通って帰らないか?カロネードはトムが面倒を見ている。ボンデン、パディーンを手伝って医療器具を運ぶんだ。」

ジャックとスティーブンは山道を離れ、二人きりで小川に沿った急坂を降りて行きました。ジャックは小川で手と顔を洗い、水をごくごくと飲んで、木の根っこに腰を下ろしました。「戦闘がどうなったか聞きたいだろう?」「今それを話すのは辛いんじゃないか?」「その通りだ。でも、こういう気持ちはすぐ過ぎる。…完璧に作戦通りに運んだよ。敵は疲れていたから、囮の若者は敵を峡谷に誘い込んで、砲の後に逃げ込む時間がたっぷりあった。」

「…各門10回撃ったところで砲撃を止めて、逃げられるものは逃がしたが、プオラニの部下たちが追いかけて行ったから、あまり遠くまでは逃げられなかっただろう。もちろん、敵の砲は奪取した。10ラウンド撃っただけなのに、大海戦みたいな肉屋の勘定書きなんだ、スティーブン。みんなもちろん勝利を喜んでいたが、歓声を上げるのもためらっていた。」

「逃げた敵がいたということは、退路を断つという計画は変えたんだな。」「計画?いや、あれは…本気じゃなかった。君を怖がらせるために言っただけだよ。君がおれを手術の話で怖がらせるみたいに。思うに、スティーブン、君はおれの冗談をわかってないことが多いんじゃないか?」

ジャックはかわいい。…もう言ったっけ?