Chapter 9-3 〜 プオラニ女王の饗宴


スティーブンもよく知っているように、ジャックは戦闘の後には、たいがいいつも憂鬱状態になります。味方に犠牲者がたくさん出た時はもちろん、逆に今回のような圧勝の時も、むしろ余計に落ち込んだりします。

いつもの海戦なら、戦闘後は艦の修理や報告書作成に没頭して気を紛らわすことができるけど、今回は村に帰り着けば、勝利を喜ぶ人々の歓迎を受けなければならないことが分かっているので…その前にちょっと、スティーブンと二人きりで話をしたかったから、わざわざ道をそれたのね。

ジャックたち、プオラニ女王と島民たちに大歓迎される。

スティーブンに冗談(?)を言ったのがきっかけで、少し気分が浮上したジャックは、村に着くころには、勝利に沸くプオラニ女王と島民たちの熱狂的な歓迎を笑顔で受けられるほどには回復していました。

ジャックが女王のシンプルな「宮殿」に入ると、女王とその臣下たちが勢ぞろいで彼を迎えました。スティーブン、プリングズ、ウエスト、アダムズはすでにそこにいて、それぞれ綺麗な羽のついた上着を着ていました。女王が進み出て、とりわけ見事な真紅の羽の上着をジャックの肩に掛けました。

女王の隣には黄色の羽の上着を着たプリングズ、ジャックの隣には青い羽の上着のスティーブンが座りました。外では勝利の宴の準備が進み、急に空腹を覚え出したジャックの鼻に、おいしそうな匂いが漂って来ました。

赤、青、黄色の羽根の上着を着て並ぶジャック、スティーブン、プリングズ…信号機みたいでかわいい。

勝利を祝う大宴会が行われる。

食欲をそそる匂いの元は、3つ並んで煮えている大鍋でした。「左が海亀、真ん中が魚、右が肉です。」通訳がジャックに囁きました。「肉をもらおう。」他の士官たちも、肉を注文しました。

幸いなことに、その料理はとても熱かったので、少し冷めるのを待つ間にスティーブンが気づきました−間違いようのない人間の耳が浮かんでいることに。「女王に、人間の肉は我々には『タブー』だと伝えてくれ。」彼は通訳に言いました。「でも、これはカラフアとフランス人の酋長ですよ。」「それでもだ。プリングズ艦長、ミスタ・ウエスト、これは『禁じられた肉』だ!」

幸い、女王はこれに気を悪くした様子はまったくなく、にこやかに言いました。「私は豚肉がタブーなんですよ。本当に、タブーが多すぎて困りますね。」

酔いつぶれて小屋で寝るジャックを、夜中に誰かが訪問する

一瞬げっそりした英国人たちですが、宴が進むうちに食欲を回復し、海亀と魚と、続いて運ばれてきた鳥肉、犬肉、卵、子豚、それに大量のカバ酒、そして音楽とダンス、とりわけ若い女性のフラダンスを堪能しました。

フラ・ダンサーたちを食い入るように見つめている部下たちをよそに、早朝からのハードワークで疲れていたジャックは眠気に襲われていました。宴の席で居眠りする非礼を避けようと、睡魔と闘っていたジャックですが、陽が傾く頃にはついにウトウトし始めました。二人の力持ちの男が彼を優しく立たせ、女王が彼のために建てた小屋まで連れて行きました。ジャックが戸口で女王にお辞儀をすると、プオラニもにこやかにお辞儀を返しました。

しばらく死んだように眠っていたジャックですが、夜中の3時から4時ごろ目を覚ますと、横に誰かいることに気づきました。起き上がろうとすると、力強い腕が−温かい、香をつけた腕が−彼を押しとどめ…

彼はあまり驚かなかった。おそらく、半分目覚めていた彼の頭が香りに気づいていたのだろう−驚かなかったし、不機嫌にもならなかった。心臓が早鐘を打ち始め、彼は彼女のために場所を作った。(…翌朝、プリングズが彼を起こしに来た時)彼女はまだ眠っていた。仰向けで、頭をそらし、口を開けて、それでも完璧に美しい顔で。

…ジャックに夜這いをかけた(すみません、また下品で)この女性については、本文には上のように書いてあるだけで、その正体は謎です。私も「誰か、島の女性の一人なんだろう」としか思っていなかったのですが…ガンルームで「彼女はプオラニ女王だ」という説を読んでびっくりしました。でも、そういえば、同盟を結んだときの「夫に捧げたのにも劣らぬ忠実と愛を」というセリフとか、「力強い腕」とか、状況証拠はありますね。

夜明け、フランクリン号が沖に現れ、サプライズ号は追跡開始する。オークス夫妻を乗せたトゥルーラブ号、バタヴィアへ出発する。

夜明けにジャックを起こしに来たプリングズ。「艦長、沖にフランクリン号が現れました!

全員が飛び起きて艦に戻り、カロネード砲を積み込み、急いで出航準備を整える中、ジャックはオークスに海尉心得の命令書を渡しました。「ミセス・オークスの準備が出来たら、君の指揮船に移りたまえ。」

「本当にありがとうございました、艦長。ご親切は一生忘れません。」トゥルーラブ号へ移る直前に、クラリッサが言いました。「あなたと航海できて幸いでした、ミセス・オークス。実り多き航海を。本国によろしく伝えて下さい。」スティーブンはクラリッサの両頬に別れのキスをしました。「神の祝福を、マイディア。」

「サプライズ号に万歳三唱!」「トゥルーラブ号に万歳三唱!」二隻の甲板から"Huzzay, huzzay, huzzay"の声が響いた後、トゥルーラブ号はバタヴィアに向って、サプライズ号はフランクリン号を追って、共に錨を上げました。

トゥルーラブ号の船尾手摺に立つクラリッサとサプライズ号のスティーブンは手を振りましたが、敵の私掠船を追うサプライズはぐんぐんスピードを上げ、すぐにお互いの姿は見えなくなりました。


15巻蛇足:クラリッサの謎

フランクリン号を追いかけている途中−という、いつにも増して中途半端なところで、15巻は終わるのでした。でも、他の巻のように「次の巻のファーストシーンではすでに海戦は終わっている」ということはなくて、16巻はちゃんとこの直後から始まります。別の巻というより、ほとんど前後編のような感じ。

さて、いつものように蛇足ですが、クラリッサに関する残された「謎」を考察しておきたいと思います。あまり気は進まないけど。

謎1:「オークスは妻の『密通』について知っていたのか?」

これについては前項参照。

謎2:「クラリッサは本当に赤ん坊を井戸に投げ捨てたのか?」

これについては…分からなかったので、例によってガンルームで検索して、英語圏ファンの意見を聞いてみました。そうしたら、もう圧倒的に、「もちろんやったに決まっている!」という意見が多いのですよね。「Of course she did! マーティンの猫も、もちろん彼女が海に投げ捨てたんだ!彼女は子供が嫌いだと何度も強調しているし、時々暴力的になると自分で告白している」と…

うーん、そう言われると、そういう気がしてきた…というか、少なくともそれに類したことをやっていないのならば、唐突にあんな「例え話」をするとは考えられないし。(猫のことは違うと思うけど…というかどうでもいいのだけど。)

で、ガンルームで出ていた疑問は、「スティーブンはなぜそんな女性を信頼して、ダイアナと一緒に(つまり幼いブリジットと一緒に)住むように手配したのか?」ということなのです。

私の意見は…この件に関しては、あまりまとまっていないのですが…ガンルームの多数派意見とはちょっと違って、彼女が赤ん坊を殺したとしたら、それは自分の産んだ子だったんじゃないか、ということです。他人の子供だったら、殺してバレてないというのも考えにくいし。そもそも(血に飢えた殺人狂でもない限り)殺す理由がないし。

流刑地を去る直前の時点では、彼女は「妊娠していなかったので安心した」と言っているけど、その前は分からない。彼女の境遇と行動を考えると、過去に望まない妊娠をしていておかしくない。むしろ、一度もしていない方がおかしいかもしれない。英国を出る直前か、シドニーへ向う船の上か(5巻のレパード号を思い出してみると、十分ありえる)、流刑地に着いてからの早い時点か…

だとすると、赤ん坊を殺した件は、彼女の暴力性とも子供嫌いとも関係なく、ある意味追いつめられてやった−ということになり…まあ、だからといって許されるわけではないけど…少なくとも、子供に近づけると危険な殺人狂というわけではなく、だからスティーブンも安心して娘に近づけた…

う〜ん…どうも、この件に関しては何を書いても自信ないです。あくまで一つの考え方として読んでおいて下さい。いや、それを言うなら、他のことも全部そうなんですけど。

謎3:「クラリッサと『密通』したのは、結局誰と誰なのか?」

「謎2」は、分からないだけじゃなくて、考えているとどんどん憂鬱になってくるのですよね。「謎3」については、「2」よりも気楽に考えられるので、気晴らしに(?)ちょっとしつこく考察してみたいと思います(笑)。

さて、サプライズのガンルームメンバーは以下の通り。

1) トム・プリングズ(志願者、副長格)
2) デイビッジ(オフィサー、二等海尉格)
3) ウエスト(オフィサー、三等海尉格)
4) スティーブン・マチュリン(船医)
5) ナサニエル・マーティン(牧師、船医助手)
6) アダムス(艦長書記、実質は主計長兼任)

ガンルームメンバーじゃないけど、この二人もクラリッサに惹かれていたことは確実なので、ついでに

7) ウィリアム・リード(士官候補生)
8) ジャック・オーブリー(艦長)

で、えーと…最近言葉遣いが下品になっていると自覚したので、このことは遠回しに、「ドアを出たり入ったりするクラブ」と呼ぶことにします(笑)。8人のうち、誰と誰がこのクラブのメンバーだったのでしょう?以下は私の個人的意見。

確実にメンバーでない:スティーブン・マチュリン、ジャック・オーブリー

この二人だけは、主人公として「本人の考えていることが地の文に出てくる」という特権(?)がありますので、ある程度確実に外せる。よかったよかった。

おそらくメンバーでない:リード

クラリッサは「彼にどうして嫌われたのかわからない」と発言していますが…これ、どっちとも取れるのだよなあ(「何もしていないのに」or「面倒見てあげたのに」)。まあ、リード君(14歳であることが判明)は、クラリッサに純粋に憧れていたのに、部屋が近かったために彼女の「正体」を見てしまってショックを受けた−ということだと思います。…そうだと言って。

確実にメンバーである:デイビッジ、ウエスト、マーティン

デイビッジとウエストは明らか。そもそも、この二人が争っていたことがサプライズ号の不和の主な原因でした。

問題はマーティンですが…ビオラの件、アナムーカ島の件などでちらちらヒントが出ている通り、少なくとも何らかの行為があったことは確実だと思います。妻帯者である上に聖職者である彼は、かなりの罪悪感を持っていることも確か。まあ自分が悪いのだけどね。(マーティンには冷たい私)

どうだったかわからない:アダムス、プリングズ

アダムスさんについては、省略してしまった所が多いのですが…頭が良くて冷静な人という感じ。だから、こんなややこしい関係には手を出さないだろうとも言えるけど…逆に、後腐れない関係だと思ったらちゃっかり利用するかも、とも言える。でも、まあ、ないでしょうね彼は。なんとなく。

最後にプリングズ。そう、他はどうでもいい、問題はこの人なのです。

ジャックがクラリッサのことを「今や彼女は、船首像と同じぐらいサプライズ号の一部だ」と言った時、地の文で「プリングズはその船首像を、崇拝すると同時に憎悪し、苦しんでいた」というのがありました。プリングズの彼女への気持ちを描写した文はこれだけなんですが。同じぐらい強い崇拝と憎しみ…怪しいなあ。

この件についてはガンルームの意見は検索していないのですが…「Of course he did!」とか言われてそうでこわい(笑)。

どうも、ドロドロした話ばっかりになってしまったまま、15巻は終わるのでした。16巻はもっとジャックとスティーブン中心に、爽やかに行きたいなあ。