Chapter 5〜封鎖、諜報活動、ハリケーン


再び喜望峰。フランスから最良の港と最強の軍艦1隻を奪い、価値の高い商船2隻を奪い返したジャックを、バーティ提督は連日の宴で大歓迎する。コーベット艦長は既にこの知らせを持って英国に向かっていた。一方、スティーブンは宴には出席せず、ファーカー氏と印刷所に籠って、秘密裡に紙で出来た彼らの武器を印刷していた−ラ・レユニオンとモーリシャスの住民に向けて、フランス統治に比べてイギリス統治がいかに利点が多いかを、流暢なフランス語で訴えた宣伝ビラだ。

喜望峰滞在中、スティーブンは南アフリカ特産のツチブタをスケッチしたり、ライオンの群を観察する機会に恵まれ、有意義に過ごしたが、ジャックにとっては失望の連続だった。陸軍との会議で、彼は「ラ・レユニオン島を攻撃するならフランス軍が体勢を整えていない今がチャンスだ」と主張したが、陸軍はロンドンから正式な命令があるまで喜望峰の陸軍は動かせないと言った。「キーティングみたいなのが、陸軍にもっといたらなあ」ジャックはぼやく。そうこうしているうちに、モーリシャスから悪い知らせが届く−封鎖をすり抜けたフランス艦が、さらに3隻の東インド会社船を拿捕したのだ。


スティーブンがツチブタをスケッチするシーンが好きです。モデルにされて恥ずかしがっているツチブタに「もうすぐ終わるからね、ハニー」なんて声をかけているところが…写真のない時代だし、絵が描ければ博物学者としては便利だと思うけど、彼の絵の腕前ってどの程度なんでしょうね。

敵の戦意を喪失させる宣伝ビラを撒くっていうのも、伝統ある戦術なんですね。太平洋戦争末期の日本でも、アメリカ軍が撒いていたって話ですが。

ハリケーンの季節が近づいているので、ジャックは嵐にはとても耐えられない骨董品のレゾナブル号を喜望峰に残し、ボーディシア号に司令官旗を移してモーリシャスへ向った。新たにマジシェンヌ号を加えた艦隊はモーリシャス島沖で集合し、フランス艦が停泊しているセント・ルイス港(モーリシャス島)の封鎖を継続する。

ある波の高い日、ジャックはスティーブンのシー・チェストが倒れ、中から夥しい量の金貨がこぼれ出ているのを発見する。「これは一体何だ?」「これはな、専門用語で金(かね)と呼ばれる物だ。そんな物欲しそうな顔してないで、拾うのを手伝ってくれよ。全部本物だ。フランスはよく贋金で情報を買っているが、そういう事が諜報活動の評判を落とすんだ。」「本物の金を使えば、より良い情報が買えるのか?」「まあ、その可能性は高くなる。でも、金で買える情報は、総じて大した物じゃないんだ。本物の宝は、僕と同じく圧政を憎んでいる人間−この場合は王党派や真の共和派、ボナパルト(ナポレオン)を倒す為に命を賭けられる人間だ。ラ・レユニオンにはかなり存在するし、モーリシャスにはもっといるだろう。でも、それ以外の人間には、この金もそれなりに役に立つんだ。」


今回は「シークレット・エージェント スティーブン・マチュリン」大活躍。彼が諜報員をやっている動機も、この巻でかなり明らかになります。彼はフランス革命を支持していたけど、ナポレオン憎し、なのね。

スティーブンは再びラ・レユニオンに上陸し、山ほどの情報を仕入れて来た。残念ながら、ラ・レユニオン島のフランス軍は体勢を整えつつある。しかし、モーリシャス島については多くの有望な情報を得られた−フランス軍のかなりの部分は、アイルランド人の捕虜や志願兵で占められていて、接触を持ってみる価値がある…「だから、出来るだけ早くネレイドでモーリシャス島に上陸したいんだ。クロンファートはこの島の沿岸に詳しいから。いろいろ下準備をしたい。我々の印刷物は効果を現すのに時間がかかるんだ。」「ネレイドなら何時でも使ってくれ。でもスティーブン、弱気だと思われるかもしれないけど…おれたちが単独で巡航していた頃が、つくづく懐かしいよ。他に何の責任もなくて、音楽を楽しむ時間もあったし…」

クロンファート卿は艦隊を−ジャックの元を−離れられて嬉しそうだった。彼は艦長室をごてごてと飾っている珍品の数々の由来を延々と説明してスティーブンを死ぬほど退屈させたが、彼のモーリシャスの水路に対する知識は本物だった。艦を巧みに操って浅瀬の入り組んだ沿岸を進む彼の腕に、スティーブンは心から感心する。

モーリシャスでの仕事を終えたスティーブンが戻った時も、艦隊は相変わらず港の封鎖を続けていた。港のフランス艦隊は動く様子もなく、暑いクリスマスが過ぎ、新年が過ぎても、封鎖は延々と続いた。艦は交代でロドリゲス島に補給に行っていた。ロドリゲスへ向かう艦には必ずスティーブンが乗っていた。彼は何度も往復して骨を採集し、絶滅した鳥の骨格標本を完成させるに至る。

そんなある日−輝く太陽の下、ボーディシア号に信号旗が上がる−『全艦、荒天に備えよ』やがて、艦隊は物凄いスピードで近づいてきた暗闇に呑み込まれ、あたりは轟音で満たされた。艦内は無重力状態になり、スティーブンは艦の端から端まで吹っ飛ばされながらシックベイまで這い降り、次々に運び込まれる怪我人の手当てをした。8時間ほど経ち、揺れがいくぶん治まって新たな患者が運び込まれなくなった頃、ずぶ濡れのジャックが降りて来た。「甲板で珍しい物が見られるから、手が離せるようなら来ないか?」スティーブンが上がって見ると、甲板は避難所を求めて集まったあらゆる種類の鳥−この辺りには生息していない鳥まで−でびっしり埋まっていた。鳥たちは彼が触っても抱き上げても逃げようとしなかった。

ハリケーンの直撃でかなりの損傷を負った艦隊は、修理のため喜望峰に戻らざるを得なくなった。


クロンファートが一角鯨の牙をユニコーンの角だ言って自慢する話、封鎖任務中の艦隊が間違った種類の海亀を食べて尿がエメラルド・グリーンになる話は、うまく入らなかったけど入れたかったなあ。ってここで書いてれば同じか。

余談:先日台風が来た時、ふと「台風とハリケーンはどう違うのだろう?」と思って調べてみたら、発生する地域が違うだけで本質的には同じものだそうです。こういうことがすぐ調べがつくから、インターネットは便利♪