Chapter 6〜軍法会議とラ・レユニオン攻撃


喜望峰に帰ったジャックは嵐で傷ついた5つの艦を一刻も早く修理しようと、ケチで汚職のはびこっている工廠と果てしない闘いを繰り広げていた。

そんな彼に、待ちわびたソフィーの手紙が届く。しかし、郵便船が嵐で行方不明になり、もう1隻も積荷が水をかぶってしまったので、彼の元に届いた手紙はあちこちインクが流れ、白黴に覆われて、順序も内容もほとんど意味不明になっていた。彼はわずかな暇を盗んでは紙の皺を伸ばし、内容を解読しようとした。「スティーブン、暗号解読は得意だろ?手伝ってくれ」二人は謎に取り組むが、分かったのは双子に髪と歯が生えた事ぐらいだった。「あっ!さっき綱くずだと思って吹き飛ばしちまったやつ、双子の髪だったみたいだ」彼はしばらく床を這い回り、拾って手帳に挟んた。「ソフィーは『びっくりするほど元気』だそうだ。良かったけど、何で『びっくりするほど』なんだ?病気だったのかな?近頃、アッシュグローブ・コテージの事ばかり考えているんだ。考えなきゃならない事は他に山ほどあるのに…」

一方、ジャックを喜ばせるニュースもあった−インドからロドリゲス島に陸軍の援軍が到着し、ラ・レユニオン島の本格的な攻撃が可能になったのだ。軍を運んできたイフィゲニア号は艦隊に加わり、マジシェンヌ号と共にセント・ルイス港の封鎖に戻った。


最近の赤ん坊は生まれた時から髪が生えている場合が多いけど、昔の赤ん坊は生えていなかったそうな。母親の栄養状態の影響だそうな。ま、それはともかく、ふたごちゃんの髪を必死で探して拾い上げるジャック、お父さんしてますね〜(微笑)。

しかし、船が運んでくる手紙が唯一の情報源なんて大変だわ。

艦隊司令官であるジャックには、艦の修理以外にも憂鬱な任務があった−軍法会議の裁判長を勤める事である。敵に自艦を奪われた艦長、上官と争った士官、艦の備品を売り飛ばした掌帆長、各艦の艦長では裁けない重大な軍規違反を犯した水兵。彼らを裁くため、艦長たちがボーディシア号に集まった。

軍法会議が終わった後、ジャックは午餐会で艦長たちをもてなす。「死刑判決を下した後、食欲が落ちたりしないのか?」肉の固まりにかぶりついているジャックにスティーブンが訊ねた。「落ちないね。死刑は好きではないし、軽い判決が可能ならそっちに投票するが、はっきりした敵前逃亡や職務放棄の場合、絞首刑以外に方法はない。」「僕には野蛮な事に思えるね。」ピム艦長が口を挟んだ−「医者だって腐った手足を切り落とすでしょう?身体の残りの部分を救うために。」「医者は復讐や罰の意味で手足を切り落としたりしないし、それを見せしめにしたりはしない。あなたの譬えは尤もらしく聞こえるが、軍医全体に対する侮辱だ。」ピムはあわてて、侮辱するつもりなどありませんでしたと謝ったが、厳しい仕事ですから厳しい規律が必要なんです、と付け加えた。「ドクター・マチュリンの仰る通りですよ」クロンファート卿が言った。「死刑には見世物の意味があると思います。判事が判断を誤る事もありますし…人の命は一度失われたら戻らない…人命ほど貴重なものはありません。」ジャックが言った−「人命は貴重と言っても、自分の艦に斬り込んで来た敵を撃ち殺すのに躊躇う奴はここには一人もいないだろう?たしかに、厳しい仕事だが、軍人は−少なくとも、士官は−自発的にこの仕事に就いている。自ら義務を負った以上、それを果たさなければ死が待っている。それに耐えられないなら辞めればいい」「いかにもトーリー党的な人命軽視…」クロンファートが言い、ジャックは力強い声で彼を遮った−「クロンファート卿、ワインが君の横で止まっているぞ。ところで、人命と言えば−」彼は笑顔で続けた−「我々の艦隊はこの地の人間を減らすより、増やす方に貢献していると思わないか?うちの士官候補生たちときたら、もう二人の女を妊娠させた奴までいる始末で…」これがきっかけで場の緊張がほぐれ、冗談が飛び交い、午餐会は明るい雰囲気で終わった。

「あんな事を言い出してすまなかった。気まずい思いをさせてしまった」後でスティーブンが謝った。「人前でする質問じゃなかった。艦隊司令官としての答なのかジャック・オーブリーとしての答なのか分からない」「両方だな。おれは本当に絞首刑が嫌いだ。でも、我々の規則に照らして絞首刑になる事をした人間なら、それは仕方がない−だからさっき言った事は、おれの本音とそれほど違わいない。でも、クロンファートに言ったのは艦隊司令官としての言葉だった。尊大だが、人命の尊さとかいう感傷的な演説が気に障ったんだ。学者が言うなら誰も気にしないが、彼が言っちゃいけない。トーリー党とかホイッグ党とか政治的な事を言い出したんで、止めるしかなかった。でも、わりとさりげなく止めたろ?彼が有能なのは分かってる。あんな軽はずみな所がなければ、もっといいんだが…」


ジャックったら、大人じゃ〜ん。

ピムさんっていうのは艦長としては有能なのでしょうけど、ニブイ人みたい。スティーブンにそんなこと言うなんて命知らず(?)だわ。でもマチュリン先生、怒る時ぐらいラテン語使わないでくれ。そんな難しい言葉で怒られても…(難しい部分はここでは省略してますが)

トーリー党とホイッグ党は当時の英国の二大政党、ジャックは一応トーリー党で(あまり政治には関心がないようですが)、海軍にはホイッグ党の人が多いようです。で、どう違うかって?分かりません。現代の二大政党がどう違うかだって知らんのに…(開き直り)

インドから来た陸軍を積み込むため、艦隊はロドリゲス島に到着した。スティーブンが歩いていると、背の高い、少年の面影を残す青年が彼を呼び止めた。「ドクター!」「トム・プリングズ海尉!久しぶりだな!」「僕を初めて『プリングズ海尉』と呼んでくれたのはドクターでしたね。良かったら今度は『プリングズ艦長』と呼んで下さい。」「もう艦長になったのか?」「正式な艦長じゃありませんけど、輸送艦グローパー号の艦長になったんです。ほら、あれです。なかなか美人でしょう?」彼が指差した先には、漁船のような小さなずんぐりした船が停泊していた。「ただの輸送艦ですけど、初めての指揮艦です。素晴らしく喫水が浅くて、どんな小川だって遡って行けるんですよ。」スティーブンはプリングズに頼んでシャベルと数人の水夫を貸してもらい、兵の積み込みの間にロドリゲスドードーの骨を発掘した。

ジャックの一の部下、トム・プリングズくん再登場。ジャックもそうだけど、どんなぼろ船でも自分の指揮艦となると可愛くてしょうがなくて、少しでも良い点を探そうとしてしまうみたいですね。

部隊の積み込みを終了した艦隊はラ・レユニオン島に向う。ジャックとキーティングは上陸作戦の詳細をつめ、スティーブンは艦尾甲板をうろうろと歩きながら物思いに沈んでいた−彼の物思いの大半は、ナポレオンと彼がもたらした悪への呪詛に占められていた。「−共和国の美点を全て破壊し−王政の美点すら全て破壊した−あの芝居がかった帝国−教皇に対するあの仕打ちはどうだ!あんなのはフランス人じゃない−スイスとベニスに対する仕打ち−アイルランドが彼の手に渡ったらどんな事になっていたか−」たまたま通りかかった陸軍の下士官が彼とうっかり視線を合わせてしまい、その物凄い目つきにショックを受けて逃げて行った。

一夜明けてスティーブンが甲板に上がると、ラ・レユニオン島が目の前に広がり、一晩中甲板で指揮を執っていたジャックが疲れた様子で立っていた。「嵐が来そうだが、その前に上陸できるかもしれない」彼はそう言いながら上着とシャツを脱ぎ、当番士官に指示を与えながらブリーチを脱ぎ捨て、頭から海に飛び込んだ。ボーディシアの乗員は慣れていたが、陸軍兵は目を丸くして見つめていた。ひと泳ぎして帰って来たジャックはしばらく熟睡し、コーヒーの香りで目覚めてたっぷり朝食を摂り、さっきより10は若返った様子で甲板に戻って来た。


一人ひそかに怒っているスティーブンとうっかり目を合わせてしまった兵隊さんはお気の毒。よっぽど怖い目つきをしていたんでしょうね〜(笑)。

ジャックの突然ストリップ(違)は本筋に関係ないけど入れたかったの。どこを入れてどこを飛ばすか、趣味が出ているなあ…

作戦は、首都セント・デニスの両側から軍を上陸させ、首都を挟み撃ちにする事だ。東側の上陸地点は波が高く、上陸は困難を極めた。ジャックは喫水の浅いプリングズのグローパー号を岸につけさせ、その船体の風下からボートを上陸させた。グローパー号は座礁しながらも防波堤の役割を立派に果たしたが、兵が上陸した後、高波になぎ倒されて崩壊した。陸軍の上陸が完了すると、スティーブンがジャックに「そろそろ僕も上陸したい」と言い、ボンデンと共にマジシェンヌ号で去って行った。

翌日、ボーディシア号は西側の上陸地点に移ってキーティング中佐を上陸させた。ジャックは艦隊司令官として艦にとどまらなくてはならないのが残念でならなかった。「肝心の戦闘はここから望遠鏡で見ているだけなんて…キーティングが羨ましいですよ。」彼はファーカーに言った。

キーティングは上陸部隊のフレイザー中佐と合流し、戦闘配置についた部隊を見回した。「いい攻撃になりそうだな」「ええ。あとは攻撃命令を下すだけです」「なら、一体どうして命令しない?」「実はさっき、あの総督の政治顧問って人が来て、フランス軍の司令官と話したいって言ったんです。それで、談判申し込みの合図を鳴らして、白旗を上げて行かせたんですけど…行かせてよかったんですよね?なんか悪い予感がするんですが…あの人、頭は大丈夫なんですか?この骨を預かっていて欲しいって言われたんですけど…」「まあ、政治家ってやつはなぁ…気にするな、フレイザー、すぐ終わるさ。フランス軍は丘に塹壕を掘ってるな。あれを押さえるには1週間位かかるぞ…」彼らが望遠鏡で敵陣を睨んでいると、ドクター・マチュリンとフランス軍の士官が、数人の民間人を連れて近づいて来た。スティーブンが言った−「キーティング中佐、こちらはサン=スザンヌ大佐、この島の司令官です。無益な流血を避ける為、島全体の降伏を申し入れるそうです。

旗艦のジャックとファーカーが、島から砲声が聞こえなくなったのを不思議に思っていると、大きな歓声が聞こえ、続いて手紙を持った少尉がやって来た。「親愛なる艦隊司令官殿−あなたのご友人には、まったく失望させられた。彼は我々から戦闘を取り上げたんだ!とてもいい戦闘になるところだったのに、唐突に敵が降伏を申し入れて来て−何が『無益な流血を避ける為』だ、まったく!…というわけで、良かったら文書に署名しに来てくれ−H.キーティング中佐」艦隊司令官は笑い声を上げ、ファーカーに手を差し出して言った。「総督、おめでとうございます。あなたの王国が手に入りましたよ。−少なくとも、島一つだけは。」


スティーブン・マチュリン、一人で戦争を終わらせる男。



いやまぁ、半分しか終わってないし、正確には一人でってわけじゃないけど-人命尊重とか、言ってるだけじゃないところが偉い、と思う。