Chapter 8〜アフリカーン号とコーベット艦長


ジャックとスティーブンを乗せたボーディシア号は、全速力でサウス・イースト港へ向う。急げばまだイル・デュ・ラパス島とイフィゲニア号は救えるかもしれない…しかし、到着した時にはすでに要塞もイフィゲニアも敵の手に落ちていた。ジャックは敵のヴィーナス号を誘い出して海戦に持ち込もうとするが、有利な立場になったフランス軍は落ち着き払っていて、挑発には乗って来なかった。

ジャックはラ・レユニオン島のセント・ポール港に戻り、僅かに残った3隻の小型艦(オッター号、スタウンチ号、ウィンダム号)の修理に全力を注ぐ。そこへ、ロドリゲス島から陸軍のフレイザー中佐が訪ねて来た。彼はキーティング中佐から緊急の伝言をたずさえていた。あのコーベット艦長が、英国からアフリカーン号を率いてインドへ向っていたが、途中でロドリゲス島に給水に立ち寄り、そこでモーリシャスの戦況を聞いて、協力するためラ・レユニオン島へ引き返したというのだ。アフリカーン号は既にフランス艦隊と遭遇し、海戦で負傷者も出ていた。それを聞いたジャックは、オッター号とスタウンチ号を連れて即座に出航した。

海上にアフリカーン号の姿を発見して、ジャックの心は弾んだ。英国海軍でも有数の航行性能を誇る36門のフリゲート艦、心強い味方だ。セント・ポール港での勝利の知らせを本国にもたらしたコーベットへの報奨として与えられた艦なのだろう。コーベットは優秀な艦長だ。あとは彼が、少しは部下に好かれるようになっていてくれれば…運の悪かった人間が(アフリカーン号を指揮するというような)幸運に恵まれたら、性格が変わることもよくあるものだ…


「鞭打ち艦長」のコーベットさん、英国に戻ったと思っていたのに再登場してしまいましたね。「幸運に恵まれたら性格が変わることもある」っていうのは、ジャックはポリクレスト号のパーカー副長(2巻)を想い出しているのでしょうか。私は、あのパーカーさんだって、あれから本当に性格が変わったかどうか、怪しいと思っているのですが。人間、ある年齢を越えたらそうそうは変わらないもの。悪い方に変わることはあるけど…

そういう人だとわかっていても、艦長を辞めさせるわけにはいかないのですね。罪な話だ。

アフリカーン号とボーディシア号は信号を交わし、2隻の小型艦(オッター号とスタウンチ号)を連れて、フランス艦イフィゲニア号とアストリー号を追う。ボーディシア号はアフリカーン号より航行性能が劣り、小型艦はさらにスピードが遅いので、アフリカーン号が先に立つ形で追跡は続いた。激しいスコールが襲う闇夜に、ボーディシアはアフリカーンを見失う。「彼がおれを待たずに戦闘を始めていなければいいが…」ジャックは不安そうにつぶやいた。コーベットはクロンファートとは違うし、ボーディシアの航行性能はよく知っているはずだ。しかし…

ボーディシア号は、夜明けにようやくアフリカーン号が見える距離まで追いついた。ジャックの怖れていた通り、すでに戦闘が始まっていた。アフリカーンは2隻のフランス艦にぴったりと挟まれ、集中砲火を浴びていた。ジャックが望遠鏡で見守る中、アフリカーンの軍旗がするすると降ろされた(降伏のしるし)。しかし、フランス艦はそれを無視するかのように砲撃を続けている。2隻の敵艦はアフリカーンの沈黙した船体に、15分余りに渡って砲を撃ち込み続けた。それを見守るジャックの心臓は、怒りと悲しみのあまり張り裂けんばかりだった。見守るうちに、アフリカーン号はマストが倒れ、ぼろぼろになっていた。敵艦の方はほとんど損傷を負わぬまま、アフリカーン号を拿捕した。


「降伏しているのに撃ち続ける」というのはルール違反の最たるものだと思うのですが、この巻には2回出てきますね。そしてどちらの戦闘も、1〜3巻でジャックが指揮した戦闘とは戦死者数がひと桁違う。

ボーディシア号はイフィゲニア号に近づき、すれ違いざまに斉射を浴びせる。憎しみをこめて発射されたボーディシアの砲弾はイフィゲニア号にダメージを与えた。ボーディシアが射程距離ぎりぎりのところで一時停船すると、両者はにらみ合いの状態になった。ジャックは2隻のフランス艦を観察した。敵は有利な立場にいるにもかかわらず、戦闘に消極的だ。ジャックはそこに勝機があると見た。ボーディシア1隻で2隻を相手にするのは無謀だが、アフリカーン号はどうしても奪還しなければならない…その時、オッター号とスタウンチ号が追いついて来た。ボーディシアは2隻の小型船を引き連れて攻撃に移るが、それを見たフランス艦は、拿捕したアフリカーン号を捨てて逃げて行った。足の遅い小型船を連れていては敵艦に追いつけず、ボーディシア1隻で追いかけても勝ち目はない。ジャックは追跡をあきらめ、とりあえずアフリカーン号を奪還したことだけで満足することにした。

アフリカーン号はひどく損傷していた。ボーディシア号が横付けすると、フランス軍旗が降ろされ、歓声が轟いた。しかし、ジャックが驚いたことに、アフリカーン号の水兵たちが次々に海に飛び込み、ボーディシア目指して泳いで来た。彼らは激しい怒りと歓喜にすっかり混乱状態で、規律もかなぐり捨ててボーディシアの艦尾甲板に押し寄せ、口々に叫んだ。どうか戦闘を続けて下さい…オーブリー艦長になら喜んでお仕えします…あんな糞野郎とは違う…フランス野郎に思い知らせてやる…オーブリー艦長ならできるでしょう?「おれ、昔ソフィー号に乗ってた者です。あのでかぶつのスペイン野郎をやっつけた時に。お願いします、オーブリー艦長、奴らをやっつけて下さい。あなたなら朝飯前でしょう?」

ジャックは彼らを何とか落ち着かせ、フランス艦に追いついて勝つことは不可能だと説明した。「コーベット艦長はどこだ?フランス艦に連行されたのか?」ジャックが訊くと、沈黙が返ってきた。彼らは急に用心深い顔になり、先ほどの親しさは消え去った。誰に聞いても、「知りませんです、艦長」以外の返事は返って来なかった。


やっぱりコーベットは変わっていなかったみたいで、暴君の末路…になってしまいました。

ジャックって、水兵の間でも「伝説の艦長」って感じなのかな。