Chapter 5 〜 捕鯨船と海賊船


サプライズ号、アメリカの捕鯨船を発見

サプライズ号の甲板で、フランクリン号の金の「先払い分配」が行われている時、見張りが海上に空き樽を発見しました。専門家(捕鯨船経験のある水兵)の分析によると、樽は間違いなくアメリカの捕鯨船のもので、しかもあまり日が経っていないと判明。近くに拿捕対象がいると知り、またまた張り切るサプライズ号。

夜になると、さらに確かな証拠を発見しました。鯨油を搾った後のクジラの屍骸。スティーブンは喜んで観察しますが、以前なら一緒に観察したであろうマーティンは、海に身を乗り出して吐いていました。

この頃の英米の捕鯨って、油だけしぼって後は捨てちゃうのですね。もったいない。肉もおいしいのに(<私は学校給食でクジラ肉を食べた世代。)

朝になると、"Sail ho!"の叫びがありました。北側に、まさに漁の真っ最中の捕鯨船がいます。付近にはマッコウクジラが3頭もいて、捕鯨船のボートは全部出動中、南北に広く分散していました。漁に熱中していたために、手遅れになるまでサプライズ号に気づかなかったのです。

捕鯨船の北側、サプライズとは反対側に、フランクリン号が廻り込んでいました。捕鯨船の北側に展開しているボートは、フランクリン号に助けを求めようと、そちらへ向かっています。フランクリン号が英国船に拿捕されたことを知らず、まだアメリカの私掠船だと思っているので…

サプライズの甲板では、元捕鯨船員のグレンジャーが、ドクターの隣に立って彼らの動きを説明していました。「捕鯨船は歩合制なのです。つまり、無事に帰国する人数が少なければ少ないほど、一人の取り分は多くなります。見ていてご覧なさい…」

彼の言う通り、間もなく捕鯨船は南側(サプライズ号に近い方)に展開しているボートたちを見捨て、逃げ出しました。…しかし、フランクリン号の方へ逃げたので、結局、あまり意味はありませんでした。

サプライズとフランクリン、捕鯨船を拿捕する

捕鯨船とボートが十分近づいたところで、プリングズは英国旗を揚げ、よく響く声で捕鯨船に命令しました-「旗を降ろして、本船の風下につけろ。」

南側のボートを拿捕したサプライズがフランクリンに追いつくと、プリングズは艦長に言いました。「彼女(捕鯨船)は、艦長のために残しておきました。」

船倉を鯨油でいっぱいにした豊漁の捕鯨船を、追跡も戦闘もなしであっさり拿捕したサプライズ号。やはり、僚船がいるといないとでは大違いのようです。

「ドクター、前から捕鯨船を見学したがっていたね。見に行くかい?」スティーブンは喜び、強い風に飛ばされないようにカツラと帽子の上に包帯を巻いて、あごの下で結びました。(<かわいい。)

油でつるつる滑る舷側を登り、苦労の末になんとか捕鯨船の甲板に立ったスティーブン。(苦労したのは本人でははく、ボンデンたち他の水兵ですが。)その直後、サプライズ号が拿捕した南側のボートの乗員たちが次々に帰船しました。彼らが自分たちを見捨てようとした船長につめより、非難する中、船長は必死で言い訳をしています。

ひとりの逞しい「銛(もり)打ち」が、銛を持ったまま身軽に舷側を登って来ました。彼は何も言わず、船長の胸に銛を打ち込みました。銛は胸を貫き、マストに深々と突き刺さりました。

クジラに打ち込む銛だものな〜。人間なんて軽々と突き抜けるよね、それは。

捕鯨船の英国人乗員、アメリカの私掠船を目撃したことを報告する。

スティーブンが捕鯨船から帰ると、ガンルームのトイレからマーティンの呻き声が聞こえました。よろよろと自室の寝台に倒れこむ彼に、スティーブンは「薬を調合しようか」と申し出ますが、マーティンは「たいした事はない、すぐ治る」と、取り付く島もなく断るのでした…

さて、拿捕された捕鯨船の乗員の中に、シェルトンという英国人がいました。「艦長、私をご存知ないでしょうね。艦長がソフィー号を指揮していらした頃、ポート・マオンにおりました。カカフエゴ号を連れて凱旋された時も。」「敵の船で何をしている?」「アメリカとの戦争が始まる前から、この船に乗っているのです。それより…」

シェルトンは、少し前に捕鯨船が出会って挨拶したフランス私掠船のことを話しました。名前はアラスター号、32門、4本マストで、海賊旗(ジョリー・ロジャー)を掲げています。「サプライズ号と僚船と二隻でなら、楽に拿捕することができます。サプライズ一隻でも勝てるでしょう。その場合は接戦になるでしょうが…」

ジョリー・ロジャー(Jolly Roger)とは、黒地に髑髏に交差した骨、という例の海賊の印。現在ではユーモラスな印象ですが、本来はそんなものではなく…これを脅しでなく本気で揚げているとしたら、ただの私掠船ではなく海賊で−ルールを守るとか、降伏を受け入れるとか、捕虜を取るとかはせず、とにかく敵は皆殺しにするという宣言であるようです。

サプライズ号とフランクリン号、海賊船アラスター号を追う。

「ジャック、捕鯨船から真水が運び込まれたそうだな。患者の身体を拭いて、服を洗うのに使っていいか?」「身体を拭くのはいいが、服はだめだ。おれの服なんか、いつから真水で洗っていないか…紙やすりみたいだ。雨が降るまで待ってくれ。今夜か明日には降るだろうから。」

「どうしてペルーの反対方向に急いでいるんだ?ブリーディー(ブリジット)の誕生日までにカヤオ港に着くと言ってなかったか?」「どの誕生日かは言っていない。今回か、次か…」「僕の娘のことで、よくそんな軽口が叩けるな。僕は君の娘に敬意を払っているのに。」「そうか?『カブ頭』って呼んだじゃないか。まだ赤ん坊の頃に。」「恥を知りたまえ、ジャック。そう言ったのは君自身じゃないか。モーリシャスへ行く前、二人を見せてくれた時に。」「そうだったか?…いや、思い出した。たしかにおれの言葉だった、ごめん。」

「でも、何が起こっているのか、誰も教えてくれなかったのか?君はどこにいたんだ?」「下の階の自分のキャビンだ。マーキュリーのことを考えていた。」「すてきな星だ。航海術にはあまり役に立たないが」「水星じゃなく、水銀のマーキュリーだ。水銀は純粋な状態では無害だし、重症の性病の治療にも使われるが…素人が調合すると猛毒になることもある…」

ジャックはアラスター号のこと、捕鯨船員の話から海賊船の針路を予測し、そこへ向かっていることを説明しました。

スティーブン、症状の重くなったマーティンを診察し、皮膚がひどい状態になっていることを発見

マーティンの病気は、日に日に重くなっているようなのですが、本人はあくまで「一時的なもの」と主張して、スティーブンの診察を拒否していました。

回診に現れて「もう治った」と主張するマーティンに、スティーブンはとうとうベッドへ行くように厳命しました。「これは医者としての命令だ。」

アヘンチンキを処方して眠らせたマーティンを、彼は空いている士官候補生室に寝かせました。パディーンと二人で服を脱がせると、体中の皮膚がひどい炎症をおこしていて、彼は驚きました。「これはレプラ(ハンセン氏病)ですか?」「いや、違う。」

二人は真水のぬるま湯を持ってこさせ、マーティンの身体を洗い、オイルを塗り、真水で洗ったシーツに寝かせました。パディーンを休ませた後、スティーブンはマーティンを念入りに診察しますが、疑っていたような性病の兆候はありませんでした。

海軍軍医である彼は、もちろん性感染症に関してはエキスパートですが、彼の知っている症状は一つもありませんでした。性病だと思い込んだだけで症状が現れることもあるが、この皮膚の状態はそのせいではないようだ…妻に少しずつ毒を盛られていた男に、同じような症状を見たことがある…

スティーブン、クラリッサのことを考える

夜通し、眠り続けるマーティンに付き添いながら、彼はクラリッサのことを思い出していました。(ここはかつてオークス夫妻がいたキャビンなので。)

スティーブンはガンルームで、オークスが嫉妬しなかった唯一のメンバーでした。彼とてクラリッサが好きだったし、アヘンをやめて以来、肉体的な欲望を感じないわけではないが…彼はクラリッサが何の悦びも感じないことを知っていたし、愛情も欲望も、双方が感じていなければ何の意味もないと思っていたので…

クラリッサはダイアナほど美人ではないが、背筋がぴんと伸びたところや、優雅な仕草や、勇敢な性格が似ていた。二人が友達になってくれればいいが。彼女が子供嫌いなのは知っているが、ブリジットは例外と思ってくれればいい…

スティーブンはクラリッサをこんな風に思い出しているし…井戸のイの字も出てこないし。やっぱり「アレ」は何かの間違いなのかなあ、という気もしてくる。

サプライズ号、夜の間にフランクリン号を見失う

夜の間、何度も激しいスコールが襲い、その中でサプライズ号はフランクリン号を見失ってしまいます。このままでは一隻だけでアラスター号と戦わねばならないのではないかと、ジャックは心配していました。

ジャックにその勇気がないわけではなく(ジャックに勇気が欠けているとは、誰も思わないでしょうが)−もし、圧倒的な力の差を見せつけることで、双方が血も流さず、名誉も失わずに降伏されることができるなら、それに越したことはないから。「何と言っても、彼は英雄というより、プロの軍人だった。

一眠りしたジャックは、「砲声が聞こえたようだ」という報告で起こされ、甲板に戻りました。

夜明けになると、次のスコールがサプライズ号を追うように近づいて来たかと思うと、ジャックたちの上に激しい雨を降らせ、追い抜いて行きました。猛スピードで走る巨大な雲の塊を追いかけながら、砲声の方向へ向かうサプライズ。

スコールの雲が視界から去ると、その後に二隻の船が見えてきました。フランクリン号と、4本マストの船−アラスター号。すでに砲撃戦は終わり、フランクリンがアラスターに斬り込んで、激しい白兵戦が始まっているようです。

「ミスタ・グレンジャー、戦闘配置。」

マーティン、目を覚ます

船内が戦闘配置につく騒音で、マーティンは目を覚ましました。「マチュリン、君なのか?」「そうだ。」「ああ、よかった…よかった…神よ感謝します。死んで、地獄にいるのかと…この部屋だ。このひどい、ひどい部屋のせいだ。」

そこへリードが、戦闘配置を知らせに来ました。「わかった、すぐに配置につく。」「私も行っていいか?」「その身体では無理だ。」「どうか連れて行ってくれ。この部屋に残されるのは耐えられない…ここは私が…ここはミセス・オークスが…罪の報いは死だ…私は生きながら腐ってゆき、死後の世界では…クリステ・エレイソン(キリストよ、哀れみたまえ)。」

「キリエ・エレイソン(主よ哀れみたまえ)。ナサニエル、聞くんだ。君は腐ってなどいない。ただの塩かぶれだ。不適切な薬を飲んだのでないのなら…この船の中で、その種の病気に感染することはない。キスや愛撫や、同じカップから飲んだりすることでは感染しない。医者として断言する。」

ジャック、サプライズを率いてアラスター号に斬り込む

甲板上で激しい白兵戦の続く二隻のところへ、ようやく辿り着いたサプライズ。フランクリンの反対側に、挟み込む形でアラスター号に横付けしました。

サプライズ号乗員を率い、ボンデンを右に、口から泡を吹いている不器用デイビスを左に従え、アラスター号に斬り込むオーブリー艦長。が、すぐにピストルの弾が飛んできて、ジャックの帽子を飛ばし、頭皮をかすめ…続いて、長い槍に脚を斬られて、彼は倒れました。

艦長がやられた!」デイビスが叫び、槍を持った男の脚を斬り、ボンデンが頭をかち割りました。デイビスがなおも死体に斬りつけている間に、フランクリン号の乗員たちが、咆哮を上げながら殺到しました。

後は大混戦。敵味方が狭いスペースに殺到し、ほとんど斬り合う余地もなく、ピストルを敵の頭に押しつけて撃つような状態。フランクリン号からアラスター号に逃げ帰って来た海賊たちを、フランクリンとサプライズの乗員たちが挟み撃ちにしました。

「艦長がやられた!」という叫びに、完全にアタマに来てしまっている彼ら。アラスターを圧倒し、下部甲板に逃げる者まで、追い詰めて容赦なく斬り倒しました。

アラスター号の海賊たちがほとんど倒れ、戦闘が圧勝に終わった後…制圧したアラスター号の船倉から、黒人奴隷が12人、化粧をした少年数人が発見された頃…身体の上から3人分の死体を押しのけて、オーブリー艦長が立ち上がりました。

「血なまぐさい戦闘だったなあ。」駆け寄ったプリングズに、彼は言いました。「トム、元気だったか?船の調子はどうだ?