Chapter 1 〜 家族たちの再会


さて、18巻。18巻では、6巻から17巻までずっと続いた「長い1813年」がやっと終わり、いよいよ1814年に突入します。

このごろ、題名の解説から入るのが習慣になっておりますが、18巻の題名は「The Yellow Admiral = 黄色提督」。黄色提督とは、17巻1章にも書きましたが、「名目だけ提督位になるが、実際には指揮する艦隊のない不名誉な地位」のことです。

これが題名になるってことは…ジャックが「黄色提督」になってしまうのでしょうか?17巻のジャックは、奴隷貿易の妨害任務でかつてないほどの大きな戦果をおさめたし、フランス軍のアイルランド上陸もしっかり阻止したし、「黄色くされる(yellowed)」理由はないように思えますが…彼のことだから、また陸でドジをやるのでしょうか?

まあ、それは後のお楽しみ(?)として。

この巻の(特に前半の)特長はといえば、女性が活躍することかな。いや、まあ、ジャックとスティーブンを押しのけて主役になるところまではゆきませんのでご安心を。でも…ダイアナの暴走族ぶり、ソフィーの強妻ぶり、クラリッサのファム・ファタルぶり、ブリジッドちゃんのおてんば(死語?)ぶりに、ますます磨きがかかって、後半ではサラとエミリーの成長ぶりも出てきたりして…いやいやステキです、みなさん(笑)。

しかし、この巻はサー・ジョセフから始まるのでした。

サー・ジョセフ、スティーブンのことを心配している

サー・ジョセフは外見を描写されることがめったにないキャラクターですが、この巻はいきなり彼の外見描写から始まっています。”Sir Joseph Blaine, a heavy, yellow faced man in a suit of grey clothes and a flannel waistcoat....”

「グレーの服とフランネルのウエストコート」はともかく、他はあまりいい描写ではないですねー。"heavy"というのは、単に太っているというより、体が重くて動きとか鈍いという感じ。顔色が黄色いのは…たぶん、東洋人のような「黄色さ」ではなく、普段からよく「黄色い」と描写されるスティーブンの顔色とも違って、どうも、肝臓の悪さに起因しているらしい。

ジャックと同じく、スティーブンにウォーキングを勧められているサー・ジョセフ。美食・運動不足・ストレスと、三拍子そろってメタボリックなサーですが、今現在の彼のストレス源は当のスティーブンです。というのは…(と、17巻と18巻の間の出来事の解説に入る)

アイルランドでダイアナと再会したスティーブンは、彼女と一緒に英国へ帰って来ました。H公爵が自殺して、パディーンたちの恩赦が拒否されたり財産を没収される危険がなくなったので、コルーニャ(ラ・コルーニャ)の銀行に預けた金を引き出し、ブリジッドたちを英国に連れ帰るために、二人はスペインへ行きました。

しかし、二人が出発した一週間後、サー・ジョセフに緊急連絡が入りました−スティーブンがペルーの独立運動に関わっていたことが、スペイン政府にばれてしまったのです。なぜばれたかというと、何とあのジャン・デュトゥールがスペインに現れたのです。今では、自由平等の理想よりスティーブンとジャックへの復讐心に燃えている(らしい)彼は、スティーブンのペルーでの活動をスペイン政府にチクり、スペイン政府はコルーニャの彼の財産をおさえ、彼がそれを取りに来たところを逮捕しようと待ち構えているというのです。たいへん!

外交ルートからそれを知ったサー・ジョセフは、スペインネットワークを使ってなんとか彼に情報を伝えようとするのですが…あいにく彼の足取りは不明。コルーニャに現れた様子もなく、どこかでスペインに逮捕されているのではないかと、サーは心配で心配で、いてもたってもいられない状態なのでした。

スティーブンはサー・ジョセフが心から好きな数少ない人間のひとりだった。二人が共通の趣味をたくさん持っているのは確かだ−音楽、昆虫学、ロイヤル・ソサエティ、いいワイン、そして二人ともナポレオンを憎んでいる。しかし、それだけではなく、特別な共感と互いへの尊敬が、いつか形を変えて…彼は言葉に迷った…共通の興味、傾向、習性、性格…まったく違った次元のものへと形を変えていた。

お探しの言葉は「」ですかい、サー?いきなり、あふれちゃってますなあ(笑)。

ところが、彼のことで頭がいっぱい状態で家に戻ると、玄関先に当の本人が立っていたので、サー・ジョセフは驚き喜ぶのでした。

スティーブン、スペインの旅の顛末についてサーに話す

「おお、おお、君のことを考えていたところだ。元気だったか!」サーは、大騒ぎで彼を居間に案内しました。「とても元気そうだ。私ときたら、君がやつれた姿でスペインの監獄にいるところを想像していたのだから…」サーは事情を説明しました。「君も他の情報源から聞いたのか?」

「いいえ、知りませんでした。私がコルーニャに行かなかったのは、純粋に聖人のお恵み、私の愚かさのせいなのです。ダイアナとスペインに着いた時、銀行の預り証が荷物の中に見つからなかったので…」「まさか、あれだけの金塊の預り証を、なくしたというのではないだろうね?」呆れて、思わず叫ぶサー。「いえ、どこにあるかは後で思い出しました。しかし、英国に置いてきてしまったので…もちろんその時は自分に腹が立ちましたが、翌朝、これは悪運の顔をした幸運かもしれないと思い直したのです。もちろん、これほどの幸運であったとは、今あなたに聞くまで知らなかったのですが…

「ご存知の通り、ダイアナと娘はしばらく会っていなかったので、再会は気まずいものになるおそれがありました。馬車で旅をしながらなら、新鮮な景色、話題の種が次々に現れる旅の間なら、打ち解けやすいかと思ったのです。それに、二人にカタロニアを見せたかったし、バルセロナのドクター・リャーズにブリジッドを診せたかったということもありました。

「当座の金なら、コルーニャに行かなくてもたっぷり持っていましたので、馬車を雇ってブリジッドとミセス・オークスが滞在している所へ迎えに行きました。人生最良の決断でしたよ。クラリッサとダイアナは元々仲が良かったし、ブリジッドもすぐに打ち解けて、馬車の中は陽気な笑い声が続きました。天気もよくて、娘に鳥や動物を見せながら、アルベレスの下の私の地所まで行きました。1803年にジャック・オーブリーを連れて行ったところです。…そこでこれを見つけました。」スティーブンはサーに珍しい蝶のお土産を渡し、彼を喜ばせました。

相変わらず、ここぞと言うときに「怪我の功名」に恵まれるラッキー・スティーブンでした。

「たしかに、カタロニアに着くまでは戦争の影響もありましたが…」「レディたちは怯えていなかったか?」「見た限りでは、全然。」「そうだろうな。」「カタロニアに着いてしまえば、そこでは友にかこまれているも同然です。バルセロナでドクター・リャーズに会った後、バレンシアから船でジブラルタルに行き、そこから郵便船で帰って来ました。今はみんなでグレープス亭に泊まっています。サラとエミリーもよい子たちで…おいでになって、一緒に夕食をとりませんか?」

子供が苦手なサーは、「クラブで約束があるから」と言って誘いを断り、一緒にクラブまで歩いてゆきました。「それでは、また来週に。」「よい旅を。レディたちによろしく。」サーはスティーブンの手にキスをして、二人は別れました。

男性同士でも、手にキスってするんですね。…で、このシーンはどうしても書いておきたかった私(笑)。

ジャックとソフィー、アッシュグローブを人に貸してウールコムハウスに住んでいる

その頃、ウールコムハウスでは…ジャックとソフィーとジョージの3人家族が、仲良く暮らしていました。アフリカでの任務を終えた後、ジャックは引き続きベローナ号を指揮して、今はブレスト港の封鎖艦隊に参加しています。ブレストは比較的英国に近いので、ジャックは休暇のたびにこうして戻って来て、しばらく家族と過ごすことができるのでした。アフリカにいる時、すでに手紙で仲直りしていたジャックとソフィー、今は以前の万年新婚状態に戻っています。

しかし今、この仲良し夫婦には、再び金の心配がのしかかっているのでした。オーブリー家がどうしてウールコムハウスにいるかというと、アッシュグローブコテージは人に貸しているから。

というのは…前巻アフリカで、スティーブンが黄熱病で寝込んでいる間にジャックたちがせっせと拿捕した奴隷船のうち何隻かが、ポルトガル船などの保護の対象−法的拿捕対象外だったという訴えが出されているのです。2巻でもあったけど、うっかり対象外の船を拿捕してしまうと、拿捕賞金は全部艦長が払い戻さなければならないのですね。士官や水兵に払った分も全部。

法的に保護されていると言ったって奴隷船は奴隷船、英国政府もそんな訴え、全部却下してしまえばいいのに…と思いますが、そうもゆかないみたいで。このままでは、ソフィーの持ち物であるアッシュグローブを売らなければならないという話も出ています。アッシュグローブよりウールコムを売った方がずっとお金になるのでしょうけど…ウールコムは例の「限嗣相続」というやつで、勝手に売ったりできないのでした。めんどくさいね。

それと、なぜ3人家族かと言うと…シャーロットとファニーは学校へ行く歳になったので(10歳ぐらい?)、全寮制のお嬢様学校へ行っているのでした。と言っても、学校はソフィーの末の妹フランシス(今は未亡人)が始めた小さな学校で、全校生徒20人ぐらいらしい。フランシスってたしか、うんと年上の大金持ちと結婚したのでしたね。でも今は「文無しに近い」そうで、ダンナが破産したのかなあ。それで、北アイルランドにある大きな家で学校を始めたそうで。しっかりしてるなあ。

娘たちと妹から手紙が届き、涙ぐんで何度も読み返すソフィーでしたが…同時に、ジャックのところへはスティーブンから「そちらにお世話になりに行くから」と手紙が届きました。

一族郎党(と言っても親子にクラリッサ・パディーンを加えた5人ですが)が、いきなりやって来て泊まるというので、ソフィーは大慌てで家の準備に走り回るのでした。いきなり客が来ると主婦が困るのは、昔も今も変わらないもので…

マチュリン一家、ウールコムハウスに現れる

スティーブン・ダイアナ・ブリジッド・クラリッサ・パディーンの5人は、ダイアナの操縦する立派な馬車でウールコム・ハウスに現れました。

「ダイアナ、こんなに見事な馬たちをどこで手に入れたんだい?」挨拶を交わした後、ジャックが言いました。「バースで会ったチャムリー大佐が、運動不足だからと貸してくれたのよ。」「君の腕をよっぽど買っているのだなあ。あんなに馬を大事にする人なのに。」

ジョージはといえば、ブリジッドを見つめながら、彼女の回りをぐるぐる歩いていましたが、ようやく勇気を出して彼女の前に来て、彼女にビスケットをあげました。「ぼくのヤマネ、見に行く?さわらせてあげる。」「見せて!」(ヤマネって「不思議の国のアリス」にも出てきたけど、当時の子供の一般的なペットだったのね。)

これが、ジョージ・オーブリーくんとブリジッド・マチュリンちゃんの出会いでした。二人ともかわいいなあ。この時ジョージくん7歳ぐらい、ブリジッドちゃん4歳ぐらいかな。

この二人には、ぜひ将来結婚してほしいとか思っている私は気が早すぎ?(そのとおり。)二人はまたいとこ(はとこ)だから、近親結婚ぎりぎりかなあ。でも、ジャックとスティーブンの子供だし…だから何だと言われそうですが。