Chapter 3-2 〜 Diana's Machine


現代では車やバイクのことをよく「マシン(machine)」と呼びますが、当時は馬も含めた馬車のことをmachineと呼ぶことがあったようです。ダイアナがこの言葉を使っていたのが、なんとなくカッコよかったので(笑)。

ジャック、委員会で囲い込みを阻止して凱旋する

ロンドンでの委員会を首尾よく終え、ウールハンプトンに帰って来たジャック。途中で馬の蹄鉄が外れ、修理を待つ間を過ごしたパブの主人に結果を訊かれて話したため、ジャックが村に着く前に、吉報は村中に伝わっていました。

というわけで、馬車がウールコムの村に入ると、道の両側には村人がずらりと並び、「われらがキャプテン・ジャック!」「万歳!万歳!」と歓声を上げ、握手を求めてきました。ウールコムハウスに着くと、オーブリー家・マチュリン家・ミセス・オークス・召使たち・水兵たち(頭に包帯を巻いたボンデンを含む)が、勢揃いで玄関の階段に並び、ニコニコと彼を迎えました…まるで、ドルリー・レーン(ロンドンの劇場街)の芝居の大団円のように。

もっとも、ブリジッドとジョージの格好は、舞台の子役と言うにはあまりに汚かったのですが…親に似て(どちらに似ても)お馬大好きのブリジッドちゃんが、馬小屋の掃除のしかたをジョージに教えていたからです。

馬小屋の掃除とは、馬糞のついた敷き藁を取り替えることですね。お嬢様がそんなこと、喜んでするだろうか、普通。…こういうところは、ダイアナというより、まさにスティーブンの血という気がします。

ソフィーが帰艦命令書をジャックに差し出し、顔を赤らめながら言いました。「…あなたが出発した後に届いたの。」「聞いたよ。明日、スティーブンと郵便馬車でトーベイへ出発する。」「郵便馬車なんて乗ることはないわよ。私がチャムリーのマシンで送ってあげるわ。」ダイアナが言い、ジャックはありがたく申し出を受けました。

ジャック、委員会の経緯を家族に話す。

下院での委員会は、ジャックの顔の広さと「ロード・オブ・ザ・マナー」の肩書きのおかげで、ことは意外なほどスムースに運びました。

委員長のハリー・ターンブルはジャックの従兄弟で、他の委員のうち数人がロイヤル・ソサエティやブラックス・クラブでの友人だったのです。直前にカードで負けてひどく不機嫌だったターンブルは、グリフィスの弁護士のもごもごした喋り方にひどく苛立った様子で、しかも囲い込みの賛成票が辛うじて過半数を超えているだけで圧倒的多数でないことを知り、そして何よりも、ジャックがこの囲い込みに反対であることをきっぱりと述べると、「荘園領主の明確な意志に逆らって囲い込みを申請するなんてとんでもない」と断じ、結局、申請は却下されました。

ジャックが勝利の詳細を家族たちに話していると、ウールコムハウスの台所に見事な鮭が届けられました。添えられたカードには、「われらがキャプテンへ愛をこめて 「オーブリー・アームズ」(パブの名)の全員より(For our Captain with love from all at the Aubrey Arms.)」と書かれていました。

ジャック、出掛けにソフィーと気まずくなる

勝利の余韻をもって、上機嫌で艦に向かうはずだったジャックですが…残念ながら翌朝には気分は沈んでしまっていました。出掛けにソフィーとケンカ…までは行かないにけど、ちょっと険悪な雰囲気になってしまったので。

17巻の「ミセス・オークスと赤いドレス事件」は、誤解が解けて夫婦は仲直りしたと思っていたのですが…ソフィーはやっぱり、ミセス・オークスが嫌いみたいです。クラリッサがサプライズに乗っていた時、何もなかったとはいえ、ジャックが「かなり惹かれていた」ってことを敏感に察知しているのかもしれない。それと、クラリッサはソフィーに自分のことを何も話していないだろうから、「得体の知れない女」だと思っているのかも(<これは無理もないけど)。ダイアナとクラリッサは仲が良くて、しょっちゅう一緒にドライブに出かけたりしているので、なんとなく仲間外れで淋しいのかも(<これは違うかも)。

ソフィーが何かというと「あのミセス・オークス」という言い方をするので、ジャックは「彼女とは何でもなかった、もう『あのミセス・オークス』という言い方は聞きたくない」と、少しきつく言ってしまい、お別れは気まずいものになってしまったのでした。

翌朝の夜明け前、家中が悲しそうに見送る中、ダイアナの御する馬車に乗って、ジャック一行は出発しました。

ダイアナ、馬車を飛ばす。ジャック心配する

男たち(ジャック、スティーブン、ダンダス)は、手綱を取るダイアナの隣に座る人をくじで決め、ダンダスがビンボーくじを引きました。

村のメインストリートに来ると、夜通し祝杯をあげていた若者たちがまだ騒いでいて、馬が浮き足立ちました。ダンダスは手綱を引こうとしたのですが、ダイアナの決然たる表情と、馬たちをたしなめる言葉遣いにビビって、思いとどまるのでした。

「スティーブン、ダイアナはオスコット橋のことを知っているのかな?」スティーブンと馬車の中に乗っているジャックが、不安そうに言いました。「もちろん。毎日このあたりで馬車を乗り回していたじゃないか。フィリップはどこだい?」「家に残ってミセス・オークスに見惚れているよ。ディナーの時、彼女が落としたナプキンを拾って口づけていたのに気づかなかったかい?

「それより、オスコット橋はとてもやっかいな橋なんだ。急坂を降りてすぐ、鋭く左に曲がったところにある。見通しは悪いし、90度か100度ぐらい曲がらないといけないし、両側に低い沿石のある狭い橋で、ちょっとでもコースを外れると20フィート下の深い川に落ちてしまう。このことを話したかい?」「いいや。彼女は鞭の使い方が上手い。」

「おれから言うよ。カズ(Coz=Cousin=イトコ)、カズ…」「何よ!」「その、つまり地元民として、危険な橋について注意しておこうと思って…知っているかい?あの…」「ジャック・オーブリー、私の操縦が気に入らないのなら、はっきりそう言って、自分で手綱を取りなさいよ。」(コワイ…)

「いやいや、全然そんなことは…ただその…」ジャックは諦めて、席に戻りました。「怒らせてしまったかな。丁寧に言ったんだけどなあ。」「そうだな。」

ダイアナはやはり怒ったらしく、いつもよりスピードを上げて坂を駆け下りました。ダンダスが必死で怒鳴って、犬だの猫だの子供だのを追い払っています。ダイアナはスピードを出したまま、見事な操縦で急角を曲がり、沿石ギリギリで橋をまっすぐ渡りました。

手綱を握ると性格が変わる女、ダイアナ。…いや、変わるっていうか、もともとの性格に拍車がかかるというか…スティーブンは呑気ですが、ジャックとダンダスはかわいそう。

それと、フィリップくんまで(たぶん意図はしていないと思うけど)落としてしまったクラリッサ。彼女はソフィーやダイアナほどの美人ではないということだけど…男を(特に、あまり経験豊富でない男を)無条件で引きつけてしまう何かがあるのでしょうか。

一行、途中のコーチング・インで朝食を取る

オスコット橋を無事に越えた馬車は、しばらく走って、川岸にある立派なコーチング・イン(馬車宿)に到着し、ダイアナは馬車を止めました。

ジャックは馬車を降りる彼女に手を貸しながら、「さっきはすまなかった、ダイアナ。」「いいのよ、ジャック。」彼女は素晴らしい微笑みを浮かべ−その顔は、先ほどまでのドライブの興奮に輝いていました。「あなたの船に乗るときは、私も怖いもの。

うーん…ジャックが艦を飛ばす時は、飛ばしているように見えても、結構慎重だと思うけどね。

インで、ジャックは二人の旧友に会いました。彼らは早朝に釣りをしていて、見事な鱒を釣り上げたばかりなので、一緒に朝食をとらないかとジャックを誘いましたが、ジャックがダイアナと一緒なのを見て黙ってしまいました…二人には女性の連れがいたので。

この、ジャックの友人の「女性の連れ」というのが(ネリーとスーという名前の姉妹なのですが)、どういった「連れ」なのかよく分からなかったのですが…村の女の子たちって感じで、娼婦ではなさそうだし、はっきり浮気相手ってわけでもなさそうなのですが…まあ、ちょっとした若い遊び相手ってとこかな?友だちと一緒に食事するのは問題ないけど、レディのいるところで同席する相手ではない、という感じ。

しかしダイアナはもちろんまったく気にせず、女の子たちとすぐ友だちになって、一行は楽しく朝食を取りました。ネリーとスーは気さくなダイアナにすっかりリラックスして、ネリーはギターを弾いて歌い、みんなの喝采を受けました。

ジャックの友人はダイアナに、「お昼もぜひ一緒に」と誘うのですが、ダイアナはきっぱり断りました。「ありがとうございます。でも、私はこの紳士たちをトーベイに送る約束をしておりますの。何があっても送り届けるつもりですわ。私のクルーの中に、気の小さい人がいたとしても。」