Chapter 6 〜 ジャックの大失敗


ジャック、ソフィーからの手紙を受け取る

ゲイガンの両親への気の重い手紙をようやく書き終えたジャックですが…スティーブンが、信用できるかどうかわからない外国人たちと一緒に敵国の岸辺をうろうろしているかと思うと、一向に心が晴れないのでした。

彼は封鎖任務の日々を、士官候補生たちの教育に力を入れて過ごしていました。教師に任せておいたらサイン・コサインの基礎も一向に覚えないと分かったからです。沿岸艦隊の封鎖コースを行ったり来たりしながら、黒板を作らせ、自らその前に立って、あまり優秀とは言えない少年たちに三角関数を叩きこむ毎日。

そんなある日。沿岸艦隊のクルー全員が歓喜の声で迎えたのは、郵便を配達する役目のカッターでした。待望久しい英国からの手紙。全員がニコニコ顔で見守る中、たっぷり太ったベローナ宛の郵袋が舷側を引き上げられ、まず艦長室、次にワードルーム、准士官下士官士官候補生水兵と、階級順に回されてゆきました。

真っ先に手紙を受け取ったジャックは、一人になると早速、見慣れたソフィーの筆跡で宛名書きされた封筒を期待をこめて開きました。お別れはちょっと気まずかったけれど、この手紙には、愛情溢れる仲直りの言葉が書かれているに違いない。郵便船が風に恵まれたらしく、日付を見ると、今からたった5日前でした。

ミスタ・オーブリー

私は、非常に深い、この上なく深い懸念をもって、あなたに告げなければなりません−あなたの不貞の動かぬ証拠を見てしまったことを。神の祭壇で交わした誓いに反して、あなたはカナダでアマンダ・スミスという女性と寝て、彼女を妊娠させたのですね。否定できるものなら否定してごらんなさい。私は証拠を握っており、誰かに相談するつもりです。それまで、提督に退去をお願いして子供たちとアッシュグローブへ戻るつもりです。


あとは涙でにじみ、横線で消された、ほとんど読めない文字が続き、やっと読み取れたのは「あなたは彼女のベッドを出て私のベッドに来たのね」という言葉だけでした。

コ…コワイ手紙だ…

ジャックのショックはいかばかりか…また、こういうときに限ってスティーブンがいないんだ。

ソフィー、アマンダ・スミスの手紙を見て激怒している

震える手で次の手紙を開けると、それは最初の手紙の一週間前に書かれたものでした。「マイ・ディアレスト・ジャック」で始まり、彼を送り出すとき不機嫌だったことを謝る、愛情溢れる言葉が続いていました。

こちらの手紙には、最新のニュースがくわしく書かれていました。ウィリアムズ夫人の友人でビジネスパートナーのモリス夫人が、二人のお金を持って例の従者ブリッグズと駆け落ちしてしまったこと。W夫人がヒステリーと高血圧の発作を起こしたので、仕方なくウールコムに引き取ったこと。双子とその友だちが休暇でウールコムを訪れていること。部屋が足りなくて、母親をジャックの書斎に入れたので、ジャックの荷物を少し動かしたこと。ミセス・オークスが親切に手伝ってくれたこと。ダイアナがブルー・ピーターを質に入れて、また馬の飼育を始め、高額な家賃を入れてくれるようになったので、お金の心配はないこと、などなど…

しかし、それは最初に読んだ手紙より前に書かれたもの。この二通の手紙の間に、ジャックが箱に入れて書斎にしまいこんでいたアマンダ・スミスの手紙をウィリアムズ夫人が見つけて、娘に見せたのでした。

はあ…今度という今度は、呆れてものが言えない。あんたねえ、捨てとけよ、そんな手紙。海に持っていって鉛の重しをつけて沈めろとまでは言わないけど、暖炉に放り込めば簡単じゃないか。

ジャックは、アマンダが別の人と結婚してくれたことで、彼女に感謝の気持ちを抱いていて(…なんで?)、なんとなく手紙を捨てるに忍びなかったそうです。…うーん、そういうとこ、ジャックらしいと言えば、ジャックらしいけど。

地雷なだけじゃなく、時限爆弾でもあったアマンダ・スミス嬢。そもそも彼女に手を出したことを、ジャックはさぞ激しく後悔しているかと思うと、そうでもないんですよね。なにしろ彼は、「据え膳食わぬは男の恥」というか、紳士たるもの、レディが「戦術に拘泥せず、ただ突撃」してきたら、正々堂々(?)、ヤード・トゥ・ヤードでお迎えしないのは、彼女に恥をかかせる失礼きわまりない行為だと考えているらしく…まったく、こういう考え方では、またいつかどこかで地雷を踏みそうだなあ…

ベローナ号、嵐で損傷を受けてドック入りする。

その後、ジャックはストランラー提督に呼び出されて叱責を受けました。ベローナ号がスティーブンを岸に送り届けるために、いつもの場所を離れた隙に、フランスのフリゲート艦が2隻、ブレストを脱出してしまったのです。…どうも、この巻ではあらゆる面でツイてないジャック。

家に帰ってソフィーとすぐに話し合いたいと心は焦り、彼は提督に「個人的な緊急事態」を理由に休暇を願い出るのですが…予想通り、冷たく却下されました。

その後の毎日は、ストランラー提督が艦隊に厳しい訓練を課しては、ベローナ号を信号旗で叱責し、ジャックを旗艦に呼んで叱責し…ということが続きました。しかしジャックは、提督の叱責はあまり気にかけていませんでした。なぜなら、彼の心には、ソフィーの手紙が、まるで他人のようなあの手紙のことが重くのしかかり、焦りと、嘆きと、混乱と、何よりも苛立ちが渦巻いていたからです。

もちろんジャックのことだから、この気持ちはそのまんま表にも現れていて、まわりの人々は、彼がさわると爆発する爆弾であるように、おっかなびっくりで接していました。

しかし、家庭の危機を気に病んでばかりもいられないのが艦長の仕事。

ある荒天の日、ベローナはフランスの私掠船を発見しました。艦隊を離れて追跡し、見事に拿捕したのですが…拿捕船をプリマスへ送り出した後、嵐が激しくなり、マストと船体にかなりの損傷を受けました。浸水がひどくなってきたので、仕方なくコーンウォール(イングランド南西端)のコーサンド湾に入港し、艦はそのままドック入りしました。

幸か不幸か、これで家に帰るチャンスができたジャック。ベローナ号の損傷を報告する提督への手紙をリングル号に託した後、馬車でウールコムへ向かうのでした。

ジャック、ウールコムに帰ってソフィーと対決する

早朝に家についた彼がウールコム・ハウスのキッチンに入ると、子供たちがいました。何も知らないジョージはニコニコと挨拶してくれたものの、ある程度事情を理解しているらしいシャーロットの態度はなんとなく冷たく(ママに味方しているんでしょう)、彼は焦る心をかかえて、ソフィーの部屋に駆け込みました。

彼がドアを開けると、ソフィーは母親と一緒に手紙を書き写しているところでした。彼の姿を見ると、ウィリアムズ夫人はあわてて別の部屋に駆け込んで行きました。(寝巻きのままで、薄くなった頭を隠すキャップもかぶっていなかったので)

「ここで何をしているの。」母親そっくりの表情と声で、ソフィーが言いました。「ベローナ号がドック入りしたから、ここで何日か過ごそうと…」「私は歓迎しません。」「…でも、何より、君の許しを乞いに帰って来たんだ。本当に悪かった。許してくれ。」

「私は歓迎しません。」ソフィーは繰り返しました。「ここにいたくはなかったけど、提督がまだ引越してくれていないから…ほら、見て…これは全部、あなたの愛人の手紙よ。そして、これがあなたのくれた指輪…神の祭壇の前で…なのに、あたなは帰って来たのね…」「ああ、ソフィー、マイディア…」

しかし、ソフィーは怒りに震える声で、あなたは帰ってくるべきじゃなかった、帰ってくるなんて非常識で無神経だ、すぐに出て行くべきだ、と宣言しました。

「君が言いたいことはそれだけか、ソフィー?」「そうよ。もう二度と会いたくないわ。」「それなら、くそくらえだ、気難しい、意地の悪い、無情な、心の狭いガミガミ女。」ついに逆ギレ(?)したジャックは、足音荒く部屋を出て行きました。

彼の言葉と自分の言葉の両方にショックを受けて、アマンダの手紙の上にうなだれているソフィーを残して。