Chapter 7 〜 罠


7章は13ページと短いのですが、短いわりにややこしい章です。下の方にうだうだと解説(?)を書いていますが、余計に分かりにくかったらごめんなさい。

ジャック、封鎖艦隊に戻る。スティーブンは英国へ帰ってしまっている

ソフィーと大喧嘩してウールコムを出た後(自ら出たのか追い出されたのかは微妙ですが)、ジャックは家には戻らず、コーサンド湾に滞在して、ドックヤードでベローナの修理を急がせることに集中しました。

修理が終わって封鎖艦隊に戻ったベローナ号。ジャックが旗艦に出頭すると、ストランラー提督は体の具合がよくないとかで、代わりに提督の秘書が彼と面会しました。秘書によると、ジャックの報告書を旗艦に届けたリングル号は、そのままドクター・マチュリンを迎えに行ったそうです。ドクターが緊急性のある重要な情報を得ている場合、リングル号はそのまま英国へ向かうかもしれない。

ジャック、憂鬱な気分で海上生活に戻る

ソフィーとケンカ別れした上に、スティーブンにもまだ相談できていないジャックは、どっぷり落ち込んで沿岸艦隊へ戻ったのですが…

せめてもの心の慰めになったのは、封鎖を続けながら、ブレスト沿岸の暗礁群、多くの艦船が被害を受けている海底の岩礁群を測量する仕事を命じられたことでした。海洋測量は彼のお気に入りの仕事。危険な岩礁の位置を正確に把握するという仕事−それはジャックにとって「絶対的に善である」営みのひとつでした。「ストランラー提督は、囲い込みについて同じように感じているのかもしれない。」ジャックはふと思いました。

また、士官候補生の中で、マナリングという少年が航海術と数学に才能を発揮し始めているのも喜びでした。

ジャックの職業はもちろん軍人なわけですが、海底を測量して正確な海図を作ったりするのが大好きという、技術者っぽい適性もあるのですよね。士官候補生に数学を教えるところなんか、教師の適性もあるのかな〜、とも思います。

そうこうするうち、リングル号が英国にドクターを送り届けて戻って着ました。リングル号を指揮するリードが、ロンドンまでの航海のすばらしいスピードを報告するのも、ジャックにとって少し慰めになりました。

リングル号の「キャプテン」がすっかり板についたリード君。士官候補生の中ではすでに神と畏れられる(笑)存在で、すっかりオトナですね。16歳ぐらいかな?さすがにまだ、海尉試験を受けられるほど大幅に年をごまかすことはできていないようですが(16巻4章参照)。

スティーブン、ロンドンに戻ってサー・ジョセフと会う

さて、ジャックの夫婦喧嘩のことは露知らぬスティーブンは、予定より大幅に早くロンドンに到着し、さっそくサー・ジョセフに面会を申し込みました。一刻も早く報告したい重要な情報があったからです。

「あなたに鳥肌を立たせるような話があります。」彼はサー・ジョセフに言いました。「アマチュアの諜報員というのに会ったことがありますか?」「ディエゴ・ディアスのことか?」「ご存知でしたか。」スティーブンは少しがっかりした声で言いました。

「その話は後にして、まずフランスで再会したチリ人たちのことをお話させてください。彼らはオヒギンスの保証つきです。彼らの独立活動の詳細について、長いインタビューを行いました。これが報告書です。」「ペルーと比べて、どのぐらいの熱意があると思う?」「私の意見では、成功の確率は3倍でしょう。そしてチリの場合、海軍の重要性がずっと高い。」

スティーブン、ジャックの将来についてサー・ジョセフに質問する

「親友のジャック・オーブリーの話をしていいですか?」「もちろん。」「彼のランクの他の艦長たちと同様、彼は『黄色提督』になることを恐れています。彼の見込みについて、何かご存知ですか?」「知っている。『心配ない』と言うことができればいいのだが…実際には、見込みは芳しくない。ひょっとしたら、その屈辱を避けるため、艦長のまま引退した方がいいと忠告しなければならないかもしれない。

「彼が下院に出席する時、海軍工廠の腐敗などに関して政府を攻撃する演説をするのを、海軍省はよく思っていない。現在の裁判沙汰(拿捕奴隷船に関する裁判)も、彼の信用を落としているし、まずいことに、彼はストランラー提督を敵に回している。最近の報告書で、提督はオーブリーが任務を怠り、旗艦の信号旗を無視して、私欲のために勝手に私掠船を追っていったと書いていた。残念なことに、ストランラー卿は政府に大きな影響力を持っている。下院の4議席をコントロールしている。」

「オーブリーが『黄色くされる』のを見たくはありません。」「私もだ。まあ、メルヴィル卿にもウィリアム王子にも好かれているから、そんなことにはならないかもしれない。提督旗を争わなくていいように、陸上で名誉職を与えられるかもしれない。何かの理事か、海洋測量関連の仕事とか…そうすれば、黄色提督になる心配はない。」

でも、陸上の仕事では、ジャックは気に入らないだろうな〜。測量大好きだから、海洋測量関係の仕事なら好きかもしれないけど…それでも、肝心なことは青い旗(青色艦隊少将旗)を揚げることだ、と言っていたし。それが叶わなければ、どんな地位を与えられても彼が満足することはないでしょう。

スティーブン、ディエゴ・ディアスというスペインのスパイについてサー・ジョセフに報告する

「さて、鳥肌が立つような話とは?」「あなたが悪党の名を言い当てたことで、少々効果が薄れましたが、それでもすごい話です。ディエゴ・ディアスは大した敵とは思われないでしょう?」「そうだな。大金持ちで、派手に賭け事をして、派手なパーティを開いて、政府の要人と親交を結びたがり、半端な情報をもらって、さも重要そうに見せかけて転売しているだけだと思っていた。」

「たしかに大金持ちです。スペインの名家の跡取りで、外交面に興味を持ったのですが、上の人間に指図されるのが我慢できない性質なので、スペイン政府の中に自分自身をトップにした諜報機関を作りました。主に海軍関係の情報を扱っています。私の友人のベルナルド(5章でスティーブンが一緒にフランスに上陸した、スペイン諜報部に潜入しているカタロニア人)が、彼の部下だったのです。ベルナルドによれば、彼は大胆な手段を好み、パリで家宅侵入を働いて多くの情報を盗み出したそうです。このリストをご覧ください。」

「外務省のマシューズ、財務省のハーパー…わが政府の人間ではないか。」「重要人物ですか?」「そうだ。」「彼らは、ディエゴと賭け事をして多額の借金を作ってしまった人々です。彼らはディエゴに、政府の重要な人間の中で、誰が家に書類を持ち帰るか…あなたのように…を教えました。

「弁護士に雇われて不倫などの『証拠集め』をする連中がいますが、ディエゴは彼らを雇って家宅侵入させるのです。時々、彼自身も一緒に行きます。大げさな変装をして…ベルナルドによれば、重要な書類を選別できるのは自分だけだからと言い訳しているそうですが、スリルを味わいたいからでしょう。金曜日にあなたを訪問する時も、そうするかもしれません。」「それは素晴らしい!早速、ニセ書類を作ろう。」

「それもいいですが、彼を現行犯で逮捕した場合のことを考えて下さい。夜に個人の邸宅に侵入して、盗んだ書類を手にしているところを…スペイン政府に赤っ恥をかかせることができるし、どんな譲歩でも引き出せるでしょう。」「胸が高鳴ってきた。どうやってこのような罠をしかけたのだ?」「あの有能なプラット(11巻から登場している探偵)の協力によって。彼はこの種の『証拠集め』をする連中をよく知っています。今回の侵入は彼が手配してくれたのです。金がかかりますが…」「その価値はある。」

スティーブンとサー・ジョセフ、サー・ジョセフの家でディエゴ・ディアスを待ち伏せる

金曜日の夜、昆虫標本のケースや、カモノハシや熊の剥製が並ぶサー・ジョセフの書斎。のぞき穴のついた鏡でカモフラージュされた隠れ場所から、サーとスティーブンは黒髭の男が侵入してくるのを見ていました。

髭男がマホガニーの戸棚を開いて書類を取り出すと、突然、熊の剥製が頭を脱ぎ捨て、王冠のついた警棒を胸から取り出して、甲高い声で叫びました。「王の名において逮捕する。」

明かりがつけられ、男は取り押さえられて、手錠をかけられた拍子に付け髭が落ちました。

「私は顔を出さないことにします。」スティーブンはサー・ジョセフと握手しました。「こちらで朝食を頂いてもよろしいですか?」「もちろんだとも。まったく、すばらしい大成功だ!」


ドン・ディエゴ・ディアスの謎

この章は、理解するまで何度も読み返さなければなりませんでした。それでもよく分からなくて、ガンルームを"Don Diego"で検索して、ようやくいくつか疑問が解けました。それでもまだ、ちゃんと理解できているかどうか自信はないのですが…とりあえず「たぶん、こういうことなのだろう」というところを整理しておきます。

謎1:スティーブンはどうしてディエゴが金曜にサー・ジョセフ邸に来る、なんていう細かい事まで知っていたの?

これ、最初に読んだ時は、分かりにくくてちょっと混乱したのですが…つまり、ここでスティーブンがサーに話している情報のソースは二つに分かれているわけですね。

「ディエゴ・ディアスは書類を家に持ち帰る政府の人間を探り出し、家宅侵入している。その標的にはサー・ジョセフも入っている。」までは、スペイン諜報部に潜入しているカタロニア人のベルナルドから、「金曜日にサー・ジョセフの家に侵入する」はプラットから。スティーブンが二つの情報を続けて話しているので分かりにくかったのです。

というか、「スティーブンがロンドンに来て、その週のうちにサーの家に侵入」というのは、偶然にしてはタイミングが良すぎる。多分、スティーブンがロンドンに戻ってから、プラットの裏社会のコネを通じてセッティングしてもらった罠なのでしょう。そのへんのスティーブンの行動はまったく書かれていなくて、ロンドンに着いてすぐサーに会ったような印象だったので、分かりにくかったのですけど。

謎2:ディエゴ・ディアスの逮捕は、どうしてサー・ジョセフが狂喜乱舞するほどの大成功なの?

そりゃ、自国の情報を盗んでいた他国のスパイを逮捕すれば大成功ですが、当時のスペインは敵国でもないし…

どうもこれは、単にひとりのスパイを逮捕したというより、逮捕によって「スペイン政府の弱みを握る」ことができる…という意味の方が大きいようです。ドン・ディエゴ・ディアスはスペイン国内で非常に高い地位にある人なので。

事を表沙汰にしないこと、ドン・ディエゴの身柄を引き渡すことと引き換えに、スペインからいろいろ譲歩を引き出せる。「取引材料」になるわけですね。同盟国とはいえ、そのへんはシビアなようで…だからこそ、ニセ書類を掴ませる代わりに逮捕したわけです。

また、サー・ジョセフはこういう事に関してはすこぶる有能なので、この「取引材料」に群がる英国政府の他部門を蹴散らして、最後の一滴までを海軍情報部のために役立てたそうです。

謎3:そもそも何で、唐突にこんなエピソードが出てくるの?全体の話の流れと、どう関係するの?

これも分かりにくくて、初読では奇異な感じがしたのですが…

次の章のはじめの方で、サー・ジョセフがスティーブンに「君はまた大金持ちになったのだから…」と言うセリフがありました。私は「え、いつの間に?」と、これも混乱していたのですが…

ガンルームの投稿によれば、どうやら、ドン・ディエゴの逮捕にからんでスペインから引き出した「譲歩」のひとつが、スペイン政府によって凍結されていたスティーブンの財産(1章参照)を返還することだったようです。

スティーブンがどうやって財産を取り戻したか、本文内にはまったく言及されていないので、ガンルームの投稿を読んで初めて「ああ、そういうことだったのか」と納得したのでした。

番外:熊から飛び出した人は誰?

ジャックだったら嬉しいのだけど、そんなはずはないし。

これもガンルームにあった意見ですが、11巻10章に登場したウォーレン大佐ではないかと言うことです。陸軍諜報部の幹部で、サー・ジョセフとはツーカーの仲の。ここには名前は全然出てこないのですが、「甲高い声」と描写されていることがその根拠です。(ウォーレン大佐は宦官。)

まあこれは、だからどうということはないのですけど。


オブライアンには、初めて読んだ時はさっぱり分からなくて、ずっと後で、「ああ、あれはそういうことだったのか〜」と初めて分かるというポイントが多々あって、まあ、それも楽しみのひとつなのですが…今度という今度は、分かりにくすぎる…

まあ多分、単に私の理解力が鈍いのだけでしょうけど(とほほ)