ご馳走



 

 初夏の頃には、「洗い茶巾」という点前があります。平茶碗などの、浅い茶碗に
水を張って運び出し、中に浸してある茶巾を客の前で絞り、涼感を演出するお点前です。
この季節、お稽古でもよくこのお点前をやりました。また、「葉蓋」(水差の蓋の代わりに
桐や蕗などの大きな葉を使う点前)も、この季節のものです。
 僕はなぜかこれらの点前が好きで、勝手に水屋で準備をしては、稽古をさせて
いただいたものです。

 先生はこれらの点前を「女点前」と言って居られましたが、僕が運び出しするのを
見るたびに「おうちみたいな手の大きな人が、こういうのがお好きとはねぇ」などと言いつつ、
お稽古につき合って下さり、そこここを直していただきました。

 その稽古も、季節柄最後になろうかという、ある日。
釜の蓋を閉じたところで、先生から一声掛かりました。

 先生 「ようやらはったけど、お席では、ひとつだけにするようにね」
 僕   「は?」
 先生 「ご馳走、のことです」
 僕   「・・・・?」
 先生 「考えておみやす。客で呼ばれて、やれ棚やの、やれ葉蓋やの、洗い茶巾やのと
     言われてお茶頂いても、せわしないだけで、どこを見てええのか、わからしません。
     ご馳走は一つだけにするからご馳走いいます。そっしゃろ?」
 僕   「・・・・・」

     庭を照らす灯籠の明かりも
     掻立かんの「チャリ・・」と澄んだ音色も

 重ねてしまっては ただくどいだけ。


 日常生活で、「あれもこれも」と、全てを欲しがる僕などは、先生から見れば、未だに
 「野暮の極み」と言うところでしょうか。


 (2001.5.13)



 


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