もうこんな時間、完全に約束を破ってしまった。
もういないだろうな。結局私はどうしたいんだろう?
彼はどう思っているんだろう?
仲良くケンカしな
些細な口論でケンカとなり、2、3日は話もしないなんてしょっちゅうで、そのケンカの原因は大抵が私の言いがかり。それは理解しているのよ。
彼との付き合いは中学生の頃からだから、かれこれ約3年、高校生になってケンカの回数は益々増えている。
今回のケンカはまた私発信。
「なんで私のアイスクリーム食べたの?」
「食べ残してたからだろ?」
「後で食べようと思ったのに」
「どこで冷やすんだよ。あのままだったら融けて捨てるだけだろ? 別にいいじゃん、二口くらいなんだから」
「よくなぁ〜い」
本当にどうでもいいことなんだけど、昔はこういう私の我が儘にも優しく受け答えしてくれていたのに、今じゃあこのありさま。
そう、私が怒っているのは彼の態度に対して! そこに腹を立てているのだ。
「もっと優しくしてよ」
「俺は変わったつもりはないんだけどな」
嘘だ、絶対変わったよ。他の人に聞いたら変わってないって言うかもしれないけど、私の印象としては絶対に変わった。
「それじゃあ行こうか」
「えっ、どこに?」
「だからアイス買いに」
「いいよ、もう」
なんてやり取りで、私は機嫌を損ねて、その日はお開きとなった。
その明くる日のことである。
私は教室で女の子の友達とお喋りをしていた。
そこに教室までやってきた彼が私を見つけて近づいてきた。
「璃菜<リナ>ぁ〜、100円貸してくれよ」
「やだよ。この前の500円も返してもらってないもの」
もしかしたらこの時の言い方は、私に問題があったのかもしれない。
だけどいつもなら「悪い、もうすぐ小遣いもらえるから、まとめて返すから」とか言ってごり押ししてくるのに。
「そっか」
って言って自分の教室に帰っていった。これじゃあ端からは私がケチみたいに見えるじゃあないか。
なんだか一つ嫌なところが見えると、なにからなにまで連鎖的に繋がって嫌に見える。
「倦怠期ってヤツかな?」
「うん、なに?」
独り言だったんだけど、独り言の大きさではなかった声に、岸里環奈<キシサトカンナ>が聞き返してきた。
「なに贅沢言ってんだか」
私は今の状況を環奈に話した。
「なにが贅沢なの?」
「璃菜って、自覚あるかどうか知らないけど、かなりマイペースだよね。良くも悪くも」
自覚は……、あるけど、それとこれとがどう繋がるって言うのか?
「三井<ミツイ>君ってさぁ、すごく色んな事に気の回るタイプだよね。と言うか、空気読むのが上手いって感じかな」
「そうは……思うけど」
私といる時はタイミング外すことも多いからなぁ。
「それって璃菜が彼を振り回してるからじゃあないの? 甘えてるって言うか」
そんな風に見えてるんだ。確かに甘えちゃってるってところもあるのかもしれないけど。
「ああ、もう、だからちょっと合わなくなってきてるんじゃあないかなって」
言ってはみたものの、実際には実感が全く湧かない。どっちでもいいとか思ってるのか、私?
「けど先週まではもうすぐ交際の日だとか言って盛り上がってなかった?」
そう3日後は、私が告白して彼からOKもらって、二人で放課後初帰宅デートした記念日だ。大事な思い出の日。
「今まで何度も聞かされたあんた達の思い出話を、この一週間でまた聞かされてさ。あんた達十分ラブラブ、っていうかあんたの方がかなり惚れちゃってるじゃない」
そうなんだ。あいつは私のことを私が想っているほど想ってくれていないんだ。だから私はどこか満たされない部分があり、ちょっとしたことでイライラして。
「やっぱり悪いのは旺成<オウセイ>だよ。愛が足りないんだ愛が」
「そうは見えないけどねぇ」
いや、そうに違いないんだ。
明確な仲直りをしないままに記念の日がやってきた。
約束通りなら、今日の午後から会ってお祝いすることになっている。
けど今は、その約束自体があやふやな状態。
今日は学校はお休みの日だけど、部活があるから午前中から登校してきている。
陸上部では午前中と夕方に練習があり、午前中は全員参加、日中は基礎トレーニングと勉強会だから参加は自由。その流れの夕方も自由参加となっている。
私は今日は午前中のみ、午後からは一度家に帰って、支度して彼に会う予定だった。
「会わなくていいの?」
「向こうもその気じゃないって、昨日も結局電話掛かってこなかったし」
だから私はみっちり部活に参加しようと決めたんだ。
環奈はしきりに気にしてくれたけど、私は却って集中できて、中身の濃い部活動となった。
結局最後まで参加した私は、酷く後悔をすることとなる。
部室のロッカーに入れていた携帯には着信のサインがいっぱい。全部旺成からのものだ。
電話と同じくらい入っているメールの内容は、私を心配したものばかり。
今さら遅いかもしれないけど、私は彼が今日どうしていたのかが気になって、電話をするのではなく、毎年同じにしてある待ち合わせ場所に行ってみる事にした。
「な、なんで?」
「おお、やっと来たか」
いつからいたのか、いや間違いなく待ち合わせ時間の頃からずっとだろう、旺成はそこにいた。
「応答がないから変な事に巻き込まれたんじゃあないかって、心配したじゃあないか」
あの数々のコールやメールは全部、私がどこかでトラブルにあったのではないかを心配してのものだった。
「けど、まだ制服着てるって事は、部活の方で何かあったんだな。抜け出せなかったとか、それでもチャンスを見計らってメールだけでも打って欲しかったぜ」
昼休みや昼間の勉強会の時にチェックする事は出来ていた。だけど最後まで部活に出て約束を破るつもりでいたから、途中で見ることはなかった。
「さて、どうしようか、今からじゃあろくな事出来ないよな。まっ、晩飯くらいは食いに行けるか……、と言っても制服だしな、あんまり街中に出たりしたら、この時間からだと補導されかねないしな」
「なんで?」
「あん? どうしたよ、さっきから?」
「なんでいるのよ?」
「おいおい、そりゃあないだろ? もしかしてまだ機嫌を損ねてるのか? 100円借りに行った時はまだ怒ってたみたいだったけど、おお、500円、返すな」
もしかしてお金借りようとした時も、あの時にアイスのことで私が怒り出したから簡単に引き下がったの?
本当に甘やかされてきたから? ちょっとしたことでも許してもらえると思って、ちょっとしたことでも許せなくなって、環奈の言ってたとおりだ。
「別にいいよ。お店に入らなくても、テイクアウトでも」
「え、だって折角の記念日なんだろ? お金なら溜めていたから心配ないぞ。って、貯金のために小銭借りといて言えるこっちゃないけどな」
毎年のことなので毎月少しずつ決めた金額を貯めていてくれた。今までもそうしていたから、いつもいくらか足りなくなって借りに来てたんだ。
そう言えばいつもこの日は彼がほとんど出してくれていたっけ。
「もう少し時間遅くなっても平気なのなら、一度着替えに帰るか?」
「うぅうん、本当にいいよ。その代わり来年はもっと豪勢にしようよ。ね、いいでしょ?」
愛が足りないなんて勝手な思い込みだった。彼の想いは私なんかよりずっとずっと大きかった。
「……なっ! なんで泣いてんだよ」
「ごめんね、ごめんね」
「べつにいいよ。待たされたのは確かだけど、ちゃんと来てくれたんだからさ」
それもだけど違うよ。もっともっといっぱいごめんなさいなんだよ。そしていっぱいいっぱいありがとう。
「そんじゃあ何にしようか? ハンバーガー? 牛丼? ドーナツとかどうだ?」
「お寿司がいい」
「ああ、それならスーパーマーケットにでも行こうか」
「えー、やだ。時価いくらってお寿司屋さんがいい」
「って、それは贅沢しすぎだろ?」
げんこつ貰っちゃった。
「なによ、言ってみただけでしょ!?」
「ああ、はいはい、分かったから前向きな意見出してくれよな」
「またそう言う言い方するぅ!」
でもまぁ、私達はこの方が私達らしいよね。
これからもいっぱいケンカするだろうけど、その数だけ仲直りして、楽しくやっていこうね。
来年も再来年も、ずっとずっと。