聖アンデレの十字
わが心のスコットランド・・・モッチーは事あるごとにそう言います。その起源は今を去ること○年前、彼が小学生の頃に遡ります。彼の小学校の山の寮は清里にありました。その学校では3年生から6年生の夏に毎年、清里で1週間を過ごすのでした。当時の清里は今のように一大観光地化する前で、日本で一番標高の高いところを走る鉄道・小海線の清里駅前には宿屋が数件、古びた郵便局があってユースホステルが1件あるのみ、あとは学校寮が散在するだけでした。八ヶ岳の主峰・赤岳(2998m)へ登る真教寺尾根ルートの起点にあたるこの駅に降り立つ人は、みな山靴を履いているような人だけでした。彼はそこで4年間、毎夏をキャラバンシューズを履いて級友たちと野山をあるき、清泉寮のジャージー牛乳で乾いたのどを潤したのでした。
そもそも清泉寮とは、KEEP(Kiyosato Educational Experiment Project)財団の拠点となる宿泊施設です。キープとは、アメリカ人宣教師の故・ポール・ラッシュ博士がこの地に起こした実験農場、病院、教会などの総称。清里は標高が1300m近く高冷地であり、本州でありながらその気候はほとんど北海道と同じ。その地で農業を起こした初期の開拓民は、やはり北海道を開拓した人々と同様の、とてつもない苦労を強いられたのでした。そんな中でポール・ラッシュ博士は高冷地に適した野菜の栽培、酪農の昂進(ジャージー種の導入)などの事業の一方で、日本人にアメリカン・フットボールを紹介したりと文化交流にも寄与しました。その清泉寮の玄関にかかげられている、青いバツ十字の紋章があります。それが、スコットランドの国旗にもなっている、聖アンデレ(セント・アンドリュース)の十字なのです。
聖アンデレ派とはキリスト教の一派であり、スコットランド国教でもあります。F-1ドライバーのD.クルサードのヘルメットでもお馴染みの、青地に白のバツ十字です。昔からことあるごとに対立してきたイングランドの国旗は白地に赤の十字であり、現イギリス(イギリスというとイングリッシュが語源ですので、本来ならグレート・ブリテンおよび北アイルランドと言うべきですが)の国旗は、その両者を組み合わせたものであることは有名です。
そして、Great Britainの構成国のひとつとなりながらも今だに独立心旺盛なスコットランドに生まれた名レーシングドライバーやレーシングチーム。ドライバーはお馴染みのJ.スチュワートやD.クルサード、チームはエキュリー・エコッス(フランス語でスコットランドの厩舎。厩舎はガレージを意味し、転じてレーシングチームを表す。他にスクーデリア・フェラーリのスクーデリアも同義。ル・マン24時間レースなどでノーズに白いラインを入れた濃紺のジャガーDタイプで奮戦した。)やロブ・ウォーカー(ウィスキーのジョニー・ウォーカーの家系。やはり濃紺のボディカラーに、ボンネットを横切る白いライン、と、聖アンデレのクロスを思わせるカラー)等々。
モッチーは後にイングランド北部の湖水地方(ワーズ・ワースやベアトリクス・ポッターの生地であり、彼がヨットを始めるきっかけとなった児童文学、アーサー・ランサムシリーズの舞台)からスコットランドを旅し、増々彼の地への共感と郷愁を強くした。ハイランド地方を思わせる清里の清泉寮に幼少時より親しみ、かの60年代の名チームの活躍に思いを馳せる彼の所属するレーシング・チーム、H.M.C.S.の紋章が赤紫の地に白のクロスであるのは、あるいは当然の流れなのかも知れない。
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