第三十二回 トム・ラッシュ


 

トム・ラッシュは1941年、ニュー・ハンプシャーに生まれる。
マサチューセッツの寄宿学校に通っていた頃に独学でギターを覚え、
バンド仲間と一緒にジーン・ヴィンセントやカール・パーキンス等の
古いロックン・ロール・ミュージックをプレイしていたという。
フォーク・ミュージックに興味を持つようになったのは大学に入ってからで、
ケンブリッジにあるハーバード大学の学生だった頃にブルースやトラッド・
ミュージックと出逢い、フォーク・スタイルのギター・プレイもマスターする。
その後は、当時ニューヨークと並んでフォーク・ミュージックのメッカだった
ボストンで唄い始め、少しずつ彼の名前が知られるようになる。

1963年にはプレスティッジ・レコードから2枚のアルバムをリリースする。
そして2年後の1965年にはメジャー・レーベルの
エレクトラ・レコードに認められ、3枚のアルバムをリリースする。
でも最初の2枚はあまり評価されず、
1968年にリリースした " The Circle Game " というアルバムでようやく注目された。
それまでのアルバムではブルース、トラッドと言ったルーツ系の音楽だったのが、
このアルバムでは新進気鋭の若いシンガー・ソング・ライターの作品を取り上げていたのだ。
これは時代の流れと上手くシンクロさせていたというか、
より個人的な歌が要求されるような時代になってきたという事になる。
特にジョニ・ミッチェル、ジェームス・テイラー、ジャクスン・ブラウン等の
作品が光っていて、後に彼等がビッグ・アーティストになったということは、
いち早く彼等の作品を取り上げたトム・ラッシュに先見の目があったという事だ。

その後1970年にはコロンビア・レコード(後のCBS/ソニー)と契約し、
4枚のアルバムをリリースする。
同時に ' 70年代の彼はバンドでのコンサート活動が多くなり、精神的にも
煮詰まってきたこともあり、一時休養の為に音楽活動を休止する。
そして1981年に再び唄い始め、
以後は自分のペースでのんびりと唄っているようだ。

photo by Bruce W.Bedford

この " Tom Rush " がリリースされたのは1970年で、当時の僕は自分の
歌や音楽を模索していた時期であった。
エレクトラ時代の" The Circle Game "は中川五郎氏に聴かせてもらっていたので、
トム・ラッシュというシンガーの事は知っていたのだが、
このコロンビア・レーベルへ移籍して最初のアルバムにはとても興味があった。
つまり ' 60年代のフォーク・ミュージックの時代が終わり、
サウンド的にもロック・ミュージックとの融合が見られ、
それこそボブ・ディランが ' 60年後半に打ち出したエレクトリック・サウンドが
ようやく評価されてきたのである。
だから" The Circle Game " から2年の空白を経て、
どんな楽曲をどんなサウンドで聴かせてくれるのか楽しみであった。
そして僕の期待を裏切ってなかったというか、時代に合ったサウンド・メイキングと
素晴らしい選曲に納得したのである。
又、このアルバム以降、彼のベスト・サポート・ギタリストになった
トレヴァー・ヴェイッチの存在も見逃せない。
彼とは現在も時々一緒にプレイしているようだ。
僕は昔からトム・ラッシュのヴォーカルが好きである。
又、その個性的なロウ・ヴォイスで、人間の持つ喜怒哀楽というものを見事に表現している。


Tom Rush

" Tom Rush "

Columbia Records  CK 9972

  1. Driving Wheel
  2. Rainy Day Man
  3. Drop Down Mama
  4. Old Man's Song
  5. Lullaby
  6. These Days
  7. Wild Child
  8. Colors Of The Sun
  9. Livin' In The Country
10. Child's Song









最近は新しいアルバムをリリースしていない彼ですが、1982年にボストン
で行われたNew Year Live と1984年の Late Night Radio を収録した
CDが2001年にリリースされました。
彼のウェブ・サイトがあるので興味のある方はどうぞ。

http://www.tomrush.com/index.shtml