恐ろしい勢いで岩壁が両脇を流れすぎてゆく。ヘイエルダール海流から分枝した
流れは、スキュラ岬を割る細い隙間に吸い込まれ、激流に匹敵する速度まで加速さ
れて出口へと流れ出していた。
 鵺の顎は、およそ1世紀前の地殻変動で、元は一つだった島が中心から裂けて出
来上がった隧道だ。両端を切り立った壁に挟まれ、水流に削り残された岩礁が水面
下に牙を剥く。船腹を擦らず通過できるルートはあるにはあるが、糸のように細い。
しかも岩壁にぶち当たった風が乱流を成し、到底正気の神経では通過する気にもな
れないほどの難所をなおさら危険にしていた。
 ありったけの帆を全開に広げて気流を受け止め、高速突入を図る候補生を、ベル
メールは気は確かかと制止しそうになった。それを止めたのは、救助した民間人の
一人、まだ足枷を付けたままの赤毛の少年だった。左目を縦断する三本傷から血を
滴らせながら、彼は舵を握る、手出しを躊躇わせるものを孕んだ痩せた背中から視
線を逸らさずベルメールに告げた。
  「通過は出来るんだ、ここ、でもこのぐらいのスピードが絶対いる。びびって速
度を落としたら、谷間の風のリズムに外れて岩壁にどかん、だ…って聞いた。この
辺の出の水夫長の受け売りだけど」
 どのみち、救助活動で完全にタイミングを逸していた。比較的安全な迂回ルート
には戻れない。無理に転進したところでスキュラの猟犬と渾名される、広大な岩礁
地帯に突っ込んでしまう。難易度そのものは鵺の顎と大差ないが、こちらはともか
く範囲が広く、水面下に複雑な渦が連続しているから、巧くやったとしても脱出に
数時間はかかる。小一時間で通過できる水路を選択する方がまだしも成功率が高い。
 目まぐるしく変わる風向の先手を打って、矢継ぎ早に操帆指示を飛ばしながら、
ベックマンはとぎれかかる集中を必死に絞り込んでいた。どれほど人間離れした能
力を持っていたところで、その限界は体力と気力の及ぶ範疇に縛られる。やっと1
0代半ばに達したばかりの体は、相応の耐久力しか持ち合わせてはいなかった。思
考の疾走に同調するだけの底力がない。
 指示を叫ぶたび息が切れる。酸欠でちかちかと星が飛ぶ。肺が割れそうに苦しい。
指先にかかった無理な力に負けた爪が、熱せられた貝のように肉から剥がれて口を
開ける。腕は肩からもげて落ちそうだ。
 着いてこない体がもどかしい。いらだたしさに噛みしめた歯がきしるような音を
立てた。これ以上船足を落とすわけには行かない。細切れの風をつなぎ合わせて出
口へ向かう一本の線を引くには、どうしてもこのスピードを保たなければならない。
要求されるレベルの操船をこなせる乗組員が自分の他いないのなら、無理でも何で
もやり通すだけだ。
(まだだ、まだ!踏ん張れ情けない!)
 時間の感覚さえ失せた。粘性の液体の中で藻掻くような苦闘がどれだけ続いたの
かもうわからない。
 「出口だ、見えた!もうちょい粘れ!」
 先頭に立って操船に走り回っていた指揮官の、叱咤の形を借りた激励が天啓のよ
うに響いた。
 岩礁を避けて思い切り取り舵を当てた瞬間、血と漿液を皮下に溜め込んで肉から
浮き上がっていた右掌の皮がずるりと剥けた。手が滑る。
 舵輪がコントロールを脱しかけた。髪が残らず根本から逆立つ錯覚。心臓が凍っ
た。ここまで来て!
 駄目か、と思ったその時、背後から伸ばされた見知らぬ手がベックマンの血にま
みれた手ごとグリップを押さえ込んだ。腰のある、ちくちくと何か細いものが頬を
くすぐる。紅に金砂を流したような豪奢な輝き。髪の毛だ。だがこんな目立つ髪色
の乗組員が居たか?
 一瞬呆然と斜め後ろへ首を捻ったベックマンの背を抱きかかえる体勢で舵輪に手
を添えた髪の主は、血と海水が筋を描く汚れた顔で、それでも卑屈さも惨めさも無
い突き通すほどに強い視線を船首へ向けたまま言い放った。
 「あぶねえな、ちゃんと最後まで前見てろって。 救けてもらった礼っちゃなん
だけど、助太刀させてくれ」
 いいか?
 たっぷり目線二つ分は高い翡翠の瞳をしっかりと見上げて、ベックマンは一つ頷
いた。手はぴたりと自分の動きをトレースしてくる。いい腕だ。
 隧道の出口、反対方向に回転する渦の境界線を正確に押し分けて、スクーナーは
鵺の顎から弾き出された。
 「…は…何とか、なった…」
 張りつめきっていた緊張が急速に解けていく。貧血に似た失調感に崩れ落ちかけ
る膝を、意地だけで支えた。
 今頃になって、手が酷く痛んだ。


 「いい月だなぁ」
 満月に僅かに欠ける白い月輪を見上げて、酒瓶片手にシャンクスは大きく伸びを
した。傷を覆って左目を塞ぐ包帯はうっとううしいが、体は湯で拭ってさっぱりし
たし、清潔な衣服が気持ちいい。腹も満たした。若い体は、十分な食物と数時間の
休息ですっかり常態を取り戻していた。
 とりあえず安定した海域にたどり着くなり、練習船は錨を下ろした。乗組員全員、
精も根も尽き果てていた。子供達とエイブラムも今頃久しぶりの暖かいベッドで夢
の中だろう。
 だがシャンクスはどうにも眠れなかった。昼間の興奮がまだ神経を波立たせてい
た。
 眠気が差すまで月見酒としゃれ込むか、と甲板に上がった彼の目の端を、月光に
照らされて白く輝く何かが掠めた。
 マストに背を預けて座り込む人影を見止めて、シャンクスは静かに歩み寄った。
海軍士官の礼服、白地のロングコートを袖を通さず羽織っている。微風に緩やかな
ウェーブを描く黒髪が揺れた。舵を操作していた、異様な迫力を纏った候補生だ。
 「よう、あんたもお月見かい?」
 栄養不良の少女のような、とがった薄い肩がびくりと跳ねた。警戒の疾さで頭が
シャンクスを向く。
 「…なんだ、あんたか」
 「眠れないのか?手が痛いんなら痛み止めもらってこようか?」
 見ている方が脂汗をかくような治療風景を思い起こしながら、シャンクスは傍ら
に屈み込んだ。妙に腫れていたと思ったら、左手の甲と右薬指の骨に皹が入ってい
たらしい。おまけに生爪が両手併せて7本も剥がれていた。完全に皮がむけた掌だ
って痛まないわけがない。よくまあ悲鳴も上げずに我慢したものだ。
 「いや、いい。」
 自分でも無愛想が過ぎると感じたのか、候補生は言葉を足した。
 「気持ちは有り難いが、飲んでも効かない」
 「そりゃ難儀な体質だな」
 じゃあ酒は止した方がいいか、といいながら隣に腰を下ろしたシャンクスに、夜
だというのにかけっぱなしのサングラス越しに視線を寄越して、
 「あんたも怪我人だろう」
 「皮一枚だよ、どうってこと無いって。場所が場所だから大げさに包帯まかれち
まったけどな」
 「しっかり手当しないと瞼が動かなくなるぞ」
 「ドクターにも同じこと言われたよ。腕はたつし美人だし、いいお医者さんだな」
 「きつい人だ。馬鹿やると文鎮が飛んでくる」
 「あーそのくらいやりそうだな」
 てきぱきした思い切りのいい処置だった。あれなら外科医にはぴったりだろう。
ちょっと血の気は多めだが、気の荒い船員相手ならあのぐらいで丁度いい。
 「これから港に戻るのか?」
 「ああ」
 「そっか…なあ、一つ聞きたいことがあるんだけど」
 「…俺に答えられる範囲なら」
 「あんたにしか答えられない話だよ」
 ちり、と空気に剣呑なものが混ざった。野良猫みたいな奴だな。シャンクスは、
腹の中だけで苦笑した。やけに警戒心が強い。
 「やばいことじゃないって、たぶん。昼間のあんたの操船なんだけどさ、もし
かして、あれ計算だけでやってなかったか?」
 「…何故、そう思う」
 「んー…なんて言うのかな、指示出しのタイミングとか、人手が動くのにかか
る時間分先回りして言ってるんじゃないかって感じ…正確すぎる。経験じゃああ
はいかない」
 焦れったくなって、がりがりと髪をかき回した。シャンクスは、感覚的に過ぎ
るきらいはあるが、頭は鈍くない。むしろ、飛び抜けて回転が早いほうだろう。
洞察力も高い。ただ、思考を言葉にして伝えるのは酷く苦手だった。説明するま
どろっこしさに耐えられない。何でこんな分かり切ったことまで言わなきゃいけ
ないのかと苛々してくる。対した相手も、とんでもなく飛躍した結論だけをぽん
と放り出されて、後は察しろよ馬鹿と言われているようなものだからだいたい機
嫌が悪くなる。悪循環だとわかってはいたが、韜晦に徹するには何分彼も若すぎ
た。
 測る鋭さでシャンクスの煩悶を観察していた視線が、ふっと緩んだ。サングラ
スの陰に表情を隠した顔に、確かな共感の色があった。
  「意識して数式をこね回しているわけじゃ無いが、まあ確かにそんなところだ」
 「ふぅん…あれか、階段降りる時みたいなもん?」
 段差の距離を目測し、足の角度と重心位置を計算する作業は、確かに行われて
いるが意識の表面に昇ることはない。それと似たようなものか、と尋ねたつもり
だった。明らかに言葉が足りなかったことに気付いて、拙いと身構えたが、要ら
ぬ心配だった。ほんの一瞬、比喩と実感の間を比較検討するような間をおいて、
柔らかそうな長い髪に縁取られた頭が縦に振られる。
 「…近い。わかりがいいな、あんた」
 「そう正面切って誉められると照れるね」
 衝撃的なまでの歓喜が突き上げてきて、誤魔化そうと、シャンクスはわざと茶
化すような言葉を口にした。この候補生は、自分と同じ苛立ちを知っている。抱
きしめて接吻の一つも捧げたいような気分だ。
 「何言ってやがる」
 くくっと喉で笑って、シャンクスは瓶に口を付けて煽った。エールの刺激が喉
を滑り落ちていく。半月ぶりのアルコールが心地よく胃を暖めた。視界の隅で、
照れ隠しの仏頂面で黒髪の候補生はズボンのポケットからフィッシュスキン
ガーケースを取り出した。つまみ出そうとしたが、包帯と絆創膏にぎっちり固め
られた指が曲がらない。逆さにして振り出した。掴まえ損ねて、指から滑り落ち
る。
 シャンクスは甲板の傾きに合わせてころころと転がっていく微妙に歪な円筒を
押さえようとしたが、俄隻眼で距離感が狂った。指先が杉板に当たって乾いた音
を立てた。
 顔を見合わせた。唐突に腹から衝動がひくひくとこみ上げてきた。
 「ぶっ…」
 「く、くく…」
 無性に可笑しかった。腹をよじって笑い転げた。
 「す、済まん…」
 「いや、いい…」
 いらえも笑いにかすれていた。そのまま、月に届けとばかりに二人分の爆笑が
静かな甲板を揺らした。今頃になって緊張の反動が来たのか、なかなか笑いの発
作が去っていかない。
 「あ、ツっ…」
 「苦しがって笑うなよ」
 「タガが外れた…くそ、首痛ぇ…」
 笑い慣れていないのか、噎せて咳き込みながら、士官服を羽織った少年は首筋
を押さえた。どれ、と手を伸ばし、
 「あーひでえ、ごりごり。これじゃきつかったろ、ちょっと向こうむいてみな」
 骨の目立つ肩を押して、背中を向けさせる。ぱんぱんに張った筋を揉みほぐし
にかかった。
 「どだ?」
 ほう、といかにも心地よさげな溜息が感想だった。
 「ん、少し右…う、そこ、イイ…」
 「そういうのがタイプだったのか、お前」
 いきなり第三者の声が降って来て、二人は仰天して首を捻った。厳つい顔の、
素肌に直接戦闘用のブルゾンを着た長身の男が、にやにやと銜え煙草でたたずん
でいた。
 「スモーカー…悪ふざけはよしてくれ」
 「スモーカー?渾名?本名?」
 「本名だよ、嘘みてえだと自分でも思うがな」
 どかりと腰を下ろし、スモーカーは旨そうに両切り煙草をふかした。自他共に
認ずるニコチン中毒者の名前が“喫煙者”では、確かに冗談にしか聞こえまい。
 「ボランティア」
 「あんなげたげた騒がれちゃ、死人だって起き出して来るぜ」
 「あんただけだろ…」
 黒髪の少年は、シャンクスから身を離しながら嘆息した。どういうこった、と
尋ねた耳に、こいつ耳がよすぎるんだよと囁きが吹き込まれた。
 「内緒話は聞こえないようにやれ」
 眉がないせいでよけいに厳つく見える顔がわざとらしく顰められた。薄いグレ
イの髪が、青白い月光を浴びて銀色に光る。
 「嫌なら聞くな」
 無茶を言う。シャンクスは収まりきれない衝動の余韻をくつくつと腹から吐き
出した。ようやく血の気が通い始めた肩が、体温が感じられない位置まで離れた。
何となく寂しい気がした。
 「無理言うなって、耳に蓋は無いって昔の人もいってるじゃんか」
 「誰だよそれは」
 「誰か」
 スモーカーがぶっと吹きだした。
 「そうか、ついにベックにも春が来たか」
 「馬鹿を言え」
 「お前が初対面の相手に体触られて平気な顔してるところ何ざ初めて見たぜ。
ヒナあたりが騒ぎそうだ」
 陸の者ならともかく、ヴァガボンドの間では、同性間で睦み合う行為はタブー
視されていない。その慣習をふまえているのか、口調に毒はなかった。
 「しつこいぞ」
 大体一々言いぐさが卑猥だ、とむっとした視線を投げる顔が可愛くて、ついよ
しよしと頭を撫でてしまう。
 見た目に違わず柔らかな髪だった。男の持ち物にはもったいない、ぞくぞくす
るなめらかさに惹かれて意味もなくかき回していると、スモーカーがまた紫煙混
じりに笑った。
 「あーあっついあっつい。一人もんの前なんだぜ、ちょっとは遠慮しろ」
 「スモーカー!」
 長い髪から覗く耳たぶが含羞の赤に染まった。やけに可愛いと思っている自分
に気付いて、呆然とした。離れていく彼に感じた寂しさが、堪らない愛おしさか
ら発していたことを、シャンクスは始めて自覚した。
 「喚くな、ギャラリーが来るぜ?」
 一瞬で我に返った。狼狽を隠すように口を開いた。実は一目惚れだったことに
今気付きましたなんて、ばれたら恥ずかしい。
 「あんまりからかうなよ、可哀想だろ。ところでベックって、あんたの名前か?」
 「…ああ、ベックマン、ベン・ベックマンだ」
 「そっか、俺はシャンクス」
 「船乗りの家の出なのか?」
 「ん?」
 「古い船乗り言葉だろう、錨幹のことじゃなかったかと思うが」
 余程年季の入った船乗りの家系の生まれでもなければ出てこない知識をさらり
と持ち出されて唸った。どうやら長けているのは計算だけでは無いらしい。
 シャンクスは、商船乗りだと偽った素性に矛盾しない過去を素早く選び出した。
ピースメインもモーガニアも一纏めに海賊の一語で片付けてしまう海軍相手に正
直に身分を告げるわけにはいかなかった。せっかく虎口を脱したというのに、こ
こまで来てブランコ往生願い下げだ。乗り組んでいた船は、どちらかというと
密貿易−−−麻薬だの奴隷だの、人倫に反する積み荷は取り扱い範囲外だったが。
政治的な理由で交易が禁じられている日用品は珍しくない−−−メインに活動し
ていた。仕事の内容は商船と大差ない。ボロを出す心配は無いだろう。
 「知ってる限りじゃひい爺さんの代からイーストブルー中駆け回ってるよ。血は
繋がってないけどな、俺は海で拾ったって話だ」
 「済まん、悪いことを訊いた」
 「いいって、珍しい話じゃないだろ?」
 にかっと笑って、ばつの悪そうな顔を覗き込む。空気がほぐれた。
 ベックマンをからかうのにも飽きたらしいスモーカーも加わって、四方山話に
花が咲いた。
 「それにしてもお前さん、シャンクスだっけ?似合わねぇなそのかっこ」
 「ほっとけ、制服何ざ生まれて初めて着たぜ」
 6フィート1インチの程良い長身は細いが密度の濃い筋肉を纏って、大抵の服
なら着こなしてみせるだろうが、どうもシャンクス本人の気質に制服と相容れな
い部分があるようで、体格が近い学生から借りた海軍お仕着せのシャツとハーフ
パンツが様にならない。
 「それはともかく、えーと、ベン、でいいのかな。何で礼服着てるんだ?その
コート、普通式典用じゃないっけか」
 「子供に着替え貸したら着るものがなくなった」
 ベルメールと大して体格の変わらない少年は憮然として答えた。男連中の中で
はベックマンが一番服のサイズが小さい。
 「あ、連中には言うなよ?」
 「気にしたら可哀想だもんな」
 「そういうこと…帰ったら俺は何着て過ごせばいいんだ…」
 「なーに言ってんだよエリートが、みみっちい」
 「俺は奨学生なんだよ。はっきり言えば貧乏」
 不得要領な顔をするシャンクスに、ベックマンは説明を付け足した。
 海軍士官学校のスカラシップでは、学費と寮費、制服は支給されるから最低限
の衣食住は不自由しないが、私服や嗜好品に回すほどの金は無い。仕送りしてく
れるような身よりのないベックマンの懐具合は赤貧に近かった。
 「今の時期じゃ論文の代筆の口もないしな…いざとなったら髪でも売るか」
 「ぼやくな。ヒナあたりに貸してもらえ」
 「無責任な」
 プチブルの出身の同期生の名前を出して、スモーカーが笑った。昨年、寮内喫
煙所存続問題を巡って共闘して以来、結構いいつきあいが続いている。事情を話
せば、隙あらばベックマンで着せ替えごっこをやりたがっている彼女のことだ、
二つ返事でブティックに直行だろう。
  「大体子供って、あの中で一番年上のボーズ、お前と一つしか違わないじゃね
えか」
 「は?」
 シャンクスは目を丸くした。一緒に脱出した子供達の中で最年長と言ったらラ
ンスだ。確か13歳。
 「俺と同じぐらいだと思ってた…」
 軍人の卵に混ざってこそ短躯の部類に入るが、ベックマンの身長は目測値で5
フィート半強。公平に言って、成人男性でも取り立てて小柄と言うほどではない。
迷いのない挙措と、士官学生なら最低でも10代後半という先入観も手伝って、
てっきり自分と同年輩、縦向きの成長が終わったかどうかってあたりだと思って
いた。
 「そうじゃないのか?」
 呆然と呟く包帯で半分隠れた顔を見上げて、ベックマンも訝しげな顔をした。
彼は彼で、シャンクスの丸っこい大きな目や、額から鼻筋にかけての線の柔らか
さから、15か6ぐらいだろうと推測していた。かなり上背はあるが、男の成長
期のピークは個人差が激しいから判断材料として余り頼りにならない。
 「俺、18」
 「うそつけ」
 「ほんとだって。俺そんなに童顔?つーかベン14?そっちこそサバ読んでな
いか?」
 「馬鹿言え」
 「一応、入学の時に提出した書類信用するんなら、こないだ14になったばっ
かりだぜこいつ。確かに老け顔だがよ」
 「お前に言われたくない。まだはたち前って言って信用されたことあるか?」
 「るせ」
 「へ?スモーカーまだ10代?…苦労したんだな」
 「やかましい」
 月を肴に、馬鹿話に興じた。
 いい夜だった。


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