CALENDER GIRL?

 シャンクスは休憩から船に戻ろうと正午過ぎの倉庫街を歩いていた。彼は自分に向けられる
鋭い視線を感じたが、それを悟られぬよう歩き続けた。道の先に露店商が座り込んでいるのを
見つけた。船乗り相手に雑貨や成人向けの雑誌やら玩具に煙草などを相手の商売はどこの港や
浜にも居る。普段のシャンクスなら気にも止めないのだが、視線の主は明らかに彼だった。シ
ャンクスは自分から露店商に近づいていった。露店の前で足を止めたシャンクスは彼よりも、
彼の後ろに貼られた大きなポスターに目を奪われた。
 ポスターに写っているのは白地に大きな赤い花模様のサンドレスを纏った華奢な少女が船の
マストの横桁に登って立っている姿。長い黒髪が風になびき、長く細い手足は健康そうだが、
どことなく寂しげではかなげな風情もあった。彼の手前にも写真や写真を使ったカレンダーが
並んでいる。
 露店商が禿げつつある金髪を刈り上げた坊主頭を上げ、待ってましたと言わんばかりに声を
かけた。左右の耳に幾つも並んで下がる金色のピアスが揺れる。男は指輪を幾つもはめた手で
丸い薄茶色のサングラスを直す。
 「気に入った?可愛いだろ?」
 笑って見せた歯が煙草のやにで黄ばんでいた。
 「…ああ、もろ好みのタイプだね」
 シャンクスも愛想笑いで返す。
 露店商が日に焼けた鷲鼻にかかるサングラス越しにシャンクスの目を無遠慮にのぞき込む。
シャンクスもまた彼の垂れた瞼から眼光を放つ鳶色の瞳を見返した。百戦錬磨の赤髪は相手の
強さはまず向き合えば分かる。露店商は彼の仮の姿で、かなりの強者とシャンクスは察した。
 「アンタ、赤髪のシャンクスだな」「そう、このコのことでな」
 「ああ」
 「アンタは俺を知らないだろうが、俺はアンタに尋ねたいことがある。ずっと、アンタに
会いたかった」
 「それはひょっとして…」
 シャンクスはポスターを指さした。
 「そう、このコのことでな」
 露店商も立てた親指で後ろのポスターを指した。


 休憩から帰ってきた船員が積みあがった本を抱えて甲板を移動していた。
 「悪ぃ」
 走ってきた別の船員が彼にぶつかり、分厚い本がそこらにちらばった。後ろで積み荷の点検と
指示をしていた副船長の黒髪頭がふりかえり、本を拾うのを手伝ってやる。
 「勉強熱心だな」
 「半分は船医に頼まれたお使いもので」
 船員は照れながらも正直に話す。本に混じって落ちた一綴りのカレンダーを副船長は拾い上げた。
 「あ!それは…」
 船員が慌てる。カレンダーには黒髪の少女の写真が印刷されていた。
 「このカレンダー…どうした?」
 他人に分からない程度に副船長の表情が硬くなる。
 「ひょっとして、副船長も欲しいんですか?や〜意外だな、副船長はもっと熟女好きかと思った
けど」
 船員が笑いながら照れる。
 「いや、俺が訊きたいのはこのカレンダーを売ってた奴だ。どんな男だ?どこにいた?」
 「あ〜それなら倉庫街の露店で」
 船員が言い終わる前にシャンクスにも負けないバカでかい呼び声が船の内外に響きわたった。
 「ベン・ベックマ〜ン!B・B!いるんだろう?返事を
してくれ、ブラックバード!俺の小鳥ちゃん!」
 船上にいた者は残らず船の縁に駆け寄った。背の高い中年男が船に向かって走ってくる。後ろに
はシャンクスもついてきていた。
 副船長の隣にいた船員は声を上げた。
 「ああ、あのオッサンです」
 「J・J!」
 ベンは叫ぶと同時に船の縁から飛び降りる。そのまま跳び蹴りが炸裂するかと思いきや、茶色サ
ングラスの男はするりとかわした。ベックマンは蹴りを浴びせながら罵倒する。
 「何だってあんな写真売ってんだよ!バカ兄貴!」
 
 「あ…兄貴?!」 
 船員たちは耳を疑いながらも聞き返すようにその言葉を口にした。
 男は次々に繰り出される蹴り技をかわし、ついにはベンの片足を掴んだ。体勢を崩して倒れそう
になるベンに、男は抱きついてそのまま押し倒した。
 「はぁ〜、一層逞しくなってぇ、会いたかったぞ〜うv」
 「オッサン!離れろよ。これはオレんだ!」
 追いついたシャンクスがベンから男を引き離そうとする。
 三人がどたばたしているうちに、倉庫街から個性豊かな中年男の集団が駆け寄って来た。彼らは
ベックマンの記憶にある面子ばかりだった。彼は思わず彼らの名を次々に呼んだ。
 「フィンチ!カグー!ケツァール!ヘキサン!アルバトロス!」
 「B・B!」
 「ブラックバード!」
 「ベぇ〜ン」
 「ひっさしぶりだな〜、ぐふふ」
 「あのひよっこが逞しくなっちまって」
 男たちもまたベンたちに被さっていった。
 船員たちは呆気にとられながら団子になっている男たちを見つめた。

 突然現れた男たちはシャンクスの船の甲板に招き入れられた。船員たちが物珍しそうに彼らを囲む。
 「副船長、この方々は?」
 「俺の兄貴と元仲間、元上司でもある」
 「俺はジェイク・ジェイガー、専らJ・Jと呼ばれてる。海鳩屋ってチンケな海運業の社長さ。よ
ろしくな」
 サングラスの男はくわえ煙草を揺らしながらチャラそうに笑った。副船長は苦笑しながら説明を付
け加える。
 「それは表向きの顔だろ?本当は"箱船の鳩(アークズ・ピジョン)"の総元締めで、ここに並ぶのは創設当初の幹部だ。当
時の俺はそこで見習いをやってた」
 
 「箱船の鳩!」 
 その場にいた全員がどよめいた。"箱船の鳩"は情報通や裏の世界では名を知られた海上専門の傭兵組(ギルド)
合だ。彼らは政府及び海軍におもねることも無ければ、海賊に組みすることもない、民間による民間の
為の組織。その活躍は多様で、護衛、奪還、密輸、私立探偵的な調査活動までこなし、個人で派遣され
て用心棒として乗り込むこともあれば、チームで船ごと出動する場合もある。一度契約した仕事は必ず
遂行することでも知られている。その航海技術と戦闘力は高く評価され、もし一丸となって蜂起すれば
海賊に次ぐ第三勢力に、あるいは革命軍に加担すればその脅威は計り知れないと政府は数年前から危惧
し始めた。目下、諜報機関が調査しているものの実体と詳細は掴めないままだと言われている。
 「ご謙遜だな、B・B。入って即戦力で幹部以上の働きをしてたくせに」
 カグーと呼ばれた水色の髪を鳥みたいに立てた男が笑った。
 「実質、副船長みたいなもんだったぜ、グフグフ」
 アルバトロスと言う名の大男も笑った。
 「兄貴たちとの航海で海に生きる術を覚えたのは紛れもない事実だぜ」
 ここにいる男たちがベン・ベックマンと言う天才航海士の基礎を作った事を知り、船員たちは一斉
に尊敬の眼差しを向ける。J・Jが視線の意味を察して答える。
 「そんな大層なものじゃないぜ。船と海運送業に関する事なら何でもござれの便利屋さ。ただし麻
薬と人の売り買いだけは御免被るがね」
 副船長が訊ねる。
 「マリージョアの事件以後は随分活躍したって聞いたぜ?誰もやりたがらない解放奴隷を逃がす仕
事を引き受けてたんだろ?」
 「ああ、あれから数年は本当に忙しかった。まあ、俺たちも霞を食ってる訳じゃないから、他の仕
事と平行しながらだけどな。中にはそのままうちの船員になっちまったのも結構いるぜ。おかげで規
模がほんのちっとばかしでかくなったかな」
 「あんたらしいな」
 副船長が柔らかな笑みを見せる。
 「おれっチなんか只働きもいいとこだったぜ。烙印なんて厄介なものを消すためには入れ墨ぐらい
しか方法がないからな」
 カグーが胡座の上に頬杖をつきながら楽しそうにぼやいた。
 「でも、意外だよネ。副船長がカタギ出身だったなんてネェ」
 ルウの感想に皆が頷いた。
 「海軍を騙すわ、海賊から奪い返したり巻き上げりするわ、随分と可愛い気のないカタギだけどな」
 副船長が補足する。確かに居並ぶ彼らは赤髪幹部らに負けぬ気迫とクセがあった。
 話の主はJ・Jに戻る
 「元は失業対策だったのさ。俺たちの生まれた島は売春ぐらいしか産業がなくてね。男に生まれると
仕事がない奴の方が多い。俺とベンは兄弟とは言ったが娼婦の母親同士が仲が良かったというだけで、
血が繋がってる訳じゃない。こいつらとも同じ縁だ」
 「だが、立派な兄弟船だ」
 ヤソップは一人勝手に感動する。
 「ヤソさん十八番の歌だネ」
 「俺が島に流れてきた元航海士の老人を捕まえて、航海のノウハウを教えてもらって、島で力を持て
余す野郎共を連れて海運業を起こしたのが始まりでね。これが性に合ってたというか、実に面白かった
のさ」
 今まで黙って聞いていたシャンクスが口を開いた。
 「話の途中で悪いんだけどさ、このオッサンからこういうの買った奴いるか?」
 「オッサンじゃねぇ!J・Jと呼べ!」
 J・Jの怒号を無視してシャンクスがポスターを開いて見せた。ベックマンが気まずい表情を隠すよ
うに手を顔に手を当てる。
 「いいから、手ぇ挙げてみ?」
 シャンクスに問われて、全船員の四分の一程が手を挙げた。
 「何なんですか?」
 手を挙げた船員の一人が訊ねた。
 顔から手を離さないまま苦虫を噛み潰しきった顔で言いにくそうにベックマンが口を開いた。
 「それは俺の写真なんだよ、昔の…な」
 えええええええ!!!
 「だから、昔の話はしたくなかったんだ…」
 「こいつが俺の船に乗ったばかりの頃は喧嘩こそ強かったが、華奢で女の子みたいでな。女の子に間
違えられることもよくあったんだ。最初のうちは怒ってたんだが、ある時から開き直って自分から女装
を始めたんだ」
 「でも、何で?」
 「海賊や海軍には基本男ばかりで女に飢えてる奴は少なくない。そういう下心を利用する為さ」
 J・Jが楽しそうに説明した。
 「海賊と戦闘になった時、わざと目につくように振る舞って、追いかけてきたところで罠にかけて海
に落っことしたりする訳よ」
 フィンチと呼ばれた痩せた小男が言った。男たちが愉快そうに笑う。フィンチは続ける。
 「一番傑作だったのはアレだな。税関とか海軍の積み荷チェックをかいくぐるための作戦、キヒヒ」
 J・Jが言葉の後を引き継ぐ。
 「俺たちは一般の船が運べないような物を運ぶときもある。一部の国で禁止されたり不当に高い関税
対象になってるもの、届けたくても届けられない援助物資、運良く逃げ出した奴隷なんかも含めてな」
 船員たちが聞き入って頷く。
 「そういう調べられたくない荷物の時は、ベンがマストの横桁に登ったり、積み荷の上で寝たフリを
するんだ。検査官の気をそらすために、こういう格好で」
 J・Jがポスターを見せる。
 「いちいち見せなくて良い!」
 ベンが一喝するが、J・Jはびくともせず話を続ける。
 「そこでお役人に俺が言うんだ『すみませんね、旦那。乗せた娼婦が積み荷の上で眠っちまって、さ
っきうちの若いのと一仕事したみたいで、あらま、こんなとこにパンツが落ちてる。履かずに眠っちま
ったのかな』とな。ベタな手だとは思うだろうが、これが面白いほどひっかかってな。用意してる偽の
積み荷にも目を通さずに見入っちまうんだよ」
 ケツァールと呼ばれた上半身に文字のような入れ墨を入れた半裸の男が笑いながら言う。
 「また、寝たフリってのが巧いんだよ。こうちらりと太股を出してさ、寝返り打ったらもう大抵の男
は釘付けになっちまうんだよ。本当は男の子だって知らずにな」
 「グフッ、分かってるオラたちだってドキドキしちまうぐらいだったな。グフフ」
 船員たちはもしも自分がその場にいたら…と想像した。男としては耳の痛い話だ。そんな目前の誘惑
に勝てる理性を持つ者はこの船にもほとんどいないだろう。
 「鼻の下伸ばして引っかかる方が悪いのさ」
 副船長の捨て台詞が散弾銃のように周囲の者の胸に刺さった。彼のいけずな一面を内密に知っている
シャンクスは一人苦笑する。 
 「副船長が美女に生まれていたとしたら、どんだけ多くの男が泣かされたんだろうネ」
 ルウが肉を毟りながら言う。
 「ホント、逞しく育って良かったな…」
 ヤソップがげんなりしながら言った。
 「副船長の特技が変装ってのは、そのあたりが原点なんかな?」
 他の赤髪幹部が呟いた。
 「本当に女なら俺が嫁にもらうのにって毎日考えてたぞ、あの頃は」
 J・Jが遠い目をしながら煙を吐いた。
 「しかしだな、誰が写真を撮った?何故こんな風に売ってるんだ?しかも、ご丁寧にポスターやカレ
ンダーまで作って…」
 副船長の怒りがこもった疑問にフィンチが手を挙げた。
 「キヒヒ、写真を撮ったのはオレだよ。特殊な小型カメラを作ってね。お前を撮るのはホンットに苦
労したよ。気配や視線に敏感でさ。最初は港の野良猫とかを撮って練習したっけな。その時作ったカメ
ラは今でも売れ筋商品さ」
 J・Jが後に続いて説明した。
 「お前が出ていってから、寂しくって淋しくってたまらなくて、よくこの写真を見てたのさ。そうし
たら、別の船乗りの目に留まってさ、売ってくれって言うんだよ。何でも刺激の強いポルノ雑誌に飽き
てたとこで、こういう爽やかな色気が新鮮だったんだと。それで焼き増しして売ってみたら、結構売れ
るんだよ。少ないときは煙草代、多いときは晩の飲み代くらいになるな」
 「殴って良いか?」
 ベンが拳に息を吐きかける。J・Jが慌てて両手を挙げた。
 「大目に見てくれよ、ベン。お前がウチから抜けた損失を考えたら、この程度の稼ぎじゃ埋め合わせ
にはほど遠いんだぞ?」
 一人抜け出して海賊に転身したことを負い目に感じていたベンは渋々拳をしまう。
 「じゃあ、せめてウチの船員から巻き上げた金は払い戻してやってくれ」
 「そんじゃ、このお詫びに今日は俺たちが酒を奢ろう」
 「それって俺たちの金!」
 写真を買った面々が慌てた。
 「ったく、変わってねぇな。そういう性格(トコ)」
 ベンは心底楽しそうに笑った。

 立場は違えどともにハードな航海ばかりしている者同士、両グループはすぐに打ち解けた。宴は否応な
しに盛り上がる。あっと言う間に夜が更けていった。
 「ベン、朝までうちの船で過ごさないか?」
 J・Jがベンとシャンクス両人に目を向けた。
 「良いか?お頭」
 「良いさ、久しぶりの古巣でゆっくり過ごしてきな」
 ベンは彼らとともに艦を降りていった。
 シャンクスは部屋に戻らず、船縁にもたれてぼんやりしていた。ルウとヤソップがその姿を見つけた。
 「かみさんが実家に帰って呆けてる亭主の背中って、あんな感じなのかな?ヤソさん」
 「あ〜、懐かしいなぁ、そういうの」
 ヤソップは目を閉じて頷いた。


 一方、箱船の鳩の面々は広めの船室でベンを囲んで車座に座っていた。
 J・Jが口を開いた。
 「手配書を見た時は本当に驚いたぜ。お前の約束の相手が赤髪のシャンクスだったとはねぇ」
 「…すまない。箱船の鳩はどちらにもつかないが信条だってのは分かってはいたんだが、あの男には返
そうと思っても返しきれない恩があって…」
 ケツァールが口を開いた。
 「まあ、赤髪の相棒なら悪かないさ」
 「後から入った連中には伏せておかなきゃならんが、俺たちは寧ろ誇りに思ってるぜ」
 隣に座っていた青いモヒカン頭のヘキサンがベンの肩をたたく。
 「ああ、そうだ」
 男たちが口々に続いた。
 「俺たちは政府にも海賊にも荷担しない、これからもな」
 J・Jの言葉をベンは真摯に受け止めようとすると、J・Jはにたりと表情を変えた。
 「だが、俺たちだって人間だ。可愛い弟が困ってるとなりゃ助けてやりたい。どうにも困った時は訪ね
て来い。連絡用の暗号はお前が考えたのを今でもそのまま使ってる。これをやるよ」
 JJはピアス右耳のピアスを一つ外してベンに手渡す。小さめの指輪程のピアスは内側に小さな翡翠が
一粒象眼してあり、外側には細かな凹凸があった。
 「これを見せりゃ、支部の連中も俺からの指図だと分かってくれる。外側を柔らかな粘土か土にでも当
てれば俺の名前が浮き出る仕組みになってる」
 「翡翠は旅の守護石だったっけな」
 J・Jの指にある幾つもの指輪の中にも翡翠の指輪が在った。
 「ここで着けていきたい、いいか?」
 「OK、B・B」
 カグーが腰を上げた。入れ墨師のカグーは慣れた手つきで針を炙り、ピアスをベンの右耳に着ける。男
たちは無言でその様子を見守った。
 「そう言えば会長は?」
 「爺さんなら5年前に亡くなったよ。お前にはすごく期待してたぜ、元は海賊だったからな。人生の最
後に多くの息子に恵まれて幸せだったって、安らかに眠ったよ」
 「そうか…」
 男たちの話は夜が明ける頃になっても尽きなかった。

 シャンクスは船員たちがごった返す雑音の中、副船長のブーツの音を聞きわけて駆けつける。
 「おう、お帰り」
 「J・Jがあんたに話があるんだそうだ。一人で来いってさ」
 「ああ、んじゃ、行ってくる」
 シャンクスが離れた波止場に着くとJ・Jたちが船から降りて待っていた。
 「おいでなすったか」
 強面の面々がじろりと凄む。
 「はい…」
 シャンクスは思い切って頭を下げて叫んだ。
 「思いっ切り事後承諾になっちまったけど、弟さんを俺に下さい!」
 「今更遅ぇんだよ!この野郎。よくも俺の可愛い弟を(たら)し込みやがったな!」
 J・Jがシャンクスの頭を抱え込んで締め上げる。男たちが口々になだめる。
 「J・J!首が絞まってる!」
 「落ち着け、社長!」
 「まぁ、気持ちは分かるがな」
 J・Jが手を離して顔を近づけて話し出す。
 「この先、その手足がもう一本無くなるような事があったら、あいつが嫌だって言ったって拉致して実家
に連れ戻すからな。もし、あいつより先に死んだら墓場を掘り起こしてでも殴ってやるからそう思え」
 「あ…アイ・サー」
 「頼んだぜ、俺たちの愛する弟をさ」
 「了解」
 赤髪は彼らに敬礼をしてその場を離れた。

 箱船の鳩の集団はひっそりと赤髪海賊団の出航を見守った。
 J・Jの脳裏に少年の日のベンが浮かんだ。
 「J・J、ここは居心地が良いし、仕事も楽しい。一生この仕事でも良いとは思ってる。…けど、俺には
約束した相手がいるんだ。相手の名前も分かんないようなホントにアテにならない約束なんだけどさ。万が
一、そいつが約束の時と場所に現れたら一緒に行かなくちゃならないんだ。それでもいいか?」
 「行ってこいブラックバード、お前がどこまでも飛んで行けることが俺の誇りだ」
 そう呟いて男は溜息を煙草の煙に紛らせた。

 シャンクスらも遠くなっていく港を見つめていた。
 「J・Jは何て?」
 「お前を泣かすな、みたいなことを言われた」
 「何だそりゃ」
 ベンは自室に戻り、机の引き出しの奥から古びた写真を取り出した。そこには少年の頃のベンとJ・Jら
若き幹部たちとの笑顔が残っていた。 

 余談:回収された写真類は燃やされたと副船長に報告された。だが、回収に応じなかった者も僅かながら
にいた事、シャンクスが一部を没収して自室に隠し持っている事を彼はまだ知らない。

 
 
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