副船長は悩んでいた。 シャンクスと肉体的に関係を持つようになって、3ヶ月近くになる。 拝み倒されて断りきれずに体を許してしまったが、一度きりのことだろう と彼は思っていた。しかし、シャンクスはそれが当たり前のように副船長の 部屋にしょっちゅうやって来た。 こんな不適切な関係が常習になってよいものか、副船長は迷い続けている。 言葉で何気なく断ってみようとすれば、 「俺のこと嫌いになっちゃったの?」 と捨てられた仔犬のような瞳で訴えられたり、あるいは、 「俺のやり方が悪かったら、直すから言ってみ?どこをどうして欲しいとか 教えてくれれば、その通りにするからさ」 と事細かに問いただそうとする。 俺が「こういう風にやられたい」なんて言えると思ってんのか!この男は! そんなことを自分の口から言わなきゃならないくらいなら、素直に犯られた 方がマシだ。 結局、シャンクスの求めに応じる羽目になってしまう。 力ずくで抵抗はできない。それは以前の港町で起きたゲームセンターでの 事件で思い知らされた。 今度の航路は敵船に出会うこともなく、平和というよりは暇な程の航海だ った。そうなると、シャンクスが副船長の部屋に来る回数はさらに増えた。 「お頭が夜這いに来て困るんだ」 とは、口が裂けたって仲間には言えない。 悩む副船長の横でシャンクスは眠っていた、幸せそうな寝顔で。 翌日も海は平穏そのものだった。 副船長はぼんやりと煙草をふかしている。 仲間の一人が雑誌を片手に声をかけた。 「副船長が暇なようなら、俺たちはなおさらやることがないな」 「ああ、珍しいな。こんなことは」 副船長が答えた。 「こんなことなら、もっと分厚い本でも買っておくんだったな。ボトルシッ プ作るのにも飽きちまった」 男の手には女性向け雑誌が握られていた。副船長が驚く。 「変わったモンを読んでるんだな」 「残り物を上手に活用する料理って特集が載ってたもんで買ってみたんだけ ど、後は読むところなくってさ。読む?」 「退屈しのぎにはなるかもな」 副船長は雑誌を受け取った。 ペラペラめくるとインテリアコーディネートの特集があった。サファリ帽を かぶった三つ編み女の写真が載っていた。カラーコーディネーターの肩書きを 持つらしい。赤い頬で若そうに見えるものの、やる気のなさそうな表情で年齢 不詳という表現がぴったりだった。 なんとなく読んでいたが、ある記事が目にとまった。副船長はそれを読み終 えると倉庫に走っていった。 「副船長?」 男は首をかしげた。 倉庫にはマストの管理係の男がつまらなそうに座っていた。副船長は声をか ける。 「予備のジョリーロジャーのための黒い布。あれを貸してくれ。次の港で買 って返すから」 「別にかまわねぇけど」 男は不思議そうな顔をしながら、黒い布を手渡した。 その夜もシャンクスは副船長の部屋に来た。 「どうしたんだこれ?」 副船長のベッドが黒一色になっていた。枕、シーツ、毛布も黒い布で覆われ ていた。 「あんまり暇なんで模様替えしてみた」 「ふーん、そう」 シャンクスはベッドの中に入って副船長の上に乗った。 ゴソゴソ 「あれ?」 モゾモゾ 「あれ?」 シャンクスは副船長の上で固まっている。副船長はそっとシャンクスを見た。 「・・・悪い。今夜は調子悪いみたい」 シャンクスはしょんぼりした様子で部屋を出て行った。 「まさか、本当に効くとはな・・・」 落ち込んで帰っていく彼の背中を見て少し可哀想だとも思ったが、副船長は すぐに部屋に閂をかけた。彼は黒い布を外して、ベッドにもぐりこんだ。久し ぶりの静かな夜だった。 副船長が読んだ記事とは次のようなものだった。 「寝具を黒一色にするのは厳禁。安眠も出来なくなり、性欲も減退してしま う。新婚家庭ではタブーの色。」 翌朝、副船長が船室を出ると人だかりが出来ていた。何かを見ているらしい。 副船長もその方向を見た。小船を漕いでいる者がいる。被っている麦藁帽で お頭であることはすぐに分かった。 「お頭ー!どこに行くんだー!」 小船のシャンクスは副船長の声に気づいて手を振った。 仲間の一人が説明した。 「なんでもな、海スッポンを捕りに行くんだと」 「海スッポン?」 副船長は嫌な予感を感じた。 「精をつけるにはそいつが一番なんだとさ。今でも充分元気だと思うけどな」 その言葉を聞いて、副船長はシャンクスを止めたくなった。だが、小船は声 も届かないほど遠くへと漕ぎだされていた。 その日の午後になってシャンクスは帰ってきた。海スッポンは甲羅が一メー トルはある代物で、三匹の収穫があった。 「こんだけあれば晩飯になるな」 ルウが言った。 「これ、どうやって調理するんだ?」 今夜の料理当番が言う。 「俺がやるよ」 シャンクスはそう言うと同時に、剣で見事に海スッポンをさばいた。 スッポンは鍋になって食卓に上がった。 シャンクスはその肉をてんこ盛りにして食べている。副船長はそれが何を意味 するのかを考えると、食べる気になれない。 シャンクスは鍋からスッポンだけをごっそり取った。 「お頭ずるいぞ」 仲間たちからブーイングの嵐。 だが、その肉はシャンクスの取り皿ではなく、副船長の取り皿にドサッと乗せ られた。 「さあ、お前も食え。たんと食え」 シャンクスは満面の笑みをたたえて副船長に言った。 「確かに副船長はたくさん食べないとな」 「副船長なら仕方ないな」 仲間たちは大人しくなった。 副船長はただ力なく笑うしかなかった。 その夜、副船長は風呂からあがるとそっと気配を消して自分の部屋へ戻ろうとし ていた。船長室の前を忍び足で通る。 バタン 船長室の扉が開いた。副船長がその場で固まった。シャンクスは副船長の肩を むんずと掴む。 「今夜は大丈夫だ。昨夜みたいにがっかりさせんぞ。俺の部屋に泊まれ」 副船長はシャンクスに引き摺られるように船長室に入っていった。 つまらぬ抵抗を試みた為に、かえって事態は悪化した。 教訓 「誰にでも通じる法則はない」
